ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双   作:ゆきほたる

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最奥の守護する者と聖母の微笑み

 ■双葉side

 

 エセアルラウネの階層から進み、奈落の底から数えて九十九層目。あたし達は次の階層である、百層目に挑む前に。念入りな準備を行うべく、三日をかけていた。

 

 ハジメのドンナー、シュラーク。香織のデュランダル、あたしのガングニールの整備点検はもちろん、強化のために内部パーツのアップデートと改良を施したり。

 シュラーゲンは未だ使ってない状況だった……いや、必要ない状態と言うべきだろうか──まぁ、あのサソリモドキ並みの激闘ってのがあまりなかったから、仕方ないことなのだろうけども! 

 

 そして、しみじみとあたしはステータスプレートを眺める。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 天龍双葉 17歳 女 レベル:70

 天職:二天龍姫(アーク・カイザー)

 筋力:6100

 体力:4400

 耐性:3500

 敏捷:3600

 魔力:6400

 魔耐:6000

 技能:全属性適性・全属性耐性・全魔法適性・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+身体強化] ・想像構成[+イメージ補強力上昇]・物理耐性[+金剛]・魔力耐性・複合魔法・槍術[+刺突速度上昇][+ダメージ効率上昇][+無拍子]・神速・擬/赤龍帝の籠手×擬/白龍皇の光翼[+二天統一の龍帝皇(Dual xceed Drive)]・高速魔力回復・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知・気配遮断・ノルンの瞳[+並行世界観測適性]・限界突破・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+爆縮地]・風爪・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・威圧・念話・言語理解

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ずいぶんとデタラメな数値になったものである。そして、最近魔法を多用していたら、なんと‘想像構成’なる技能を得た。これは、あたしのイメージ力依存になるが、より強固な魔法の構築が可能になる技能のようだ。

 そして、神器(セイクリッド・ギア)が進化した。なんか、擬/赤龍帝の籠手(シャドウ・ブーステッド・ギア)擬/白龍皇の光翼(シャドウ・ディバイン・ディバイディング)を同時展開できるようになってるんだよね。

 それぞれ独立して動くから、それはそれは便利になった。

 その分、反動が二倍になったけど、今のステータスなら……一時間は戦える。

 

「やっぱり双葉のステータスは飛び抜けてるな……次がボスだと思うが」

「ええ、そうね……とはいえ、ステータスに対してハジメの出す実ダメージ効率はそっちの方が上なんだよね。ドンナーとシュラークの火力的に筋力ステータス詐欺のダメージだろうし」

 

 単純に「物理で殴る」銃火器の実ダメージはほぼ即死級。つまりは一撃必殺とも言えるそんなのがハジメと香織が雨霰と言わんばかりにぶっ放してくるのだ。

 あたしだって逃げ出すし、何度も何度も、心の奥底では魔物に同情した。

 

「お前のガングニールも大概な火力なんだが」

「「突いて、薙ぎ払って、蹂躙!」のオンパレードだもんね」

「……まるでテンペスト。……死の嵐」

「散々な言われようね……まぁ、事実だし素直に受け止めるけどさ」

 

 だってあたしは隻腕だぞ? むしろ頑張ってると褒めて欲しいわ! なんて言うつもりもなく。いつもより弾丸とかを多めに作成、百層に挑む準備を終える。

 

 香織がいるからなんとかなっているが、今でこそ神水のストックは試験管60本分くらい。そろそろ無駄遣いはできないと思うので、温存傾向だ。──リアルラストエリクサー現象を見ることになるとは。

 

「よっし、準備はこれでいいだろ。みんな、そろそろ行こうぜ」

「おうとも。未知の階層へ、いざ!」

「鎌倉!」

「……鎌倉……どこ?」

 

 そして、あたし達は最後の休憩を終えて。次の階層へと向かった。

 

 □noside

 

