呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた 作:全てのイシを拾イシ者
16.
「──ってな訳で、キミ死刑ね!」
ばきゅーんと悠仁の脳内に銃声走る。
そう言いながら、ニッコリと笑う目の前の五条悟。現在虎杖悠仁は、その両腕を、所々に呪符の付いた
──ここは何処なのか、と問われれば、悠仁は答える事が出来ない。部屋である事は確かだ。しかし出口のためのドアが無い。部屋には全体的に、標縄に使われている呪符がびっしりと貼られている。灯りのためか、床に灯籠が置かれている。まるで──何か忌むべき物を此処に閉じ込め、外界から隔絶しようとしているかのように。
「つーか、前話の回想と展開が合ってねーんだけど」
「いや、これでも頑張ったんだよ? 死刑っちゃ死刑なんだけど、執行猶予が付いてね。……まあ、一から説明するよ」
がさごそとポケットの中を漁る悟。旧ドラえもんの如き効果音と共に取り出したのは──悠仁が取り込んだ呪物と酷似した指だった。
「《両面宿儺の指》……キミが取り込んだ呪物と同じモノだよ。僕らはその内の六本を保有してる。本来なら全部で二十本あるんだけどね」
「二十本……? ああ、足も含めてか」
「いいや、宿儺は
そう言いながら悟は、貴重であろうソレを投げ──瞬間、悟が手を開いた方向の壁が、呪物ごとめり込んだ。……しかし肝心の呪物である《指》は、先程悟が見せた時の形状のままだった。つまり、この呪物は──
「見たろ?
キミが死ねば、中の
「…………だから、俺が《指》を全部喰えば──」
「両面宿儺は完全に消滅するってワケ。──虎杖悠仁。キミには今二つの選択肢がある。
今直ぐに死ぬか──全ての宿儺の指を見つけ出し、取り込んでから死ぬか。キミは、どうしたい?」
「──俺は…………」
17.
箸渡しや違い箸を何故してはいけないのかを、悠仁はこの日初めて知った。骨上げという儀式の時だけに行う箸の使い方であり、日常生活の中に、葬儀という『非日常性』を持ち込まないようにするためだったのだ。
悠仁が悟と問答してから一日が経過した。火葬を済ませた悠仁と、葬儀に参列した蓮は、虎杖倭助の骨上げを行なっている。二人一組となって、一つの骨を蓮の箸で拾い、隣の悠仁が箸で受け取り骨壺に入れていく。手に持っている箸は、竹製と木製のそれぞれ長さの違うものだった。
珍しく、蓮が先に口を開いた。
「…………倭助さん、御逝去されていたんだな」
「うん。一昨日、死んだ」
「何か言ってたか?」
「──人を助けろ。手の届く範囲で良いから、出来るだけ沢山助けろ……って」
『蓮だけは死ぬ気で守れ』の部分は、本人の前では恥ずかしくて言えなかった。
「倭助さんらしい。あの人は、自分よりも他人を心配するお人好しだったからな……」
「そうだったん?」
「そうだったさ。悠仁の前では強がってるだけだよ」
「そうだったんか。……爺ちゃんらしいや」
「ああ……、そうだな」
蓮は倭助とは知り合いだった。さほど長くないとは言え、中学生の頃には蓮もお見舞いに行っていた。最初こそ歓迎はされなかったものの、日を重ねるにつれて段々と心を開いてくれた。三年も付き合っていれば、色々と胸に込み上げてくるものがある。
骨壺に骨を入れ終わり、悠仁が蓋を閉める。静寂を先に破ったのは、悠仁の方だった。
「…………俺さ、指食べたじゃん。アレ、かなりヤバいやつらしくてさ」
「うん」
重い唇が言の葉を紡いでいく。
「そんで、五条って人がさ……俺が……指を全部喰うまではしないけど、死刑だって言ってきてさ」
「うん」
腹の底が重くなる。自然と顔が俯く。
「だからさ、俺……蓮や先輩方とかと、もう一緒に居られねえ。仕方ないんだけどさ」
「…………」
自分でも何を言いたいのか分からない。だが何かを言わなければいけない。
「だから蓮。俺ね、蓮や皆と一緒に居られて……」
「嫌だ」
──虎杖悠仁は、雨宮蓮こそ、その頑張りを報われる人間だと思っている。
雨宮蓮は善人だ。無口で誤解されやすいという欠点はあれど、頼まれ事をほとんど断らないほど優しくて、悪行を見逃せないほど正義感が強くて、自分に害が及ぼうとも人を助けられるほど強い心を持っている。もし仮に蓮が悲惨な人生を送ってしまうのならば、悠仁は神や運命を、何の
だからこそ悠仁は、蓮が危ない目に遭わないように、祖父の遺言の通り『蓮を守る』ために、
「いや……嫌だとか、そういう問題じゃねーんだよ。俺が喰った呪いは、俺を死刑にするほど危ねーモンなんだってば」
「それでも、悠仁が
「俺は……俺の所為で、お前が危ない目に遭うのが嫌だ。……俺が居なくなりゃ、お前や先輩方や……皆が危ない目に遭う事も無くなる」
「だから、オレに悠仁の死刑を見逃せと?」
「執行猶予までは死なねーってば、俺。……話聞いてたか?」
「聞いてたから言ってるんだ。オレは悠仁の死刑そのものが気に入らない。……悠仁はオレの嫌いな物、知ってるだろう?」
「……何だっけ。理不尽とか、悪い奴とか……そんなんだろ? それが何?」
「そう。──オレにとって、悠仁の死刑は『理不尽』だ。だから許せないし、反対する。オレは受け入れない」
「だから──ッ、死刑は仕方ない事で、決まっちまってもう変わらねえって言ってンだろッ!!」
怒鳴りながら蓮の方を向き胸倉を掴んだ。瞳孔が開ききっている。焦点が合わない。どうしてここまで聞き分けがないのかと、いつの間にか肚の底に孕んでいた怒りを表に出した。あるいは、独りになる事の寂しさを紛らわしたかったのかもしれない。どちらにせよ、もう悠仁の口は止まらなかった。
「中二の時、覚えてるよな。お前、虐められてる奴の事助けたよな。……お前も標的になるっての、解ってたよな?
