呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた 作:全てのイシを拾イシ者
「雨宮蓮。
元・杉沢第三高校一年生。両親及び祖先共に非術師の家系であり、術式が開花したのは突然変異によるものと思われる。術式は《
「何だこれはって、そのまんまの意味ですよ」
「説明が足りている訳が無いだろう! 乙骨とは訳が違うのだぞ!
「そうとしか書けないからそう書いてんですよ。私が直々に視たんですからね」
「彼奴との関連性も確認出来ていないというのに、ソレが偶然発現したというのかえ? その
「……ま、そこは何か分かったら報告しますよ」
「彼奴は
「そうなりますね。であればそのレベルの逸材を、みすみす手離す訳にもいかんでしょう。未来ある若者の教育は、先達としての役目ですので」
「お前のお気に入り、此度はどこまで持つであろうなぁ?」
「──私の教え子は、そう簡単に死ぬほどヤワではありませんよ。では、これで」
33.
<2018年6月21日>
「Automatic punching doll」
「ふあ〜〜〜……」
朝七時前。ヒヨドリがけたたましく歌っている。早朝の顔面洗浄を終えるも眠気は消えず、虎杖悠仁は、一つ大きな欠伸をした。朝食にしようと食堂に寄った悠仁のその目には、洗い損ねた
現在の時刻は午前六時半過ぎ。本日は教師陣の都合から、丸一日自習のカリキュラムとなっている。教師とは言っても呪術師であり、彼らにも任務がある。恵曰く、このような事は珍しい事ではないらしい。
特にやる事も無いので、悠仁は今日一日をどう過ごそうか迷っていた。ゴロゴロするも良し、仲間を誘って鍛錬するも良し、東京の街を何気なく観光するも良し。選り取り見取りであった。
「おろ。っはよー蓮。早起きなんて珍しいなー」
「……ああ。おはよう」
いつになく早起きし、先に到着していた雨宮蓮。当然ながら先述のコーヒーは蓮が直々に淹れた物だ。サイフォンと豆は実家から送ってもらったため、蓮は今日も朝からコーヒーをキメられる。悠仁に背中を向けて黙々と朝食を食べているが、しかしその言葉には覇気が無かったように思えた。普段のテノールに加え、どこか口籠もるような声だった事に、悠仁は違和感を覚えた。
「どったん蓮? 元気ねーな」
「今こっち見ないでくれ」
「お、おう……なんか深刻そうだな。アレか? ポリジュース薬飲んだけど、入れた髪の毛がペットの奴だったとか?」
「《ナメクジくらえ》された」
「うわー、めっちゃ嫌だわーそれ。……んで、本当はどうなんだよ?」
「……笑わないなら、見ても良い」
「笑わない笑わない。ってか何見せてくれんの?」
出入口からは蓮の表情が
「──ブッ、ぶっひゃっひゃっははははは!! 何その顔、顔面湿布まみれじゃん!!」
「笑わないって言ったのに……」
「ふ、はは、ごめんムリ、腹痛いっ、はははははは!」
彼は雨宮蓮である……はずだ。しかしその顔面にびっしりと貼られた湿布が、蓮の顔面を六割程度覆っていた。目下の隈も酷い。おそらく痛み故に眠れなかったのだろう。魅力が《魔性の男》から《人並み》を通り越して《無い》にまで降格してしまっていた。
「はー笑った。んで、誰にやられたん?」
「人形」
悠仁はポカンとなった。蓮の口から人形というワードが出てくるとは思わなかったのだ。
「………………はい? 人形? 何で?」
「呪術の……ふぁ〜……訓練だよ」
欠伸しながらそう言ったのは恵だ。寝間着がほぼ黒一色で統一されているのは、彼の術式故か、はたまた無意識故か。寝癖によって彼の頭髪のウニ具合に更に拍車がかかっている。やはりというか何というか、恵も蓮の顔を見て吹き出すのだった。
「くくっ、雨宮……何だその顔……」
「恵も頭凄いぞ」
腹いせに言ってやった蓮。しかし効果は今一つのようだ。一応蓮の方向へ顔は向けていないが、笑う素振りを隠すつもりはないらしい。腹を抱えてツボに嵌っている。
「お前よりは…………っくは、ダメだ、可笑しすぎる……!」
「こんな笑ってる恵俺初めて見た」
「くっ、一体オレが何をしたと……」
「いやお前めっちゃうにうに言ってんじゃん」
「虎杖の言う通り、日頃の行い……ふっ、って奴だよ」
「それよかさ、何で呪術の訓練に人形が関係して来んの?」
「それは──」
昨日の記憶を、蓮はゆっくりと紐解いていく──。
32.
