呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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 電車の座席にて眠る、目元に傷のある少年。
 その身体に奇妙な模様の刺青が浮かんだかと思えば、刹那の内にそれは消えていた。
 その隣には、右目を前髪で隠した少年だけではなく、高専の遊学達や先輩たちもいた。
 その中で、傷の少年が目を覚ました。座席の膝丈まで浸水している事に気が付いた。
 外の風景を見る。昼の住宅街、健気な子どもたちが遊び、買い物帰りの主婦らの井戸端会議が遠目に見れた。
 その対角線には癖毛の少年がいた。嬉しそうな、悲しそうな顔で少年達を見ていた。
 彼がいるのなら安心だと思い、一度にへらと笑って、少年は再び夢の世界へと身を投じた。


#25

 1.

〈深夜〉

 肌寒さが肌を刺し、目を顰めながら起床すると、我らが主人公・雨宮蓮の服装が、部屋着から囚人服へと変わっていた。

 蓮はベルベットルームにはペルソナの調整にちょくちょく通っているのだが、招き入れられるのは久しぶりの事だ。まだぼやける視界を目を拭って覚まし、鉄格子の奥にいる彼女に目を向ける。

 

「おめでとうございます、トリックスター。破滅の波を一つ乗り越えられました」

 

 ラヴェンツァ、部屋の主人代理。スカートの裾を掴む形式的な礼を行い、更に告げる。

 

「しかし油断は出来ません。更なる大きな破滅が、すぐそこまで迫って来ています。この波を越えられない限り、世界は混沌に満ちてしまうでしょう」

 

 そうだ。波を乗り越えたとはいえ、『止めた』訳ではないのだ。

 あの特級呪霊達を祓わない限り、この破滅の波が止まる事は無い。

 だが、蓮には何よりも気になって仕方がない存在がいた。それは──

 

「ラヴェンツァ、一つ聞きたい。

 あの呪霊は、一体何者だ?」

 

 あの三つの属性を操る呪い……昊噓(こうきょ)。特に〝雨宮蓮〟も〝クルスアキラ〟とヤツとには接点が無いはずなのに、ヤツは〝クルスアキラ〟という名を知っていた。

 馬鹿な、と思った。この呪術世界には、その名を知る者は『絶対に』いないはずだったのだ。知っている者は全員前世に置いてきてしまった。唯一の線としては、自身のライバルである明智吾郎のみであるが、そう都合良く吾郎がこの世界に転生するとは思えない。……いや、そもそも輪廻転生という意味不明な現象を、そう簡単に起こされては堪らない。

 そも多元宇宙論に則れば、人が思いつく限り無限に並行世界が有り、生まれるのだ。無限に連なる宇宙の中でピンポイントで同一世界に転生する(あるいは出来る)なんて確率を、誰が計算出来ようか。仮に出来たとしても、ありえないほどに低い確率なのは間違いないのだ。

 ()()()()蓮は、昊噓の本質を見抜けずにいた。

 

「……お答え出来ません」

「……そうか」

 

 しかし返答は、沈黙に最も近いもので済まされた。

 少しの落胆、後に自分へと叱咤。彼女はあくまで蓮の旅の補佐をする立場の存在であり、旅の未来を告げる事は許されていない。この旅路を称賛こそすれ、口出しをする権利はラヴェンツァには無いのだ。

 ラヴェンツァとて、そうしたいのは山々というに、その思いを弄んだのと同じ行為をしてしまった。辛い思いを、踏み躙ってしまった。

 

「すまない、楽な道を選ぼうとした。

 この答えは、自力で見つけないと意味が無い」

 

 そう言って謝ると、ラヴェンツァはより一層悲しそうな顔をする。……だめだな、彼女の悲しむ所は見たくないのに。自分の都合を優先してしまった。

 

「さて、今宵お越し頂いたのは、新たな処刑の準備が出来た事を伝えるため。

 三体以上のペルソナを合体させて行う、『集団ギロチンの刑』です。裏全書のペルソナ用に、改良を施しました。どうぞお役立てください。

 ──破滅の未来の先にある幸福を祈っています」

 

 幸福……か。

 雨宮蓮にとって、『幸福』とは『隷属からの自由』だ。

 その『自由』を得るまでは、まだ雨宮蓮は止まれない。

 サイレンの音と共に、強制的に意識が浮上していく──

 

 

 2.

