ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双   作:ゆきほたる

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龍種の魔力に御用心

 □noside

 

「よし、あとは組み立てだな」

「この弾丸と薬莢形状から省みて、口径は半インチ(五十口径)弾だね?」

「流石に双葉にゃわかるか?」

「……これ、なに?」

 

 ハジメの錬成により少しずつ出来上がっていく何かのパーツ。興味津々のユエはそれらをみてキラキラと目を輝かせる。

 一メートルを軽く超える長さを持った筒状の棒や十二センチ(縦の長さ)はある赤い弾丸、その他細かな部品が散らばっている。それは、現状火器の威力不足を補うために開発した新たな切り札となる兵器だ。

 

「これはな……対物ライフルを元に作ってる大型レールガンだ。要するに、俺の銃、ドンナーとシュラークは見せたろ? そして、試作型の大型レールガン内臓のガングニール。あれのもっと強力なやつだ。弾丸も特製だぜ?」

「ハジメがすっごい悪い顔してるよ?」

「まぁまぁ、香織。男の子ってこういうの大好きだから」

 

 ひそひそと話す香織と双葉に目も暮れず。どこか危険な笑みを浮かべて、ハジメの言うように。それらのパーツを組み合わせると全長一・五メートル程のライフル銃になる。銃の威力を上げるにはどうしたらいいかを考えたハジメは、炸薬量や電磁加速は限界値にあるドンナーでは、これ以上の大幅な威力上昇は望めないと結論し、新たな銃を作ることにしたのだ。

 

 当然、威力を上げるには口径を大きくし、加速領域を長くしてやる必要がある。

 そこで、考えたのが対物ライフルだ。装弾数は一発と少なく、持ち運びが大変だが、理屈上の威力は絶大だ。何せ、ドンナーで、最大出力なら通常の対物ライフルの十倍近い破壊力を持っているのだ。普通の人間なら撃った瞬間、撃ち手の方が半身を粉砕されるだろう反動を持つ化け物銃なのである。

 

 この新たな対物ライフル──シュラーゲンは、理屈上、最大威力でドンナーの更に十倍の威力が出る……はずである。素材はなんとサソリモドキだ。ハジメがあの硬さの秘密を探ろうとサソリモドキの外殻を調べてみたところ、〝鉱物系鑑定〟が出来たのである。

 

 ──────

 

 シュタル鉱石

 魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

 

 ──────

 

 どうやら、サソリモドキのあの硬さはシュタル鉱石の特性だったらしい。おそらく、サソリモドキ自身の膨大な魔力を込めに込めたのだろう。

 ハジメが、「鉱石なら加工できるのでは?」と試しに錬成をしてみたところ、あっさり出来てしまった。これなら錬成で簡単に外殻を突破できたと、あの苦労を思い返し思わず双葉と共に崩れ落ちたのは悲しい思い出だ。

 

 いい素材が手に入って、新たな力に目醒めたので。結果オーライと割り切ったハジメと双葉は、より頑丈な銃身を作れると考え、シュラーゲンの開発に着手した。ドンナー等を作成した時から相当腕が上がっているので、それなりにスムーズに作業は進んだ。

 ちなみに今回も双葉が発展型の‘魔導回路’を作成している。纏雷の力を最大限に発揮させ、なおかつ増幅する術式を組み込んだ物である。

 

 弾丸にもこだわった。タウル鉱石の弾丸をシュタル鉱石でコーティングする。いわゆる、フルメタルジャケット……モドキというやつだ。燃焼粉も最適な割合で圧縮して薬莢に詰める。一発できれば、錬成技能[+複製錬成]により、材料が揃っている限り同じものを作るのは容易なのでサクサクと弾丸を量産した。

 

 そんなことをツラツラとユエに語りつつ、ハジメは遂にシュラーゲンを完成させた。

 

「‘バレット:M82’っぽいね……お、片手でも構えやすい」

「両手利きにも対応させといたぜ。持つのは俺だけど、双葉も銃の扱いが巧そうだからな」

「どんな武器でも扱える様に仕込まれてからねぇ」

「やっぱ戦闘民族だね、ヴァルキリーって」

 

