ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
プロローグ
「ハジメくん、掴まって!」
「っ! 香織……どうして来たんだ! 天龍さんもなんでこんな事を!」
「絶賛落下中なのに2人とも余裕だね、実は?」
「余裕なわけないだろ!? このまま落ちたら僕らは死んでしまうんだぞ!?」
空を見上げれば光は点に。奥深く、見果てぬ闇の中を落ちる三つの人影。1人は少年、2人は少女だ。
翼もないのに虚空をフライウェイと言うなかなかに
ここに至るまでの経緯を思い出す。そこそこ腹立だしい胸糞の悪い行いをした男に対しては一発、死なない程度に魔術を以てして痛めつけて来たが、それでも「赦せない」と言う暗澹とした感情が心の奥底で蠢いた。
しかし、その心を嘲笑う……いや、言葉にして諌めるように。何者かが彼女の内よりつぶやいた。
『やめとけ、フタバ。覇龍になる気か?』
その何者かを諌めるようにまた誰かの声が彼女の内より発せられる。
『フタバが覇龍になるだと? 笑えない冗談はよせ‘赤いの’』
『くはは! ‘白いの’、不要な心配とは衰えたか?』
『ほざけ!』
彼女の魂に住う者たちこと、その存在たちがギャーギャーと騒ぎ出すと密かに頭を抱えながら双葉は彼らを宥める。
『アルビオン、心配しなくても大丈夫だよ。覇龍は面白くもない破壊の力だから。ドライグも心配してくれてありがとね』
‘白龍皇’と‘赤龍帝’の彼らの仲が悪いのはもう何百年と付き合う彼女にはよくわかるモノ。故に喧嘩を始める彼らを宥めるのも彼女の仕事だ。
『フタバ、やはりコヤツとは相いれない。数百年の輪廻を付き合ってほとほと理解した。早く追い出そう』
『何を言ってやがる白いの。神器になった以上、フタバとは離れられんだろうが』
『アルビオン、私たちは一蓮托生でしょ? ほら、手を貸して!』
『ぬぅ……仕方ない。赤いの、フタバに感謝しろよ』
『ぬかせ。それくらいはわかってるよ』
内なる者たちの言い合いを治め、双葉は背中に光を灯す。そう、自分たちはまだ落ちている最中なのだ……なお、精神世界での出来事は[ゼロコンマ秒]の間のやりとりなので、瞬きした瞬間に終わっているようなものである。
「さぁーて、2人とも。助かりたいわよね?」
「ハジメくんとまだ添い遂げてないんだから当然!」
「香織、恥ずかしい事を大声ではやめて!? いや、僕もほんとに嬉しいんだけどさ!?」
隙あれば惚気る
「南雲くん? 返事は?」
「生きたいに決まってるよねぇぇ!?」
2人の意思を確認して。双葉は「では、よろしい!」 と光を拡大させた。
これは、とある魔王とその花嫁、第一婦人に付き従う《二天龍姫》の物語がプロローグである。
■??? side
月曜日。人によっては地獄と形容するだろうし、その逆と形容する人もいるだろう。
私にとって休みとは‘修行の時間’だから別にあろうとなかろうとどうでもいいわけですが。そんな感じで登校前、私こと‘天龍双葉’はいつも通りの待ち合わせ場所にて親友を待つ。
「おはよう、双葉!」
「おはよ、香織。……やけに機嫌がいいわね? 何かあったの?」
「えへへ、わかっちゃう? わかっちゃうよね!」
「はいはい、南雲くんとデートでしょ。目的は達成したの?」
私が左手を輪っかにしてそこを人差し指で通すジェスチャーをすると、香織は頭上に? を量産する様子でこちらを見ていた。
「わかんないのね、やっぱ」
「どう言う意味なの?」
「貴女まで汚れる必要はないわ。純真なままでいなさい」
「……ハジメくんがまたヘタレたの」
「地雷踏んだわね……うん、南雲くんがそう易々と腹を括れるとは思えないもん」
どんより、機嫌が急降下する香織を宥めてフォローしつつ、反省する。まぁ、毎度やってるけどね、この茶番は。現に香織はなんちゃって、と舌を出して見せる。
「それはそうと香織、クラスの子達にバレたりしてないわよね?」
「もちろん! 見せつけるのは卒業してから、檜山くんとかと縁を切った後にしよっかなって!」
「……いい性格するようになったわね」
そんな与太話は置いておき、私と香織は登校するために通学路を行く。それにしても、最近は色々とあった。
そして、私を取り巻く環境の変化もまた劇的だった。
例えば、白崎香織。この子は私といわゆる幼馴染である。とある一件でとある男子に惚れて以降。あまりにも一途で惚気られるのはめんどくさかったので後押ししてゴリ押しで付き合わせる方に成功した。
数ヶ月前から‘南雲ハジメ’と言う男子生徒と付き合うようになり、付き合いたての初心な彼女は明後日の方向に走り去り、ここにいるのは彼を籠絡せんと糸を張り巡らせる女郎蜘蛛。いやー、誰のせいでこうなったんだろうね? ゴリ押しさせた……え、私?
