ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双   作:ゆきほたる

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一触即発のフェアベルゲン

 □noside

 

 ハジメ達一行の元を伝令。ザムと呼ばれた亜人が走り去ってから数十分が経ち。双葉は暇なのか。

 

「ねー、あんた。暇でしょ?」

「……なんのつもりだ、人間。貴様と話すことなどなにもない」

「そこをなんとかさ」

 

 暇つぶしにトラの亜人に話しかけていた。というのも

 

「理性的に考えて、行動に移せる優秀な奴に興味を持ったわけで。フェアベルゲンについて少し聞きたいことがあるのよ」

「……くどいぞ、人間」

「等価交換。さっきのあたしが起こした衝撃波のコツ、教えてあげるよ?」

「……っ! ……貴様は悪魔なのか? 甘言に乗ってやる道理はない!」

「ちぇー」

 

 ぶー垂れながら、双葉は警備隊の隊長から情報を引き出すのは諦めた……様に見えたが、しかし。

 

「なら、世間話くらいは付き合ってよ。あたし達があんたの言う長老様方に粗相なんてできないでしょ?」

「しつこ……世間話だと? ……まぁ、それくらいなら」

「あんがと、隊長さん。んじゃーねぇ」

 

 双葉は自分のペースに持ち込み。トラの亜人から幾つかのことを聞く。彼はある程度の警戒しつつ、彼女に全くもって敵意がなく含むところもない。表裏を隠すことない喋り方に、段々と絆される様な気もしていたが。見下す様なことはせず、対等に話そうと努力する彼女の姿勢に応えねばならぬと、彼らの対話はなかなかに弾んだ。

 

「なるほど。つまり、大樹に行くには周期があって。今はその周期じゃない……のね。ギルさんは知っててカムさんは……」

「……ハウリア族はどこか抜けていてズレている者が多い。おそらく、忘れているだろうな」

「……あー、うん。なんとなくそれは感じてたよ」

「しかし、双葉。本当にハウリア族に案内させていいのか……?」

「あたし達はそう決めたからね。周期が合わないなら仕方ないから少しだけ樹海に滞在させてもらうよ。フェアベルゲンにお邪魔するのは、流石に……ギルさんたちに申し訳ないから」

 

 困った様に笑う双葉に。ギル……トラの亜人は申し訳なさそうな顔で。すまないな、と一言呟いた。他の獣人族に聞こえぬほどの声量で。

 なお、なぜ彼らが名前を呼び合う関係なのかと言うと。双葉が彼に渡した……‘魚醤漬けの干し魚’を与えたからでもある。参考にしたのは‘ニジマスの干し魚醤漬’だ。

 食は万能の言語。それを食べたギルの顔は衝撃に見舞われたかの様に、一時的にフリーズしていた。

 ちなみに、どこにそんなものを保管しているのかと言うと。双葉はハジメの持つ‘宝物庫の指輪’を劣化コピーしており、個人が所有できる倉庫並みの容量の中にはこれでもかと彼女のおやつ及び食料が詰め込まれている。

 出来るだけ、魔物を斃す際は‘纏雷’で焼き殺し、火を通して魔物を喰うことにして節制はしているが。それでも追いつかない事態になっている。

 双葉が魔物を喰って以来。誰よりも食べる量が多くなってしまってからは非常に重宝しているが、その備蓄も今日だけで十分の一減らしてしまっている。

 現状、常に食べなくてはいけないわけでもないが双葉は歩きながら木の根を齧って空腹を紛らわしているほどに重症ではあった。

 

 そんなこんなで。時はながれ……ハジメが香織とユエを侍らし、暇だからとシアに軽く徒手格闘戦の手解きをしている双葉。

 手加減されているのも知らず、追い詰めていると調子に乗ったシアが、双葉の顔に拳を放ち。なんなく掌で受け止めた彼女が微笑みながら怒り、関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」とシアが必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

 霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる美形の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。

 威厳に満ちた容貌は、美しさに満ちていてとても若々しいものだ。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族……つまりはエルフなのだろう。

 

