TSして自由なVtuber生活!   作:ae.

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97『今、この夜を』

 それからひかるちゃんはポツポツと、ゆっくりだけど確かにメモへ、何があったのかを書いていった。タイピングの音だけが部屋の中に響いて、私たちは何も言えないまま、ただ記されていく言葉を追っていく。

 最初にひかるちゃんが書いていた通り、その内容は普通なら到底信じられるものではなかったけれど…ここにいる私たちにはどこかピッタリと、欠けていたピースが埋まっていくような感覚があったのだと思う。

 

 あまりにも自然に見えたTSっ娘というキャラクターも。

 こんなにもたくさんの人を魅了しているのに自分に自信がないように見えるところも。

 そして、私たちとのこれまでの接し方も。

 

 今のひかるちゃんの話が本当なら、全てしっくりくるから。だからきっと、今私たちの前にいるひかるちゃんが、元々のひかるちゃんの身体に入ってしまったというのはきっと事実で。…だからこそ私はどうしようもなく、今ここにいるひかるちゃんを、そしてこれまでのあかりちゃんを責めるひかるちゃんのことが許せなかった。

 

 □ *無題 -メモ帳
 
_  □  ×AA

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 聞いてくれてありがとうl

 

 

                    2行、12列      100% Windows(CRLF)  UTF-8
 

 

 ねぇ、なんで。

 

 □ *無題 -メモ帳
 
_  □  ×AA

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 ちゃんと、みんなにだけは話したかったl

 

 

                    2行、19列      100% Windows(CRLF)  UTF-8
 

 

 どうして、そんな風に自分を責めるの?

 

「ひかるちゃんは…あかりちゃんは…」

星奈(せいな)…?」

 

 ごめん莉緒(りお)、ひかるちゃんのママ。たぶんさ、私も二人みたいにひかるちゃんを抱きしめてあげるべきなんだと思う。でも、もう我慢できない。立ち上がる時に一瞬、ひかるちゃんの隣にいるひかるちゃんのママと視線が交わる。吸い込まれそうになる程、ひかるちゃんとよく似ているけれど違う瞳。その瞳の中には戸惑いや怒りの感情はなくて、ただ「この子のために怒ってくれてありがとう」という、そんな気持ちだけが読み取れた。ひかるちゃんがいい子に育っている理由が分かったような気がした。

 

「…もう一人のひかるちゃんが頑張ってたっていうのはよく分かったよ。でも、今私たちの目の前にいて、こんなにも心配されて、こんなにも愛されてるひかるちゃんはいったい誰?」

 

 びくり、とひかるちゃんが震える。大きな声出してごめん、でも!

 

「ひかるちゃんだって! 今日までずっと頑張ってきたんでしょ!? たくさん配信をして、歌の練習をして、ライブだって成功させて! 私が好きなひかるちゃんは他の誰でもなくって、今ここにいるひかるちゃんなんだ!!」

 

 それなのにっ…!

 

「彼女の努力を認めてあげるなら、自分の努力も認めてあげなよ! 確かに奪ったのかもしれない。でも、みんながずっと見てきた一番星は!」

 

 (よい)あかりは!

 

「他の誰でもなく、ひかるちゃん自身なんだから!!」

 

 

 あんなにあの時は話したいって、話さなくちゃって思っていたのに。いざこうしてメモに書き始めると、まるで上手くいかなくって。

 結局オレは、どうしたかったんだろう。少し考えて、やっぱり宵あかりを続けたい。Vtuberをやめたくない。…みんなと、まだいたい。そんなことをつらつらと思う。でも、メモにはとても書けなかった。こうしてみんなに聞いてもらって、書くべきじゃないと、そう思ってしまった。

 

 聞いてくれてありがとう、ちゃんと、みんなにだけは話したかった。そんなありきたりのことだけ書いて、オレはこの気持ちに蓋をしようとした。

 

 それなのに。

 

「ひかるちゃんだって! 今日までずっと頑張ってきたでしょ!? たくさん配信をして、歌の練習をして、企画だって成功させて! 私が好きなひかるちゃんは他の誰でもなくって、今ここにいるひかるちゃんなんだ!!」

 

 (ほのか)ちゃんが、せーちゃんが、初めて出来た友達が、オレを推してくれるリスナーさんが、一緒に配信してくれる仲間が、オレの推しが、離してくれない。

 

「彼女の努力を認めてあげるなら、自分の努力も認めてあげなよ! 確かに奪ったのかもしれない。でも、みんながずっと見てきた一番星は!」

 

 …ああ、そっか。

 

「他の誰でもなく、ひかるちゃん自身なんだから!!」

 

 オレが…宵あかりで。

 

「…あの時、信じてあげられなくてごめんね。私もたぶん、分かっていて見ないふりをしてた。でも、あなたが私に向けてくれる視線や言葉、それに愛情はあの子と同じ。だから、あなたも大切な私の子供で、誰が何を言おうと、星宮(ほしみや)ひかるなんだよ」

 

 …オレだって、星宮ひかるなんだ。

 

「う、うぅ…」

 

 また涙を流す。違うのは、そこに「声」があったこと。

 

「うわぁあぁぁあん…!!!」

 

 きっと簡単なことだった。ずっと前から答えは決まっていた。

 これが幻覚なのか、オレ自身が見せた都合の良い妄想なのかは分からないけれど。涙でぼやける視界の中で優しく微笑む、どこか宵あかりを想起させる男のキャラクターと、星宮ひかるの姿が確かに見えた。

 

(大丈夫。()は私で楽しくやってるから!)

 

 男の身体、楽チンでさいこー! …という幻聴はきっと気のせいなので聞かなかったことにして。

 こうして星宮ひかる(オレ)は、宵あかりは、失った声を取り戻したのだった。

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