【R‐typeFinalⅡ】シャインスター~桜乃そらの不幸な前日譚~   作:一条和馬

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【登場人物】

・桜乃そら:シャインスター大隊の副長に選ばれたボイスロイド。

・紲星あかり:シャインスター大隊の大隊長。元人間のボイスロイド。

・ケーン:シャインスター大隊七小隊長の男性。人間。

・東北ずん子:ヨルムンガンド補給艦の艦長であるボイスロイド。

・ミリアル:TEAM R‐TYPEに所属する人間の女性。

・ドクターY:TEAM R‐TYPEに所属するボイスロイド。



第一話【誕情ータンジョウー】

 地球衛星軌道上付近に、突如バイドの群れが転移してきた。

 

 木星への直距離ワープの準備をしていた私達第三地球防衛艦隊は作業を中断し、これを迎撃する為に部隊を展開。私も宙へと飛んだ。

 

 

『いくぞお前達! 男を見せろ!!』

『了解!』

 

 地球を横目に、友軍のR‐9A4【ウェーヴマスター】が解き放たれた矢の様に一直線に宇宙を切り裂き飛んでいく。私はR‐9DH3【コンサートマスター】のコックピットからその光景を眺めていた。隣にはもう一機のコンサートマスターが並んでおり、機体上部にペイントされた星のマークが輝いているように見えた。

 

『どうした副長?』

「大隊長……私は性別的には女性なので男は見せられませんが」

『はっはっは! そんな軽口を叩けるなら大丈夫だな!』

 

 豪快に笑い飛ばす“少女”の声はそう言っていたが、実際は頬に汗が垂れる程に緊張していた。しかしヘルメットを脱いで拭く余裕もない。

 

 私は“作られた兵士”だと言うのに、何故創造者はこんな面倒な機能を装備したのだろう? オリジナルはそうだったと言われそうだが、オミットするのがそれ程までに面倒だったのだろうか?

 

「今は考えても仕方ないですね…! シャインスター02、続きます!」

 

   ●

 

 私は桜乃そら。

 

火星の衛星軌道上に存在する地球連合軍の研究施設“人工知能研究所”で開発された“ボイスロイドⅡ型”という一種のアンドロイドらしい。いや、女性モデルだからガイノイドの方が正しいか。

 

 

『……失敗作だな』

 

 

 “私”が最初に目を覚ましたのは、冷たい液体が満ちる培養槽の中だった。黒く長い髪の女性がそう吐き捨てていたのは鮮明に覚えている。

 

『戦闘スキルのラーニングは完了していますが?』

『キミキミ……これは“人格移植用の実験体”だよ? 一番大事な部分を綺麗さっぱり忘れておいて何が成功なのかね?』

『そ、そもそも“あの例”は事故から起きたようなもので再現性は難しく……』

『一度成功したという事はつまり、試せばいつかできる訳だよ。まさか君は研究者の端くれでありながら一度や二度の失敗で諦めるのかね?』

 

 黒髪の女性の横にいた白衣の男性が何度も頭を下げていた。チラチラとこちらに視線を向けていた男性だが、その眼の色は同情や正義というより、欲情した獣のそれに近い。

 

『ハッ……! 研究的には失敗作とは言え、“人形”としての使い道はあると言う訳か!玩具を壊されたくないなら最初からそう言いなさい。どうせ廃棄予定なんだし、好きにすればいい』

 

 

 直後、培養槽のガラスが持ち上がり、私は床へと流された。

 

「う……あ、う……」

 

 身体に力が入らず、声も出せなかった。培養液よりもずっと冷たい床が全身の熱をどんどんと吸い上げていくのが分かる。

 

 

「ケッ……TEAM R‐TYPEの権化みたいな女め……。こちとら何ヵ月も研究室に閉じ込められて出すモンも出せてねぇんだよ……!」

 

 

 男がこちらに迫ってきていた。首も動かせない私は必死に目だけを動かして観察するが、上から白衣を被せられて視界は閉ざされた。何ヵ月も研究室に閉じ込めらていた、というのは比喩ではないらしく、鼻孔を直接殴るような刺激臭が全身を強張らせる。

 

 

「……よく考えりゃ、穴に突っ込むだけならわざわざ培養液拭き取る必要もないか。溶かしたタンパク質みたいなものだしな」

 

 耐え難い激臭から逃れるべく必死になると、ようやく身体が動き始めてくれた。

 

 

「うっ……ああっ……」

「おっと」

 

 

せめて白衣を引き剥がしたかったが、それを成す前に男に掴まり、引き摺られる。まるで皮と骨だけで構成されているような腕が足首を包んでいるのが分かったが、培養液を潤滑油にして私はどんどん男の元へと手繰り寄せられていった。

 

 

「どっ、どうせ捨てるんなら、壊しても問題ないよな……ッ!」

 

 

 私に、というより自分に言い聞かせるように早口で呟いた男は白衣を剥ぎ取り、そのまま私に覆い被さったーー

 

 

   ●

 

