呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#24

〈2018年8月15日〉

〈昼〉

 

 空は晴れ。鱗雲の点々とする真夏の暑い日。我らが主人公・雨宮蓮は、今日も今日とて自己鍛錬に暇を惜しまない。本日は反転術式の鍛錬のため、家入女医のいる保健室へと赴いていた。

 

「失礼しま──」

 

 何事もなくノックし、返事があったので戸を開けた。

 そこにいたのは、普段の白衣とは異なる、全身を黒色に統一したスーツを身に纏った家入硝子であった。そこで蓮は、一つの結論に至った。

 

「何だ、雨宮か。五条だったらぶん殴れたのに」

「(危なかった……)

 家入さん、これからお盆参りですか?」

「ああ。……そう言や、お前、慰霊墓地の場所知ってるか?」

「いえ」

「ならちょうどいい。来な」

 

 本日8月15日は、一般的には終戦記念日として知らされている。8月6日と9日の惨事の後、大日本帝国が無条件降伏を受け入れた日であり、二度と戦争の悲劇を繰り返さないという平和を祈る日でもある。

 硝子がこの日にお盆参りにすると予定していたのは、単に今年は自分の休暇がこの日しか取れなかったためだ。

 友であり、恋人でもあった男の冥福を祈るために。

 保健室を出て、硝子に着いていく。制服を着ているので、お盆参りの服装としては問題はないだろう。

 呪術高専の裏口から、裏山へと続く山道を二人は歩く。

 蝉が鳴き、木陰の隙を縫い、光差す。木々は陽光に喜び、その青さをより深く増している。

 二十分ほど歩いた頃だっただろう。やがて山中には相応しく無い、精巧な墓石の羅列が見えて来た。その数も十基や二十基程度ではない。ある区画から、ずっと墓石が続いている。あまり手入れは行き届いていないようで、すっかり苔が()してしまっている。

 

「墓がこんなに……」

「ここで眠ってるのは全部、親や親戚がいないか、あるいは縁を切った呪術関係者達だった。無縁仏ってやつだな。ちなみに、ここにいる新参のほとんどが、五条のスカウトだ」

「縁を切ったって……」

「呪術規定の九条『隠匿』に則ったのとは関係無しに、その人それぞれに事情がある。聡いお前なら察せるだろ。

 さて……っと」

「お疲れ様です」

「はいよ」

 

 そう語っていると、向こうから降ってくる二人の女性と、一人の男性の姿があった。三人の服もまた、黒一色で統一されている。

 長い髪を編んで下げたカチューシャが似合う女性と、後髪をシニヨンキャップで纏めた女性、そしてダブルフォーマルスーツを着た鼻と背の高いクォーターの男性──後日再会する七海建人だ──が、硝子に挨拶をして降りて行った。

 およそ硝子の知り合いなのだろう。蓮も軽く会釈するだけに留まり、硝子の後を追った。

 さて、墓石群が見えてから更に十分ほど歩き、墓地を抜けて獣道を行くと、蓮でも見知った顔がいた。百八十センチを優に超える男性達の中で、蓮が知っているとなれば、絞り込みは簡単だ。

 

「五条先生」

「や」

 

 いつもの黒服を纏い、本日はサングラスを掛けている五条悟その人であった。

 

「アイツは?」

「さっき帰ったよ」

「あっそ。

 ……ったく、ようやくお盆休みが取れたよ」

「そりゃ僥倖。良い事じゃないの」

 

 悟の返答にぶっきらぼうに返し文句を言うと、硝子は悟の隣へと立った。その更に横に蓮が立つと、見えたのは一基の墓石。しかしそれは……あまりにも、不出来で不細工なものだった。そこら辺の石を厳選した即席の墓石には、誰が埋まっているのかを示す名前すらも彫られていない。

 

「見窄らしいだろ。私らのお手製だからな」

「この墓に名前が彫られてないのは、上層部の老害どもの干渉を防ぐためだ。ここで眠ってるヤツには、安心して眠ってほしいんだ。遺体を明け渡したらどんな事されるかも分からないし、最悪返ってこないかもだしね」

 