教室に着くと。香織が愛しの彼は案の定、まだ登校していないようね。私は香織と別れ、しばし自分の机に突っ伏すことにした。 二度寝だ……早めの登校をする生徒の特権ともいえよう。
□noside
月火水木金土日。至福とも呼べる日曜日が明け、再び1週間が始まる。
日常の始まりに――社会人も学生も等しく憂鬱になる、その初日である月曜日だ――南雲ハジメはため息を吐きかけてそれを飲み込む。
彼にとって、1週間の始まりこそが地獄のように感じていたあの日々が懐かしく思えるようになった自身の変わりようを見て、「リア充」を呪って爆発しろと呪詛を吐いていた自分が吐かれる側に回るとは思いもしなかっただろう。
白崎香織と付き合う……その意味は全男子生徒を敵に回しかねない暴挙である。
理由としては学校で‘二大女神’と呼ばれる2人のうち1人である事。多くの男子生徒が焦がれる高嶺の花。文句なしの美少女かつ、最高の性格。まさに男が望むような完全無欠の美少女なのである。
なぜ自分が彼女と付き合うこととなったのか。最初は差し支えのない話で意気投合し、自分が中学生の頃あったとある出来事を目撃したときに実は一目惚れしていたと聞いた時は驚きが隠せなかったのは言うまでもなく。
その後も妙に意気投合する、相性が天元突破。まさに、「ハジメの求めていた彼女」と言う立ち位置に現在、香織は潜り込んでいたのだ。
なお、事あるごとに蠱惑的な微笑みと扇情的な衣装で自分のベットに潜り込んでくるが、ハジメはまだダメなんだ! と理性的に耐えていた……まさに鋼の意志である。
なお、その副産物か。香織を含めてもう1人、ハジメの友人が増えた。
藍色に近い黒髪と整った顔立ちに少し垂れ目気味の双眸はサファイアのようにキラキラとしている青眼の美少女様。香織にとって幼馴染の1人であり、もっとも彼女との縁と言えばハジメ自身と同じ‘オタク’仲間である。
そう、香織のオタク知識は彼女からもたらされているのだが、ハジメは純真な心で香織と付き合っているためその辺に関しては全く知らない……秘すれば花か。
さて、そんな事を考えながら。ハジメが自分の席に着くと香織がやってきた。
「おはよう、南雲くん!」
「うん、おはよう。白崎さん」
周りの男子から殺気が飛ぶが、ハジメは動じることもなく……逆に無視して香織と談笑を始めた。
この辺はもう慣れである。そして何より、ハジメは形として実力を見せつけている……と言うのも、ハジメの成績は上から数えて2番目である。
ハジメと言う男は根が超優等生かつ、超努力家なのだ。それは長く険しい道のりであったに違いないだろう。
徹夜はしないと言う約束の元、両親の仕事を手伝い。公私にメリハリをつけた生活でかつての遅刻ギリギリの登校時間は予鈴がなる前には学校に来ている。そして、何より授業中に居眠りはせず真面目に教鞭を聞く優等生。
香織と対等に話せる相手の座を手に入れた彼を責めるのはお門違いなのだと……男子たちは泣く泣く「リア充め、爆発しろ!」と言う視線を飛ばすことしかできないのだ。
「メタスラの隠し要素って掘っても掘っても尽きないのって魅力的だよね」
「うん。あのステージってさ」
2人の談笑に割って入れる人間は限られる。それは大馬鹿で身の程知らずで厚顔無恥なド阿呆か、あるいは香織の幼馴染くらいだろう。
「ヨォ、キモオタ。メタスラとか言うエロゲを白崎さんに勧めんなよ!」
「うっわ、キモっ! オタクってほんと節操ないよねー」
ゲラゲラと笑いながら2人の会話を聞いていた1人の男子生徒と3人の取り巻きが割って入ってきたのである。