 双葉が構えているものは中々に凶悪なフォルムで迫力がある。ハジメは自己満足に浸りながら作業を終えた。一段落したハジメは腹が減ってきたので、サイクロプスや残りのサソリモドキの肉を焼き、食事をすることにした。

 

「ユエ、メシだぞ……って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

「流石に食べれないんじゃないかな……?」

 

 魔物の肉を食うのが日常になっていたので、ハジメは軽くユエを食事に誘ったのだが、果たして喰わせて大丈夫なのかと香織に尋ね、ユエに視線を送る。

 なお、流石に香織もわからないという顔をしている。ユエは、ハジメの発明品をイジっていた手を止めて向き直ると「食事はいらない」と首を振った。

 

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」

「感じる。……でも、もう大丈夫」

「大丈夫なの? ……何か食べてた様には見えなかったけど」

 

 腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向ける二人。ユエは双葉を指差し、指をさされた双葉はチョットだけ眉をひそめた。

 

「指をさすな指を」

「双葉の血」

「ああ、双葉の血か。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 

 吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ついさっき、双葉から吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、と納得しているハジメと香織を見つめながら、何故かユエがペロリと舌舐りした。

 

「……なんで舌舐りしてんだよ」

「……ハジメと双葉……美味……」

「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが……」

「あたしの血を飲んで下手打ってたら、死にかけた人が言うセリフじゃないよ?」

「……熟成の味……そして、神の酒……」

「「……」」

 

 ユエ曰く、ハジメの血は何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。対して双葉は何度とも飲んだことがない、神の酒が如く。例えるのも烏滸がましいほどに完成された味だと言う。

 そういえば、最初に吸血されたとき、ユエが恍惚としていたようだったのを思い出すハジメ。それは気のせいではなかったようで、飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 ただ、舌舐りしながら妖艶な空気を醸し出すのはやめて欲しいと思うと内心で呻くハジメ。こういう時、ユエが年上であることを実感してしまうのだが、現在の容姿と相まって、凄まじい破壊力なのだ。

 

「……美味」

「「……勘弁してくれ(ください)」」

「……ただ、香織のも気になる」

「えっ!? 私に振るの!?」

「……だめ?」

 

 ‘言うが易し’と言う言葉がある。しかし、香織の元に這い寄ったユエの姿勢は下から覗き上げるように。上目遣いと、潤い揺蕩う真紅の瞳。その破壊力に屈した香織は……「ちょっとだけよ?」と首元の衣類をズラす──チョロい。

 ユエは香織にカプッ、チュー……幸せそうに頬を綻ばせると、さらに食いつき。香織を押し倒して吸い尽くしにかかる。

 

「ワッツ!? ヘルプミー!? ア────ッ!?」

 

 ユエが「ご馳走さま」と口を離した頃には。香織はピクピクしながらそのまま気を失う。そして、次の獲物……を見定める。

 

「……なんであたしを見るの!?」

「香織……まるでケーキ。ワクワクが詰まってて、甘ったるさも忘れていない……デザートにもってこい」

「そ、そう? まるでユエはグルメリポーターね?」

「……デザートの後は……お酒が欲しい」

「……あー、ちょっと歩いてくるね?」

「──逃がさない」

「あっちょっやめ、ア────ッ!?」

 

 反動が未だ後を引いていた双葉もろくな抵抗もできず犠牲となり、ハジメは自分にその被害が来なかったことに胸を撫で下ろした。

 満腹となったユエはその場で眠りだしてしまい。香織と双葉もそっと眠らせておき、次の階層への準備をハジメは黙々と行うのであった。

 

 ■双葉side

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「……ハジメ、ファイト……」

「お前は気楽だな!」

「口動かしてないで、足を動かす!」

「二人ともがんばって! がんばれがんばれハジメ! ふれーふれー双葉!」

 

 体調が戻ったあたしは現状、神器(セイクリッド・ギア)の使用が不可能だったので。キャンプ道具やらの大きな荷物とユエを背負うハジメに、シュタル鉱石の塊と香織を背負うあたしが追従して走っていた……なんで病み上がりであたしはハードな運動してるんだろうか? 

