Fate/Asian Fighters   作:菊田菊之丞

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一日目、夜4

***

 

超新星爆発みたいな激しい光が開けてようやく周囲に気を向けられる余裕を取り戻した私は冬の夜空を見上げて仰向けに倒れていた。

星が綺麗だった。都会では見えない星たちがどんなに小さなものでも鮮明に輝いていて、外は思った以上に光に満ちていた。ずっと暗い空間に居たせいで少し目に痛い。

 

そういえば心理学で暗くて狭い空間は母親の子宮をイメージさせるそうだ。

そこから明るい場所に出ることは出産の時の記憶を想起させて「再生」の象徴ともとられるそうだけども……どうだろう。

あいつに食われる前の自分と、今の自分は果たして同じ人間なんだろうか?

何がそうさせたのか、不意に私はそんなことを考えていた。で

 

 

急に我に帰った。

アレは……あの奇妙奇天烈な怪物はどうなった?食べられて……消化されそうになって、

混乱するままに周囲に視線を送る。あまり激しく動くと体が引き裂かれるように傷んだのであくまで慎重に首だけ回す。

探していたモノはあっさりと見つかった。

 

 

ひき肉をちぎって乱暴に固めたような怪物は消えていなかった。むしろ増えていた。集団で、私の周りを円陣を描くように回っていた。

失望で息がつまりそうになったけれど冷静に観察するとどうやらただ増えただけではないらしい。ひとつひとつの個体は小さくて、かつ大きさもバラバラで、増えたというより分裂したという方が正しいのかもしれなかった。あれじゃあ熊どころか猫を飲み込めるかすら怪しい。

はは、随分可愛くなっちゃって。アレに対する憤りも恐れも薄れてしまう。

どこか微笑ましい気持ちにすらなってしまうあたり結構心のチューニングが狂ってる。

あ~、でも気分は悪くない。むしろ快調。朝の喫茶店から引きずってきた鬱屈としたしこりが、いつの間にかどこかに消えていた。

なんだろう。まあ、あれやこれやと悩んでいたけれど、結局は人には限られた選択肢しか与えられていなくて、その中でどれだけ頑張れるかっていうだいたいのことはそれ以上でもそれ以下でもない。でもそのキャパ自体ひとが見積もれるようなことでもないから、変に自分の限界とか感じる必要はない。というかそう考えてみるとキャパ自体ないようなものになってしまうけど……や、それ自体は厳然として存在する訳だけど。

要するに

謎の組織に拉致されて地獄の底から這出てきたような生き物に食われかけたけど

そんなことは二次的なことでしかなくて、私がどう生きていくかに直接的な関わりは無いと言うこと。心や体なんて簡単に壊れる。壊れたらそこまで、けれどそこは人の手が及ぶところではなくて……人がどうこうできるのはもっと限定的なところなんだと思う。

 

だからせめて、私は私の生き方を貫こう。

 

―――――怪物の一部が弾丸のような速さで吹っ飛んできていた。体表にびっしりと鋭い歯が並んで、ぶつかられでもしたらゾックリと肉を抉られてしまいそうな勢いだ。

そしてその滑空の延長線上には私の頭があった。怪物はやっぱり危険だった。コンマ一秒後、私は首から上を失って死ぬ。

どうせ死ぬならせめてこいつをーーーーー

 

 

 

 

ゼロコンマゼロ五秒の出来事だっただろう。ふっと現れた巨大な気配に私が気づくのはそれから数瞬後のことだったけど、最期までまたたきをしまいとしていた私ははっきりそれを見ていた。

 

真っ黒な素材で覆われた大きな腕が視界の外れから現れて怪物をさらっていった。眼前でミチミチと筋繊維がちぎれる音がして血飛沫が顔にかかったかと思うと次の瞬間に右手で異音。見ると木が半ば傾いでいて真っ赤な大きな汚らしいシミが出来ていた。

そのシミもすぐに灰になって消えた。

 

