拝啓――お父様、お母様。メンヘラ女子を拾ったせいでクビになりましたけど、社会復帰はどうすればできますか? 作:syruainu
夜の闇を裂くように、影が走る。
家々の屋根を軽々と飛び越えていく。
それはあまりにも不可解な光景だった。
何せその影は、一人の少女だった。
頭につけているの帽子であり、その身につけているのは薄いワンピ―スである。背にはリュックを背負い手に持つのは長く捻じれた杖。さながらまるで絵本の中から出てきた様だった。
そんな姿の人間が――それも童女が――家という家の屋根を飛び渡るのだ。
「――――ッ」
羽の様に飛ぶの身には一体どんな理屈があるのか……彼女は息を荒くしながら、まるで何かに追われる様に家々を移動する。
――そしてその後ろを追う影が、複数。
ロ―ブに包まれたその人物達の顔は夜の闇もあってみる事はできない。
しかしながら、それぞれが持つ杖といい、彼女を追いかけている事だけは分かる。
「しつこい……!」
彼女は裏を確認しながら、いら立ちを含めて呟いた。
「ならこれで……!」
彼女の手に力がこもり、顔の至る所に青い線が走る。瞳がネコ科のそれになると同時――足元の屋根を壊しながら前に跳ぶ。
「逃がすか!」
彼女の背後にいる影から声が飛ぶ。そして前からも人が現れ、彼女に向かって杖が向けられるが、それを彼女は鋭い息を吐きながら飛び越えた。
光弾を超え、着地。そのまま後ろを見ずに、前に進む。裏ではまた男達が追う気配があった。足音が鳴り、こちらへと近づくのがわかる。
「――多いわね」
いつになく、敵が多い。ここまで数が多いのは、久しぶりだった。
「これは、間違えたかな」
彼女はポツリと呟いた。
この数だ。ならば準備をしてたとみるのが妥当である。ならばこの先は――
「それでも逃げなくちゃ」
想像した予測――それはあまりいいものではないが、だからといってここで諦める訳にはいかない。捕まれば何をされるか分からない。死より酷い目にあうなんて事もある。むしろそっちの方が可能性は高いだろう。もし友好的ならばこの様にはなっていないのだ。彼女の手に持つ杖に力がこもる。内包された魔力が走り、全身を強化した。
「――――っ!」
屋根を踏みしめて前に進む。周りには壊れたカワラの破片がまう。だがそれを気にせずに前に進む。そうでなくては、後ろに追いつかれてしまう。
ただ――前に。この場から逃れる為に。前に。
「終わりがないわね……」.
逃げなければならない。
そうでないみとか失うものがたるたからこそ
けど私は一体いつまで逃げればいいのだろう——
●
――何故自分がここにいるのか。
自分がどうしてこうしているか。それを僕はよく覚えていない。
頭がガンガンと痛む。どうしてこうしているのか。何故なのかを覚えていない。
「うぁ……」
気持ちが悪い――今にも腹から何かが出てきそうだった。
空をみれば丸い月が見える。
周りを観ると白い砂漠。その中に一人の女性がいる。
「あ――」
誰なのだろうか/知っている。
顔は暗くて見えない/覚えがある。
僕の知らない人だ/私は覚えている。
ぐるぐると思考が回る。まるで違う誰かが中にいる様に、相反するものが行きかう。
「君は」手を伸ばして「誰なんだ?」
――――私は
●
ゴ―ルデンウィ―クを過ぎ、学生だけでなく社会人である自分もまた、いつもの日常に戻ってきていた。
仕事を終わらせて、残業を済ませて電車に揺られて家に向かう。
周りをみれば家からもれる明かりぐらいであり、大通りから外れれば静かなものだった。
自分が歩く音と、手にもつコンビニ袋が揺れる音が大きく聞こえるほどである。
だから――――余計にこの音は響いて聞こえてきた。
ガンッと何かを蹴るような音が響く。
「……なんだ?」
音が何処から響いたのかと周りをみる。
けれど音の原因の様なものは見えない。
「野良猫……もしくはタヌキとか?」
周りには人影は見えない。となれば可能性があるとすればそれぐらいだろう。
そう思い、そのまま前を向こうとし――
「どいてぇぇぇぇぇ!」
パッと声へと顔を向ければ、そこには人。
ひらりと舞うロングのスカ―トを片手で抑え、もう片方には長いまるで杖の様なものを持ちながら、頭を押さえている。
はぁぁぁぁ!?
それが降ってきている。どういう事だろうか?
ぶつかる――と思った時にはもう遅かった。
「あ、白――」
降って来た女性にサ―フィンされながら至る所がアスファルトで削れていく。
この感覚、昔にトラックにひかれた以来だなと頭の隅で考えいた。余裕があるなと思いつつも、実際は凄く痛い。
僕は慣れてはいるけれど、だからといってこの扱いは一体なんなのだろうか。普通の人間ならば死んでるだろう。
「あ……ちょっと悪い事したかしら。……し、死んでないわよね。治さなきゃ!」
ちょっと……? これで……?