 

 そして、迷宮内を猛然と草むらの中を逃走中……周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっていて、あたしも顔を出せるギリギリの高さなのだ。なので、香織とユエに目になってもらっているわけなんだが……

 そんな生い茂る雑草を払い除けながら、あたしたちが逃走している理由は──

 

「ほんっとに多すぎんだよなぁぁぁ!!」

「しつこい……」

「嘆く暇はないぞー!! ハジメくん!!」

「弾薬の消費は確かにするよりしないほうがいいみたいだよねー!」

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

 百体近い魔物に追われているからである……なんでこうなったんだよクソが。

 

 十数日程前。あたしの傷を、後遺症をほぼ完治させてから準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメ達の技術や装備の扱いが熟練してきたからというのもある。あと、ステータスの恩恵かな? 

 

「‘緋槍’……」

「ついでに最大火炎系呪文(メラゾーマ)!! 燃え尽きろぉ!」

 

 飛びかかってきた魔物を蹴散らす火炎の槍と火炎の塊。貫かれ焼き焦がされた魔物の骸がバタバタと積み重なるが、それに目もくれず、やっぱり追いかけてくる魔物の群れ。

 とまぁ、今みたいにユエの魔法が凄まじい活躍を見せてくれているワケダ。全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確に援護する。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ助かるし楽である。

 

 ただ、ユエは回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。自動再生があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも最悪の場合は神水があるし、香織が居てくれているからそこはなんの問題もないぜ! 

 

 バランスの取れたパーティーだなぁとしみじみ思ってしまうワケダが、今はそんな現実逃避をしている場合でもないか。

 

 そして、数日前にあたし達が降り立ったのが現在の階層。まず、あたり一面が樹海。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのがせめてもの救いかな? 

 

 ことの発端はと言うと。あたし達が次の階層への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構えるたあたし達の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物で見た目は完全にティラノサウルス、または‘T-REX’である。

 

「うおっ!? 密林といえば恐竜かよ!?」

「ベッタベタな階層だねぇ……ん? なにあれ」

「……頭に何か、生えてる」

「……生えてるね。花が」

 

 ──ティラノサウルスモドキの魔物は、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていた。

 

 鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 ティラノサウルスが咆哮を上げて、こっちに向かって突進してくる。あたしは慌てずガングニールを構えて迎撃を……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「‘緋槍’」

 

 ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 

 そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「「「……」」」

「……フッ」

 

 いろんな意味で思わず押し黙らされるあたし達──最近、ユエ無双が激しい。最初はこっちの援護に徹していたはずだが、何故か途中からハジメとあたしに対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を吹っ飛ばす。

 そのせいで、前衛の出番がめっきり減ってしまい、少しショックである。

 

「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど……最近、俺、いや俺たち。あまり動いてない気がするんだが……」

 

 ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「……私、役に立つ」

「援護だけだと役に立ててないと思うわけね」

「……(こくり)」

「気にしなくてもいいんだよ、ユエ。ユエは十分役にたってるし、私も暇で仕方ないくらいだよ〜?」

 

 治癒師が暇なのは平和な証拠で、安定しているとも言える。香織が魔力を温存できる現状はいざという時に立て直しが容易になるので悪くないとも言えるだろう。

 だけども……少し前の階層でユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とかフォローしあって危機を脱したことがあったのである。

 その事をひどく気にする……思いのほか深く心に迷惑をかけてしまった、と残ったようである。だからこそ、後衛として役立つところを見せたいのだろう……うーん、健気。

 

「いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺と双葉の役目だ」

「そうそう。せめてあたし達にも仕事を回してくれてもバチは当たんないよ、ユエちゃん」

「うん、ハジメ達に任せておいても問題はないよ……ずっと暇すると、勘が鈍っちゃうし」

「……ハジメ……双葉、香織……わかった」

 

 あたしは苦笑いしながら、諭すように話しかけてあげて、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから。

 なんとも言い難い。何か、ユエを妹のように感じる自分がいるんだよなぁ……はるかに年上のはずなんだけどさ。

 依存して欲しいわけではないので、もうちょっと引き締めるべきで、注意が必要だろう……と思いつつ、つい甘やかしてしまう。

 そこんところはあたしもハジメも、自分に一番呆れているような気がする。

 

 そんなあたしの‘気配感知’に続々と魔物が集まってくる気配が捉えらえた。十体ほどの魔物が取り囲むようにこちらの方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物かな? 