 

「……う、うん……?」

「おぅ、目ェ覚めたか」

 

 次に意識が戻った時、私はベッドの上に寝かされていた。上体を起こす……驚くことに、先程まで首を動かすことすら出来なかった私の体はすんなりと言うことを聞いてくれた。

 

 

「なんともない……?」

「大丈夫……そうだな」

 

 

 そこで初めて横に人がいる事に気が付いた私が視線を向けると、パイプ椅子の上にがに股で座る、一人の少女の姿があった。パイロット用のジャケットを上から羽織っているが、サイズが合っていないのか袖を折っている。それのせいなのか、はたまた童顔の割には豊満なバストを持っていたからか“アンバランス”を絵に描いたような人物だった。

 

 

「研究室の前に全裸で倒れてたのをわざわざ俺が運んでやったんだ。無重力様々だったぜ……」

 

 

年は10代半ばといった所だろうが、どうも一挙一動が男臭い印象のある少女だった。

 

 

「んで、答えたくないなら別に良いが、あそこで何をしてた?」

「……分かりません。培養槽から取り出されて、白衣の人に襲われたところまでは覚えてるのですが」

「……そういうのを“答えたくない事”だと思うんだが……」

「その人はどこにいますか?」

「俺が研究室を見たときは誰もいなかったが……憲兵に被害届でも出すか? その、受理されるかは分からんが……」

「いえ、衣類から嫌悪するレベルの刺激臭が漂っていたので、洗濯を薦めようかと」

「……君が個性的な感性を持ち合わせている事はわかった」

 

 

 そう言った少女はこめかみを押さえながら「これが“ボイスロイド”の……いや、最近の若者の思考なのか……?」と呟いていた。

 

 

「……そういえば自己紹介がまだだったな。俺はこの第三地球防衛艦隊のR戦闘機部隊“シャインスター大隊”の隊長をやっている“少佐”だ」

「……ショウサという苗字なのですか? 珍しいですね」

「いや……名前は別にあるのだが、ちょっと事情があってな。“呼ばれ慣れて”いないんだ。だから階級の少佐か、大隊長と皆は呼んでいる」

「なるほど。……改めまして初めまして大隊長さん。私は人工知能研究所で制作されましたボイスロイドⅡ型の“失敗作”です」

「……自分がボイスロイドだと自覚しているのは珍しくないが、失敗作を自称するのは初めて見たな」

「私の事をそう呼ぶ研究者がいました」

「連中に人道はないからな。ただ、俺は君の事を失敗作とは呼べん。出来れば名前を教えてほしいのだが……」

「桜乃そら、です」

「ハルノソラか。そっちの方が断然呼びやすい。じゃあ、桜乃。俺は艦長に報告する為に一度離れるが、それまではこの医務室でゆっくりしているといい」

「艦長……という事はここは軍艦の中なのですか?」

「軍艦というにはお粗末な旧式の輸送艦だがね」

「ふむ……」

 

 

 その話を聞き、私は思案した。研究施設であれば一度“失敗作”認定された私の末路は決まっているだろう。

だがしかし、ここが軍属の施設であればどうだろう?

 白衣の研究者は私が『戦闘技能のラーニングは完了している』と言っていた。

 で、あれば、そこから自分を売り込む事も可能ではないのだろうか。

 

 

「……大隊長さん。私も艦長の所にご一緒してもよろしいでしょうか?」

「それは構わんが、流石に動けるようになるまで待てないぞ? 話は通しておくから、後でも……」

 

 

 大隊長さんはそう言ってくれたが、実の所私の身体は自分の力で起き上がる事になんの抵抗も感じていなかった。ベッドから離れて自分の足で立って見せると、彼女は一瞬目を見開き驚いたが、すぐに「いいだろう、着いてこい」と言ってくれた。

 

 椅子から離れた彼女の背は、私の喉元程までしかない程に小柄だった。

 

 

 

   ●

 

 

「あーあ、久しぶりに本物の女を抱きたいぜ……」

「ケーンお前、ボイスロイドをカウントしなけりゃ童貞じゃねぇの?」

「う、うるせぇ! あ、少佐! お疲れ様です」

 

 

 私が大隊長の後を追って廊下を移動していると、彼女と同じジャケットを着た二人の男性が会話をしているのが見えた。

 

 ボイスロイドは元々21世紀初頭に開発されたアンドロイドだ。

最初は音声合成ソフトだったが、アップデートを繰り返す内に専用の“肉体”を獲得。少子高齢化が問題視されていた当時の社会で、若者に性への関心を向けるべくラブドールとしての側面も持ち合わせていたそうだが、少子高齢化から脱却を始めるや否やボイスロイドが社会に溶け込む事を恐れた人類によって、アンドロイド製造技術ごと、その存在を抹消されたという。

現在稼働しているボイスロイドはその百年前の技術をレストアし、R戦闘機のパイロットとして再利用しているのだが、残された性処理は兵士達のフラストレーションを解消する一役を担っているらしい。

 

 

