Fate/Asian Fighters   作:菊田菊之丞

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二日目、朝

 

目が覚めた。当たりは弱く日が照っていて木漏れ日が私の顔に降り注いでいた。木々の間からは突き抜けるように澄んだ高い高い冬の空が見えた。

東京都板橋区にある私のアパートではないこの場所がどこなのか、寝ぼけた頭で検索をかけているうちに全身から鈍い警笛が鳴らせれる。ああ、なるほどねと諦めまじりに私は納得した。

体が疲れてる時とかは目が覚めた瞬間足をつったりする、まさにあの時の感覚でびくつきながら慎重に体を動かしていく。案の定、どんなにゆっくり動かしても体のあちこちが痛みだした。

 

「…………痛っ、たぁ……」

 

顔をしかめながらも体を起こすことに専念していたらガサガサと体の周りで擦れるものに気づく。

枯葉だった。沢山の枯葉が私の上にかけられていて、地面が人の体が収まるくらい窪んでいたのと合わさって揺り篭のようになっていた。服はとっくに乾いていたけど寝ていられる程体が温まっていたのはこれのおかげみたいだった。

でも、私は昨日の事の後、気を失っていて……

考えを巡らす中、大きな影が目に止まった。一度素通りしてしまったけど、もう一度見て私は一瞬ギョッとなった。

黒い甲冑、巨人みたいな体躯。忘れるハズもない、あの大男が私の傍らに静かに座っていた。一見して禍々しさすら感じさせる外見なのは昨日見た通りだった。

だけど今は特に威圧感は感じない。それを証明するように男の肩には小鳥が停まっていてさえずっていた。男は全くそれに構った様子もなく木の幹に体をあずけていた。その表情は兜と面皰に隠されて伺うことはできなかった。

ふと、私は気になって立ち上がった。まだ視界がぼやけていて意識にモヤがかかっている最悪の寝起きが、私を大胆にしていた。すっくと立ち上がり、大男に近づいていく。

私の気配に気づいた鳥達が近くの木などに飛び移り方々に散っていく中、私は男の前に立った。

私の手がすっと伸びてバーサーカーの兜に指が掛かる。ここまでしても男は無反応を決め込んでいた。

妙に反感がわいた私はぞんざいに兜を持ち上げてやった。

大した抵抗もなくそれは持ち上がり黒い髪の房が溢れて男の素顔が明らかになった。

そして私は絶句して兜を取り落とした。

ガチンガチンと鎧と兜がぶつかるやかましい金属音が辺に響いて焦る。何かよくないものの呼び水になるようで、例えば目の前の大男が立ち上がって襲ってくるのを想像して、私は数歩後ずさった。

けれど男は動かない。相変わらず樹木と一体化したみたいに座り込んだままだった。

 

私はしばらくその場を動けなかった。さきほど見た物についてどうしても結論を付けられなくて、私は前だけをただ一心不乱に見ていた。

そしてすぐに決心をした。さっきみたいな反感めいたものに背中を後押しされて男の前に再び立った。すこしだけ震えが入った指先に力をかけて兜を剥いだ。

外気に晒される男の顔を、私はまじまじと見つめた。

 

よく見なくても鎧から生えていたのは普通の人間の顔で、かなりいい男だったのは判っていたけど重要なのはそこではなくてこいつがかなりこっちの目に来る表情をしていたことだった。歯を食いしばって白目を剥いて眉間に皺を集めてるのは明らかにヤバいと思って思わず手を滑らせてしまったけど気になって見てみると、やっぱり。

私は慎重に兜を元に戻すと、大男から距離をとった。まだ体が辛くて、その場に腰を下ろした。またどっと疲れた。

 

男の目尻の赤みや血走った目は、間違いなく泣きはらした痕だった。それどころか枯れてるだけで、あれは今も泣いている表情をしていた。

全く、訳が判らない。とゆうか普通に怖いしキモイ。

取り敢えず……一番身近なこの男の存在の輪郭はつかめたような気がした。それだけでも冒険の甲斐はあったと思う。

私はぼおっと青空を見上げる。

直後にバラバラバラと風を打つ音が空の遠くから降ってきて、着信音が鳴り出した。

 

獣道を進みながら私は昨日接触したモニュモニュの怪物のことを考えていた。

他に考えなきゃいけないことはいけないことはいくらでもあるのだろうけど今はそのことで頭がいっぱいだった。もともと近視型の人間だから三手以上先のこととか考えるのが苦手なのもあったし、嫌なことをトコトン突き詰めて考えて落ち込んじゃうのもいつものことだった。でもそれは結局考えるべきことを考えないための思考遊びだったりもするんだけども。

なんによ、あの化け物だ。あの、人の嫌悪感を誘う要素をブヨブヨの肌とテロリンという皮膜に詰め込んだ不細工な化け物。見るだけでも嫌で嫌で仕方ないのに私はそいつと非常に密な関係になっていた。

つまりは肉体関係。

ぎゃああああああ。

や、だからなんだって話だけど。そのせいで立ち上がれないほど心にキてる訳じゃない。今は。大体あれもう死んだし。私の後ろを無言で着いてくるこの木偶の坊に木っ端微塵に粉砕されて、巨大化なんて間抜けなことをした末に謎のパワーで磨り潰されてこの世に一切の痕跡を残さず消滅したんだ。遺恨なんて残らない。

けど、妙に気になっていた。アレが私にしようとしたこと……丸呑みして体中に薬物をぶち込んでぐにゃぐにゃのクラゲみたいにしてゆっくり消化しようとしたのは生き物ならではの欲求にしたがったからと考えられて、それで私をファックしやがったのもその欲求によることが大きいと考えれば納得がいく。ちなみにあのデーモンなる生き物を大雑把に理解する一歩になる気がする。

けど、同時に問題があった。…………というか、この問題を取り沙汰する最大の原因であり、私がこれまでした想像で一番怖いものだった。

デーモンが私にしたことを思い出すだけで虫酸が走る無礼狼藉の発端が奴の三大欲求のひとつから来るのだとすれば、その中でも快楽目当ての娯楽じゃなくて実は生き物としての使命の方から来てるのだとすれば、あれが種付けだったとすれば…………

昔見た映画の、主人公の女性が怪物に子供を産み付けられて、我が子に腹を食い破られて絶命する悲惨な顛末を思い出す。今、もうすでに私の下腹部にはあのくそったれた化け物との私生児の命が芽吹いていて、よからぬことをしようと邪悪な意思を巡らしているとすれば……。そういえば、なんか今日は重いような気が……

 

ドンッ

「へあっ」

 

不意に背中を押される。

 

驚いて振り返ると黒い鎧に覆われたの胸板と出会う。一定の距離を保って後ろに付いてきていたバーサーカーはすぐ後ろで私を見下ろしていた。

ドキドキと心臓が滅茶苦茶に鳴っている。まさかこいつから私に接触してくるとは思わなかった。いや、ただ私が立ち止まってるのを見てなかっただけかもしれないけど、本当に予想外だった。

男は何を言うでもなく立っているだけだった。

 そうしてるうちにこみ上げてくる恥ずかしさで私は居ても立っても居られなくなった。できる限りキツく男を睨んでから踵を返して足早に歩き始める。

 一体なんなんだこいつは。妙なむかつきを私は持て余していた。

 

 歩いていくと木々が開け空き地に出た。

 その中央に私は目当てのモノを発見する。皮だけになった玉ねぎのような大きな物体はパラシュートだった。その下に重々しく光るアタッシュケースが落ちていた。

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