 長い螺旋階段を下り、一行が最下層たる百層目に到着すると。その層は高さにして三十メートル、奥行きは果てしない。直径五メートルはあろうかと言う大きな柱が規則正しい感覚で支える荘厳な空間だった。

 柱には蔦が絡まるような彫刻も彫られてあり、その美しさに双葉達は思わず見惚れる。

 

 そして、気を取り直し。警戒しながらしばらく進み、行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。そして、そこに向かうが特に何事も起こらず……扉の前にまで来れた。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「はえー……すごく、おっきい」

「綺麗な紋様。まさに、最終ステージに相応しい雰囲気かな?」

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「……反逆者の住処?」

 

 いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 双葉は飄々と構えており香織はマイペースを崩さない。しかし、彼女は双葉の左腕に組み付き、少しだけ震えていた。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

「あたし達の強さなら問題ないさ。どんな困難も捻じ伏せてやるから……安心して、香織」

「双葉ちゃん……うん、やろう……ここがゴールなら頑張らないとね、ユエもお願い!」

「……んっ!」

 

 ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。荷物を下ろし、ハジメたちは歩みを進める。

 香織もユエ、双葉が覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。そして、四人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 その瞬間、扉と彼らの間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「さーて、もう引き返せないぞ。お出ましだ……!」

「今更すぎるよ、ハジメ……ってこの魔法陣は……ベヒモスの三倍はあるんじゃない?」

 

 ユエを除く三人は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「……大丈夫……私達、負けない……」

「この程度でビビってたら二天龍の名がなくわね」

『おうとも。真なる龍種になりつつあるフタバの言葉は重みがちげぇな』

『しかし、この魔力。ヒュドラか?』

 

 ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さずハジメの腕をギュッと掴んだ。そして、双葉から聞こえて来るドライグとアルビオンの声も、ハジメたちが‘念話’を得てからは聞こえるようになっていた。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。光が収まった時、そこに現れたのは……

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が闖入者達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 しかし、それに対して。ハジメは不敵な笑みを。ユエは涼しい顔で。香織は気合いに満ちた表情で。そして、双葉は……にぃ、と口元を歪ませた。

 

「……本気でやらないとダメな相手って言うのはやっぱ欲しいよね」

「あんましやり過ぎんなよ、双葉。俺たちも巻き添えはごめんだからな?」

「‘DxD’は……だめ。……どうするの?」

「簡単だよ、ユエ。ゴリ押すまで!」

 

 その回答にジト目の呆れ眼で応えるユエに香織とハジメは吹き出した。

 

「……双葉らしい」

「うっせえわ。んじゃ……やるよ、ドライグ、アルビオン!」

『おう、派手にやれ。フタバ!』

『合わせろよ、赤いの!』

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を同時展開して飛翔した。

 同時に赤い頭がガパッと口を開き、飛び上がる双葉目掛けて火炎放射を放った。それはもう炎の壁というべき規模だ。

 しかし、双葉はそんな壁などと言わんばかりに。ガングニールを構え、投擲する。槍は壁を両断するように突き進むと、赤い頭のを串刺しに絶命させる。

 

「さて、触れたわね? アルビオン!」

『さぁ、貴様の力をフタバによこせ!』

[半減(Divide)ッ‼︎]

 

 ガングニールから繋いだ経路(パス)を通じて白龍皇の光翼が力を発揮すると、双葉に言い知れぬ力の塊が入り込む。そして……

 

「っ!? ──こりゃ、大物だわ」

『白いの、こりゃ‘三分のニ’は放出しねえとダメだな』

『フタバよりも力が強いのか。この駄龍は』

 

 光翼部分から膨大なエネルギーを放出することはなく……

 

「ただで捨てるのはもったいないよね! ドライグ、やるよ!」

『なるほどな。いくぞ、ハジメ、ユエ、香織!』

「隙は作るべきだよなぁ!」

「援護するよ!」

 