この娘の論理感はどうなってるんだろうか? 口を開くこともできない、血をダクダクと流している僕を見て、これだ。
というのも実の所、僕はちょっとした特異体質で良く分からないのだが怪我の治りが異常に早い。トラックに引かれた時も潰れたと思ったら治った。正直自分自身でもこの体質は気持ちが悪いし、どうかしていると思う。
なので、このままほおっていても僕は治るのだが、彼女にはそれは分からないだろう。
トンっと軽快な音が鳴ると、僕の体から痛みが引いていく。
「これでよし。はやく逃げなきゃ!」
こちらの様子を見る事もなく、そのまま去っていく。
むりくりと体を起こして、去って行った方向をみるが、既に遠くである。
「なんだったんだろうか……?」
いきなり空から降って来たと思ったら、去って行った。
白……という印象しか残っていない。
「こういうのって通り魔でいいのだろうか」
ぼんやりとそんな事を考えていると――また上から人が降ってくる。
降って来たのは数人の男である。
なんだ? 流行っているのだろうか。
「――なんだ? お前?」
「え、いや、その……あの……皆様方、どうして僕を囲むのでしょうか?」
どうやら今日は厄日であるらしい。
――この不幸。ハロ―ワ―クにでも行けば解決できるだろうか。
●
逃げる。
逃げて、逃げて、逃げる。
後ろからくる自分の追手から出来るだけ離れる様に。
「……さっきの人には悪い事をしちゃったな」
咄嗟だった。
彼女はまさかこの空間にあんな人がいるとは思ってなかった。
何故ならばこの空間自体は閉鎖した空間である。閉じた空間であり、ズレた空間だ。だからこそ、周りにを見渡しても誰もいないし、自分たちだけしかいないのだ。何もない一般人が入れる場所ではない。
――出来るだけ早くここからでなくちゃ。
脚を動かしながら、そう彼女は思った。今の彼女の状態は罠にかかった獲物である。待ち伏せをされた結果であり、直ぐにこの場から出るという訳にはいかなかった。
「でもどうしよう。誰が用意したのか」
こうした空間に作用する魔法においては、準備がいる。けれど、それのやり方は様々だ。それが分かってないと抜け出すにも抜け出せない。
「……とにかく今は、離れて」
手段が何であれ、とにかく今はこの場から離れる必要があった。彼女は脚を動かす。
だが自分の行く先に目を向ければ人影。
そして自分に向けられる杖――。
それを見て、彼女は急ブレ―キかける。だがそれは間に合わない。迫りくる光弾を受け、体が空を舞う。受けた場所に熱が帯びる。だがそれが治り、白い肌が敗れた服から覗いた。空を舞った体が地面に打ち付けられる。彼女の手から杖が離れ、硬い音が空気を揺らした。
「あぅ……」
「ここで、終わりだ」
周りをロ―ブの姿に囲まれる。
彼女は手を杖に伸ばすも、その杖は男達の足によって蹴り飛ばされた。
――嫌だ。捕まりたくない。死にたくない。
だがしかし、自分を一体誰が助けてくれるというのか。
誰も――
「あ―……ちょっとそこの人達いいかな?」
裏から声がして、それに反応して男たちがそちらへと意識を向ける。
やってきたのはワイシャツを血で濡らした人だった。
それはさっき彼女が踏みつけた彼であり、まるでこの場においては場違いだった。
「えっと……そういうのは良くないんじゃないかなって」
無言で男たちが杖を向ける。
魔力の光が手から杖に走りそれが先端から攻撃性魔法に変換される。
そしてそれは魔法へ――実体をもって今現れた彼の上半身に。
「あ――」
それは、容易く人ひとりを殺した。
他愛無く、そこにいた人を無残に。
「――――ッ」
声に、ならない。
――また自分が、誰かを巻き込んでしまった。
これが嫌だったから逃げていたのに。
誰かを自分の事情に巻き込むのが嫌だから逃げていたのに。
目の前に現れた彼はどこまでも一般人だった。
どうしてこの場にいるのかすら分からない程に。
だからこそ、目の前の光景に息をのんだ。
「――――さっきといい、流石に僕でも怒るよ。この仕打ちは」
「――ッ! なんだお前は!」
時間が巻き戻るように破壊された肉体が逆転する。
飛び散った肉片と血がその場から元の場所に集まっていく。
その様子に周りにいる男たちが驚愕の声を上げて、後退りをする。
「ただのサラリ―マンかな」
しかし彼は周りの様子など気にする様子もなく、どこかのんびりとした様子で、自分の身に起こった事がまるで何でもないようにこちらへと足を進めた。
――何が起こっているの?
これは一体なんだというのか。
目の前に起こっている事に自分の理解が追いつかない。
「ところでもう一度聞くんだけど、何というか、集団で女の子を虐めるのってよくないんじゃないかな?」
「お前は一体何なんだ……!」
「あ―……それは痛いからやめてほしいかな」
ジリジリと後退しだし彼女から男たちが離れていく。
その手の杖には魔力が集まり、そしてそれがまた同じように彼に当たるが、また同じ光景がくりかえされる。
破壊/再生
破壊/再生
破壊/再生
「ひぃっ……」
これは、一体なんだというのか。壊され、腕を吹き飛ばされながらもこちらに向かって淡々と歩いてくるのは単純に恐怖だった。
そのくせ暴力は振るわない。
有り体に言えば不気味であり、得体が知れない。
周りの男達――彼らはそれを見て顔を見合わせると、まるで蜘蛛の子を散らすように去っていく。
「あ―大丈夫……?」
伸ばされた手と、困惑しながらも笑みがこちらに向けられる。
この手をとっていいのか。彼女はひどく迷った。目の前の人間はあまりにも得体が知れなかった。そもそも人なのかすら分からない。
だが——こうして助かったのも事実だった。
彼がいなければ、今頃は男達に連れ去らていただろう。
おずおずと手を伸ばし、彼の手をとる。
掴まれた時に暖かさを確かに感じる。死人では無い。
その手に引っ張られて、身体を起こす。
「ああ、無事かな?」
「……うん」
「それは良かった」
改めて顔をみれば心配している表情を浮かべている。
どこかそれに安心し、周りをみれば杖が転がっているのがみえた。
「あ、杖は?!」
「杖?」
飛ばされた杖に駆け寄り、手に持ち、魔力を流す。
何時もの様にながれる。無事だというのがわかる。
「良かった……!」
趣味で書いてる。