森じゅうに奇声がこだました。悲しみと怒りと狂気がないまぜになった声は不思議と私に大した感慨ももたらさなかった。それより私を跨いで勇壮に進み出る巨人に意識を釘付けにされていた。

 

墨を塗りたくったように真っ黒な中華風の鎧に身を包んだその男は忽然と私が倒れている上に居た。かなり上背があって体型はデブというより断然マッチョ。それも手足が異様に長くて欧米人もびっくりのプロポーションだった。それが中華風の甲冑を着ているのだからそのアンバランスさが絶妙にエキゾチックでオリエンタルだった。

けど……妙に存在感が希薄。イメージで言うとキョンシーってところ。だから最初は気付かなかったのか……

 

ともかく……この場を離れよう。

コイツが何なのかはともかくとして、あの化け物と争うのであれば巻き込まれるのは危険だ。相変わらずポンコツ同然の体に鞭打って立ち上がろうとする直前

真っ黒の巨漢に無理やり引っ張り起こされた。

 

グチャリという音。

私は見ていた。先程まで私の頭があったところに例の化け物が突き刺さってその化け物に巨漢の足が突き刺さっていた。

背筋に冷たいものが伝った。

 

周囲の空気がにわかに重くなる。じりじりと距離を詰めてきていた怪物達が明確な殺意を込めた奇声を上げて殺到する。

黒い巨漢が鋭く息を吐いたのが聞こえた。

 

 

縦横無尽に視界が回転する。巨漢に引っ張られるままに私の体が宙を踊る。洗濯機にでもかけられたようにぐるんぐるン回転する。

いやいや確かに服とかは汚れているし下着なんかは大変なことになってたから洗濯機があったら願ったりかなったりなんだけど。一緒に汚物とシェイクしてちゃあ世話がないでしょ。

力強い左手は私の腰を抱えて空いた右手でてゆうかそれ以外の体全体で、とびかかってくる怪物達を片っ端から粉砕してしていた。コイツの体に触れた怪物は例外なく外装とそう変わらない中身を一瞬見せ、次の瞬間にはペースト状に磨り潰されて消えた。その時、延長線上にいた私に凄まじい臭いの液体がふりかかってくるものだからたまったモンじゃない。

容赦なく目や鼻に侵入してくる血霧に窒息しそうになりながら断片的にだけど私は黒い巨漢の獅子奮迅の活躍を見ていた。

拳が飛んで肘鉄が唸って手刀が切って捨てて肉の山を築いていた。

怪物は恐ろしいことにまっぷたつにされても二つに分裂して再び突撃を敢行するけど、男はもっと恐ろしいことに一捌もくれず無造作に反応し、当て身でそれを更に細かく分断する。

そしてある程度まで行くと怪物は灰になって消え私の体に染み付いていた体液も灰に変わった。

 

 

例のごとく乱暴に扱われた私は男の手を離れ尻餅をついた。

長いようで短い殺戮が終わった合図のようで、同時に突っ込んできた肉の塊を男が一蹴し、ため息のような呼気を漏らした後は森は再びの静寂に包まれた。

あれほど荒々しく拳をふるっていた男もそのまま無言で立ち尽くすだけだった。

 

世界は未だに揺れていたけど尻餅をついたままの姿勢で私は年輪が深い大木みたいに不動の男を見上げた。

さて、化け物の腹を裂いて登場して一瞬でそれを虐殺したこの男はなんなんだろう。

乙女の危機に駆けつけた王子様……にしては登場がちょっと遅すぎたように感じるし何より王子とかいう柄じゃあない。どっちかっていうと魔王とか覇王とかオンナノコの幻想とかとは別の次元の存在っぽい。

進退を計りかねていた私の意識に一石を投じる電子音が聞こえた。

割と離れたところにスマホが落ちていて、私は這って進んでそれを手に取る。

 

『おめでとー、日和ちゃん!バーサーカーを召喚したんだね!これで日和ちゃんもマスターの仲間入りだよ!』

 