……お前は凄えよ。けどさ……
──雨宮蓮と自身を比較して、悠仁はふと思う事がある。『何故、自分にだけこのような人間離れした怪力があるのだろうか』と。自分では普通だと思っていた事が、親友と比較する事で普通ではなくなっていた。──そして、普通ではない自分は一体何者なのだろうか、と思うようになった。
おそらく蓮のような幼馴染が居なければ、このような事は考えもしなかっただろう。持ち前の陽気さで取り繕ってはいたが、普通なら恐ろしい物を見るような目を向けられるのを、流石に悠仁でも解っていた。
「………………それは……」
「…………あ?」
「──それは、お前の本心か?」
「いや、だから──」
「本当に仕方のない事か?」
「さっきからそう言って──」
──そして、新月のあの夜、虎杖悠仁は化物に成り下がった。両面宿儺の指を取り込んだ事で、『化物級の人間』から『化物』となった。虎杖悠仁は雨宮蓮と共には居られない。いつかきっとその爪で、彼の肉体を魂ごと引き裂いてしまうだろうから……。
「このふざけた運命を受け入れて、言われるがままに死ぬだけか?
──答えろ、虎杖悠仁。」
「………………っ」
だというのに、
「諦めるのか?」
普段と変わらぬ、真っ直ぐな目で。
信じるように、
焼却場にて、静寂が二人を包む。しかし長くは続かなかった。
萎れる顔、虚勢を張った表面、心を蝕んでいた寂寥と恐怖が、涙となって溢れ出る。何の罪も犯していない自分が、何故に死刑を定められたのかという絶望感と、虎杖悠仁が内に秘めたる『死にたくない』という本心を、流れるままに吐露していく。
……それらを全て、雨宮蓮は受け止めた。
虎杖悠仁は、もう溢れる涙を止める事は出来ない。
もう限界だった。心が許容範囲を超えた。自分の中の思いをギリギリまで堰き止めていたものが壊れた音がした。
俯き、言葉を紡いでいく。
「…………頼む、蓮」
「何だ」
嗚咽を堪えて、ゆっくりと唇を動かす。
「俺を……っ、助けてくれ…………」
「任せろ」
18.
「……亡くなられたのは?」
「爺ちゃん。でも、親みたいなモンかな」
「……そっか。すまないね、そんな時に」
「別にイイよ」
ずずっと鼻を啜りながら悠仁が答える。鱗雲がぽつぽつと浮かぶ蒼空の下。焼却場の外、昼前の空。虎杖悠仁と雨宮蓮、五条悟は、三人での再会を果たした。悟と蓮が悠仁を挟むようにしてベンチに座っている。
「──で、どうするか決まった?」
「……こういう呪いの被害って、結構あんの?」
「うーん、今回主に被害を負ったのは学校だけだからねえ。怪我したのも恵だけだし、今回ばかりは超ラッキーなケースだよ。あの時、蓮がいなかったらあの二人は……いや、
蓮が口を開き始める。
「怪死者・行方不明者が年間平均一万人って事は、それなりに規模は大きいのか?」
「ザラにあるよ。呪いに遭遇して普通に死ねたら御の字、遺体が見つかればまだマシ。更に
──ま、好きな地獄を選んでよ」
……背負った運命が重い。それこそ、日本全土に住む一億二千万人に牙を剥きつつ、その命を双肩に背負っているようなものだ。悠仁は息を呑み、蓮は組んでいた手を固く握った。
その言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
虎杖悠仁はあの日、この言葉を胸に刻まれた。この言葉に、生涯を呪われたまま生きていくのだろう。気付けば口は開いていた。
「……あの指、まだある?」
「ん」
悟が屍蝋の指を悠仁に手渡す。それを悠仁はまじまじと見つめ、口の中に放り込んだ。
──瞬間、溢れ出る呪いの波が、憎悪となって周辺を襲う。木々が怯えているかのように揺れる。停まっていた鳥達は本能が訴えるままに逃げ出した。新月のあの夜、刺青のように湧き出た紋様が、再び悠仁の身体に浮かんでいた。流石に悟も警戒を取る。
「く、くく、はははは……!」
(二本目、十分の一……どうかな?)