〈2018年9月4日〉

〈午前〉

 晴れ渡る空、森の上。夏空は未だ絶えず、蝉は忙しく羽を鳴らしている。飛行機雲が真っ青なキャンパスに色を浮かべているな、と、伏黒恵は物憂げに空を見ていた。長い黒髪は、額の球汗に少しへばり付いている。

 何せ夏服に変わる事もなかった高専の制服では、真夏日はクソが付くほど暑苦しいのだ。少し風が頬を撫ぜれば、それだけでも気の持ちようは軽くなる。

 ……のだが、都立呪術高専の一、二年が揃っている中で、釘崎野薔薇だけはそうも言ってはいられなかった。

 

「えーっ!? 何で皆手ぶらなの!?」

「のばらも何だその荷物」

 

 都立高専大通りにてそう叫ぶのは、東京校一年紅一点の野薔薇(旅行バージョン)。いつもの制服姿に加え、キャリーバッグと観光雑誌を手にしている姿は、正しく今から旅行行ってきますと言わんばかりだ。

 その姿に呆れたのはパンダ先輩だ。いつも通りパンダ先輩だった。野薔薇の知る限りで、蓮を除いた東京校一、二年の面々が揃っていた。

 

「だって、京都『で』姉妹校と交流会を……」

「京都『の』姉妹校と交流会だ。京都に行くとは言ってないぞ」

「はああああ!?」

「交流会は前年度で勝った方が翌年の主催地になるんだよ」

「何で勝ってんだよ!」

「おれら出てねえーって!」

「去年は憂太が人数合わせで参加してたんだ。それにあの時は『里香』の解呪前だったしな。圧勝だったんだとよ」

「ザッケンナー! 許さんぞ乙骨憂太ああああ!!!」

「元気多いね……」

「野薔薇らしいな」

 

 哀れ也や、乙骨憂太。

 と、そこに遅ばせながらやって来たのは二人。一人は我らが主人公・雨宮蓮。もう一人は新人呪術師・吉野順平であった。順平は、交流会という本番に向けてと大勢の初対面に、やや緊張気味に肩を強張らせている。

 蓮が口を開けば、返すのは恵であった。

 

「今日はどうしたんだ、野薔薇」

「交流会、京都でやると思ってたんだとよ」

「おのれこの恨みはらさでおくべきか!」

「……あぁ〜」

しおむすび(おはよう)

「うーす、れん」

「おはようございます、先輩方」

「所で……誰だそいつ?」

 

 そう問いかけたのは禪院真希。呪具を入れているジッパー付きの薙刀袋を手に、交流会に向けて意気を高めているようだ。

 新たな制服を身に纏う吉野順平。デフォルトのままの恵の制服と比べれば、襟部分は学ランのそれのように短くなっているのが分かる。ファスナー型学ラン風のデザインで、襟には二つ高専のボタンが留められている。ファスナーの付いた制服を着用する者は順平以外におらず、彼一人だけ異彩を放っている。

 軽度にあがり症を拗らせている順平は、声を裏返させて自己紹介をしてしまう。少しだけ恥ずかしく思うのであった。

 

「よ、吉野順平です、よろしくお願いします!」

「先日の任務で術式が開花し、それをオレがスカウトした。最低限戦えるようには鍛えたから、安心して良い」

「ふーん……」

 

 じと────────────、と、やはり野薔薇の偏見に塗れた慧眼が順平を突き刺し、更に順平は肩を強張らせる。

 

(うっわ冴えねえ〜〜〜、頼りなさそう……やっとの思いで出来た彼女をサークルの先輩に寝取られてそうなくらいに甲斐性無さそう。つーか前髪が馬鹿ダセェ、切るかまとめるか何かしろや)

(え、何でこんなに凝視して来るの!? 怖いんだけど!?)

「……はあ」

 

 野薔薇の評価はわりかし低めに収まったようで、一つ溜息を吐いた。

 

「えー……と……?」

「……釘崎野薔薇」

「はい?」

「私の名前。二度も言わせんなハゲ」

(は、はげ!? コワッ……!?)

「あー、伏黒恵だ。野薔薇が失礼ですまん」

「いやいや、そんな。よろしくねっ、釘崎さん、伏黒くん」

「恵で良い」

「二年の先輩は、左から順に禪院真希先輩、狗巻棘先輩、パンダ先輩だ。

 真希さんは呪具使いだ。オレも真希さんに呪具の扱いを師事してもらっている」

「よろしくお願いします!」

「……おう。

(……あ〜、この絶妙なもやし感、最初の頃の憂太を相手してるみてえ)」

「棘先輩は呪言師で、普段はおにぎりの具で会話している」

「すじこ」

「えっ……と……よろしくお願いします?」

「惜しいな、今のは『凄いだろ』だ」

「たかな〜」

「えっと、これは?」

「『まだまだだな〜』だ」

「ハードル高くない?」

「頑張れ。

 そして、あそこのパンダはパンダ先輩だ」

「パンダだ、よろしく頼む」

「はい!