 

 円状に包囲しようとする魔物に対し、ハジメは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。あたしも少し距離を置いて並走。そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の奴がいた。

 

 まあ──頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせてるんだよね? 

 

「「……かわいい」」

「……流行りなのか?」

「んなまさか」

 

 ユエと香織が思わずほっこりしながら呟けば、あたしとハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。

 ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……

 

「シャァァアア!!」

 

 ラプトルが吼える。そして、今にも飛びかかってきそうな魔物の頭にある花をあたしは一閃。ガングニールで切り裂いてみた。

 

 チューリップの花が切り裂かれバラバラに飛び散る。すると……ラプトルは一瞬ビクンと痙攣けいれんしたかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。あたし達はラプトルと四散して地面に散らばる花びらを交互に見つめる。

 

「……死んだ?」

「いや、生きてるな」

「あ、動き出すよ」

 

 ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 興味深い行動にあたし達は観察に徹して無言になる。そして、ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたようにこっちへ顔を向け

 

「「「「……」」」」

 

 ラプトルは無数の目にびくっとなり放心したのか、暫く硬直していたけども。直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。

 

「今気がついたのかよ。どんだけ夢中だったんだよ」

「……親の仇なの?」

 

 ハジメがツッコミ、ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。

 

「まぁ、牙を剥くなら容赦はしないから……‘擬・螺旋丸’」

「ショッギョムジョ、サヨナラ‼︎」

 

 とりあえず、魔力を手に収束させて……手の中で発生させた真空刃を圧縮。それを球体に形取らせてとあるニンジャ漫画の忍術をなんとなく再現して投げる。

 すると、ラプトルの頭部を一瞬でズタズタに、跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。あたし達はラプトルの死体を見やった。なんともいえねー

 

「ホント、一体なんなんだ?」

「……哀れ」

「いや、敵だししゃーないわ」

「それはそうと、わかる?」

「ああ、包囲網が狭まってるな……移動するか」

 

 包囲網がかなり狭まってきていたのであたし達は急いで移動しつつ、有利な場所を探っていく。

 そして、直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出ると、隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

 あたし達は‘空力’で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。樹上から魔物を襲って殲滅する腹づもり……これはみんなで相談して決めたからね。

 五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。焼夷手榴弾でも投げ落としてやろうと思っていたのか。しかし、彼は硬直する。隣では魔法を放つため手を突き出した状態でユエも固まっていた。

 状況をみてあたしは首を捻る。だが、すぐにその理由がわかった。なぜなら……

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「……ん、お花畑」

「……明らかにおかしいね?」

「……これ、寄生されてんじゃね?」

 

 あたし達の印象通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

 思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 

 ハジメが焼夷手榴弾を投げ落とすと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナーとシュラークで狙い撃ちに。香織もそれに倣い、デュランダルを発砲する。連続して銃声が轟き、その度に紅い閃光がラプトルの頭部を一発の狂いもなく吹き飛ばしていく。ユエとあたしも同じく周囲の個体を魔法を使って仕留めていく。

 

 きっかり三秒後、群れの中央で焼夷手榴弾が爆発し、摂氏三千度の燃え盛るタールが飛び散り周囲のラプトルを焼き尽くしていった。この階層の魔物にも十分に効いているようだとハジメは胸を撫で下ろす。

 結局十秒もかからず殲滅に成功した。しかし、やっぱ引っかかるのか、ハジメの表情は冴えない。ユエがそれに気がつき首を傾げながら尋ねた。

 

「……ハジメ?」

「……双葉、やっぱ、弱いな。こいつら」

「うーん、そうだね。はっきり言って、前の階層の魔物の方が手強い印象だね」

「……弱い?」

「うん、それは私も同感。簡単に殲滅出来すぎって、ユエは思わない?」

 

 香織の言葉にハッとなるユエ。

 

「おそらく、仮説だけど。あの花は子機で、遠隔操作を受けている。つまり、操ってる奴が寄生させた花なのかもしれない」

「つまり、コイツらの花はアンテナの受信機ってところか?」

「大本叩かないとあたし達はこの階層の魔物を全滅させるまで戦う必要が出ると思うけど、リソース的に無理があるでしょ」

「弾だって無限じゃないからな……心当たりは?」

「ちょい待ってね」

 