 双葉はガングニールを経路に魔力を流し、自動帰還させて回収。そして、ヒュドラに背を向けた。その隙を逃すはずもなく、黒頭が双葉に襲いかかるが……

 それと同時に、ハジメと香織が三つの‘閃光手榴弾’を放り投げ、ヒュドラの全ての頭部は閃光に目を潰される。彼らに背を向けた双葉は赤龍帝の籠手を三人に向けると。

 

赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)っ!」

[譲渡(Transfer)ッッ‼︎]

 

 余剰エネルギーとして放出されるはずだった力はオーラに変換。それをハジメたちに譲渡する。

 オーラは彼らを強化する不可視の鎧の如く。ハジメ、ユエ、香織は一定時間身体能力の向上と、魔法、もしくは純魔力攻撃に対してのダメージ軽減を得る。

 

 ヒュドラの視界が回復すると、彼らは怒り狂ったように猛然と攻撃を開始、青頭は氷の散弾、緑頭は風刃を撒き散らす。そして、白頭が「クルゥアン!」と叫び、上顎をぶち抜かれていた赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻り、元気に炎弾を吐き出した。

 どうやら、白頭は回復魔法を使えるらしく、それを見たハジメは舌打ちをしつつ‘念話’でに伝える。

 

 “ユエ、香織! あの白頭を狙うぞ! キリがない!”

 “んっ!”

 “りょーかい!”

 “双葉は好きに動いてくれ! 俺たちと歩幅を無理に合わせるより……遊撃の方が効率は良いはずだ!”

 “あいよー! その指示は最適解だよ!”

 

 青頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメとユエ、香織が白頭を狙う。

 

 ドンドンッ! とハジメがドンナー、シュラーク。ドパンッ! と香織のデュランダルが幾重もの光条を飛翔させれば。

 

「……‘緋槍’!」

 

 ユエは彼女の代名詞となりだしていた緋槍を放つ。

 燃え盛る槍が、数多の弾丸が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝き、弾丸の群れもユエの緋槍も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の……とは言えないが、かすり傷を受けても黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「ちっ! 盾役(タンク)かよこいつ。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

「なら、そのバランスをぶち砕くまで!」

 

 黄頭の元に飛来したのは双葉。ガングニールを構え、そのまま突っ込んでいく。

 しかし、他の頭がそれを黙っているわけもなく、集中砲火……をハジメたちが容認するわけもなかった。

 

「双葉、援護するぞ!」

「……‘凍雨’!」

「やらせない! やっちゃえ、双葉!」

 

 他の頭は銃弾に、小さな氷の槍を無数に撃ち出す魔法……凍雨により、負傷、あるいはダメージに怯む頭たち。黄頭は双葉の突撃を受け止める。だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのか、ガングニールに貫かれていた。

 

「至近距離で、こいつ食らえばひとたまりも……!?」

「クルゥアン!」

「ちっ、回復させるかよ!」

 

 すかさず白頭が他の頭を回復させる。全くもって優秀な回復役である。

 しかし、黄頭は双葉が咄嗟に結界を張り、回復阻害させているので復帰が難しいようだが。

 今、盾役の黄頭は双葉に封じられて行動不能に陥っている。

 このチャンス逃すか! とハジメが‘念話’で合図をユエと香織に送り、同時攻撃を仕掛けようとする。が、その前に絶叫が響いた。ユエの声で。

 

「いやぁああああ!!!」

「ユエ!?」

「くっ、‘光絶’──ハジメ! ユエのところにいって!」

 

 ハジメは咄嗟にユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくるが香織の張った光の障壁によってその魔法は阻まれる。

 

「そっちも、少し黙ってろ! ──‘蒼天’!」

 

 双葉はユエに教わった小規模な‘蒼天’を自分にヘイトを向ける青頭に放つ。直撃、そして爆ぜる。黒煙が立ち込めて、晴れると。頭がなくなった青頭の首はズズン、と床に沈む。

