Fate/Asian Fighters   作:菊田菊之丞

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二日目、昼1

結論から言うと、私の気がかりとなっていたものの大半はそのアタッシュケースの中の物品が解消してくれた。サバイバルに必要不可欠な携帯食料3600グラム、125ミリリットルずつ袋詰めされた飲料水10袋、寒さを防ぐための携帯ブランケット、他アメニティ。

化粧水や乳液は流石に入っていなかったけどそれでも思った以上の好待遇に少し感動すら覚えていた。その中でも着替えが入っていたのには涙が出そうだった。

色々なものが混ざってこの世のものとは思えない臭いを醸していた制服を脱ぎ捨て、もっとアレな臭いを放つ下着を放り投げる。完全に脱衣したら冷たい風が肌を叩いた。……寒!早く服着よ服。ほんとは体全体をまるっと洗っちゃいたい気分だったけど、それは水源でも見つけた後かなーなどとぼんやり考えつつ地味目な下着に手をかける。サイズはピッタリ。これはやや気持ち悪い。あとさっきまで私が着てたのと寸分違わないパリッパリのセーラー服も着てみる。腰周りから肩までほんとにピッタ。うええ、あの船の中で意識を失っている時に一体何をされたんだろう?てゆーか、どうせ着替えをよこすんだったらもっと厚手の物にして欲しかった。女子の制服の融通の効かなさをもっと考慮して欲しい。上はカ-ディガン着てるからいいけど下が……ね。

 

まあいいや。私は携帯食料の封を切り流し込むように内容物を口に運ぶ。バニラ風味が口いっぱいに広がってうわなんだこれ甘いんだかしょっぱいんだかわかんねーってテンション上がってたら予想以上に粉っぽくて咳き込む。慌てて袋の口を上に保って食料を守る。空いた手と口で水の袋を破って口の中に流し込む。……危ない危ない。こんなところで貴重な食料を失うわけにはいかない。

 

同梱されていた取説みたいなのを見ながら薬品系統の袋に手を出した時、スマホが鳴った。

一瞬身構えてから、私は気持ちを整えてボタンを押した。

 

「…………はいもしもし。蓮田?だっけ」

 

今度は自分から切り出してみた。少し間があってから声が帰ってくる。

 

「よく覚えてたねー、日和ちゃん。一度しか言ってないのに。感激だよ」

 

「……別に。人の名前なんて一回聞けば覚えるでしょ。……で今回は何の用?」

 

「うん。今は昨日と違って建設的な話が出来そうだね。いいよ、よく聞いて」

 

からかうように言うこいつのこの口調を、私は昨夜より数段落ち着いた態度で聞くことができた。それは早くもこいつのキャラに慣れ始めてきたというより私の中で何かが変わったことが大きいのだと思う。

蓮田の話はかなり事務的な説明から始まった。まずは空輸された物資の説明とその使用方法についてで、一度に覚えられないので即必要な物についてだけ聞かされた。

私は蓮田に指示されるがままに薬品を取り出し、消毒液で体の傷口を洗い、軟膏を塗ってバンドエイドを張った。蓮田の指示は的確で、まるで私の体のどこがどう怪我してるのかを分かっているような口ぶりだった。

……いや、実際こいつは今もどこかで私を監視していて、私自身分からないような部分まで私のことを掌握しているのだろう。

あの船の中で、こいつともう一人に長々と話を聞かされた後、意識を奪われた一件。あれは確かに私の体の中の何かが作動して起こったことだった。活殺自在。今は治療を指示されているけどこいつにかかれば私を壊すことなんて簡単なんだ。少なくともそう考えておいた方がいい。

 

「そういえば、あのデーモンとか言う奴って結局どうなったの?」

 

「うん、つつがなくね。今は霊魂に戻されて聖杯の中だよ」

 

「はあ。…………それってさ、あいつの体液なり肉片なり……あいつのいた痕跡全部ひっくるめて消えたってことでいい……?」

 

「ん、どういうこと?あー、分裂して生き延びてるかってこと?ならその心配はないよ。そこはちゃんと確認済みだから」

 

「ああ、そうなんだ。いや、それもあるけどさ。あいつに寄生とかされて……例えば傷口から侵入されてさ、ほら、あいつ形自由に変えられたじゃん?だから、体の一部があいつとくっついちゃった時ってちゃんとあいつは消えてくれるの?」

 

「んんーーー」

 

考え込むように黙る蓮田。嫌な間を開けて重々しげにこいつは言った。

 

「なんでそんな発想が出てきたか知らないけど、そう、そのとおりだよ。彼らは基本的に不定形で、自由に姿を変えられるんだ。まあ普通は自分の好きな姿に落ち着くけどね。でも昨日みたいにああいう不定形な形で妙な接触をしてくるやつも居る。日和ちゃんが受けた辱しめみたいな、さ」

 

「…………」

 