<2018年6月20日>
「Reversal technique」
「──────ぐぅっ」
勢いよく弾き飛ばされ、稽古場の床を転がり伏す。右手に握っていた木刀も手離してしまった。息は絶え絶え、服は汗塗れでみっともない。体の所々が激しく痛み立ち上がれない。昨日の蓮からは想像出来ないほど無様だった。
「はい、本日の稽古終了」
「っはあッ……はあ、ぃっつ……」
容赦の無い応撃。契約通り、悟に稽古をつけてもらったがこの様だ。術式無しの単純な組手で、稽古中ずっと
「筋がいいね、蓮。僕ちょっとだけ本気出しちゃった」
(汗一滴も垂らしていないクセによく言う……)
「いや〜それにしても驚いたよ。まさかキミに、反転術式の才能があったなんてね。それも術式目醒めたばかりのペーペーが。ちょっと嫉妬しちゃうな」
「……反転、術式……って、何だ。野薔薇も、言ってたけど。術式を、反転して……っ、はあっ、何がしたいんだ」
「まずは深呼吸。落ち着きなよ、蓮。
蓮、キミはちょっと勘違いしてる。反転術式は、名前の通りの意味じゃないんだ。そうだね……まずは呪術師にとって欠かせない要素である『呪力』から説明しようか」
悟も
「呪力ってのは、負の感情……妬み、嫉み、怒り、悲しみ……そう言った感情から生まれるエネルギー。僕らはそれを、小さな感情の火種から捻出し、術式に流し込む事で呪術を使う。《反転術式》も、元を辿れば呪力だ。
さて蓮、ここで簡単な問題だ。『1×(-1)』は何?」
「……-1」
「正解。じゃあ『(-1)×(-1)』は?」
「1。……なぜ今数学を?」
「まあ聞きなよ。
呪力ってのはね、攻撃する事にしか適さない『マイナスのエネルギー』なんだ。ストレスが原因で胃
「確かに、聞いた事はある」
「でも、負の力である呪力同士を掛け合わせる事で、呪力は『プラスのエネルギー』へと昇華する。さっき数学の問題を出したのは、呪力を(-1)みたいな、負の数式として考えやすいようにするための例さ。
そして正の力に昇華した呪力は、
「……なるほど、そういう事か」
「蓮が言ってたのは、《術式反転》。プラスのエネルギーである《反転術式》で術式を行使する事だね。使えるかどうかは本人の才能や術式の相性にもよるけど」
「紛らわしい名前だ。それで、《術式反転》を行うとどうなるんだ?」
「んー、これはやって見せた方が早いか」
「……?」
そう言って悟は、左手の人差し指を天井に向けた。五条悟の術式《
ここに一匹ずつアキレスと亀がいるとする。アキレスの出発点を原点0とし、アキレスと亀の距離は100メートルで、アキレスは分速10メートル、亀は分速1メートル前に進むとする。
アキレスが10分進めば100メートル進んだ事になり、同時に亀は10メートル進んだ事になる。更に一分進めば、アキレスは原点に対し110メートル地点に進んだ事になり、亀は111メートル地点に進んだ事になる。そこから一秒進めばアキレスは110・166666……、亀は111・0166666……と、これを繰り返す事で、アキレスは永遠に亀に追いつけないという逆説だ。