 ……えっ、パンダ先輩の説明これだけ?」

「ああ。で、皆には今日プレゼントがあるんだが──」

 

 と、そこまで言い掛けた所で、蓮の地獄耳がバラバラの足音を捉えた。

 見ると、高専の入り口である石段を登って、見知らぬ顔の多い面々が勢揃いしている。蓮の反応からして、皆の目もそちらを向いた。

 

「あら、お出迎え? 気色わ──」

「マイ・バディ──!!」

 

 その中から一人、蓮に向かって飛び出してくる者があった。頭を後頭部で纏めた、恵曰くのパイナップル頭。彼の師により付けられた、左目の傷が目立つ、筋骨隆々の偉丈夫にして、京都校三年唯一の一級術師。

 名を東堂葵。蓮を見るや否や、その喜びに身を任せ、その手を力強く握って来た。蓮も葵と久々に顔を合わせたので、葵ほどでは無いにしろ、この再会を喜ばしく思っていた。

 何せ8月6日から9日にかけての合宿以来の再会だ。1ヶ月ぶりの再会ともあれば、蓮とて普通に嬉しい。まあ、6日以前にはちょくちょく誘われて会っていたのだが。

 

「久しいなマイ・バディ!! 福岡分校の強化合宿以来か!?」

「ああ。葵も息災のようで安心したよ」

「うむ、今日は全身全霊でお相手しよう!!」

「フッ、臨む所だ」

 

 互いに不敵に笑い合うのを遠目で見るは、京都校の面々。熟練の二、三年が勢揃いだ。その堂々とした佇まいが、弱冠ながらも彼らが歴戦の戦士である事を指し示していた。

 

「うわぁ、東堂くんとまともに喋ってるとか、凄い通り越してこわ〜……」

 

 知らない顔の一人はまるでジ◯リの魔女。プラチナブロンドの長髪をツインテールにまとめているが、そのどちらもが頭上に来るようにまとめられており、箒や黒一色のワンピース型の制服もあってか、より一層『魔女』の要素が引き立てられている。

 そばかすを無くし髪を下ろせば、その低身長ぶりも合わさってまるで西洋人形かと見間違えるほどだ。何しろ彼女は日米のハーフ。日本人離れした鼻の高く碧眼の紅顔で、更にピアスもしているのだから、ややとっつきにくい印象を受ける。惜しむらくは、彼女の背がもう少し高ければ、魔性と言わしめる存在に格上げされているだろう。

 名を西宮桃(にしみやもも)。府立呪術高専三年、二級術師。

 

「熱苦し。バッカじゃないの?」

 

 それには同感、と心の片隅で野薔薇は思った。

 禪院真依三級術師は、セックスアピールは今日は控えめだ。勝負服としてなのか、あるいは夏服から冬服へと変えたのか、ノースリーブでスリットスカートのワンピース型の制服が、腰のラインが目立つ学ランとサルエルパンツのそれに変わっていた。

 

「あの人が噂の特級さんなんですかね?

 ……チェキ貰えるかな?」

 

 三輪霞三級術師は、服装こそ変わらないが、今日は大一番の勝負事ということもあり、なけなしの生活費を叩いて買った愛刀を、戦闘用のベルトを巻いて帯刀している。威圧感とカッコ良さを兼ね備えた逸品だ。オーダーメイドなので、やはり結構お金が掛かったが。

 真依と同じ二年生同士でも敬語を使うほどに礼儀正しい彼女は、平常運転で特級術師のチェキを欲しがっている。

 それもそのはず、彼女が最後に東京校に来た7月某日は、謎の膨大な呪力反応に気圧されて、五条悟とのチェキを撮りそびれたのだ。今日こそは、と別のベクトルで彼女は気張っている。

 チェキは事務所を通してくれ、と蓮は念じておくことにした。

 

「チェキが何なのかは知らんが、交流会が終わってからにしておくんだ、三輪」

 

 世間知らず風の発言をした者の顔を、蓮は知らなかった。

 平安時代からタイムスリップして来たのだろうか、と思わせる出立ちだ。狩衣(かりぎぬ)を意識した制服に身を包む、蓮と同じくらいの身長を持つ、伏目の男子生徒。中別ヘアの房をヘアカフスで纏めている。