悪意が渦巻く。邪悪な笑みが溢れる。体が熱い。涙袋に浮かんだ新たな双眸が開く。上下左右の感覚が薄れ、意識さえも失い、その呪いが表層に──
「ゔお゙え゙えまっずうッッ!!」
──顕れる事はなかった。新たな双眸が閉じ、紋様が消えていく。木々の怯えは消え、鳥も先の喧騒を忘れ枝に停まった。
「どんな味なんだ? 見た目はジャーキーっぽいけど」
「ひぇっひぇんひはいはあひ! ほえおいはやう、はんかほいおんほっへひへ!」
「そうなのか。分かった、適当に買ってくる」
「え、解るの?」
立ち上がり財布を取り出す蓮。自販機が近くにあるのが悠仁にとっては救いか。しかし悟には悠仁の日本語(唇縛り)を理解出来ないようだった。
(しかし……これで確定した。肉体のみの耐性だけではなく、宿儺を相手に難なく自我を保てている。千年生まれてこなかった逸材だ……!)
「コーラとファンタ、どっちがいい?」
「ほーあ!」
「ファンタか」
「ひえーよ!!」
「スプライトは売ってなかったって」
「はよほーあひょーはい!」
「はいはい」
そう言いながらコーラを渡す。ひったくるようにしてペットボトルを掴み、一息にキャップを開けて飲んでいく。喉越し爽快、気付けばコーラは半分ほど減っていた。
「…………ぷはー! ぐぉぇええっぷ」
「ゲップをするな汚いな」
「……これペプシじゃん! 何でコカコーラじゃないの!?」
「それしか無かったんだ、わがまま言うな。ペプシでも良いだろ」
「いやここはコカコーラだろ! 最強じゃんコカコーラ」
「いや、断然ペプシだな。甘過ぎないのが良いんだろ」
「あ?」
「は?」
「おっ、
「まさかの第三勢力!!」
「将棋してる時にチェスで乱入して来るタイプだなこの人」
皆で
「……覚悟は決まった、という事で良いのかな?」
「ううん、全然。何で俺が死刑なんだって思ってるし、普通に死にたくねえ。
──けど、呪いは放っとけねえ。宿儺は全部喰ってやる。……ほんと、面倒臭え
それにさ、何つーか、死刑って決まっちまったけど、つらくは無え……違えな、つらく無くなったんだ。……簡単に死なせてくれなさそーだしね」
悟の問いかけに、悠仁がそう答えながら蓮を見る。蓮が浮かべていたのは、新月のあの夜のような、底知れぬ妖しい笑みだった。だが不思議と、悠仁はその笑みに不安ではなく、安心感を抱いていた。
「地獄っちゃ地獄だけどさ──結構、楽しい地獄になりそうなんだ」
だからこそ、普段は絶対に思わない事を思えたのだ。
「──あはは、イイね! キミみたいなのは嫌いじゃない。
──よし、じゃあ今日中に荷物まとめておいで。直ぐに出発するよ」
「えっ、どこに?」
悠仁の目が点になる。──その返答者は、悟でも蓮でもなかった。
「……東京だよ」
返答者は、頭部に包帯やガーゼを貼られた伏黒恵だった。見るからに怪我人だが、お構いなく悠仁と蓮は話しかける。
「うおっ、恵! 元気そーじゃん!」
「
「恵。元気そうだな。大した怪我も無さそうで安心した」
「お前ら目ェ
「えっ?
「俺が怪我してて良かったな虎杖。でなきゃお前の数少ない脳細胞が大量に死滅してる所だぞ」
「アッ、その
「
「YES!! よ〜く分かってんじゃんレンレ〜ン!」
イェーイと言いながらハイタッチするお馬鹿二人。
「お前らマジで覚えとけよ……」
悟も便乗して三人で笑い、一人は眉根を寄せた。
「で、東京に何しに?」
「呪術の学校に転入すんだよ。……雨宮もな」
「オレの時あからさまに顔を
「ぶふっ、うに……ふへへへ、恵がうににトラウマ持ってる……あっはははは!」
「五条先生も笑わないでください殴りますよ」
「いやん! 教え子が過激っ! ぼかぁそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「アンタに育てられたから『こう』なったんだよ!」
「そんなに怒ったら傷が開いちまうよ恵、安静にしてねーと」
「誰の! 所為だと! 思ってんだよ!!」
わちゃわちゃする男四人衆。
「あっ、ちなみに一年生はキミらで四人目ね」
『少なっ!!』
19.