 茹だる夏の梢から差していた日の光すら、この場所では届かない。誰かを隠し埋めるのなら、この場所は打ってつけだ。

 本来なら然るべき場所に申請し、然るべき方法で葬儀を行わねばならない。例えそれはいかに凶悪な犯罪者であっても、火葬され、納骨される。遺体の引き取り手がいない呪術師や呪術関連者でも、なおのこと。

 しかしそれすらもさせて貰えない。つまりそれは──

 

(──上層部にとって忌むべき存在、あるいは研究・解明したい存在……そんな奴がここに眠っているのか)

 

 一体誰なのだろうか。いや、想像はつく。

 

「……前に話した、友人か?」

「うん」

 

 ならばここには、五条悟の友人であり、特級術師でもあった二人が眠っているのだろう。

 なるほど、それなら術式や呪力などの研究には持ってこいだろう。そして、あの腐った蜜柑の詰め合わせである上層部が、遺体を大事にするわけがないというのも納得がいく。

 ただ、蓮は何か()()()()()()()()()()

 

「あれから12年、か」

 

 天内理子護衛抹消任務。

 矛盾しているように見えるこの任務は、五条悟の人生において唯一失敗を喫したものだった。いや、失敗せざるを得ない任務であり、その事については何も後悔はない。

 ただ一つ……明智吾郎を死なせてしまった事以外には。

 

「残酷だねえ、時の流れってのは」

「まったくだ。

 ……まだ、『アキラ』は見つからないのか?」

「十二年間手がかりナシ。まったく、やんなっちゃうよ」

「……そうか」

 

 既に悟の隠蔽工作は終わっている。

 呪術界隈で明智吾郎の名前を出さないよう、裏で手回しは済ませた。謂わゆる高名な小説作品に準えて、『名前を呼んではいけないあの人』のように、常識を変えたのだ。さすがに上層部には根付かなかったが。

 

「『アキラ』とは誰だ?」

「……アイツの遺言でね。僕が聞いた訳じゃないんだけど」

 

 ここまで悟が吾郎の名前を蓮にひた隠しにするのは、蓮に対する試練を兼ねた、『アキラ』への果し状だ。悟は薄々蓮が『アキラ』ではないかと疑っていた。

 間違いならそれでも構わない。また根気強く探すだけだ。が、蓮が明智吾郎の情報を掴み、そしてその詳細についてを知りたがる時、戦いの火蓋は切られるだろう。

 

「早く見つかるといいな」

「そうだね」

 

 吾郎が最期になってまで呼んだ人物という事は、

 吾郎が心の底から認めている人物に他ならない。

 ソイツなら、──お前なら。

 お前がいたなら、吾郎は死なずに済んだんじゃないのか。

 肝心な時にそこに居なかった、お前(アキラ)を──

 

「本当に」

 

 どうしても、ブン殴りたくて仕方がないのだ。

 

 

〈2018年8月26日〉

〈昼〉

 本日は快晴也。

 七海建人は呪術連に所属する呪術師ではあるが、その拠点はやはり、母校たる都立呪術高専である。今日は先の里桜高校襲撃事件における始末書の提出のため、高専を訪れていた。

 苦い思い出もあるが、やはり母校は落ち着く。

 事務室に赴き、後輩である伊地知潔高に提出した後は、建人の数少ない楽しみである食事の時間だ。本日の昼食はどうしようかと、建人にしては珍しく悩んでいた。

 建人は一級術師であり、またその仕事ぶりを評価され、週に四、五回は祓除任務があったりする。前職よりかはマシではあるが、ブラックな労働環境にその身を置いている。そうなると、中々パン屋に行く時間が取れないのだ。建人は、パンを好んでいた。

 建人とて人の子、パンはなるべく焼きたてを食べたいのだが、時短のため致し方あるまいとしてコンビニのそれで割り切っていた。だが、毎日毎日同じものを食べていれば飽きが来る。食べ飽きて仕舞えば、楽しめるものも楽しめない。久々に建人は、舌に刺激を求めていた。

 食べ歩きするほど急いでいる訳ではないが、かといって時間を無駄に費やすのもいただけない。──なら、食堂に行けば良いじゃないか。

 そう思い立った、まさにその時であった。

 

「ん……?」

 