 名を加茂(かも)憲紀(のりとし)。府立呪術高専三年、準一級術師。

 呪術御三家の内の一家である加茂家。彼はその跡取り候補の有力者だ。準一級術師という肩書からも、彼が相当な実力を持つ術師なのは分かるだろう。

 

「察するニ、アレが乙骨の代わりと言うわけカ。中々面倒そうだナ」

「ああっメカだ! 喋るメカだ!!」

「ガウェインか?」

「サイバトロンの金属生命体じゃない?」

「ジークフリードだろそこは」

「ガンダムファイトォォ! レディィィ、ゴー!」

「アレイオン」

ゆかりたらこカルビ、こんぶ(俺に力を貸せ、ガンダム)!」

(……ナゼ俺にだけこんな反応ヲ?)

 

 彼を除き、上から野薔薇、蓮、順平、恵、パンダ先輩、真希、棘である。この都立高専生、本当に仲が良い。

 閑話休題、最後には木造の傀儡。ミノフスキー粒子は搭載していないが、呪力による遠隔操作で動く呪骸だ。機械的な男性のヴォイスから、一応それの中身が男性である事が分かる。

 一応の処置として、その呪骸には高専の制服が着せられているようだが、変形機構のためか、袖が無くなっている。首には灰色のネックウォーマーが巻かれている。

 名を究極(アルティメット)メカ丸。府立呪術高専二年、準一級術師。一体どんな武装があるのだろう、と蓮は目を輝かせた。

 いつの時代も、銃と刀とロボットは男の子の浪漫なのだ。メカ丸の言葉に返すように、憲紀が口を開く。

 

「そうだね。この交流会、骨が折れそうだ」

(そのまま折れて死ねば良いのに)

「何か言ったか、真依」

「べッつに」

「はーい、内輪で喧嘩しないの」

 

 と、手を叩きながら席団を最後に登り終えた巫女服の女性の顔には、痛々しく右頬から流れる傷跡がある。長く艶やかな黒髪をハーフアップにし、白色のリボンでまとめている若い女性だ。

 名を(いおり)歌姫(うたひめ)。京都校引率、準一級術師。蓮は一瞬、傷跡があるのが勿体無いと思ったが、その傷跡は彼女が生き残り得た勲章なのだと考えを改め、先の考えで彼女を侮辱した己を恥じた。

 

「で? あのバカは?」

「さとるは遅刻だ」

「バァカが時間通りに来るワケねーよ」

「誰もバカが五条先生とは言ってませんよ」

「バカなのは否定出来ないわよ」

「しゃけ」

 

 この信用の無さに、しかし誰も間違いでないのが何とも擁護できない。

 

「皆ー、おっまたー!」

((うわあ、五条悟))

 

 と、そこに走ってやって来たのは、バカ目隠しの最強・五条悟。歌姫と霞で反応が違うのは、彼の性格を知る者と知らぬ者との差が故。

 ただし、何やら巨大な箱を乗せた台車付きのようだ。その上には、何やら珍妙なピンク色の人形が複数あり、まるでブードゥー人形を彷彿とさせる。

 仮にこれが本当にブードゥー人形なら、悟のお土産のセンスを疑うが。

 

「はい、京都校の皆には海外出張のお土産! とある部族の御守りみたいな人形らしいよ!

 ああ、歌姫の分は無いよ?」

「いらねーよ!」

「そして東京校の皆にはこちら!」

 

 What’s in the box(箱の中身は何だろな)? と問わんばかりにハイテンションで台車を指し示す190センチ成人済み男性の姿か、これが。家入硝子から二十八歳児と陰口を叩かれるのも致し方ないな、と蓮は思った。

 そしてその箱の蓋が一人でに開き──

 

はい、おっぱっぴー!

「故人の虎杖悠仁くんでーす!」

 

 死んだはずの悠仁が、おっぱっぴーしながら現れた。

 

 所で、読者諸君は『死んだと思った友達と再会した』ら、まずはどんな反応をするだろうか。もう会えないと思っていた友達に会えて嬉し涙? あるいは泣きすぎて嗚咽? 最悪、嘔吐するかもしれない。それを切っ掛けに地球温暖化まで解決するかも。人(あるいは地球)それぞれだ。

 だがその反応は、状況を整理し終わった後の反応と言えよう。虎杖悠仁という名の太陽を失っていた二人は、現実離れした目の前の光景に耐えられず、SAN値チェック1/1D3でどうにか成功した……が。

 

「…………」

「…………」

『………………』

 

 しかしてその現実にどう反応すれば良いのか分からない二人は、脳の回転をショートさせている。

 引き攣った顔で、何も言えなかった。

 というかおっぱっぴーって何でだよ。

 

んええええッ!?