時刻は午後二時を少し過ぎたところ。雨宮蓮、虎杖悠仁、伏黒恵、五条悟が駅のホームに立っている。蓮と悠仁は大荷物で、キャリーバックを持ち歩いている。中には私服やら本やらが入っているが、悠仁のはほとんどが漫画本なのに対し、蓮は古今東西様々なものを。それこそ悠仁と同じく漫画や文庫本、哲学書、ナンプレ等のパズルとジャンルを問わない。
もうすぐ、埼京線の渋谷駅行き新幹線やまびこ号が来る。地元の仙台と、暫しの別れを告げなければならない。そんな中、蓮はかつての住処の東京に思いを馳せていた。
(東京……か)
今世では蓮は東京に行った経験はほとんど無い。渋谷を中学二年の修学旅行で経由しただけだ。特段東京に用がある訳でもなく、ましてや親戚が関東に居る訳でもないため行く事も無かったが、故郷の四軒茶屋を見たいという思いはあった。
──蓮の家族は、蓮の急な編入を断固拒否した。
蓮の家庭は、陽気な父と優しい母、少し禿げた厳しい祖父と祖父を尻に敷く祖母……と、極めて普通だ。(あまりやらかした事は無いが)悪さをすれば怒るし、怪我をすれば心配する程度には自分の事を想っているのだろう……と、蓮はそう考えて『いた』。中一からスマホを持たせてくれた時や、高校進学の記念としてサイフォンを買ってもらった折、一緒に祖父母が買ってきた豆の中にブルーマウンテンがあった時、蓮は自身の目を疑った。
前世で蓮がスマホを持ったのは中学を卒業した後からだった。中学生かつ思春期の男児がスマホを
ブルーマウンテンは高品質かつ高級豆で知られている。とても初心者向けとは言いがたい。前世では義父の許可こそ得た上で高い豆を使わせてもらっていたが、同じような時期に再びこの豆と出会えるとは思っても見なかった。その日は、両親と祖父母に感謝しながら『心を込めて』淹れた。
自身の親が子煩悩……俗に言う『親ばか』や『過保護』だという事を知った時、蓮は何とも言えない感情を抱いた。前世でこのように甘やかされた記憶はあまり無い。思えば小学生の時もかなり甘かった気がするが、良い歳こいた精神年齢オッサンが小学生をやり直すのは、正直精神にくるものがあった。……しかし蓮の生い立ちを知れば本人でも口を
──雨宮蓮は産まれた時、
聞く所によると、蓮は心停止の状態で産まれたらしい。心停止状態で出産が確認された直後、蘇生活動を行うもあまり効果は見られなかった。このままでは死産の可能性も考慮しなければならない……と、担当医が諦めかけた時、急速に心臓が活動を開始。先程まで生命の灯火が消えかけていたのを忘れたかのように、雨宮蓮は何事も無かったかのように生還と生誕を果たしたのだという。
この経験もあってか、蓮のやる事なす事心配なのだ。もし再び蓮が死ぬ程苦しめられるような事があれば、それこそショック死してしまうのではないかと考えるくらいには。
故に、蓮の急な転入には反対した。……そも家族からすれば不審者でしかない五条悟と共に、呪術という不可思議極まる物を、その危険性と……悠仁の死刑を撤回させたい思いとを説明しながら説得を試みたところで、反対されるのは分かりきっていた。
意外だったのは、祖父の助け舟があった事だ。我関せずといった態度でテレビを見ていたのだが──
──戦いてえなら戦わせりゃいい。
唐突にそう言い放った。テレビを見ていた祖父の背中は、痩せこけて小さかったはずだったのに、その日だけは大きく見えた。蓮はその背中に、かつての義父を重ねた。虎杖倭助の葬式の前日の出来事だった。
「昼、何も食ってねえから腹減った……」
ズギューンと腹から銃声、後にぐごごごごと胃の鳴き声が。
悠仁の腹時計はいつも正確ではあるが、肝心の鐘はぶっ壊れてしまっている。空腹時、銃声が聞こえるのは何故なのだろうと原因解明に蓮は努めるものの、未だ理由は不明だ。蓮的世界七不思議の隠された八つ目である。口を開いたのは恵だった。
「もうすぐ新幹線来るんだから我慢しろ」
「いや、でもォ〜……」
「でももへったくれもあるか。弁当買っただろ」
「恵サン何か冷たくない?」
「……さあ、何の事かな」
雑談しながら時間を潰していると、女性のアナウンスが聞こえ始めた。もうすぐやまびこ号が到着するらしい。新しい日常に思いを馳せるその最中、聞き覚えのある男女の声が聞こえてきた。佐々木節子と井口武志の二人である。
「蓮! 悠仁! ……ひい、ひい、追いついた……」
「せっちゃん先輩とタケちゃん先輩じゃないっすか! どうしてここに……ってか、どうして俺らがいるって分かったん?」
「え? えっと……」
蓮が人差し指を口に当てた。悠仁には内緒に、葬式の前日に蓮は二人にSNSで連絡を取っていたのだ。──決別を悔いのないものにするために。
「ま、まあそれよりもさ……二人って、転校するんでしょ? どうしてこんな急に決まったの?」
「まあ、あのー、えっとぉ……うーん、何て言えば……」
「──一昨日の化物、先輩方も視えましたよね?」
そう切り出したのは蓮だ。
「……あの蛙みたいなヤツとか?」