「うん。一概には言えないってのが正直なところかな。そうである場合もあればそうでない場合もある、早い話そういう存在だから。ただ、今回は彼らはサーヴァントって枠に囚われてるから、やっぱり核みたいなものが聖杯に収められた以上それ以外も消えたと考えていいとおもうよ」

 

つまりは安心していいということなのか。

けれど確定はできそうにない。こいつの話によるとデーモンはこいつらにとっても制御が効くものじゃなくて、どうにもできないものだから私たちに……まだ見たことはないけど他に誘拐させられてきた人たちに対処を頼んでいるところなのだろう。私たちというか、私たちが使役するサーヴァントに。

けれど、私が欲しいのはただただ大丈夫そうという保証と安心だった。だからある程度気持ちは軽くなったしそれ以降のことを考える余裕ができた。

 

「わかった。それで、七つのデーモンを倒して聖杯を完成させれば私とか他の人たちも開放されるんだよね」

 

「それは確約するよ。本当に、そこは安心してもらっていい。信じてはもらえないだろうけど。僕たちも必死なんだよ」

 

「……信じることなんてできないしあんたらの事情なんて知ったことじゃない」

 

「だとしても、今君にできることは襲い来るデーモンから身を守ることでそれはこっちと利害が一致してるんだよ」

 

「…………」

 

結局こういう論法なのだ。白々しく誠意を装っておいて結局は選択肢を潰してこちらをコントロールすることしか考えていない。デーモンという巨大な仮想敵を作って自分たちを味方だと錯覚させようという汚い思考だ。

でも、実際そうなのかもしれない。

もしかしたらこいつらはデーモンを駆逐するために本当に私たちの力を必要としてるのかもしれない。もっと言っちゃえばあのデーモンから人類を守るとかそういう理念を掲げて泣く泣く一般人を巻き込んでも遂行しなければいけない使命を帯びているとさえ考えられる。確かにあんな邪悪で危険な生き物を島の外に出すわけにはいかない。そのリスクを減らすため私たちを安易に開放できないのではないか……そう考えれば筋が通っていないわけでもない気がする。

…………いや、絶対違うね。

筋なんか通ってないしそれ以前に私自身この仮定に全く確信が持てない。あまりに都合がよすぎる。実感として自分自身すら納得させることもできない仮定ははっきり言って思考の無駄だし真実を曇らせる。

私は徐々に蓮田との会話に魅力を感じなくなってきていた。本当ならもっと聞くべきことがあるんだろうけど、早く行動を起こしたくて仕方がなくなっていた。

 とにかく動くんだ。動かなきゃ何も始まらない。

 蓮田もそれを感じたのか、会話は着陸体勢に向かって沈んでいった。

 最後に、私は周りを見回してから質問をした。

 

「それで、結局こいつはなんなの?話もしないし幽霊みたいにくっついてくるだけ。なんか気味悪いし」

 

 私は少し後ろに控えるバーサーカーの反応を伺ったがこいつは相変わらず微動だにしやしない。

 

「前にも説明したとおり『狂化』しているんだから仕方ないよ。思考はしているけどそれを表現できないんだ。それに年柄年中ブレーキが壊れたブルドーザーみたいに暴れている訳じゃないよ。燃料が切れてしまう」

 

 燃料……つまり『魔力』というやつか。本当にバカバカしい話だけどこいつの体は魔力でできているという。そして体力とおなじように激しい運動、昨日のような戦いでは大きく魔力を消費してそれがすぎると体を維持できなうなってしまうというのだ。幸いこの島は魔力に満ち満ちていて待機していれば外気から魔力を吸い上げて不足した魔力を補充できるのだというけど……。

 それにしてもコイツの今の存在感のなさは昨日のそれとのギャップがやはり気になってしまう。単純に錯乱しているのとは違うもっとはっきりとした、蓮田の説明には無かったこいつ自身の意志のようなものを感じるのは私の気のせいだろうか?

 どちらにせよ今のところはっきりと言えることは何もなかった。こいつに興味を持ち始めてる自分を自覚して今やるべき事に集中しよう。

 

「わかった。それじゃあ用があったらこっちからかけるから」

 

「いいよ。で、これからどうするの? 」

 

「まず島を散策しつつ他のマスターの人たちを探そうと思う。どんなことが起こっても、まず会っとくべきだと思うから」

 

「なるほどね。乗り気になってくれてうれしいよ。じゃあ、また」

 

そう言って蓮田は通話を切った。何だか先にきられると癪に触ったがとりあえず気にせず遠くに見える丘を振り仰ぐ。都会ではまず感じられない大自然の力に押しつぶされてしまいそうだった。遠近感がボケてあそこまでどれくらいでたどり着くかすぐには判らない。それに体力もどれだけ保つか判らない。疲れきったところで危険と遭遇するのは危険だ。

 考えることはきりがない。

 

「でも、いくしかないっか」

 

 私は枯葉の地面を踏みしめた。

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