ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
□noside
──ギジャァァォァァァァッッッ!!
大きな四つの鋏を振り上げ、二本の尻尾を広げるように。悠然とした威嚇の姿勢をとる弩級サソリの化け物を前に、ハジメは不敵に笑い、双葉は苛立ちに眉を釣り上げる。
「不意打ちとはいい度胸ねぇ? ハジメ、やっちまうわよ」
「上等、邪魔するってんなら……」
「「殺して食い尽くす!!」」
サソリは雄叫びを上げると片方の尻尾を肥大化、そして散弾のように棘を射出する。結構な速度で放たれたそれを双葉が槍を用いて払い、‘豪脚’で蹴り飛ばす。
まるで分身しているかのようなスピードでちょこまかと動き回り。的確に香織、ユエ、ハジメに直撃する棘を切り、弾き、蹴り。防ぎ切って見せる。
「ハジメ、ユエに神水を飲ませたげて!」
「そうか。香織、ストックは?」
「えっと、まだまだあるよ!」
「なら……ユエ、これを飲め!」
「……うぐっ!?」
ハジメはユエを肩に担ぎ香織は自分が管理している神水を取り出すと、ハジメにパス。彼は抱き直したユエの口に突っ込んだ。
いきなり異物を口に突っ込まれ、犬歯に試験管がわりの金属管が当たり。ユエは涙目になるが、緊急だから許すと。
そして中身を飲み干すと、一瞬にして自身の飢餓は消えぬが、衰弱した体に活力が漲り。抜けていた魔力が満ちていく。
驚いているユエをハジメは背中に背負い。双葉が惹きつけているサソリモドキにドンナーとシュラークを向ける。
「ユエ、しっかり掴まっとけよ! 香織、双葉の援護だ!」
「了解! 双葉、いっくよー!」
「さすがに、そろそろ、余裕がぁぁぁぁ!!」
四つの鋏を避け、弾き、豪脚で蹴り払い。ガングニールで四つ目の鋏を受けて鍔迫り合いに持ち込む双葉に余裕はないように見えるが。
──叫ぶ余裕があるじゃねえかとハジメは内心でツッコミつつ。ドンナー、シュラーク、デュランダルが火を噴いた。
最大威力で、秒速三・九キロメートルの弾丸が三発。サソリモドキの頭部に炸裂するが……ギュン、チュインッ、ガギャアンッッッ!!!
その全ての弾丸は派手な音に火花を散らしてその硬い外殻に阻まれた。
「ちっ、クソ硬いな。双葉は物理ファイターだぞ!」
「ハジメ、あれ見て! やばいのくるよ!」
そんな中で、ハジメの背中越しにユエの驚愕が伝わって来た。見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放ったのだ。少しだけ魔法の気配はあった。それが原因か、右手に電撃を帯びたようだが──それも魔法陣や詠唱を使用していない。
つまり、ハジメが、香織が。自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということに、ユエは気がついたのである。
自分と‘同じ’、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりもハジメ達を意識せずにはいられなかった。ハジメ達にヘイトを向けたサソリモドキは、片方の尻尾の針を彼らに向ける。そこから噴射されたのは、紫色の液体だった。
かなりの速度で飛来したそれを、ハジメはすかさず飛び退いて、香織は縮地で移動してかわす。着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解性の極めて高い酸性の毒だろう……毒耐性すら無視して溶かされそうなそれにハジメは頬を引き攣らせる。
「オラオラオラッ! ──香織、双葉! 頼む、リロードだ!」
「任せて! 双葉、隙をお願い!」
「そのつもりだよー!! だぁらっしゃぁぁぁ!!」
ドンナーとシュラークを連射。引きつけてできた隙に片方から香織がデュランダルで横面を撃ち抜く。
香織に気が行くと真正面から、強烈な槍の一撃を叩き込まれ。サソリモドキは後退する。
「明らかに硬すぎんよコイツ!」
「見りゃわかるわ! くっそ、双葉のフルパワーでやっと後退させれるってどんなバケモンだよ!」
「落ち着いて二人と……ハジメ! 避けて!」
「ちっ……‘爆縮地’っ!」
「あん……うおっ!?」
その巨体に似合わず、サソリモドキは跳んだ。ハジメ目掛けて、だ。暴虐的なその光景に一瞬呆けたハジメは足を止めてしまう。
そこへ、双葉が滑り込み。ハジメとユエを体当たりで跳ね飛ばした。
「っ、双葉ァ!?」
「しんじゃいやぁぁ!?」
「勝手に殺すなぁぁぁぁ!! まだ生きとるわ……ぐっ、重いぃぃ……しぬぅ……!!」
双葉は下敷きにされる寸前に槍を投げ、天井に突き刺し。腕ででのしかかりを防いだのだ。潰されることはなく、耐えている……そして。
「
[
擬/赤龍帝の籠手を出現させ、倍加を使う。侮ったわけではなく、維持にも魔力が必要なため、温存せざるを得ないのだ。
「双葉、倍加止めて吹っ飛ばせよ!?」
「できるならやっとるわぁぁぁ!! ステータス的にあと、20秒ひつよ……」
──ギジャァァォァァァァッッッ!!