 そんな中で、障壁を張り。その内側から赤頭と緑頭をデュランダルで射抜き、リロードした香織は黒頭の目を撃ち抜き、吹き飛ばした隙をついてユエを確保するハジメ。

 

「ハジメ、今だよ!」

「ありがとな、香織! 愛してるぜ! ──ユエ、しっかりしろ。ユエ!」

「いや、行かないで……みんな……わたしを、ひとりにしないで!」 

 

 未だ絶叫を上げるユエに、歯噛みしながら一体何がと考えるハジメ。そして、そういえば黒頭の能力が未だ未知であることを思い出す。

 ハジメの呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。黒頭のヤツ一体何しやがった! と悪態を付きながら、ハジメはペシペシとユエの頬を叩く。

 

「精神異常系の魔法かもしれないから、ここは私に任せて!」

「そうだった! 頼むぞ、香織……双葉は?」

「遊撃で引っ掻き回すからユエをお願いって!」

 

 小走りにやってきた香織が指さす方向を見ると。双葉が高速で飛翔しながらヒュドラをボコボコにしているのが見えた。あいつ一人でいいんじゃないか? とは思いたいが、やはり決定打に欠けるのか……倒すたびに復帰する頭に手を焼いていた。

 

「双葉を誤射する心配はないが、今は任せる方がいいな」

「‘万天’!」

 

 香織の‘状態異常’を治癒させる魔法、万天がユエを癒す。すると虚ろだった彼女の瞳に光が宿り始めた。

 

「「ユエ!」」

「……ハジメ。……香織?」

「おう、ハジメさんだ」

「大丈夫? 何をされたかわかる?」

 

 パチパチと瞬きしながらユエは二人の存在を確認するように、その手を伸ばしハジメと香織の顔に触れる。それでようやく彼らがそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 そして、その隣で自分を覗き込む香織も居るとホッとする。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

「……なるほど、なるほど」

「「……!? ……香織……さん?」」

 

 香織は憤怒の雰囲気でニコニコしながら。その背には般若がいるように見えるハジメとユエは押し黙る。

 

「……ふふふ、流石に、これは……許せない」

 

 ゆらり。と立ち上がる香織は双葉に念話で退避を促すと、長い詠唱を行う。

 

「──‘縛煌鎖’」

「うわぁ!? 香織!? なんかあったの!?」

 

 途端に、光の鎖がいくつも出現すると。ヒュドラを完全に拘束する。双葉は遊撃を停止して香織の元へとやって来る。

 香織の魔力は双葉の6400を超えて8000をも超えている。そのため、抵抗は無意味で……

 

「「「「「「クルゥルルル!?」」」」」」

 

 ぎちり、と締め上げられるヒュドラの頭。彼らはひとまとめにされ、身動きひとつと。取れる状態ではなかった。

 

「ハジメ、双葉……やれ」

「「……ハイ、ヨロコンデー‼︎」」

「香織、怖い!?」

 

 二人はにっこりと微笑みながら、凄みのある声音で命じた香織の様に逆らえず、ユエは戦慄した。

 双葉はガングニールを射撃モードに展開。内部機構の大型レールガンを剥き出しにして、ハジメはシュラーゲンを構える。

 

「あんたに恨みはないけど、とりあえず倒すから!」

「まぁそういうこった、俺たちの敵ならば神だって殺してやる!」

 

 それっぽいことを口走って現実逃避する二人の武器機構内に膨大な魔力が流れ込み、そして。赤黒い雷が各々の武器より漏れ迸る。ガングニールの出力は試作段階の頃より段違いに改良を受けているため……双葉のバカ魔力を大量に込められており。加えて……双葉はシュラーゲンに経路を繋いでいる。そのため、魔力をハジメに分け与えることも可能だ。

 

「「纏めて、砕く!」」

 

 ハジメが‘纏雷’を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く纏雷にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

 ドガァンッ!! 

