──勝った。
為す術もなく手を繋がれ、『褒め方』と検索して売れ筋の上位にあったテクニック本を読んで得た、最強の褒め方を連続して絶え間なく浴びせた…もはや、
「もうすぐ…着く…よ」
「はい…ありがとう、ございます…!」
宵さんの声からもよく分かる、私への溢れんばかりの称賛と尊敬! 勝負を短時間に絞り、自分の能力のみを見せつけることで相手を負けた気分にさせる…今回の作戦は文字通り完璧にハマったと言える。
(勝ちましたね!)
(ええ、勝ちました)
(これが諦めの先にある勝利…!)
脳内の
(…………)
(……おとなな因幡?)
(どうしたんですか?)
(ま、まさか…)
微動だにせず瞳を閉じているおとなな因幡の姿に、とてつもなく嫌な予感が全因幡の脳裏をよぎる。しかしそのまま放置するわけにもいかず、他の因幡たちがおっかなびっくり彼女を揺さぶる。…バタッという無機質で大きな音が脳内の会議室に響き渡った。
(そ、そんな…)
(お、おとなな因幡!?)
(きゅ、救急車を!!)
いきなり倒れたおとなな因幡の姿にざわめく因幡たち。そんな中、前回の会議で辛くも処分を免れたつよい因幡がそのつよい精神を発揮しておとなな因幡の脈を測り…そして首を横に振る。
(14時22分…ご臨終です…)
──因幡たちの慟哭が、会議室いっぱいに溢れ出した。
◇
ゲームセンターの中へと踏み入って、始めに感じたのはその賑やかさだった。思っていた以上に置いてあるゲーム機…ゲーム台? …が多く、そして人もとても多い。入る前の決意があっさり揺らいでしまいそうになったが、因幡先輩…
「え、えと…と、戸崎さん! ま、まずは何から…」
今日何度目か決意を新たにして、そう問いかけたところで、繋いでいたはずの手がいつの間にやら離れていたことに気がついた。隣を見るも戸崎さんの姿はない。えっ、えっ?? 困惑しながらも辺りを探してみると…。
「私の骨は海の見える丘の上に埋葬してください…」
「ええ…」
先ほどまでの大人な余裕など微塵もない、しおしおになった戸崎さんが、入り口近くのソファに座り込んでいたのだった。
「いや、え、ええ…??」
突然のあんまりにもあんまりな姿に、状況が掴めず立ち尽くしてしまう。その間も戸崎さんは自らの骨を海の見える丘の上に埋葬してくださいと懇願していた。急に何言い出すんだこの人!? とりあえず戸崎さんの座っているソファの方へ恐る恐る近づくとスマホの通知が鳴る。
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1月20日 土曜日 14:24
.. .. LINE. 幽世誘 今 そういう時は背中をさすってあげると 落ち着くよ ..
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「…………」
なんかやけに具体的なアドバイスだけど…正直助かるし、今は従う他ないだろう。兎にも角にも戸崎さんの隣へと座り、優しく背中をさすってみる。他にもちょくちょく『近くの自販機にあるホットココアも有効だよ』とか『もう少しゆっくり目にさすってあげてね』とか『復活まであと一歩だよ』とか、様々なアドバイス+αが
「よしよし…ここには何も怖いものはありませんよ…」
「す、すみません…もう…もう大丈夫です…!」
その甲斐もあって、戸崎さんはついに元気を取り戻したようだ。オレの方はと言えば、最初の時の臨戦態勢から一転、甘えん坊モードの
「それはよかったです。けど、もし具合が悪いなら無理なさらず…」
「ぐ、具合は本当に大丈夫です! あれは単に、使い切った故の反動というか、なんというか…」
「?? な、なるほど?」
思ってもみない言葉が返ってきて?マークを浮かべてしまう。そんなオレの姿を見て、戸崎さんは「ちゃんと、ちゃんと説明します…!」と言ってからもう一度話し始めた。
「じ、実は今日のアレは一週間で10分くらいしか維持できないやつなんです…」
今日のアレ、というのは間違いなくあの大人な微笑みと余裕があったあの姿のことだろう。…つまり、とんでもない大技だが相応に消費も激しく、さっきまではその反動で動けなかったと…。それをここで使うとは、やはりこの場で勝負を決めに来たということなのだろうか…? いや、オレの方が勝手に戦いに結び付けていただけかもしれない。オレの表情から考えていることを察したのか、戸崎さんはさらに続ける。
「その…
結果は見ての通りですが…と落ち込んだ様子で彼女は呟く。…やはり戦い云々はオレの勘違いだったようだ。そう…戦いはただ虚しいだけ…今一度背中を優しくさすってあげながら、オレは落ち着かせるように、穏やかに言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですよ。ほら、お…わたしの同期の大人の人もすっっごいわたしに甘えてきますから…。年上だからって、いつもしっかりしてなくても良いんですよ…」
遠くでうぐっ、と声が聞こえた気がしたが、さすがに気のせいだと思う。
「だから…大丈夫、大丈夫です。それに一人でゲーセンに来れるなんて、戸崎さんはすごいと思います」
「ほ、星宮さぁん…」
よしよし、と戸崎さんを宥める。…若干店員さんやら、お客さんとかの視線を感じるので、戸崎さんの手を取って、とりあえずクレーンゲームがたくさん置いてあるところへと移動することにした。
「これ、これやりましょう? ね?」
「うぅ…はいぃ…」
戸崎さんはうぐうぐと涙を拭きながら、慣れた手つきで500円玉を入れると、これまた慣れた手つきでクレーンを操作し始める。その様子をドキドキしながら眺めていると、なんと3プレイ目にしてぬいぐるみを落としてしまった。
「え、すご…」
「ど、どうぞ…お、お納めください…」
「えっ?? あ、ありがとうございます…あっ、けどお金…」
「本当に…本当にいいですから…! 今日はせめて、お金くらいは私に出させてください…!」
「は、はい…じゃ、じゃあ…」
ありがとうございます、と今一度言ってぬいぐるみを受け取る。とっさに選んだクレーンゲーム機だったので景品が何かとか気にしてなかったけど…特に変なやつとかじゃなく、可愛い感じの動物…白いうさぎのぬいぐるみだった。女の子のオレが残していった今の部屋にはよく合いそうだ。
「ほ、他にも欲しい景品があればどんどん獲りますので…!」
「だ、大丈夫です! 次、次行きましょう!」
それからレースゲームをしたり、エアホッケーをしたり、音ゲーの太鼓を叩いたり。あとはオレがじっと見ていたのに気がついた戸崎さんが
戸崎さんは思っていたよりも本当はずっとお喋りな人で、レースゲームをしている時なんかは二人して妨害したりされたりする度にオーバーなリアクションをして笑い合っていた。
戸崎さんが倒れたときはどうなることかと思ったけど…今日は楽しい日だったと、そう思う。また行きましょう、だなんてコミュ障陰キャなはずのオレの口から自然と出てしまうくらいには。
◇
「一時はどうなることかと思ったけど、なんやかんやで楽しめてたみたいでよかったよ」
「二人ともすごく仲良くなりましたもんね」
「ひかるちゃん勝負って言ってたけどこれどうみてもデートだよね?? てかなにあの聖母モード!?!?!?」
「なんか私だけダメージ負ったまま終わったんだが…」
「自業自得」