踏み潰せない怒りからか、暴れ出すサソリモドキ。双葉は潰されないように必死になり、ハジメ達は猛攻にさらされる。
「ちっきしょぉぉぉ! こんなところで……」
死ぬのか、あたしは……
■双葉side
このままじゃ、全滅はないにせよ、あたしは死にそうだなぁ……なんて考えながら、跳んで跳ねて押し潰そうとしてくるサソリモドキの腹を片腕で支える。たしかに2倍にすれば、一時期は防げるだろう。だけど、結局ジリ貧で潰される。
倍加を止めて
選択を間違えたと考える。ふと、みんなの声が聞こえる。
「双葉、諦めんな! まだ、まだだ! 耐えろ!」
「双葉ぁぁ! 絶対助けるから、死んじゃやだよぉ!!」
ドンっ、ドパン! ドガン! と銃声が鳴り響くが、哀愁漂う。金属音が鳴るだけだ。
巨大な壁のように、大質量が降ってくる。今のうちに逃げれる……しかし、体が動かない……無茶しすぎたかな……
迫る黒い塊。激突まであと5秒……
スローの世界であたしは今一度考える──二天龍姫、あたしは敗北したくない。こんなところで死にたくない!
「……死んでたまるか。そうだ、エヒトぶん殴るまで……死ねるかぁぁぁぁぁ!!」
[──倍加ッ!!]
途端に力が漲った。あたしの怒り、オーラとなって。立ち上がり、落ちてきたサソリモドキを受け止め、持ち上げる!
「双葉……怪力……」
「ああ、アレが天龍双葉だ! 諦めが悪くて、俺たちの誰よりも強い奴だ!」
ハジメの言葉は素直じゃない。だけど、心がぽかぽかする……そうだ、忘れてた。
これは……
『赤いの。フタバの願いだぞ……歪み合う私たちに根気よく付き合ってくれた彼女にたまには礼をするべきだろう』
『ほざけ、白いの。だが、気に食わんが一理あるな』
『なに? なんの話?』
精神世界であたしは‘二人’と向き合う。二体のドラゴンはこちらに視線を向けると赤と白のオーラを爆発的に発する……!?
『『我ら二天の龍、対なりし力、互いに補完せり。至るは夢幻、或いは無限っ!! いつか見た、龍神への
[Welsh Dragon
そのオーラはあたしの体から漲る……っ!!
「オーバードライブっ!! そうだ……あたしは今、負ける気がしねぇぇぇぇぇぇ!!」
立ち上がれないのは、自身が折れたから。あたしは、自分に負けかけた。諦めかけたから! あたしは腐ってもヴァルキリーだ! こんなところで、敗北してやる道理はない!
「おばあちゃんが言っていた! 足が折れたなら手を使って敵の首を折れと。手がちぎれたなら敵の喉笛に食らいつけ、と!」
「物騒すぎるよ、双葉のおばあちゃん!?」
香織の突っ込みはこの際スルー! あたしは飛翔する!
[倍加ッッ!! ──Explosion‼︎]
「擬/白龍皇の光翼っ! さぁ、反撃開始だよ!」
あたしは光翼を発現させ、高速で空を飛び。倍加によって敏捷を底上げされた今、誰にもあたしを止められない! 空中で変幻自在に飛び回るあたしを捕らえようと鋏を振り回すサソリモドキ。天井に突き刺さっていたガングニールを回収して高速で突き込む。火花散らせてこっちの攻撃は全く効いてないけどな!
「ハジメ! こいつ、物理攻撃が無効化されてる感半端ないから! 魔法でケリつける方がいいわ!」
「そうか……! ユエ。頼めるか?」
「ユエちゃん、貴女ならどうにかできるんでしょ!? 私はハジメが信じた貴女を信じるから、派手にやっちゃって!」
「……うんっ!」
ユエがハジメに噛み付いたのが見えた。ならあたしは……食事の邪魔をさせる訳にはいかないわよね?