「はい。生来霊感が強いからか、オレはアレが普通に視えてたし、今も視えてる。悠仁はあの日を皮切りにずっと視えるようになったらしいです。アレが恒常的に視えて、かつ対抗手段を持ち得る人材として、スカウトされたんですよ。
な? 悠仁」
「おっ……そうそう、それが言いたかったんだよ!」
蓮の言い訳に悠仁は激しく相槌を打った。
「けどよ……それって、別にお前らがやんなくても……」
「……アレみたいなヤツと戦うんでしょ? 危ないって……」
苦渋の思いを示す二人。
……全くその通りだと悠仁は思った。死ぬのは怖いし、痛いのは嫌だ。恐怖はまだ虎杖悠仁の体を縛っている。祖父の
──だがここで逃げてしまうのは、『違う』と思ったのだ。
自分の悪心に従って逃げて、何もかもを知らんぷりして逃げて、守るべき人を見捨てて逃げて……逃げ続けた先に、きっと皆の笑顔は無い。あるのは絶望と、血と、憎悪のみだ。果たしてその結末を、虎杖悠仁は納得出来るだろうか。
──否だ。
この使命から逃げた所で、死刑は免れない。
……二人の言い分も理解は出来ると蓮は思った。前世にてペルソナに目醒めずにいたとしたら、自分はただ言われるがままに生きるだけのロボットとなっていただろう。正義の価値も、悪の美学も、生きる理由も、死なないための明日も、きっと放棄していただろう。
──ただ、戦う理由はあったのだ。だからこそ蓮は生きた。その人生に意味を見出した。故にその言い分に納得はしない。
自分の正義が本当に正しいものなのかは、未だに蓮もよく解らない。雨宮蓮は間違える。███だった時も、幾度も間違えてきた。その間違い故に、仲間の親を喪わせてしまった。それを伝える事は無かったが、その悔いは転生してもなお消える事はない。
──だからこそ、もう間違えないと誓った。
雨宮蓮は、雨宮蓮が『正しい』と思った事を為す。友を助ける事で、結果的に中の化物をも助けてしまう事は重々承知している。善か悪かと問われれば悪だ。──けれど友を見捨てる事は、決して『正しい』事ではない。
「ワリぃ、先輩。そりゃ無理だわ」
「すみません、先輩。オレは戦います」
──
「これが、
かつての日常は崩れた。もう二度と直りはしない。この別れを未来永劫、四人は忘れないだろう。
しかし蓮と悠仁は前へ進まねばならないのだ。例え望まなない結末が待っていたとしても。
「…………そっかあ。それじゃ、仕方ないか」
「別にもう会えないって訳じゃないんだからさ。暇が出来れば、ちょくちょく帰ってくるよ」
精一杯の作り笑いで悠仁は心配かけまいとするも、口角は歪みかけていた。蓮も別れを惜しむように、それを隠すように、ほんの少しだけ眉根を寄せている。先輩二人も、何かを堪えているようだった。
──と、そうしている内にアナウンスが終わり、新幹線がようやく到着したらしい。白い流線型のフォルムとピンクのライン、そしてそのラインの下には紺色のペイントがされている。東京行きやまびこ号だ。甲高い金属音を響かせながら、寸分違わずホームの線に沿って停車した。
「それじゃ……またね、先輩!」
「おう。……達者でな、蓮、悠仁」
「うん、またいつかね!」
「はい。……先輩方も、お元気で」
挨拶を交わして、新幹線へと乗り込む。その直後、ドアが閉まって、二人と二人は隔たれた。ドアに付いた窓の外、ホームから手を振る二人の先輩が見えた。二人の後輩も振り返す。駅から離れて、二人の影が見えなくなるまで。
いつか来たる再会を信じて、悠仁と蓮は、故郷に、友に、日常に別れを告げた。
「……出ちまったな」
「ああ」
悠仁が鼻を啜りながら続ける。
「……なんつーかさ」
「ん?」
「あんま……うまく言葉に出来ねーんだけどさ。
俺、お前が居てよかったわ。あんがとな、蓮」
「違うな」
「あいー……? 何でよ」
「『今後ともよろしく』だろ? 悠仁」
「──っはは、やっぱ蓮にゃ敵わねーわ。……そーだな。
改めて、今後ともよろしくな! 蓮!」
「ああ。よろしく、悠仁」
そう言いながら、互いに固く握手を交わした。
悠仁からの友情を感じる……。
「──んじゃ、早く席座ろうぜ。腹減った」
「ああ。先生と恵も待ってるだろうしな」
蓮はそう答えながら、トランクを握り締めて客室側のドアノブに手をかける。
今はただ、悠仁との新たなる生活の期待から来る高揚感に浸っていたかった。
20.
東京都立呪術高等専門学校は、東京の郊外の、それも更に山奥に位置している。本校は日本に二校存在する内の一校であり、表向きには私立の宗教学校とされている。悟曰く、多くの呪術師が卒業後もここを起点に活動しており、任務の斡旋や呪術師のサポート等を行なっているのだとか。
飛鳥時代にタイムスリップして来たのではないかと錯覚する程に外観は浮世離れしてはいるものの、国立大学でよく見かけるような広い陸上競技場がポツンと存在しており、しっちゃかめっちゃかな空間となっていた。三重塔や仏寺が並ぶ中、現代の競技グラウンドが異彩を放っている風景は、中々にカオスだ。
陽射しが暖かい。
(……ここ、本当に東京なのか?)
