「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません、こんな時間に大人数で押しかけてしまって」
ひかるのメッセージを受け取った私たちは、あの後すぐに私が乗ってきた車でオンライブの本社からひかるの家へと向かった。こんな時間だからだろう、幸い道は混んでおらず、ここに来るまでにそれほどの時間はかかっていない。それでも、この時間は人生の中で最も長く感じられた瞬間だった。たぶん、私だけじゃなく他のみんなも同じ気持ちだっただろうと思う。
「いえ…あの子のために集まってくださって本当に嬉しいです」
「助けに来た」
「助けに来たよ」
ゆっくりと、閉ざされていたはずの扉が開かれる。扉の先から覗く、音もなく涙を流す彼女の姿を見て、私は迷うことなくその小さな身体を抱きしめた。
◇
部屋を開けると、いきなり
「ひかるちゃん」
りーちゃの体温を感じながら、そっと目元をせーちゃんに拭かれる。少し気恥ずかしい。でも、嫌じゃなかった。ようやく涙が収まって、周りが見えてくる。そこには三期生のみんながいて、ママがいた。
りーちゃの背中を優しく叩いてハグから解放してもらうと、オレはママの方へ一歩踏み出す。
「おいで」
ママがその言葉を最後まで言い終わる前に、オレはママをぎゅっと抱きしめていた。ごめんね、という思いを込めて。それにきっと、みんながここに来てくれたのはママのおかげでもあるから、ありがとうの思いも込めた。変な話かもしれないけれど、言葉が話せない分、いつもよりもずっと素直になれていた。
(みんなに、ちゃんと全部聞いてもらおう)
これまでのオレのことも、本当の
それが今、オレのことをここまで想ってくれるみんなへできる、唯一のことだと思った。
◇
すこし大人っぽくなったひかるちゃん…じゃなくて、ひかるちゃんのママとのハグを終えたひかるちゃんは、私たちを部屋の中に招き入れた。明るい色で揃えられた、女の子らしくてとっても可愛らしい部屋。それなのに、どこか少しひかるちゃんのイメージとズレる部分があるな、と感じた。
部屋の中はかなり広くて、私たち全員が座っても余裕なくらいだった。ひかるちゃんは配信用の机に座ると、パソコンの電源を入れる。そして、置かれていた二つある画面のうち一つを指さした。
カタカタとタイピングの音が響き、画面に表示されているメモに文字が打ち込まれていく。
信じられないことかもしれないけど
聞いてくれる?l
もちろん、と私たちは答える。ひかるちゃん、そしてあかりちゃんという存在自体が私からすれば信じられないような奇跡の結晶そのものだし、今日初めて会った、少し年の離れた姉にしか見えないひかるちゃんのママだってそうだ。私たちの返事を聞いて、ひかるちゃんは淡く微笑んで続ける。
今から半年くらい前にオレはいきなり女になった
その前は男だったl
お、男…? こ、こんなに可愛い生き物が…?? …いやでもなんでだろ、ちょっと納得できる部分もあるような…?
「それは…性自認的なものか? それとも…」
こことよく似てるけど、少しだけ違う世界で男の星宮ひかるとして生きてた
ある日朝起きたらこの世界にいて、この身体になってたl
「TS…」
莉緒が小さく呟くように言う。ひかるちゃんは頷きつつも、少しだけ違う、とメモに書いた。
少しだけ違う
憑依?とかに近いかもしれない
別世界から魂?精神?だけがこっちの世界に来たんだと…思う
元々、VTuberに応募してたのも、歌や声のトレーニングをしてたのも
オレがこの身体にくる前の、本当の星宮ひかるがやってたことl
堪えるように、あるいはその逆に全てを諦めて白状しているかのように、文字は続く。
オレは本当の星宮ひかるから文字通り全部を奪ってVtuberに、宵あかりになったl