そんな二人を守るためにか、障壁を張り二人を守る香織の姿も見えた……縁の下の力持ち……頼りになるわね!
「お前の相手はあたしよ!」
──ギャァァォァァァァッッッ!?
背中を突き、潜り込み。サソリモドキの顔面を七トンのキック力で蹴飛ばす。サソリモドキは後退。憎々しげにあたしを見上げて、溶解液と棘の散弾を射出するが……
「そっくりそのまま返してあげるわ」
[
棘は全て槍でなぎ払い、溶解液があたしにかかりそうになる。けど、それは不可視の障壁に阻まれ。数瞬止まると……勢いそのままに撥ね返す!
──ギャァァォァァァァッッッ!?
「もういっちょぉぉ!!」
悲鳴と共に、ジタバタともがき。自分の毒に尻尾の針を溶かされて混乱する奴に、追い討ちで潜り込んでの全力全開の空中サマーソルト! サソリモドキは宙に浮くとそのままひっくり返る!
無様にジタバタして周りを破壊しているところへハジメの錬成が伸びてくると……サソリモドキの腹を上に向けて固定する! だけど、時間稼ぎにしかならない? 本当にそう思う?
錬成された壁を破壊して起き上がる頃には……
「今よ、ユエッ!」
「……‘蒼天’っ!」
その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。
思わずあたしはボケっとそれを眺めてしまうけど、逃がすかぁ!!
「喰らえ、
あたしはガングニールを構え、その穂先に炎の魔力を収束させる。流石に、ユエのと比べると
それでも直径は四、五メートル。それを……叩きつける!
直後に火柱が上がり、炸裂音。そして高温の炎がサソリモドキの視界を灼く。
──ギシャァァァァッ!?
ふらつきどこに逃げればいいのか判断できないのか……右往左往する奴の背中に青白い炎の球体が着弾。
凄まじい悲鳴が部屋に響き渡る。
あたしは、殺されかけた恨みを晴らすべく。ガングニールを射撃モードに移行させると、赤龍帝の籠手と融合させ、くっつける。
ガングニールのカラーリングが侵食されるように赤く、紅く。赫く染まり。
シャコン、と小気味のいい音が鳴り。展開される穂先……内部機構がむき出しになり、赤黒い雷がだんだんとその出力を上昇させていく。
ヒュィィィィン……とチャージ音が悲鳴にかき消されそうになりながら響き渡り。
[Charge Clear Limiter Full Open‼︎ ──Danger! ──Danger!]
「これ、でぇぇぇぇ……」
あたしはトリガーに指をかける。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
[XCEED・BREAKERッッ‼︎]
トリガーを引く。そして、機構内部の撃鉄が
圧縮された濃密な魔力にガングニール内に仕込まれた砲弾内、燃焼石の炸薬が凄まじい炸裂音と共に薬莢内でプラズマの領域にまで温度が上がり燃焼、超圧力のガスが飛び出して砲弾の推進力に。
砲弾は赤黒い雷に触れると魔導的電磁加速で秒速四.二キロメートルにまで加速して……さながら‘インドラの雷’。反動も凄まじく……マズルフラッシュどころか、余剰エネルギーの魔力がそのまま吹き荒れ、さながら光線のように連なり、照射されると。サソリモドキの装甲を焼き焦がし、融解させる。
閃光は瞬きする間も与えないと言わんばかりに。蒼天に焼き焦がされた部分を的確に射抜いた。そして‘ギョォォォォォ……’と遠ざかる音。
その数秒後……雷鳴が、あるいは世界が嘶いたか。とんでもない轟音と共に迷宮全体が大きく揺れた。
「「「「……」」」」
断末魔を上げる間もなく、沈黙するサソリモドキ。その様はあたしも含めて、静寂が世界を包み。全員何も言えなかった。一撃だった……甲殻が弱っていたとはいえ、とんでもないその火力に負けたのか。サソリモドキの頭部をぶち抜き、そしてその下の床もついでにと言わんばかりにぶち抜いていた。
「……封印した方がいいわね、これ」
あたしの呟きに応えるように、ハジメが。カクンと人形みたく首を縦に振るのを見てクスリ、とだれかが笑った気がした。
こうして、ボスっぽいサソリモドキは倒されるのであった……自分でやって置いて言うのもアレだが。笑えねぇ、この威力。
──
to be continued