蓮でさえも東京に巨大な野山がある事に驚愕したというのに、その野山に清水寺のような寺院があるのだから、本当に現世なのかも疑ってしまうのは仕方ない事だ。
「すげー山ン中! 東京ってこんなトコもあるんだな」
「東京も郊外はこんなモンよ?」
そう会話するのは悠仁と悟だ。歩きながら、校門前の石段を登り、そしてようやく辿り着いた。ふと蓮が悟の方を見ると、六月という初夏の、温かいを通り越してもはや蒸し暑い時期に差し掛かった時期だというのに、喪服の如き真っ黒な服装を着用してなお、悟は汗一滴も流していない。黒い服は熱が籠りやすいと家庭科の授業で聞いた事があるが、蓮とはどうやら鍛え方が違うらしい。
「そういや、恵どったの?」
「術師の治療を受けて爆睡中」
「へー」
「悠仁と蓮はこれから学長と面談あるから。下手したら入学拒否られるから頑張ってね」
「ええー!? そしたら俺、即死刑!?」
どうしよう文面何も考えてないよと焦る悠仁。しかし──
「なんだ、貴様が頭ではないのか」
──突如、呪いの声が聞こえた。
蓮はその声に聞き覚えがあった。最近聞いた声だ。新月のあの夜、虎杖悠仁が呪物を取り込んだ事で受肉した、両面宿儺の声だ。
右を見ると、悠仁の左頬に『二つ目の口』が浮かんでいる事が分かる。明らかに人体の構造を無視している。どうやら宿儺は、一部を悠仁の体に浮上させる事が出来るらしい。
「力以外の序列は詰まらん」
べちっ。と、羽虫を叩くように第二の口を叩く悠仁。
「ごめん先生。何かたまに出てくんだよね」
「ほー。愉快な体になったねえ」
「貴様には借りがあるからな」
しかしその手の甲の上から、にゅっと再び口を形成する宿儺。
「あっ、また!」
「小僧の体をモノにしたら、真っ先に殺してやる。その次はそこの癖毛の小僧だ。……いや、敢えてそこの小僧を前菜にするという手も──」
「オイ。あんま調子乗ってんじゃねえぞ、呪い」
低い声で殺意を込めて言いながら、今度は強めに甲を叩いた。興が冷めたのか、それ以降宿儺が悠仁の体に浮かび上がる事はなかった。
「……はあ、やっぱ呪いは呪いってワケ? もっとこう……ナルトの
「あっはは、無理無理。漫画やゲームじゃあるまいし。まあでも、良かったじゃない、蓮。宿儺に狙われるなんて光栄だね」
「すっごい嫌だ」
「だよな。ねー先生、コイツってそんなに有名な奴なの?」
「僕らの世界ではね。
──両面宿儺。本来は、顔が二つ、腕が四本ある仮想の鬼神。でも悠仁の中にいるのは実在した人間だよ。まあ千年以上前の話だけどね。
呪術全盛の平安時代、術師が総力を上げて宿儺に挑み、そして敗れた。両面宿儺の名を冠し、死後呪物として時代を渡る屍蝋……悠仁が取り込んだ指でさえも、僕らは消し去る事が出来なかった……」
──紛う事なき、呪いの王。それが両面宿儺という呪いだ。
「……先生とどっちが強い?」
「んー、全ての力を取り戻した宿儺なら、ちょーっとしんどいかな」
「負けちゃう?」
「まさか。勝つさ」
さて、三人は現在校門をさらに進み、奥の金堂のような寺院に入った。門が開かれ、
仄暗い。熱の匂いがする。現代には多様な文明の利器があるというのに、蝋燭で灯りを確保しているらしい。風情があるというか、古臭いというか。その最奥──雛壇に鎮座しつつ人形を作っている、蝶野◯洋が。
「遅いぞ悟。八分遅刻だ」
サングラスに褐色の肌。整えられた髭は口と顎を繋げている。ワイルドさをもはや隠そうともしていない。常に眉根を寄せており厳格そうなイメージを沸き立たせる。周りに丁寧に置かれた人形達──犬の口を持つカッパ、デフォルメされた節足動物に乗られる一眼の猫、ビキニ柄のパンダなどが、彼の異物感を引き立てている。
「全く……責めるほどでもない遅刻をする癖、治せと言っただろう」
「んじゃー責めないで下さいよ、学長。どーせ人形作ってんだから良いでしょ」
(オッサンがKAWAIIを作っている……!!)
(……ガッデムの人?)
悟と問答する蝶◯……もとい、夜蛾正道。彼こそが、呪術高専東京校の学長である。なぜ人形を作っているのかというと、それは彼の術式が、《呪骸》を作り、操る事に特化しているためだ。
呪骸。呪力を込めて作られた人形。内部には心臓の代わりとなる『核』が存在しており、術師の『操作』によるものではなく『自立』して行動できる存在だ。
夜蛾正道の術式は《
「……キミ達が?」
「オッス! 虎杖悠仁です! 好みのタイプはジェニファー・ローレンスっす! よろしくおなしゃす!」
「雨宮蓮です。カレーと珈琲と、あとキーピックが好きです」
「……何でキーピック?」
「冗談だ」
「毎度思うけど、冗談に聞こえねえ……」
「何しにきた」
夜蛾正道はぶっきらぼうに言い放った。依然として厳格な態度は崩さない。蓮は少しだけ警戒を取った。──強敵。強固なる壁の存在を、夜蛾正道から感じ取ったのだ。先に答えたのは悠仁だった。
「…………面談?」
「高専にだ」
「呪術を学びに……?」
「学んだ後の事を聞いている」
「あっ、そういう事ね。あの……宿儺の指、回収するんすよ。放っとくと危ないんで」
「
「──あ────え? 何故って……んんー??」
悟が言っていた面談……即ち、この質問に、彼が満足のいく答えを放てなければ、呪術師になる事はおろか入学すらも出来ない。門前払いを喰らってしまい、帰宅するか途方に暮れるかのどちらかの選択を迫られる事になるだろう。
「…………まずはこちらから聞くとしよう。
雨宮蓮。キミは何をしにここに来た?」
唐突に対象が転換され、少しだけ動揺した蓮。しかし直ぐに気を取り直し、口を開く。
──何を為しにきたかなど、決まっている。