実際にはアキレスは亀を追い抜き、この逆説は立証出来ないが、これを現実に昇華できるのが、《無下限呪術》という術式なのだ。そしてこのパラドックスを自身の呪力で更に強化する事で、このアキレスと亀の距離をより薄く縮め──最終的に『0』を通り越して、《収束》の力を発動する事が出来る。
右手の人差し指に生まれた虚空、《収束》の局地、深海のように、どこまでも吸い込まれそうになるブラックホール。それが──
「術式順転【
今度は悟は、サングラスを外してネックに引っ掛け、右手の人差し指を天井に向けた。それは太陽よりも赫く──残酷なほどに綺麗な虚空だった。
「──術式反転【
「…………赤い方は、強力になってたりとか……いや、《反転術式》を術式に流し込んだという事は、術式の効果も変わっているのか?」
「正解。尤も、強力なのは間違いじゃないよ。だって僕『最強』だし」
「答えになってない」
「まあ冗談は置いといて……あ、触れると危ないからこれはもう消すね。最悪死ぬし」
「そんなものを易々と目の前に出さないでくれ」
悟が術式を解き、二つの虚空は霧散した。サングラスを掛けて再び口を開く。
「まとめると、術式反転を行うと、術式の効果も反転する。……まあ僕以外でしてる人見た事ないけど」
「したくても出来ないか、した所で意味がないのどちらかか」
「そもそも《反転術式》を使えるのが、ほんっとーに才能のある人だけだしね。
「そうなのか?」
「そうさ。僕以外に出来る人もいるっちゃいるけど、術師の中でもほんの一握りだしね。使える人に聞いても何のこっちゃだから、余計に時間かかったよ。だからこそ、キミのその才能は貴重だ。本来なら
「しない」
「だよね。まあでも、まずは呪力コントロールから鍛えようか」
「……鍛えられるのか? どうやって?」
「フッフッフ……
ペーっぺペーっぺてれれ〜と、若干間違えている音痴な効果音を口ずさみながら取り出したのは、ボクシンググローブを装着した黒い熊の人形だった。鼻提灯が膨張と収縮を繰り返している。およそこれを作成したのは悟ではないというのに、なぜ効果音をドラえもんではなくキテレツ大百科にしたのかを、蓮は小一時間ほど問い詰めたくなった。
「夜蛾学長から掻っぱら……もとい借りてきた、
「名前があるのか。名付け親は?」
「学長だよ。はい、コレ持って」
「ネーミングセンスどうなってるんだ学長」
ここまで来ると逆に可愛く思えてくる。言われるがままに手渡され、人形の暖かく柔らかい生地が蓮の掌に満たされていく。……それだけだった。耳を触ったり、強く揉んでみたりするも、一向に何かが起きる気配は無い。
「…………オレにどうしろと」
「焦らないの。
「そろそろ? 何が始まるんだ?」
「大惨事さ」
──悟がそう口にした瞬間、蓮は左頬に強烈な痛みを感じ、身体と思考が共に吹き飛んだ。
「んぶぅおっっ!?」
何が起こったのか、蓮は数秒間理解出来なかった。しかしフロントダブルバイセップスを決める人形の姿を見てようやく分かった。──殴られたのだ、この人形──
「ブフっ、あっはっはっはっは! んぶぅおって、何ソレ初めて聞いたよっははははは!」
「……あ、顎、歯がァっ……!」
「大丈夫大丈夫。鼻血出てるし、ほっぺた腫れてるけど」