 全ッ然、嬉しそうじゃない!!?)

 

 当たり前である。

 事の発端は、悟の悪ノリにより始まった。「どうせならサプライズでお披露目したいよネ!」と気分屋の悟に乗せられて、あれやこれやとびっくり箱の中に入ってしまったのだ。

 この光景を見ていた七海建人曰く、「生きているだけでサプライズでしょう」との事。重ね重ね、当たり前である。

 箱の中身は何と死したはずの宿儺の器。それに驚きを隠せないのは、高専生二人だけではなかった。

 

「これは……!?」

「あっ、楽巌寺学ちょ〜〜〜♪」

 

 生徒達を監督していた、都立呪術高専学長の夜蛾正道もそうだったのだが。

 その隣にいる府立呪術高専学長・楽巌寺嘉伸は、特に顕著だった。

 嘉伸は、五条悟と雨宮蓮の嫌う保守派筆頭の上層部であり、虎杖悠仁と吉野順平の処刑、及び雨宮蓮の実質死刑宣告に賛成していた者の一人でもある。

 故に、虎杖悠仁の生存の衝撃は大きく爺の脳を揺さぶる。

 

 所で読者諸君らは、日本の死刑制度に詳しいだろうか。ご存知でない方に一つ説明しておきたい。それは、『死刑執行後に囚人が生き返った場合の囚人の扱いについて』だ。

 もちろん、そんな奇跡に等しい事象が起こる事は極々稀にしか起こらない。確実性があり、尚且つ囚人にできるだけ苦痛を与えないような処刑法が確立された現代なら殊更。

 だが、その極々稀を引き当てた人物が、なんと日本は江戸時代で文献が残っている。

 詳しくは省くが、その後の死刑囚の扱いについて、中央政府は『死刑は執行されたため、再び執行する理由はない。戸籍を回復させよ』と達しがあったそうだ。

 つまり、このケースによって死を免れた虎杖悠仁は、上層部が再度死刑を求刑しない限り、もう死刑を執行される事はない。

 呪術界もまた、日本の法律に従う他は無いのだ。やむを得ない事情で殺人を許される事があっても、罪をきちんと償えばそこまでで罰は終わりというスタンスは変わらないし、変えられない。

 それこそ、上層部が最悪の手段である『暗殺』にでも手を染めなければ。

 それが分かりきっている悟は煽り、嘉伸は睨む。

 

「いやあ、ご無沙汰ですねェ〜!

 びっくりしておっ死んじゃったらどーしよーかなーって、心配したんですよォ〜〜〜??」

「……糞餓鬼が……!!」

 

 熟練の威圧はしかし、最強相手じゃ分が悪い。

 ちなみに府立高専生達はお土産に、二年都立高専生はバカ目隠しに夢中というか傍観していた。

 

「オイ」

「はひ」

「何か言う事あんだろーがよ」

 

 唐突に野薔薇に箱を蹴られて、気の抜けた返事しか出来ない悠仁。

 見ると──

 

「あ」

 

 野薔薇の目尻には、涙が溜まっていた。

 

 虎杖悠仁は一つ、間違いを犯した。

 虎杖悠仁が祖父の倭助から『これだけはやるな』と念を押されていた二つの家訓のうち一つを破ってしまったのだ。一つは、飯を粗末にする事。もう一つは、女の子を泣かす事だ。

 間違いを犯したなら、やることは一つ。

 『真摯に向き合って、謝って、許しを乞う』。いつの時代もそれだけだ。

 

「……生きてる事、黙っててすんませんした」

「ぶぁか!!」

「ぶぉッへッ!?」

 

 綺麗なボディーブロー。効果はばつぐんだ。相手の悠仁は倒れた。アレは防御せねば蓮とてタダでは済まないだろう。

 さて、恵の隣にやってきて、蓮は言祝ぐ。

 

「喜んでくれたか?」

「……ああ、はは。

 最ッ高だな」

 

 呆れたように恵は笑う。

 鼻を啜る音が聞こえたのは気のせいだろう。

 ともあれ。

 

 虎杖悠仁、合流。

 東京校一年、完全復活。

 

 

 3.