という第一声で私は大体のあらましを理解した。

驚き半分。やっぱりねという気持ちも半分だった。ずっと考えてきたことだから割とすぐに飲み込めた。

つまり私はあのジジイが言っていた、気持ち悪い中学生の男子の妄想のような世界観に組み込まれてしまった訳だ。

ひどい臭いのするショーツをそのへんに脱ぎ捨てて私はうなだれた。一時すべてのことがどうでもよくなって投げ出してしまいたい自分が顔を出したけど頭を振って顔を上げた。

 

 

「……私は、さっきみたいな化け物を倒せばいんだっけ?」

 

『…………、うん。話は飛んだけどそうだよー』

 

「おっけ判った。じゃね」

 

『……ちょっと待ちなよ。まだ話があるんだけど』

 

ちょっと気に触った風な蓮田が食い下がる。

私はもう誰とも話す気にはなれなかったのですげなく言葉を挟む。

 

「後にしてよ今夜は、もういいでしょ」

 

『よくないよ。だってまだデーモン死んでないし』

 

 

その時、島全体に震えが走った。ドドドドドと腹の奥に響く太鼓の音のような振動が地中深くからせり上っくる。私は思わず周囲を見回した。周囲は明らかに不穏な雰囲気に包まれている。またしても状況は私を置き去りにして進んでいた。

不意に黒衣の男に目が止まる。男は泰然自若とした様子で遠くを向いていた。

 

その視線の先、宵闇の中にそびえる小高い丘が膨れ上がった。

 

「――――――えーーーー!?」

 

最初それは長大な塔に思えた。小山だと思えたそれは噴火でもしたみたいに高々と伸び上がったように思えたけど……直後にそれは鎌首をもたげるように起動を変化。

私の居る地点に向けて落ちてきた。

 

私は言葉を忘れていた。

まさに高層マンションが落ちてくる迫力でそれは迫り来る。近づくごとにそのグロテスクま全貌が明らかになる。

巨大な縦長の体型に全身に蛇腹のような体表は常に脈打っている。先端の頭がある部分には内側に向けて牙がびっしりと生えた円形の口腔が見えていた。

私は逃げるも目を覆うもできなかった。さっきまでいた怪物とは訳が違う。スケールが違いすぎて完全に私の感性は麻痺していた。

現実味が無いっていうのはすごく危険だった。あの巨大な生物と自分が同じ舞台に立っていると認識する前に相手は何事もなかったかのように私を踏み潰すはずだった。

そうならなかったのは、黒い男……彼がバーサーカーなるものだったからだろう。

 

 

元から見てくれの割に妙に存在感の無い男だったけど、今回もあいつの行動に気づいたのはあいつが移動を済ませたあとだった。

宙に向けて太く長い腕を上下に開いて、見えない大きな卵でも抱え込むように、バーサーカーは構えをとっていた。

何する気?という疑問なんて地平の彼方へ吹っ飛んでいった。

ていうか、嘘、マジ?

 

受け止めるつもり!?

 

冗談じゃなかった。何が冗談じゃないって、ありえない。スケールが違うんだ。

仮にも私を助けてくれた相手だから、見ていられない助けなきゃなんて一ミリも思わなかったけど、何故かテンパりまくっていた私は手足が動くことをいいことにあいつの足元に這いずっていった。

地面に突き立てた手の平、これからの展望なんてまるでなかったけど、今までとは別の意味で必死で

呟くように漏らしたバーサーカーの言葉を聞き取ることはできなかった。

 

 

 

「―――――――――抜山蓋世(ba shan gai shi)――――――――」

 

静かな言葉だったけどそれで世界がひっくり返った。

 

 

不意に暴力的な脱力感と焼け付くような手のひらの痛みの身中の怪物で健常だった私の精神が大きく揺らいで、視界が傾斜していった。

ぶっ倒れた私の体を腐葉土が受け止めると同時にバーサーカーの全身を装甲する鎧のいたるところから真っ赤な光の洪水が生まれ渦を巻いていた。濁流みたいな激しさでそれは男を投影した虚像のように膨張して男の存在感を爆発的に上乗せさせていた。