「──悠仁の死刑を撤回させるために」
それを聞いた正道は、蓮に再び問いかけた。
「……家族で
「悠仁とは友達だ」
「関係は無い。家族や友人であっても、結局『他人は他人』だ。それに虎杖悠仁の死刑は確定事項……キミがどれほど頑張ろうと、この決定は揺るがない。彼が死ぬ事で、彼の中の呪いも祓除されるのだからね」
「だからといって、悠仁は死んで良い人間じゃない!」
「そうだな。未来ある若者に刑を下すのは、私だって心が痛むよ。
だが、彼がふとした拍子、宿儺に体を乗っ取られない確証がどこにある? 彼が呪霊側に寝返らないという保障がどこにある? その結果、何人の人が犠牲になる? 千人か? 一万人か? それとも一億二千万人か?」
そう言いつつ、正道はすくっと立ち上がり、サングラス越しに真っ直ぐに蓮を見た。
……夜蛾正道の言葉は正しい。
全体の命と個人の命。天秤が傾くのは明らかに前者の方だ。一人死んで大勢生きるか、一人の所為で大勢死ぬか……そのどちらかの選択であり、上層部は前者を選んだだけの事。実に合理的な判断だ。かつての███も、ペルソナに目覚める前であれば、マジョリティに合わせるようにそれに従っていただろう。
だが、今の雨宮蓮がそれに納得する事はない。
「……だから諦めろと?」
「そうではない。現実を見ろと言っているんだ。
キミは優しいな。それこそ友を守ろうとする姿勢は素晴らしいと思う。だがそれは、彼が『歩く核爆弾』で無かったらの話だ。核の危険性を説きながら、必死に核爆弾を擁護しているようなもの。矛盾しているんだよ、キミの在り方は。
呪術師に『悔いの無い死』など無い。このままではキミの親友を殺すか、それともキミが親友に殺されるかを選ばねばならんぞ。……両面宿儺を抑え、もしくは祓いつつ、虎杖悠仁も生かせられるのなら……その力や方法がキミの中にあって豪語するのなら、話は別だがね」
「──ある、と言ったら?」
夜蛾学長の眉が反応を示した。
──夜蛾正道の言葉は正しい。雨宮蓮の考えは、大衆からは到底受け入れられるようなものではないだろう。厄災を野放しにするのだ。何も知らぬ大衆からしたら迷惑極まりない。
だがそれでも、虎杖悠仁には生きていて欲しいのだ。
理不尽によって心を押し潰され、不条理によって心を壊された男がいたのを、雨宮蓮は良く知っている。だがその男は、地を這いずって泥水を啜ってでも前へ進み、立ち向かった。蓮は悠仁も、例え絶望の渦中に居たとしても、決して諦めて欲しくない。生き延びる事を諦めて欲しくないのだ。
「ほう。その根拠は?」
「……今は無理だ。今のオレの力では、悠仁を救う事は出来ない。だからこそ、
「……強欲だな。それはキミ一人でどうにかなるレベルではない。
両面宿儺はそこいらの呪いとは格が違う。呪術全盛期の時代でも彼奴を葬る事は出来なかった。彼奴に掛かった術師が全員敗北したのだぞ? キミ一人だけで勝てる道理は無い」
「分かっている。オレ一人の力なんて高が知れてる。けど──!」
「……分からんな。何故キミは、そこまで虎杖悠仁に固執する?」
正道が答えを遮って言った。
「悠仁は善人だ。善人が痛い目を見るなんて、そんなの因果応報に適っていない。
オレは不条理が大嫌いだ。罪を犯した者は裁かれるべきだし、善を成した者はその行いを報われるべきだと思ってる。悠仁だって報われるべきなんだ…………多分、自己満足なんだと思う。──けど、その自己満足で悠仁のような善人が救われるのなら、オレはいくらでもそれを為す。
……不可能だの何だの、こっちは聞き飽きてるんだよ」
雨宮蓮は、どこか壊れている。自身を勘定に入れず、他者を優先する傾向にある。脳内を自己犠牲で汚染されている。おそらく、蓮が前世でペルソナに目覚めた時から、それはもう始まっていたのだろう。一種の
だが、ジョーカーの在り方は変わらない。███の時も、雨宮蓮になろうとも、決して変わりはしないのだ。
「──オレは、オレの強欲を信じる。強欲が示すままに人を──悠仁を助ける。不可能なんて、いくらでも乗り越える。」
自分の信念に従い、愚かしく真っ直ぐに生きる。
それが、ジョーカーが選んだ道だ。
「…………虎杖悠仁、キミは?」
「あっ、えーと…………俺、爺ちゃん亡くしてんすよ。ここに来る前に。んで、爺ちゃんの遺言で、『人を助けろ』って言われて。そんで、じゃあ助けなきゃって思って…………でも、『違うな』って思ったんだ」
「ほう。というと?」
「何つーか……遺言に従う『だけ』になっちまうと、『俺』が居なくなっちまう気がした。ただ爺ちゃんに命令されて動いてるロボットになっちまう……って。いや、爺ちゃんは嫌いじゃねえし、爺ちゃんの言葉が間違ってるとは思えねえけど」
頭を掻きながら悠仁が言う。
「宿儺の指を回収するとか、大勢の人を助けるとか、そういうのは言われたからやるだけ。
勿論人は助けるし、宿儺は全部喰う。けど、蓮を守りたいってのは、ずっと前から思ってた事なんだ。見たらわかる通り、蓮って、結構向こう見ずで頑固なトコあるし。だから、爺ちゃんに言われるまでもなく──」
拳を握り締める。
泣くだけ泣いた。恥も晒した。
故に、虎杖悠仁は迷わない。
「──俺は俺の意思で、蓮の背中を守りたい。」
だがこれこそが、虎杖悠仁の行動理念であり、信念だ。
それだけで、戦う理由になる。
長生きするか、早死にするかも分からない、波瀾万丈なこの人生で。
それでも、生き様で後悔はしたくない。
「フッ──悟。寮へ案内してやれ。セキュリティ等の設備の説明も怠るなよ」
「ん? って事は……」
「──合格だ、雨宮蓮君、虎杖悠仁君。ようこそ、呪術高専へ」
21.