 

「あの〜ぅ……」

 

 さて、場面変わって都立高専生控室玄関前。皆々は思い思いに競技開始時間を待っていた。

 ……ただ一人、虎杖悠仁を除いて。

 

「これ見方によってはかなりハードなイジメなのでは?」

「うるせえ、しばらくそーしてろ」

「ど、どんまい悠仁」

「俺の支えは順平だけだぜ……」

 

 悠仁、涙そうそう。鬼籍学生さんは、在校生による陰湿を通り越したイジメを受けていた。石床の上で正座させられながら遺影額を持たされている姿に、吉野順平は苦笑いをせざるを得ない。

 

「まあまあ、事情は説明されてたろ? 勘弁してやれ」

「えっ、パンダが喋った?」

「しゃけしゃけ」

「何でおにぎり??」

「棘先輩は、言霊を増幅させる【呪言】を使えるんだ。安全を考慮して、普段は語彙をおにぎりの具で絞ってんだよ。パンダ先輩はどこからどうみてもパンダ先輩だろ」

「そういうもんか?」

「そういうもんだ」

「1ヶ月は食い繋げるな*1

「綿しかねえよ」

「じゃあ3日か」

「それが妥当だな*2

「あれ、おれ今生命の危機?」

 

 ワタはワタでも(はらわた)はないので、もちろん栄養は無いし、何ならそのままの状態で排泄されるので食べる意味は皆無なのだが、悠仁と恵は何やらちゃんちゃらおかしい会話を繰り広げている。

 そこに横槍を入れてパンダ先輩を救ったのは、鋭い目付きと言葉遣いで悠仁に迫る禪院真希であった。

 

「つゥか悠仁、アレ返せよ」

「アレ?」

「屠坐魔だよ、屠坐魔。バカ五条から借りただろ?」

あー(五条先生に)……あぁ(借りたままで)……ァァ(そういや壊してた)……。

 ……ゴ、ゴジョーセンセーガモッテルヨ」

「チッ、あンのバカ目隠しが……」

 

「ぶっわくっちょいしょいよい!!」

「ウワっきったねぇ!!」

 

「んで、よ。お前ら二人何が出来るワケ?」

「殴る、蹴る!」

「僕は、毒を持った式神が使えます。体術はそれなり程度ですけど」

「間に合ってンだよなァ……」

 

 体術は呪具を巧みに操る真希や肉体派のパンダ先輩が、式神は禪院家相伝の〝十種影法術〟持ちの恵と〝魂霊召喚術(ペルソナ)〟を操る蓮が担っている。

 

「確かに体術はまだ心許ないですが、順平の式神が抽出する毒はオレのペルソナよりもバリエーションがあります。順平の術式の解釈次第では、大いに化ける可能性も秘めている」

「悠仁が死んでる間、何してたかは知りませんけど──東京校京都校全員呪力無しで戦ったら、悠仁が勝ちます」

「へえ……」

 

 東堂葵と直接戦った蓮と恵ならば、説得力もある。動かし方次第ではジョーカーになり得るかもしれぬ、と真希は思った。

 ……のだが。

 

「は、聞き捨てならんな恵。オレが勝つが?」

「いやこの流れだと俺が勝つに決まってンだろ」

「力押しだけじゃオレは倒せん」

「技掛けたくて仕方ねえってのが見え透いてんだわ」

「は?」

「あ?」

「喧嘩すんな」

「何か今日の蓮、血の気多くない?」

「楽しみにしてたからな」

「本音は?」

「早く戦いたい」

「アンタそんなバトルジャンキーだったっけ?

 ……いや、結構そうかも」

 

 なぜか食ってかかる蓮に、真希は少し引いた。

 さて、野薔薇には蓮に対して、ある思い当たる()黒があった。それは、隠された(というか拝む機会が無い)蓮の性格あるいは性癖、『バーサーカー』。

 事の始まりは、英集少年院にてタッグを組んだ折の事だ。野薔薇は蓮──ジョーカーの戦いぶりをみて、彼をスマブラのキャラクターと言い表したのだ。

 いつだったか、ジョーカーはその通りに『大乱闘スマッシュブラザーズ』という祭典に選手として出た事があり、その時にだろうか、蓮は戦いにおいて愉悦を知ったのだ。

 強者と戦い、そして勝つ快楽を知ったのだ。理不尽を打ち破る爽快を知ったのだ。

 その経験があったからこそ、夏の日のスクランブルで戦い抜けられたのだ。

 確かに苦戦する場面も多々あったが、それでも楽しい夏休みと言えた。無双するのってこんな感じかあ、という爽快感を、蓮は今でも忘れられていない。

 現に蓮は、格下相手に転生チートで無双するような真似は好かないが、格上相手を出し抜き勝つのは悪くないと思っているのだ。

 まあ今生では、五条悟然り、両面宿儺然り、そうは問屋が卸さなさそうだが──彼らに勝った時のカタルシスは、今までのそれとはやはり比べ物にならないだろう事は想像出来る。