目に焼き付いて離れられないほどに。

背後の巨大な怪獣が背景にしか見えてしまわないほどに。

 

 

とてつもない爆音と衝撃が島中を震撼させた。島中のモノというものが飛び上がったかに思え、私も無造作に吹っ飛ばされたなかでバーサーカーのみ不動だった。

両足を地につき両腕を掲げたままでなお原型を保っていた。

でも無傷なんかじゃなく、肩口からとめどない出血と痛ましい骨が飛び出ていた。

そしてその姿勢を維持したまま石像のように屹立した姿で、その両腕の先には今にも食いつこうと人の背丈ほどある牙を剥き出しにした怪物が静止していた。

豪腕は牙を鷲掴みにして離さない。食いつこうとしたものは逆に食いつかれたまま離れられない様子だった。怪獣の体表を入念に見れば押そうにも引こうにもどうにもならない焦りを汲み取れたと思う。

まさに神話のクライマックスの図だった両者の組み合い。

永遠に近く引き伸ばされた時間を終わらせたのもやはり彼だった。

 

全くの無造作に、バーサーカーは牙を抑えた両手を一気呵成に回転させた。一瞬の間に、長大な円筒形の怪物の体に赤い波紋が走り抜けた。

怪物の体が大きく歪んだのはその後だった。

 

ミチミチミチミチミチミチミチーーーーーと肉が雑巾が絞られていくように引きちぎられていく。破壊の力場が体を駆け上がって尻尾にまで到達した。

 

島空は今、真っ赤に染まっていた。バーサーカーの腕の回転に合わせ発生した赤い粒子の竜巻。その中に巻き込まれる形の怪物は血霧を撒き散らしてすりつぶされていった。

黄色い脂肪や桃色の肉片、凄まじい臭気を発する汚物が大量に島中に撒きちらされ、地獄のような情景を作り出していた。

 

しかし、その怪物が存在した痕も地面に到達するころには灰になって消えた。

再び島には嘘のような静寂がおとずれた。

 

 

 

***

 

私は完全に不抜けた体を横たえて虚空を睨んでいた。

体中から燃料を無理やり抜かれたような疲労感に支配され、とことん無為に残った意識をすり減らしていた。

近くに人が近づく気配を感じる。大きな影が落ちてきた。

見下ろされている感覚。かといって気恥しさや警戒心は湧いてこない。バーサーカーと呼ばれた男の気配は元のサイズまで縮小し、今では案山子程度のレベルにまで落ち込んでいた。

 

サーヴァント……人のカタチをした戦闘代行者が怪物、デーモンを倒す。それは多分、この島の中では一番望ましいサイクルであって何にも増して優先すべき最優先事項。

計七回行われるその通過儀礼の一回目を私が果たしたことになる……のか。

けれどそんなことは未だに温度感も無くやりきった実感も皆無だった。

全てはこいつがやったことだし私は泡を吹いて路傍の石ころみたいに転がってただけだ。そこに達成感を求めるのは無理、目の前で起こっていることとテレビの中で起こっていることの違いなんて私には判らない。

 

 

……けど、いいんだ。

取り敢えず生きている。

誰かへの怒りとか、死ぬよりも大事なスタイルとかじゃなくて

もうなんか、それだけで今は心に澄んだ風が吹いたようだった。

目的ははっきりした。

私はこの島で生き残る。明日も、また明後日も生き残って、生き抜いてやる。

全てを取り払った心で、私自身がそう思った。

 

だから…………だから今夜はおやすみ。

きっともうすぐ夜明けだ。




はい、こんな感じで一日目終了です。いかがだったでしょうか?取り敢えずサーヴァント召喚です。ピンチになったら現れるのは原作と一緒ですね。
ここまで書き溜めたものを吐き出してきましたがここから更新頻度がガクっと落ちます。すみません。
よかったら感想なども寄せてください。色々弄りづらいと思いますが、思ったことを書いてくれて結構です。
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