 

 発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃、そのまま白頭と黒頭も巻き込んで消し去った。

 

 そして、その隣で双葉はガングニールのトリガーを引く。

 

 試作段階で出た最高初速は毎秒四.二キロメートル。そして今やそれをを上回る《毎秒五.六キロメートル》だ。それは加速効率の向上や弾丸の調整などで実現した新たな領域で……

 

 ズガァンッ!! 

 

 砲弾は触れた赤頭を一撃で消滅させ、音を置き去りにして大爆破。その爆風に煽られた青頭、緑頭は遅れて発生した強烈な衝撃波……‘振動破砕’によって甚大なダメージを被っていたところへ超高熱の熱波が襲いかかる。

 ‘XCEED・BREAKER’と比べてその出力の差は児戯と切って捨てられるかもしれない。しかし、それは大いなる間違いである。

 その証明に……残光が通り過ぎ、残っていた三つの頭も綺麗さっぱりと消し炭にされていたのだから。

 回復役はおらず、まともに受けた熱によってヒュドラの頭は全滅した。

 

 ■双葉side

 

「はぁ……流石に終わりだよね?」

「わからねえ。香織……回復を──」

「ハジメ!」

「後ろ、後ろ!?」

 

 何やら騒がしい。香織が、ユエが必死に訴えかける……あれ? なんでこんなに世界が遅いの……? 

 あたしは緩慢とした世界の中で、新たな頭(・・・・)の出現にやっと気がついた。音もなく、気配感知に突然生えたそれは大口を開けて……あたしを狙ってる。

 

『フタバ! 避けろ!』

『ちっ、こんな時に魔力ぎ──』

 

 くっそ、なんで体が動かないんだよ! 朦朧としている意識。心当たりは……あった。毒だ……ヒュドラの返り血を浴びてから徐々に……遅効性の神経毒……あたしじゃなきゃ死んでただろうな! 

 

 それはそうと、奴の蓄えたブレスが……あたしに向かって解き放たれた。

 

 ──あっ、これ……死んだわ。魔力が底をついたから赤龍帝の籠手も白龍皇の光翼も霧散して……

 

 □noside

 

「双葉!? ちっくしょぉぉぉ!」

 

 切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメ達を睥睨していた。

 だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすと双葉をその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間に、そして彼女は神経毒で動けない。

 

 身動きを取れなくなった双葉。彼女に向かい、極光のブレスが降り注ぐ……ハジメはそれと同時に飛び出していた。

 極光が双葉を丸ごと消し飛ばす前に、立ち塞がることに成功したハジメ、極光が彼を飲み込む。双葉は直撃を受けなかったものの余波により吹き飛ばされる。

 

「……ハジメ、双葉!?」

「ユエ、危ないから待って! ──‘光絶’!」

 

 極光が収まり、極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながら。その姿を探そうと走り出しかけたユエを香織が止め、瞬間的に障壁を張る。その直後に、直径十センチ程の光弾が嵐のように飛来するのを防いだ。

 ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。

 

「ハジメ! 双葉!」

「くっ、死んだと思ったわ……ごめん、心配かけて!」

「「双葉!?」」

 

 煙の中より、影が飛び出て。香織達の元に膝をついたのは双葉だった。その背にはハジメが背負われている。どうやら光弾の嵐を背に、噴煙に紛れて双葉はハジメを背負い、後退してきたのである。

 

「双葉……どうやって」

「奥歯に神水を仕込んだ容器を仕込んでたのよ。毒で効きが悪かったけど、回復した魔力で毒素は全部焼き払った」

 

 それはそうと、傷からハジメの血が流れ出し双葉の服を赤く染めている。ハジメの‘金剛’を、序盤に譲渡されたオーラをも突き抜けダメージを与えたのだろう。もし、ユエの蒼天にもある程度は耐えたサソリモドキの外殻で作ったシュラーゲンを咄嗟に盾にしなければ即死していたかもしれない。