 

(けどまあ、一人新人に近いヤツが入ろーが、人数で見ればアドもあるし、そこに特級術師()がいるんだ……)

 

 閑話休題、真希は手で押さえた口が愉悦に歪む。真希の直感は、この勝負を完全に貰ったものと訴えていた。

 

「うぃーす、蓮いるー?」

 

 と、真希の打算に被さるように、控室の玄関口と顔の口を五条悟が開いてきた。長身の彼には玄関は低いらしく、頭を少しかがめて入る。

 蓮を探しているようだが、特段急いでいるような顔色はしていない。どうせ何かしら用事を忘れていたのだろう。要件は何だろうと、蓮は小さく溜息を吐く──

 

「おっ、いたいた」

「五条先生? どうしてここに?」

「いや、蓮遅いなーって思ってね」

「はァ? 何言ってんだ、選手で出るだろ?」

「え? 蓮は団体戦出ないよ?」

 

 ──その刹那、一瞬で空気が凍りついた。

 レンは あたまが まっしろに なった!

 

『はああァアアア!?』

「な、なぜだ? オレ何か恨まれるような事したか!?」

「その方が面白そうだから……嘘嘘、八割冗談だよ」

 

 割とガチ目に睨み付けてやるのだが、悟はケラケラ笑って悪びれもせず、のらりくらり言い訳を始める。

 

「本当の事言うと、憂太が去年暴れすぎちゃってねェ。それでルールが変わって、僕らの代までは『制限無し』で、去年までは『特級は一人まで』だったんだけど、今年からは『前半後半のどちらかに限り』になっちゃった」

 

 ちなみに前半後半〜の条件は、悟が府立学長を説得してどうにか漕ぎつけたものだ。悟がいなければ蓮は出場すら出来なかったのだが、そんな事は今の蓮は知った事では無い。

 

「まあ後半の部には出すから、ね?」

 

 そう言われたその瞬間、蓮は白目を剥きながら後ろに倒れてしまう。最後のひとひらがポトリと落ちていく。蓮の魂が抜けていった音がした。

 悠仁が慌てて抱え込み、その安否を必死に問うているが、笑いを堪えられていない。いつぞやの日から、そこら辺のギャグセンスはまるで成長していないようだ。

 

「……るさん……」

「どうした、蓮! 何!?」

「許さんぞ乙骨憂太ぁあ……!!!」

 

 悲痛の叫びが部屋に響く。

 哀れ也、乙骨憂太。

 

 

 4.

〈午前→昼→午後〉

 とまあ、蓮が拗ねたりしている内に、あっという間に試合の時間がやって来たのであった。

 現在の時刻はおよそ一時半の少し前。補給したエネルギーの発揮と、ウォーミングアップには最適の時間帯だ。

 ふと吉野順平が周りを見渡せば、皆が皆、難なく会話出来るくらいには軽くストレッチなどをして体を温めている。戦いに行く者としてのコンディションは順調に上がっているようだ。

 

「悠仁」

「んー?」

 

 と、悠仁を尻目に見た所、声を掛けているのはうに頭の伏黒恵だった。今日もとげ具合は絶好調だが、茶化す雰囲気のようには思えなかった。

 

「大丈夫か?」

「ん? あー、まあ蓮抜けちったのは痛えけど、まー何とかなるべ」

「いや、そういう意味もあるが、そうじゃねー。

 ……何かあったんだろ?」

 

 こういう鋭い所があるから、伏黒恵という男は油断ならない。その事を、虎杖悠仁はすっかり忘れていた。苦笑いして問いに答える。

 

「……あー、まあな。うん。

 ……わり。正直な話、死んでた時にちょっとあってな。まだちっとばかし引き摺ってる」

「……」

「けど、大丈夫。

 ──もう腹は括ってンだわ、色々と」

「……なら、いい」

 

 不満はあるが、納得はしたらしい。横切りながら、恵は続いて綴る。

 

「俺も今日、割と負けたくないしな」

「割とって何よ割とって、私らこの前ぶち転がされてんのよ? 気張れっつーの!