 あたしは魔力を高めて……希薄なものをイメージ。例えば、モヤのように捉えようのないものを……そしてそれを広範囲に放出する。

 すると、あたしの魔力がこの階層を満たすように充満する。そして、魔力の痕跡を魔力感知で追いかけて擬似的なソナーに……見つけた。

 

「ここから北に1キロくらい進むと平間みたいなところがあって、そこに得体の知れない反応があったわ」

「ビンゴ。ならそこに……」

 

 ハジメがそこに向かおうと言いかけて口をつむぐ。そして、あたしの気配感知にもその反応が記される。

 

「……あんなろ、百体用意したってことか」

「「百!?」」

「……逃げる?」

「そうだな……まともに相手できるかぁ!?」

 

 そうしてあたしの冒頭に至る、というわけだ。

 とりあえず、魔物の群れは未だに増えて二百になってる。しかし、これは逆説的にいえば、「魔物が近づいている」。

 

「あの小穴から入れるよ」

「よっしゃ! 先に入れ!」

 

 あたし、香織が先に入り通り抜ける。ハジメがそれに追いつき、あたしは穴の手前に手をついた。ハジメも同じ考えのようで。

 穴の向こうでは多くの魔物が壁に激突して道が埋まっていくのが見える。そして、あたし達はありったけの魔力で……! 

 

「うぉらぁぁぁぁ!!」

「錬成ぇぇぇっ!!」

 

 通路をめちゃくちゃに錬成、その穴を通れなくして塞いでしまえばいい。

 そこはだだっ広い広間。なんか……いっぱい胞子が飛んでるなぁ……ハジメは背負っていた荷物を下ろし、あたしも鉱石の塊を下ろす。

 最大限に警戒しつつ、あたりを見回すが……気配感知には、なにも反応がない。

 

「これならある程度は保つだろうよ、さて。ここがビンゴなんだろうな」

「気をつけてね、ユエ……私やハジメは耐性があるから……っ」

「……ユエちゃん……?」

 

 ユエが珍妙な顔をしている……いや、これは……! 

 

「避けて……双葉!」

「ちっ、二人とも、散開! ──ぁぐっっ!?」

「「双葉!?」」

 

 あたしの鋭い声にハジメと香織は即座に離れる。が、あたしはユエの魔法を喰らって吹っ飛ばされた──振りをしながら、派手に壁に叩きつけられる様を見せると……ひたひたと何者かが現れ、自慢げに、ユエの腰あたりに手を回す。

 

 それはそれはクッソ不細工なエセアルラウネが現れたのである。そしてユエの頭には燻っている花(・・・・・・)

 

「ヘーキよ。ユエもなかなか演技が上手いわね」

「……それほどでもない……お前は許さない……!」

 

 ユエの頭の上で燻っていた花は、ぼっ、と燃え尽きて消滅した。エセアルラウネは仰天した素振りでユエから距離を取ろうとするが……彼女は手を突き出して。

 

「‘蒼天’……!」

 

 あの青白い火球を生み出した。その規模はとても小さいが、その熱量は半端ではない……そして、エセアルラウネは木の魔物。要するに、至近であんなものを突きつけられれば……

 

「ヒギヤァァァァァァ!?」

「悔いて、燃え尽きるがいい……」

 

 簡単に燃え尽きてしまう、というわけである。

 

「ユエ、大丈夫……?」

「双葉は……やっぱ無傷だったか」

「あたしの魔耐はアホみたいな数値だし、魔力耐性もあるから半端な魔法は豆鉄砲よ……ユエもよくレジストできたわね」

「……ん、龍の魔力。すごい」

「まぁ、気に食わない侵食とかは一切受け付けないからね」

 

 ユエはあたしの血を吸いすぎた結果、龍種の魔力を完全にものにしてしまった。適正率が高いのでハマったという訳である。

 ちなみに龍種の魔力をもつと、こういう手合いの寄生とかは受け付けなくなるのだ。

 ユエはあたしの加護を受けてるような状態なんだけどね。

 

「さて、ちょっと休憩したら進みましょうか」

 

 あたしはとりあえずクタクタだったので、もうとっとと休ませてもらうことにした。

 そして、また少し時は加速するが……あたし達はついに100層に到達したのだった。

 

 

 ──

 

 to be continued .

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