《魔性の男》とは呼べないが、それでも蓮の魅力は《カリスマ》を維持していた。
「いった……ピクシー、《ディア》」
「はいはぁい」
一瞬だけ怪盗服に変身し、先日再契約したピクシーを呼び出し治癒させる。彼の男前は《魔性の男》並に戻ったようで、出血や腫れも収まった。その一連の流れを、悟はじっと観察していた。
(本当に反転術式を使えるのか……ますます彼の存在が謎だ。その術式も、彼自身の才能も、ペルソナの種類も……本当に、
かつての青春を思い出す悟。少しだけ、その懐かしさに目を細めた。かつて悟が高専生だった頃の同級生……悟が気を許せる数少ない親友だった男に、あまりにも良く似ているのだ。
「何で殴ってくるんだよこの人形は……!」
「だって呪骸って呪力が込められた人形だよ? 動かないワケないじゃん。ちなみにその呪骸は、一定量呪力を流し込んでいないと、手にしてる人をブン殴るようにプログラムされてるんだ」
「先に言えっ!」
「てへぺろりんちょ☆ んまあそれは置いといて、蓮は映画観ながらソイツに《反転術式》を流し込み続ける事。必要量も徐々に上がっていくからね」
「…………なぜ映画?」
「いついかなる状況下、いかなる感情下でも、呪力出力を一定に保つため。そのシチュエーションを作るには、映画鑑賞が一番容易いからね。
必要分以上の呪力を練っちゃえば無駄が生まれる。無駄の繰り返しを許容するのは、最高のパフォーマンスとは言えないでしょ。そーゆー無駄を徹底的に削るためだよ」
「アニメでも良いか? 見たいアニメがあるんだ」
「別に映像なら何でも良いよ〜」
手をひらひらさせて悟が言う。
なお、以下丸括弧内の全容を悠仁と恵、野薔薇に聞かせていないものとして進める。
(──その直後、雰囲気が変わったのを蓮は感じた。まるで尋問するかのように、悟の雰囲気が、普段とは違う厳格なものに変容したのだ。少しだけ蓮は警戒する。
「蓮。キミのペルソナは、結局のところ『何』なのかな?」
「学生証作る時にも言ったが、オレの反逆の精神が具現化したものだ。……どうかしたのか?」
「いや、キミの術式はまるで見た事も聞いた事もなくてね。反逆の精神が具現化するとなぜそんな形になるのか、どこから他のペルソナを連れてきたのか、他のペルソナを何体まで溜め込む事が可能なのか……疑問は尽きないよ」
「へえ……そんなに珍しいのか、オレの術式は」
「珍しいっていうか、その力の大きさが理に適ってないんだよ。術式自体には特に問題は無いけど、アルセーヌ……だったかな。アレは今のキミには過ぎた力だ。それに対し先程召喚したピクシーは、今の君でも難なく扱える……まあつまり、キミの今の実力に対して、アルセーヌという存在が異質なんだよ。アレ、普通に特級呪霊として登録されてても何らおかしくないし、それをキミが『最初から』溜め込んでいる事も気掛かりだ。
戦い方も妙だ。さっきの稽古で木刀を併用した徒手空拳やってたけど、言っちゃ悪いけど全然なってない。……のにも関わらず、僕に対し良い線行ってるとなると、『君流の徒手空拳を確立している』という事に他ならないんだよね。悠仁曰く、運動は出来ても喧嘩はした事がないキミがだよ?