「──はい、ここが蓮の部屋ね」
「おお……広いな」
「悠仁はこっちね」
「はーい!」
そう言い渡され、案内された寮の部屋は、蓮の言う通りかなり広かった。一人どころか三人で寝泊まりは出来るほどの広さだ。ベッド、クローゼット、勉強机、そして何より冷暖房完備。一人部屋にしておくには勿体ない。キャリーバックを置いて、蓮はさっさと荷物を取り出して行く。衣服をクローゼットに、本を勉強机に。
「うおー、広い広い! これ俺の部屋!?」
「そう。二、三年は今出払ってるけど、まあ直ぐに会えると思うよ。人数少ないし」
直ぐ隣の悠仁と悟。ハイになった悠仁が、秘蔵のグラビアポスターを丁寧に貼り付けて行く。ボンキュッボンな北欧美女が、浜辺にて、その豊満な二つの果実を強調するようにして座っていた。
「……悠仁」
「んー?」
「改めて聞こうか。──覚悟は決まったかい?」
「──うん。何つーか、やりたい事がはっきりしたよ。
俺さ、蓮がいなかったら、俺はここで指の回収を待ってただけかもしれねー……って思うんだよね。……ぐーたらしてる俺に、ボロボロになりながら指届けにくる恵を想像すると、ちょっとウケるけど」
「あはは、確かに」
「でもさ、どーやって指探すの? そんなすぐ分かるモンなの?」
「気配が大き過ぎるモノ、息を潜めているモノ、既に呪霊に取り込まれたモノ……探すという点において、これほど厄介なモノはない。でも、キミの中の宿儺が教えてくれるはずだ」
「えー……コイツそんな素直に見えねーんだけど」
「ま、そこはWIN-WINの関係が築けるんじゃないかな」
そう言いながら、部屋や物品の整理が終了した。寮の割り当ての後、悟にはセキュリティや設備等の説明という使命が残されている。蓮を呼ぼうとした矢先、同じタイミングで
「うげ、隣かよ……」
──あからさまに嫌そうな顔をして現れる、寝間着姿の伏黒恵の姿があった。どうやら傷は癒えたらしい。
「おー! 恵、今度こそ元気そうだな!!」
「うるっさ。……何で隣なんです、先生。空室なんてもっと他にあったでしょう?」
「いやー、賑やかな方が良いと思ってネ!」
「授業と任務で充分です。ありがた迷惑だ」
「うおっ、恵の部屋、めっちゃしっかりしてら」
「へえ。オレも見たいな」
そう言いながら、悠仁と蓮が恵の部屋を何の躊躇いもなく覗いていく。悠仁の顔の下の隙間に蓮の顔がある。因みに部屋の割り当ては、寮の玄関から近い順に恵、蓮、悠仁の順となっている。シンプル・イズ・ベストな、何の変哲もない質素な部屋だった。
「だから迷惑だっつーのッ」
バシンと、悠仁と蓮がいるにも関わらずドアが勢いよく閉められる。悠仁は避けられなかったが、間一髪で蓮は回避に成功した。
「あいてっ」
「避けたっ」
「避けんな」
「あっはっは。仲が良さそうで実によろしい」
「先生の目も節穴なんですか?」
「そんな事より、明日は皆でお出かけだよ!」
皆のメガテン……もとい、目が点になる。
「えっ、どこ行くん先生?」
「四人目の一年生を迎えに行きます! 場所は──」
22.
翌日、午前十時過ぎ。
盛岡から品川行きの新幹線の中、駅弁を食べる少女が座っていた。桜色の唇、茶髪のショートヘアが、左から右へと額を流れる。年頃の娘らしい健康的な素肌。長いまつ毛が綺麗に揃った、若干垂れ目気味の相貌を持つ。
少女は盛岡の風景を肴にしつつ、梅干しを味わっている。身長こそ蓮達と比べて低めだが、かといってスタイルが悪い訳ではない。むしろ、発育の良いプロポーションと言えるだろう。その身には、伏黒恵が着ていたような呪術高専の制服を纏っていた。
「盛岡まで既に四時間……ようやくあのクソ田舎とオサラバね。
午後には東京か〜、……スカウトとかされたらどうしよう!? スタダとか!」
鉄骨のごとき精神を持つ田舎少女が東京の地を踏むまで、後──
コープ獲得:戦車(虎杖悠仁)
章ごとに情報が解放されていく形式の雨宮蓮の設定欲しい?
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オ…オタカラァ…!
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どうでもいい…