話しかけたのは檜山大介。そして近藤、斎藤、中野の取り巻き3名である。
しかし、そこに割り込んだのは……
「ヨォ、知ったかぶり野郎。《オタク=エロゲ》とか言う幼稚な頭弱い発想はやめといたら? ほら、現代人の開発した叡智であるグーグン先生に聞いてみなさいよ、メタスラって」
「んだと……げっ天龍……さん……」
やってきたのは寝ていたはずの天龍双葉だった。彼女は檜山を追い払うように現れ……
「あんたらさぁ。謂れもないこと言われたら気分悪くないの? 道徳心たりてる? 人の嫌がることしたらダメって親に習わなかったの? つか、あたしいつもこの注意してるわよね? 何度言えばわかるの? ああ、鶏以下の記憶力しかないのね? あんたらの残念なオツムに何度でもわかりやすく説明してあげようか? ……ゲームのことをロクに知らないガキがメタスラを語ろうとしてんじゃねえよ雑魚が」
人知れずガチギレしていた。言葉の節々に毒という毒が仕込まれていて、双葉が命名した檜山たち小悪党組の心を抉るように言葉を叩きつける。
「は、はい。すみませんでした」
檜山も打ちひしがれ、借りてきた猫のように大人しくなった。
「わかりゃあいいのよ。あたしの席そこなのよ……邪魔、退け。とっとと失せろ」
理不尽に怒気を孕んだ凄みのある声音で檜山たちを追い散らし彼女は悠然と自身の席に座った。
「見苦しいもん見せて悪いわね、南雲くん」
「いつもありがとう、天龍さん。情けない話、助かってるよ」
「隣の席だし、単純に檜山のデクノボーが邪魔だったから追い払うのは当然でしょ?」
「さすが、双葉ちゃん! メスゴリラのあだ名ば伊達じゃないね!」
「……香織、誰がメスゴリラだって?」
「間違えた、女版不破諌! だった!」
「どのみちゴリラでしょおーがぁぁ!!」
ウガーッ! 席を立ち香織を追い回しだした双葉。きゃーと楽しそうな笑みを浮かべる香織に苦笑いするハジメの元に。3人の男女がやってきた。
「南雲くん、朝から大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いてるのか? 本当に香織は優しいな」
「いや、いい加減認めろよ、光輝」
八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎の3名である。雫は双葉、香織の親友であり、良き友である。また、香織の恋愛相談を受けた折にハジメと彼女の関係を知っている理解者の1人である。
天之川光輝は言うなれば容姿端麗にして、イケメンである。以上
坂上龍太郎は光輝の親友であり、また。朧げに香織とハジメの関係にも気が付いている熱血漢と言ったところだろうか?
「ふぅ……あん? 偽善野郎、おはよう」
「おはよう、双葉。その偽善野郎はやめてくれないかな、ほんとに、お願いだから」
「なら、今すぐその脳内御花畑を焼け野原にするくらいまで竹刀の素振りでもしてきたら?」
双葉の挨拶に対し、光輝はヘコヘコしつつも訂正を呼びかけるが。双葉は掛け合わずに無視した。これには周りの女子たちの視線が彼女に突き刺さる。
光輝くんになんてこと言ってんのよ! と抗議しているようにも思えた。
「うっせえなぁ……意見があるなら口で言いなさいよ」
双葉はギロリ、と周りをグルリと見渡すが。口にするものはいなかった。
そうこうしているうちに、始業のチャイムが鳴り渡る。
教師が入ってくるのを確認した面々は色々と話しながらも別れ、自らの席につくのであった。
──
to be continued .
お久しブリーフ……と言うわけで、再編集したので直しながら投稿していきます。