これらの点を踏まえて、質問を変えようか──
……呪術師最強と名高いだけあって、どうやら悟は勘が鋭いらしい。その考察力と洞察力に蓮は少し恐怖を──気色悪さを感じた。その様は、まるでかつての好敵手を思い出させた。ギリギリで顔には出さなかったのは、前世で不本意とはいえポーカーフェイスが鍛えられたからだろうか。
蓮は自身の前世を話す事に、なんら抵抗感は持ち合わせていない。しかし自身の秘密を他人に易々と話せる程、その口は軽くはない。前髪をいじりながら、冗談と嘘をカクテルして返答する。
「前世で俺TUEEEでもしていたんじゃないか? この術式は前世の名残とかだろう。当時の記憶は全く無いが、五条先生の話を聞く限り、そうでなければ説明がつかない」
「えー、僕異世界転生チートハーレム系は苦手なんだけど」
「アンタがそれ言うのか?」
「僕異世界転生ハーレムじゃないもん! チートだけど」
悟も冗談を交えて話す。どうやら尋問は終わったようで、悟は再びへらへらとして蓮に語りかける。)
「ま、とりあえず今日から頑張ってみてね。寮の共有スペースにあるテレビ、自由に使っていいから」
「わかった」
「何本か映画用意してるけど、どうする? どれから観たい?」
「アベンジャーズを所望する」
「メタルマンならあるよ!」
「クソ映画じゃないか」
果たして自分が『最強』に至るまで、一体どれほどの時間を要するのだろうか。蓮はそう思いながら、悟とより絆が深まった事を確認した。
34.
<2018年6月21日>
「──んで、律儀にメタルマン観ながら呪骸にブン殴られ続けた結果、見終わる頃には呪力切れを起こしており反転術式も使えないまま今日に至る、と。薄々感づいちゃいたが、お前アホな所あるだろ」
「返す言葉もございません……ああくそ、ピクシー」
「とおっ」
こんな時こそ毎度お馴染み、ピクシーの出番だ。翠色の治癒の奔流が、蓮の顔面を覆っていく。その横で恵は目を見開いていた。
「……本当に使えるんだな」
「オレからしたらその下り二回目だぞ」
正確には悟も疑っているので三回目だ。読者もその反応は飽き飽きしている事だろう。天丼は二回まで。
「んで、蓮は今日何観んの?」
「悠仁に勧められたやつ」
「おっ、アレね! 俺も一緒に観ていい? 勧めたは良いけどさ、俺も観た事ねーんだよな」
「もちろん。……それなのに勧めたのか」
「朝っぱらから何のはなひよ……」
と、そこに乱入してきたのは釘崎野薔薇だった。パジャマ姿の野薔薇は、目を擦りながら三人に問うた。笑顔で挨拶を交わし悠仁が答える。
「おっ、野薔薇。はよー」
「ん。んで、何の話?」
「皆でアニメ観ようぜって話」
「いや、俺を巻き込むな」
「いーじゃんいーじゃん、親睦深めようぜ恵!」
「何観んの? 私コーラ無いなら観ないけど」
「だいじょーぶ。俺自分用に2リットルのヤツ買ってんだ」
「未開封?」
「開けてないやつあるよ」
「……んで、結局何見るんだよ、雨宮」
「こ・れ・だ」
「ワン・トゥー・スリー!」
「ベストハウスじゃねーか」
35.
『詰みだ。さっきのは割と驚かされたぜ、坊主。
しかし解らねえな。腕は悪かねえのに魔術はからっきしと来た。筋は悪くねえのによ……もしかしたら、お前が七人目だったのかもな。
まあ何にせよ、これで終いなんだが』
『──────
俺は助けられたんだ……助けられたからには、簡単には死ねない……。俺は生きて義務を果たさなければならないのに、死んでは義務が果たせない……。
──殺されてたまるか……! こんな所で意味も無く……平気で人を殺すような、お前みたいな奴に──!!』
『な──七人目のサーヴァント、だと!?』
『──問おう。貴方が、私のマスターか』
「うおおおおおお、かっけえええええ!!」
「うるっさいのよ今良いとこでしょうが!!」
「ごいっ!?」
