Fate/Asian Fighters   作:菊田菊之丞

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一日目、朝

 その朝は嫌味な程いい朝だった。

 空は透き通るように晴れて日差しも暖かい。急ぐ街を尻目に私がいる喫茶店の中は優雅な時間が流れていた。店長が一人で切り盛りしているらしいここの落ち着いた雰囲気が私は好きだった。苦味の効いたコーヒーを飲み干し、今日一日を頑張ろうと人々が飛び立っていく。

でも、私がそれに続くことはなかった。

店内に流れるジャズも、今は聞きたくなかった。テーブルに乗っているコーヒーよりも意識を拡散させてくれるアルコールが欲しかった。モヤモヤしていた。

こういう感覚が一番苦手だった。誰かが悪いわけでもなく自分のせいにするのも違う。責任の置き場がなく妥協でしか解決を見れない曖昧な状況。誰もが経験するものだし私も初めてではない。だけど慣れるものでもないので、向かいの席にいた人物のことを、彼と過ごした時間をしみじみと反芻していた。

 

 彼は優しかったし真面目でもあった。逃した魚はでかいと言うけれどその中でも彼は出世魚だった。クラスで一人はいる、妙に人望があってカリスマ性がある凄い奴。でも大抵はそうあろうと努力しているだけだし時間や条件が違ってくればアラが見えてくるものだけど、でも彼は違った、本物だった。クラスの大半の女子は彼に惹かれていたし、それとなくアピールする猛者も中にはいた。でもそれ以上踏み込む者は居なかった。みんなどこか気後れする所があったのだろう。あまりにも人気だから、同じく自分も高くあろうとして自分の劣等感に押さえ込まれみんなそれ以上踏み込めないでいたのだった。進学校だったことも手伝ってか、前述したとおり彼も真面目だった為浮いた話は効かなかった。

 

 そんな時何をまかり違ったか私のところにチャンスが舞い込んできた。告白は彼からだった。なんでやねんとおもったけど一も二も無くOKした。その時の彼の喜んだ顔は今でも覚えている。

「やめよ。虚しすぎる」

 

私は立ち上がる決心をした。ここであれこれ考えても何もいいことはない。要は

 

「価値観が違ったんだ」

 

便利な言葉だね、と呟いて振り切るように立ち上がった。

その直後

黒塗りのジープがガラス窓をぶち破って喫茶店の中に侵入してきた。

 

 

「ちょ………………………!」

 

あんまりな出来事に私はすっかり動転していた。マンガとかではこういうのを見た一般人は映画の撮影?とか言い出すものだけど、そんな思考を挟む間もない程唐突な出来事だった。

 

それからはまさに早業。覆面を被った映画とかで見る特殊部隊みたいな恰好をした連中がカマキリの産卵宜しく車両の荷台からわらわら出てきてあっという間に店内を制圧していた。

 

店内にはぼちぼち人が居なくなっていた時間帯だったから車が突っ込んできた時窓側には人は居なかったはず。そう思いたかったけどホントそれどこじゃなかった。こればっかりは仕方ない。

学校にテロリストが来たらワンパンKOだぜとか話してた男子を思い出したけど今なら言える、君には無理だ。

現場の空気というやつは一般人には少々キツすぎる。

 

そんなわけで、タコみたいなアホヅラで目をパチパチせていた私の前に、特殊部隊をすり抜け悠然と進み出てきた男がいた。

それが現在電話越しに話しかけてきた男だった。

 

「やあやあ、どおも。君が聖杯に選ばれたマスターさんだね。本日はいい日和で……っと、ははあ…………」

 

細面の顔にサングラスを掛け、狡猾そうな薄い唇を持ったその男は詐欺師かはたまた水商売をやっている人種にしか見えなかった。そいつは無遠慮に私の全身をねめまわし嫌みな感じで尖った顎に手を掛けた。

「残念。日和ちゃんは彼氏と破局してご傷心だそうで」

 

「ーーーえ!」

 

驚き過ぎて声が裏返っていた。何で知ってるの!?頭はそれでいっぱいだった。

顔に血が上っていた。場違いにも羞恥で顔から火が出る程恥ずかしかった。

私の動転をさも愉快そうに男は眺めていた。

 

「ハイ!それじゃ、そんな日和ちゃんに開運のおまじない。まずは俺の法令線を見て!」

 

と、顎に当てていた手を私の目の前でバッと開いた。

私はビックリしたけど何か勢いに負けて、反射的に法令線ってどれだっけと男の手相を見つめていた。

意外と綺麗な男の手を見て気付いた。

法令線って顔じゃん…………

側頭部に鈍い衝撃が襲ったのはそれと同時だった。目の裏で星が弾けて一瞬で世界が真っ暗に染まる。最後に見えたのは後ろ手に持っていたらしい灰皿をひけらかす男の姿だった。

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