 さーて、コテンパンに圧勝よ! 真希さんのために!」

「そーゆーの止めろ、野薔薇」

「やったろーじゃん、まきのために!」

「そーゆーの止めろ、パンダ」

「めんたいこー」

「えっと、『頑張ろう』ですかね?」

「あー、ニュアンスはあってるわな。こりゃ『気張って行こー』だ」

しお(惜し)〜」

 

 各々の気合いは充分なようだ。悠仁は、己の頬が緩むのが自分で分かった。久々の級友達との会話は、悠仁の心に光をもたらしてくれていた。

 

 さて、姉妹校交流会初日の前半戦は団体戦だ。その名も『チキチキ!呪霊討伐猛レース!』*3である。

 悟をシバきながらの学長曰く、本試合は指定された境内の中に放たれた二級呪霊を、先に祓除したチームの勝利となる。

 一時半を試合開始、制限時間は日没の六時まで。二級の他にも三級以下の呪霊も複数体放たれている。二級を祓えず勝敗が決さない場合、三級以下の討伐数が多いチームを勝利とする。

 妨害行為もアリだが、死亡事故や再起不能となるような重傷を負わせてはならないのは言うまでも無い。

 以上が本試合のルールであり、それ以外に決まり事は無い。何をやっても良い、呪術合戦だ。

 試合会場である区画面積は約二十万平米。東京ドームがおよそ四個分のそれに当たる。しかも本校舎と三つの演習場を含めてこの広さだ。実力だけでなく空間把握能力、及びチームワークが試される勝負になるだろう。

 だからこそ東京校の面々は、チームワークでも京都校の連中に負けない自信があった。

 

 さて、そうこうしている内に、高専中に建てられているアナウンスのためのメガホンから、バカ目隠し五条悟の声が聞こえて来た。この男、顔だけでなく声も良いのでもっとムカつく。

 

『はい、開始一分前となりましたー! ここで雨宮蓮君からありがたいお言葉です!』

『とっとと勝ってください』

『はい、スポーツマンシップもクソもない身内贔屓をありがとうございます!

 続きまして歌姫先生!』

『えっ!? 私も!?

 えー……と、そのー、あー……まあ、ある程度の、そのー、助け合いー、というか……』

『はい時間でーす』

『ちょ、ごじょ──』

『スタァアアアアッットォウ!!』

 

 キィィイイイイン

 と、嫌なハウリング音を皮切りに、歌姫の予定外の激励を無視して二校のチームが動き始める。

 

『五条、アンタねえ!』

『オレは寝るぞ』

『ちょっ、雨宮!? 学校行事なんだからってか毛布どこから取り出したのよ!?』

『はいはーい、終わったら起こすよ』

『アンタ仮にも担任でしょうが五条!』

『ぐー……』

『ああもう、どいつもこいつも!!

 人の話を──』ブツッ

 

 急にアナウンスが途切れたのは、おそらく悟の仕業であろう。段取りの悪さと行き当たりばったりな性格が、二者間で全くと言って良いほどマッチしていない。恵は呆れざるを得なかった。

 

「何やってんだか……」

「はは! 変わんねーな、ホント!

 ──んじゃまあ、ショー・タイムと行きますか!」

 

 若干、ぐだぐだな所がありながらも。

 懊悩(めぐ)る、姉妹校交流会前半戦の火蓋が切られる──!

 

「って、何で悠仁(おめー)が仕切ってんだよ」

「あべしっ!?」

「つーかその台詞れんのじゃね?」

「えー、パクったの?」

「うわサイテー」

うめ、おかか(いや、ダメだろ)……」

「あれ、俺味方いなくね?」

 

 ……はてさて、この交流会、どうなる事やら。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#25 A strange tales goes around a round

*1

*2
?????

*3
夜蛾正道学長命名




 コープ進行:愚者〔3〕
 アビリティ獲得:集団ギロチン刑・裏
 三体以上のペルソナを処刑して行うペルソナ合体を、裏全書でも出来るようになった。常套の手段では得られない強力なペルソナを生み出す事ができる。

 お待たせ!!!!!

 最新話の五条先生さあ…
 待たせやがって…

 さて(唐突)、皆様薄々気付いてると思うんですが、本作はコープを育めなかったりアビリティが何かしら欠けていたりすると即刻ゲームオーバーになる仕様です。
 序盤は皇帝のコープを進める事で領域展開を会得しますが、この条件を満たしていないと普通に宿儺にやられてゲームオーバーだったり、
 幼魚と逆罰はドッペルゲンガーがいないと順平を助けられなかったり(ストーリー進行はする)といった感じです。
 もろ勿論今後もこういう事が起こります。
 蓮の選択次第で、守れる命と守れない命があるということデス。
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