「コイツらうるさ……」
別作品だと思ったそこの君。案ずるな、P5×呪術廻戦だ。
男子寮舎の大広間。悠仁、野薔薇、蓮、恵の順に、四人がテレビを凝視している。上映中だというのに大声を出してしまった悠仁は、その制裁を隣席の野薔薇に受ける事になった。主にグーパンでドタマに一発。「いひぃ〜ん」と泣きながらギャグ漫画でよく見るような肥大化したたん
「……しかし、何だ。このアニメ、めちゃくちゃ動くな」
「すげーかっけーよな! 特にあの『アーチャー』ってやつの剣捌き、めっちゃ凄かった!」
「『凄い』だけじゃ伝わらねーよ虎杖」
「こう……なんか、ズバーンバシューンガキーンって感じ!」
「尚更分かんねーよ」
だが確かに、悠仁の言い分も分からなくはなかった。
前話……少々奇妙だが『0話』に当たる回にて、一同は驚愕に目を見開き、そして離せなくなった。演出、設定、バックグラウンドミュージック、キャラクター……上記事項も確かに魅力的だ。これらでも四人を魅了するには事足りる。では、その最たる理由とは何かと問われれば──戦闘描写だった。
それを『戦闘』という生優しい言葉では、蓮は表現出来なかった。
──『戦争』。たった二人きりの剣戟は、その域に達していた。『アーチャー』の双剣と、青い外套の男の朱槍。何者をも寄せ付けぬ殺陣は、一瞬で四人をその世界に引き込んだ。このクオリティで当時週一で放送されていたのだとしたら、製作関係者の愛は凄まじいを通り越しもはや狂気の域だ。蓮も知らず知らずのうちに、ツカモト(呪骸)を握る力が強まり──一発ブン殴られていたのだった。反転術式で回復はしたものの、不貞腐れている様子を隠そうともしていない。
「ねー蓮。アンタ、アニメとか漫画とかから戦い方学んだって言ってたわよね? こーゆー奴からも何か学べた?」
「そうだな。特に『アーチャー』の動きは参考になる。……再現出来るかはともかくとして」
「私にゃムリ〜。設定聞いてたから
「学校の四階の窓まで跳躍出来るし、《屠坐魔》もあるし、案外行けそうだな」
「あっ、それだったらさ、蓮の《剛巌》貸してくれよ! ちょうどコートもあるし、『アーチャー』スタイル出来んじゃね?!」
「制服の上にコートは流石にダサいんじゃないか……?」
「んじゃ全部貸してよ」
「オレにすっぽんぽんになれと? PTAに存在を抹消されるぞ」
「蓮はPTAを秘密警察と同一視してんの?」
「つーか『ランサー』役は誰がやんだよ」
「うーん………………恵かなぁ?」
「何でだよ」
「何となく。けどさ、何か似合いそうじゃね? 槍までは行かないにしろ、薙刀とかさ」
「あー、分かる。無駄にクルクル振り回してそうなイメージあるわ」
「お前らの俺に対する印象どうなってんだ」
「それよりほら、まだ続いてる」
「あれ、これも40分くらいあるのね」
「初回サービスとかかな?」
『これより我が剣は貴方と共に有り、貴方の運命は私と共に有る。ここに、契約は完了した』
『け、契約って何の!? ッ…………!』
『フ──────!』
『てえッ────!』
「えっ……え、何、今の?」
「こりゃ……凄い、つーかエグいな。何だこりゃ、規格外過ぎんだろ……」
「悠仁、何合打ち合わせたか分かったか?」
「『セイバー』って奴が最後に突撃したのを含めなければ……十八……いや、十九かなぁ……?」
「──ちょっと待って。完全に体感だけど……今の、
『……………………』
「……再現出来そうっつったの、アレ撤回するわ」
「ともかく、参考にはしよう……」
「関係ないけどさ、『ランサー』の槍のコンッて音好き」
『わかる』
最終話まで今日一日を四人で過ごした……。
ちなみに合計被弾回数は九回。三話ごとに一回は殴られている計算になるが、尤も殴られていたのは序盤だけで、後半になってからその頻度は激減、遂には無くなった。
36.