「ケーン。お前もようやく愛しの彼女にアタックする度胸を付けたか!?」

「男は女を一度でも抱けば変わるというのは少佐のお言葉ですよ?」

 

 

 ケーンと呼ばれた男性は、とにかく髪型が印象的だった。確かリーゼントという名前だった気がする。

 

 

「事務的な反応しかしねぇボイスロイドで男を上げた気になってもなぁ。そうだ、大隊長。今度俺と寝ませんか?」

「おいおい。これでも純潔の乙女だぞ? 後五年生き残って俺より強くなったら考えてやる」

「三年で堕としてみせます!」

「言ってろスケベ野郎」

 

 

 ケーンと話していたもう一人の男性の言葉を適当にあしらった大隊長に続いて、彼らの横を素通りする。「ヒュー。ブロンドの美人ちゃんだ」「少佐も変わらずな様で。よっ! スケベ親父!!」「お前達後で覚えてろ!!」

 

 

「……大隊長さん。答えたくないのであれば別にいいのですが、あなたの性格や周囲からの評価は外見から乖離し過ぎていると思います」

「さっきとは立場が逆だな……。ま、隠す事でもないから言うが、俺は元々普通の人間だったんだが、ある“事故”のせいで記憶、性格、人格に至るまで全部この肉体に移ってしまったんだ」

「……そう言えば私は“人格移植用の実験体”と呼ばれていました」

「俺の事故を再現しようとしてたのか。……連中の考えそうな事だ……おっと」

 

 

 期せずして私の“成功作”であるという事が判明した大隊長さん。そんな彼女(?)がある一室の横を通り過ぎようとしたとき、部屋から出てきた黒衣の人物を接触しかけた。が、そこは流石軍人、物凄い反射神経で突撃を回避していた。私も立ち止まり、黒衣の人物に目を向けた。

 

 

「おやおや、これは少佐殿。それに桜乃そらさんではありませんか」

「私をご存知なのですか」

「貴女の母の様なものですよ。皆はドクターYと呼びます」

「はぁ……」

「ふふ、報告通り、変わった感性をお持ちの様ですね。素晴らしい。個性的なのは良い事ですよ」

「先程大隊長さんにも言われました。個性的ついでに聞きたいのですが、燻製が何かをご趣味でやっておられるのですか? ドクターの衣類から煙の臭いがしますが」

「そうなのですか、ドクターY?」

「レディーに体臭の事を聞くのは失礼ですよ少佐殿。……ちょっと研究の合間に“ゴミ”が出たもので、ちょっと強めに炙って“処分”していたのですよ」

「なるほど」

 

 

 納得した様子は見せたが、どうも解せない事があった。確かに何かを焼いた様な臭いはするが、それとは別に微かに鼻孔を刺激する悪臭が確かに存在した。それは、白衣の男が身に纏っていたものに似ている。こんな酷い臭いの人物が艦内に二人も三人も徘徊していれば衛生問題に関りかねない。

 

 

「もう一つ質問よろしいでしょうか」

「なにか?」

「コート臭いますよ。洗濯をオススメします」

「……ご忠告どうも。“人間”に言われても気にしませんが、娘に言われてしまったのであればしっかり洗浄しないといけませんねぇ」

 

 

 

   ●

 

 

「桜乃、彼女が俺の上司だ」

「ようこそ、で良いのかな? 私がこの艦の艦長の東北ずん子よ」

「初めまして艦長さん。桜乃そらと言います」

 

 

 ブリッジに通されると、大隊長さんは白い軍服を着た女性を紹介してくれた。物腰柔らかな印象のある少女、といった雰囲気を感じる。

 

 

「……答えにくいなら良いのですが、もしかして艦長さんもボイスロイドで?」

「ズバズバ聞いてくるわね……。その通りよ。指揮官モデルっていう、生まれながらの中間管理職ね」

「なるほど……では同じボイスロイド同士、是非お願いしたい事があります」

「何かしら?」

「私は“失敗作”として破棄される予定だったらしいのですが……戦闘技能のラーニングはされています。どうか私を拾って“再利用”してくれないでしょうか?」

「……君、変わってるね」

「よく言われます」

 

 

 自分の置かれた状況と、自分の要望を素直に申し出ただけのつもりなのだが、大隊長さんも含め、素っ頓狂な表情で私の言葉を聞いていた。

 

 

「自分を売り込むほどに感情を持ち合わせていながら、失敗作と言われて平然と受け入れるその感性……随分個性的だ」

「よく言われます。それで、どうでしょうか?」

「そうねぇ……。私は別に良いと思うけど、少佐の意見も聞いてみましょう」

「戦闘技能習得済みのボイスロイドというが、ウチの大隊の八割はそうだからな。面接での判断材料としては少々パンチが弱いが……熱意のあるボイスロイドというのも珍しい。一度仮想訓練で能力を図ってから判断するが、良いか?」

「望むところです」

 

 こうして、私の“シャインスター”としての長い戦いの幕が開けた――。

 

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