 濃厚なスパイスが、建人の鼻腔を刺激する。芳醇な香りを齎すクミンやコリアンダーが、建人の食欲を増進させる。

 そういえば、久しく食堂を利用していなかったな。

 ならばと思った建人は、小銭入れの中身を確認する。中には五百円玉が一枚と、百円玉が二、三枚、十円と五円がちらほら程度あることが確認出来た。これほどあれば足りるだろう。

 残暑厳しい夏の終わりに食べるカレーも悪くない。ネクタイを緩めながら、建人は食堂の戸を開こうとした。

 ……のだが、ノブに手を掛ける前に戸が建人側に開き、気配を察知していた建人は、危なげなく出てくる者を回避する。高専所属の生徒達であった。禪院真希と釘崎野薔薇だった。私服姿で紙包を手にしながら、建人にあいさつをして去っていく二人。建人も二人からのあいさつを返して、戸を開いた。

 まず聞こえて来たのは、油が跳ねる音だった。

 じゅわああ、と音を立てて何かを揚げているのは、我らが主人公・雨宮蓮その人だった。今日は主夫モードらしく、緑色のエプロンを着て、菜箸で何かを転がしている。

 見ると、調理場の真横にあるカウンター席。その上に置かれた大皿には、キッチンペーパーに油を吸い取らせたような形跡がある。カレーの匂いからして、蓮が何を作っているのか、およその察しはつく。

 

「あ、七海さん。どうも」

「こんにちは、雨宮くん。あのカレーパンは、まさかキミが?」

「はい。ようやく形の良い物が出来てきたんです。

 食べます?」

「では、一つ」

 

 どうやら、彼はお手製のカレーパンをも作れるらしい。その器用さと知識に感嘆しながら、財布に手を伸ばした。

 

「いくらです?」

「いや、お金を取るつもりは無いですよ……?

 もうすぐできるので、座ってて下さい」

 

 そう言われたなら、ご厚意に預かるとしよう。すぐ近くのカウンター席に着いた。

 

「順平くんの死刑を条件付きで取り下げさせたのは、本当ですか?」

 

 話題を切り出すには、いささか厳しい内容だったか。

 しかし切り出したからには、引き返す事は出来ない。

 

「いけない事ですか」

「いえ、その行いに別段文句があるわけではありません。問題なのは、それに伴ってキミ自身が不利な条件を押し付けられている事です」

 

 ……そう、尊敬する先輩もそうだった。

 戸籍上存在しないその先輩は、生活を保証される代わりに呪術師に縛られた。

 それだけならまだよかった。

 だが、自分が知った時には、何もかもが遅かった。

 けれど、目の前の少年ならまだ間に合う。

 

「自己犠牲は結構な事です。呪術師は謂わば自己犠牲精神によって成り立っている職業だ。

 でも、だからって自分の身を蔑ろにして良い理由にはならないんですよ。

 ──キミのその自己犠牲は、いずれキミ『以外』を蝕むでしょう」

 

 尊敬する先輩が死んだ時、都立高専は酷く落ち込んだ。どんよりとした雰囲気は、一年以上続いた。それ故に建人の調子を崩し、高専と呪術師を辞める理由の一端になっていた。

 先輩の事情を知った時は、もっと苦しんだ。

 この少年には、同じ末路を辿って欲しくない。

 

「……でも、こう言ってもキミは聞かないのでしょうね」

「よくお分かりで」

 

 だが、それに約諾するほど蓮は従順ではない。

 

「あいにく、オレはこれ以外の生き方を知らないんです。

 だって……認めたくないじゃないですか。

 自分が助けられる人間には、限界があるのは分かってる。けど、オレは強欲なんです。どうせだったら、完全無欠のハッピーエンドってのを目指したい。

 オレの手の届く範囲以上を、求めてしまう」

 

 正義の味方になろうとは思わない。

 ただ、ヒーローにはなりたいと思う。

 それこそ、世界を丸ごと欺き盗むような、トリックスターに。

 雨宮蓮は、〝悪の敵〟を目指すのだ。

 

「だったら、たくさん食べて強くならないと。

 ……そろそろかな」

 

 ナイロンターナーと菜箸で、中のパンを器用に取り上げ、油を切る。さくさくとした黄金色の衣は、間違いなくそれが絶品である事の証左である。不躾にも、建人は喉が鳴った。

 どうぞ、と差し出されるのは、耐油紙に包まれるカレーパン。真心を込めた逸品だ。

 