 

 双葉が降ろし、仰向けにしたハジメの容態は酷いものだった。

 指、肩、脇腹が焼け爛れ、一部骨が露出している。左腕は特にひどい状態で、肘から先が消失していた。顔も右半分が焼けており右目は潰れ、血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

「香織、多分……ハジメは毒に近い呪いに侵されてる……神水の容器を噛み砕いてたから、それの効きも悪いみたい」

「呪い!? そんなの解呪は……」

「あんたにしか頼めないから……あたしはアイツを止める」

 

 銀頭に向き直り、双葉は。手持ちの神水を全て飲み干した。

 

「ドライグ、アルビオン……やるわよ」

『ふ、仲間のためならば仕方あるまい』

『とやかく言う間はない、か! 赤いの!』

 

 魔力が、活力が漲り。双葉の手に再び神器が出現する。

 

『『我ら二天の龍、対なりし力、互いに補完せり。至るは夢幻、或いは無限っ!! いつか見た、龍神への(きざはし)へと昇ろう! 我ら、主人と共にあり!!』』

 [Welsh Dragon ×(cross) Vanishing Dragon ──二天統一の龍帝皇(Dual xceed Drive)ッ!! ]

 

 神器は赤と白を持って世界を染め上げる。双葉は脇に挟んでいたガングニールを構え、擬/赤龍帝の籠手と融合させる。

 

「さぁ、反撃準備だ!」

 

 ■香織side

 

 双葉は果敢に挑んでいく。私はただ呆然とその様を見ていた……この呪いはおそらく、私じゃ解呪できない。魔力は私が勝っていても、崩壊の速度が速いから……

 

「……香織、治療、早く!」

「……う、うん!」

 

 私はありったけの魔力を込めてハジメを癒す。だけど、毒がそれを阻害してなかなか癒すことはできない。傷の修復は出来ず、毒による崩壊がじわじわと進んでいく……このままじゃ、ハジメは……違う! 

 

 私が助けるんだ……ハジメを、今死なせないために! 

 

 ふと、脳裏をよぎる光景。私はその光景に電流が走ったような感覚を覚える。

 

 

 ──で、香織とハジメにもその神器が宿ってる気がするのよね──

 

 

 かつて、双葉に聞いた言葉。神器……双葉は攻撃的な神器や相手を封じる物など様々なものがあると言っていた。

 なら……この状況を打開しうるものを私が宿していてもおかしくない!! 

 

「香織……?」

「ユエ、私を信じて」

 

 私は祈りを、願いを、私の中にある渇望を! 掬え、手繰れ……引き寄せろ! 治療を司る聖人は常に女性が多い。そして、そんな人たちの微笑みを受ければどんな戦士も再起する! 脳裏よぎるその神器。その可能性を掴む……!

 

「──聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)ッ!!」

 

 私の中で可能性が芽吹き、オーラを放出した。そのオーラは治療途中だったハジメの傷を塞ぎ、癒す。その上で毒を完全に中和した。

 

 すごい……! そして……

 

「う……香織、ユエ……?」

「「ハジメ!!」」

 

 我先に、と言わんばかりに。ほぼ同時に二人して彼に抱きついてしまうけどシカタナイネ。

 

 ハジメに事情を説明すると、なるほどと頷いて。柱の向こうで轟音を轟かせて戦う双葉の姿を見る。

 

「よーし、いっちょかますか……しっかし、あの双葉が苦戦してるって相当じゃないか?」

「双葉……もしかして……あの毒を受けてるんじゃ!?」

「「……」」

 

 やりかねないと言う顔をするハジメとユエは……

 

「よし、双葉をすぐに下がらせるぞ、いいな?」

「「同意」」

 

 さぁ、私たちの反撃を開始しよう! 

 

 ──

 

 to be continued

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