馬鹿に爽やかな潮騒の音で目が覚めた。
虚ろな意識で瞼を開けるとサファイア色の海岸線、真珠のような砂浜と血のような夕焼け空のコントラストで目が焼けそうになる。視覚情報から察するに、今私は砂浜に顔をうずめ倒れているようだった。
うつらうつらしてる間に手足の感覚が戻ってくる。同時に寒気が全身を舐めまわす。
ぐしょ濡れのセーラー服と肌の間にはくまなく砂が侵入している。不意に体表をびっしりと覆うアリのイメージに襲われ、溜まらず私は跳ね起きた。
寒さで硬直した体はすぐには命令に従ってはくれずマネキンのようなぎこちなさだった。それでも無理を通して立ち上がり、私は周囲に目をやった。
砂浜からほど近くには木々が群生していた。それは防砂林として扱われる針葉樹たちで痩せた姿の間からはその先が見えて、切り立った山の峰峰が確認できた。
左右の海岸線の先はそのまま水平線と溶け合っていて歩いてみないと実際の距離は判りそうになかった。
ぶっちゃけ何も判らなかったのと一緒だった。見覚えが無い土地に一人ぼっち、私は自分が遭難したことを知った。
そもそもここがどこかでは無くなぜこんな所に入るかが解らないことに愕然となる。まだ意識が混乱してるのか、上手く記憶を引き出せない。
もどかしい。
私は砂浜に腰を下ろし熟考を始めた。まずは……そう名前、名前だ。
私の名は…………『君の名前は神原日和(かんばる ひより)。都内の高校に通う高校二年生だよ。覚えてないの?』
突然の声に私は思わず飛び上がった。
だって声は私の尻の下から聞こえて来ていたのだ。
見ると黒いスマフォが砂浜に埋まっていた。
声はスマフォが発していた。
『そんなに驚くなって。俺は君の味方。さっきも言ったっしょ』
軽い感じで親しげに話しかけてくるこの声の主にまるっきり心当たりが無い。
そもそも私がこんな歌舞伎町のキャッチーみたいな喋り方をする男と知り合うキッカケが思い浮かばない。
私は清純派なのだ。
でも、神原日和という名前もしっかり私のモノだと思える。鏡が無くても自分の姿が想像できる。
ついでに昔から記憶力が弱いことも思い出した。
そのせいかは判らないけど、いまだにここにくる直前の記憶が曖昧だった。
『あー、まだ思い出せない?や、否が応でも思い出さなきゃなんだけど。他の子達はもう動き出してるよ』
何を言っているのか全く判らなかった。でも何か引っかかりを感じる。
早く思い出せ。思い出さないと。
『早くしないと死んじゃうぜ。バーサーカーのマスターさん』
「あ」
頭の片隅でカチリと歯車が噛み合った。思い出したくも無い記憶がフラッシュバックする。
冬休みに入って間もないある朝、私はこの男に誘拐されたのだ。
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