「いただきます」

 

 手を合わせたら食事の時間だ。早速包みを取り剥がす。

 そこそこな熱さのそれを我慢して、ふーふーと冷まして、一口。

 瞬間、建人の脳内に溢れ出した──()()()()()()

 

「あげるよ。お昼、まだだっただろ?」

 

 十二年前、都内某所、卯月は中旬。疲労感と柔らかな日差しが眠気を誘う今日日。ベンチに座って一息吐いた。

 任務後の腹ごしらえにと、先輩が近場にあったパン屋から何か買って来てくれたようだ。名を明智吾郎。雨宮蓮の前身となる、先代のペルソナ使いの特級術師だった。

 白い高専の制服を身に纏って、黒い手袋を着用する彼が手にしていたのは、三つの包みが入ったビニール袋だった。その中から一つを彼は差し出して来た。

 今日は呪術実習と先輩への挨拶を兼ねた、一年二年交流学習会が開かれている。建人はこの明智吾郎と家入硝子(車で睡眠中)に挨拶をしに来ていたのだ。一年は二人、二年は四人で、もう片方の一年・灰原雄は五条悟と夏油傑に着いている。

 二つではなく三つパンを買って来たのは、硝子の分も含めたのだろう。

 

「良いんですか?」

「こういう日くらい、先輩面させてよ」

 

 そう言うと彼は隣に座って、手袋をしていない右手で包みを剥がしていく。それを見て建人も倣う。中に眠っていたのは、出来立てほやほやのカレーパンだった。

 さく、という食感の後、口の中に広がるスパイスの香り。食欲を掻き立てる辛味は、二口目を軽々しく魅惑的に誘う。

 

「うん、美味しい。やっぱり、パンは焼き立てに限るね。

 まあカレーパンは『焼く』というより『揚げる』の方が正しいけど」

「先輩も好きなんですか、カレーパン」

「どうなのかな。僕自身、食事に拘りとか好き嫌いとかはあまり無くてね。少食だし。ただ……」

 

 事実、そうだった。建人の記憶の中の吾郎は、一食一食の食事量が他の人よりも極端に少なかったし、何ならリンゴ一つで済ませてしまうような人だった。

 視線をパンの中身に落とし込む。何かを憂うような、懐かしむような、そんな顔でそれを見る。

 

「……カレーは、嫌いじゃない。

 ああそうだ、これより美味しいカレーを作る人がいるんだ。コーヒーに合うように緻密に計算されているカレーでね、とても美味しいんだよ」

 

 カレーの味が物足りなかったのか、建人にそう薦める吾郎。

 今思えば、この時、吾郎は『アキラ』の事を思い出していたのだろう。

 

「いつか皆に紹介してあげたいな」

 

 再び逢える理想を、願っていたのだろう。

 

 もう逢えない現実を、疎んでいたのだろう。

 

「七海さん?」

 

 はっとなり、建人の意識が現実世界へと引き戻された。

 

「口に合いませんでした?」

「いえ……」

 

 正直、思い出に浸っていて味わえなかった。

 すぐに二口目を口に運ぶ。

 あの時に食べたカレーよりも美味しい。

 あの時に食べたパンの衣よりサクサクだ。

 けれど、なぜか──

 

「とても、美味しいです」

 

 そう言って、ぶきっちょに笑って見せた。

 

 あまり、好きになれない味だった。

 

 言えない、言えないな。

 あなたのいないカレーパンを、

 嫌いになったよなんて。

 けれど今は、今だけは、

 どこか懐かしいその味を、

 苦い味のする思い出と共に、

 建人はもう一口、噛み締めた。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#24 JUJU SANPO2




 コープランクアップ:運命〔4〕
 アビリティ獲得:《反転術式のコツ》
 反転術式を使用するスキル(コウハ、ハマ、回復スキルなど)の呪力消費量が二倍に減少する。

 コープランクアップ:法王〔2〕
 アビリティ獲得:《建人の節約術》
 1%の確率で、スキル使用時にかかる呪力消費量が半分に減る。この効果は、他の呪力消費量減少スキルと重複する。

 短くてごめーーーーん!!!

 ついに呪術二期が来ますね。って事で過去の匂わせ回だよ。
 見たいけど見たくない(ほこたて)
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