〈2018年6月24日〉
「Ren's Special Leblanc Curry」
灼熱の蒼炎、鍋底を炙る。グツグツ、コトコト。スパイスの海を野菜と肉が泳いでいる。レヱドルがルウを掻き混ぜるたびに、鍋から芳醇な香りが湧き上がる。既に客達は、香りだけで胃袋を鷲掴まれていた。
客達は、もはや食べずとも理解できていた。現在進行形で、シェフが手掛けているカレヱは、素晴らしい物に違いないと。
生物でも人のみが持つ、食を楽しむという感覚。それを刺激するシェフの名は、雨宮蓮。肌色の長袖Tシャツに自前の緑色のエプロンが良く似合っている。
そんな蓮に食堂にて視線を送る者が三人。虎杖悠仁、釘崎野薔薇、伏黒恵である。うち二名は今か今かと待ち遠しくしている様子だ。普段は仏頂面の恵も、今日はどこかそわそわしている。
──そう、お楽しみの時間である。激闘の日々を送る彼らにとって癒しの時間帯。即ち食事である。特に蓮の幼馴染であり、蓮の手料理の質を、カレーの味を知っている悠仁は、他の二人よりもワクワクしていた。
蓮は料理が上手い。どれくらい上手いかと言うと、蓮が料理を担当する日は家族がどれだけ仕事が忙しくても辛くても絶対に食べに帰るほどだ。
というのも、生前の主夫兼喫茶店のマスターとしての経験があるためだ。そんじょそこらの学生とは年季が違う(蓮自身は少し狡いよなと思っていたりするのだが)。
独自にレシピを組み料理を編み出すこともあったが、しかし彼はカレーだけは、彼の料理の師であり義父でもある男の教えを忠実に守っていた。時々アレンジするのだが、これが中々上手くいかない。
東京の四軒茶屋に居候した時、朝っぱらから出されたカレーとコーヒーがとても美味かったのを、転生した今でも覚えている。人生に絶望していた最中、義父から貰ったあの料理は、少し塩気が多い気がしたが、今まで食った物の中で一番美味かった。その美味さを伝授してもらい、受け継いでからも守り続けた。
故にカレーとコーヒーなら、蓮は誰にも負けない自信がある。そして負けたくないという矜持もある。故にこの二つにおいて、蓮は妥協を許さない。
「うん、美味い」
小皿に少しルウを移し、味見する。まろやかさとコク、舌を刺激するスパイスと、仄かな甘みの先にある旨み、そしてこの懐かしさ……どうやら義父の味を再現出来ているようで、安堵と美味さに自然と口角が上がっていく。
──事の始まりは、主夫時代の名残りで何気なく業務用スーパーに寄った事が発端だ。お得用の新じゃが900グラムが、幸運なことになんと30%オフで300円だったのだ。新じゃがの旬は春先から初夏にかけてなので、丁度この時期が食べ頃というわけだ。蓮の主夫としての勘が叫び、手に取らざるを得なかった。
しかしいざ買うとなった時、900グラムのじゃがいもをどう調理しようかと悩んだ。金銭的余裕は……任務の稼ぎを考えれば、あるにはあるが、ほとんどがペルソナの強化等に費やされていくのだ。無駄遣いは出来ないし、後先考えずに購入すれば財布事情が悲しいことになってしまう。それだけは何としても避けたい。
──メメントスに入れたら、荒稼ぎできるのになあ……。
と、過去の思い出に浸りながら、蓮は献立を考えていた。グラタンにしようか、しかし最近サイゼリヤで食べたばかりだし、新鮮味が欲しい所だ。ジャーマンポテトにしようか、ならば水気の無さを他の料理でどうにかしなければ……しかし財布が……と、悩みに悩んだ末に、蓮はふと閃いた。
──そうだ。久しぶりにカレーにしよう。単品で済むし、最近食べてなかったし、何より美味い。幸い、買い置きしていた玉ねぎは高専の寮にて干されている。あとは牛肉と、この際だから、スパイスもいくつか買っていこう──そして、今に至る。
「んはぁ〜っ、めっちゃ良い匂い〜!」
「だろ! 言ったろ! 蓮のカレーは世界一だって!」
「すぐに注ぐから待ってろ」
『やったーっ!』
「子供かよ……」
「恵の分は私が貰っても良いわよね?」
「何でだよ! 俺だって食うっつーの!」
「喧嘩しない。ほら、出来たよ」
コトンと音を立てて、客達のカレーの入った丸皿が眼前に置かれた。
白い湯気。ルウに寝転がる野菜と肉。煌めく白米の一粒一粒が眩しい。唾液は留まる所を知らず、胃袋は空腹に音を上げている。
『いっただっきまーす!』
「……いただきます」
「──うまっ!? 何コレうっっまっ!!?」
「……確かに、美味い。今まで食った中で一番……」
「…………んむ……もぐ……もっ、むぐ」
「あっ、ちょっ悠仁! テメェ抜け駆けしてんじゃないわよ! んむんむ……!」
「そんなに急がなくても無くなんねーだろ。んむ」
「ばーろー恵、これは
「腹減ってるのにか?」
「腹減ってるからこそなの!」
「いや〜にしても美味いね! 僕甘党なんだけど結構いけるよコレ。何入れたの?」
「
説明しよう!
リンゴはカレーの隠し味として良く知られているぞ! 適量を加えれば味に甘味が加わり、まろやかな味わいになるぞ!
磨りおろしたリンゴには繊維質が含まれており、一緒に煮込む事で甘さとまろやかさが増し、マイルドな仕上がりになるぞ!
「なるほどね〜。だから僕でも食べられるんだね」
「蓮! おかわりしていい!? つーかするね!」
「まだあるから、慌てるなって」
「あれ、恵あんま減ってないわね。食欲無いの?」
「いや、むしろ食欲はいつになく良い」
「ゆっくり味わってるって訳ね」
「いやこれ二杯目」
「早過ぎんだろ!?」
「なんだかんだ言ってアンタも食べたいんじゃないのよ!」
「僕もおかわりしよ〜っと」
「私も!」
「オレも食べるかな……」
木製の食器棚から蓮用の皿を取り出し、炊飯器のジャーから米を注ぐ──そして冷蔵庫にて保存していた、密かに買っておいたミックスチーズをパラパラと振り撒き、その上にルーを掛ける。簡易的なチーズカレーの完成だ。五つある席の最後の一席にスプーンと共に置き、水をコップに注ぎ、スマホを取り出して──
「もしもし
「いやいやいやちょっと待ってよ蓮! 僕カレー食べてただけだよね!?」
いつの間にか鎮座していた
「はーあっぶな。キミってば行動力の化身って渾名あるでしょ」
「一声かけてくれたらこんな真似しなくて済むんだが」
「めんごめんご☆」
(今度マジで通報しよう)
「ねー蓮、いい加減カレーのレシピおせーてよー」
「味を盗め」
「怪盗なだけに?」
「分かってるじゃないか」
ハイタッチを交わす蓮と悠仁。食事中に行儀の悪い事をするのはダメ、絶対。
「てかふと思ったんだけど、恵って私らを下の名前で呼ばないわよね」
「あー、確かに。言われてみりゃそうだな」
「お前らがフレンドリー過ぎるだけだろ」
「呼んでみてもいいのよ〜、特別に許したげる」
「釘崎、英雄王が
「頑固だなぁ恵は。呼び方変わるだけだぜ?」
「そこら辺お前らがルーズなだけだ。ほら、食い終わったんなら皿渡せよ。洗ってやる。一飯の恩ってやつだ」
「おっ、気が利くぅ! 僕のもお願いね!」
「
「え……僕の生徒が冷たい……」
結局、洗わされる悟であった。
無下限呪術って何なんだよ
章ごとに情報が解放されていく形式の雨宮蓮の設定欲しい?
-
オ…オタカラァ…!
-
どうでもいい…