 ハジメは横目で彼を見る。そして、双葉がシアをぽいっと捨てて立ち上がり。そのエルフと視線があう、と。彼らは、このエルフが‘長老’と呼ばれる存在なのだろうと推測した。そして、その推測は当たりのようだった。

 

「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね? 名は何という?」

「初めまして、そしてご機嫌はいかがでしょうか、長老殿。自分は南雲ハジメと申します。こちらに控えているのは連れでございまして……」

「こんにちは、私は香織です。白崎香織」

「初めまして。あたしは天龍双葉」

「……ユエです……以後お見知り置きをお願いいたします……」

 

 ハジメ達の言葉遣いに、周囲の亜人がどよめきを隠さず。相対した亜人達はさらに驚いていた。先程は粗暴な言動が目立った彼らが頭を下げ、慇懃な姿勢で礼をしたのだから。ざわめきを、片手で制するエルフの男性も名乗り返した。

 

「これは、ご丁寧な挨拶を。ならばこちらもそれに応えねば、無礼というものだろう。私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、ハジメ殿の要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。‘解放者’とは何処で知った?」

「うん? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

「こんな感じな人だよ」

 

 双葉が魔力を広間に充満させる。そして……闇魔法の‘空映’で自身の記憶を切り取り、とある男の虚像を投射する。

 

【試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?】

「な、虚空に人が……オスカー・オルクスの生前の姿というのか!?」

「……それ、覚えてたのかよ」

「魔法陣の転写してイメージを覚えるのに苦労したよ。記憶の転写でなんとか投影してる感じ……あ、どうせだし。このまま垂れ流すね」

 

 双葉はオルクスの幻影に全てを語らせた。自分の聞いてきた事を、そして。この場にいる亜人達を納得させるために。

 アルフレリックの表情は驚愕していた。そして、自分の知る知識と一変の違いのないその内容に……双葉達が‘解放者’を知る者として認めざるを得なかった。

 

「ふむ、お前さん達が解放者を知ることは納得した。しかし、奈落の底か……聞いたことがない。流石に証明できるかの?」

 

 あるいは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、ハジメに尋ねるアルフレリック。ハジメは難しい表情をする。証明しろと言われても、すぐ示せるものは自身の強さくらいだ。首を捻るハジメの隣でユエが提案する。

 

「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」

「ああ! そうだな、それなら……」

 

 ポンと手を叩き、‘宝物庫’から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

「クソ強魔物の魔石だし、地上の雑魚とはわけが違うよ?」

 

 アルフレリックも内心驚いていてたが、隣のギルが驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

「あ、オルクスさんならきっちり埋葬はしたよ。まぁ、お経は流石にあげられないんだけど、なんかいい祝詞とかってある?」

「……弔ったなら問題ない」

 

 そう言って、次にハジメが見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、ハジメ殿達はオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。ザムと呼ばれていた亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「落ち着かれよ! 私は賛成だ。長老のアルフレリック様の決定に我々が異議を挟むことこそが愚かしいではないか! そして、双葉殿やハジメ殿は牙を剥き、我らに鉄槌を下すこともできただろうが、一切の手出しはなかった! 敵対しなければ理不尽に暴力を振るわれる方々ではない! 私が保証する!」

 

 その抗議を黙らせたのはなんと。トラの亜人、ギルだった。

 

「左様。彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

 続けてアルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度はハジメの方が抗議の声を上げた。

 

「待ってほしい……何で勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「なんだと?」

「あー……周期か」

 

 双葉の呟きに辺りはしんとなる。ハジメはなんだそりゃ、と双葉を見た。そして、アルフレリックの方へ視線を向けると、彼が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならんのだ。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

 アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見た。ハジメは、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……

 

「あっ」

 

 まさに、今思い出したという表情をしていた。そして、双葉にも視線を向ける。

 

「仕方ないやん! あたしもさっき聞いたばっかで忘れてたんやから!」

「……ユエ」

「……報連相は大事」

「双葉ちゃん……ドンマイ」

「無言で‘縛光刃’使うなぁぁー!? 解いて、香織さん!? タスケテ!!」

「ショッギョムジョ! サヨナラッ!」

 

 双葉は関西弁で抗議した。しかしハジメは取り合わずユエに執行を命じる。香織は諦めろ、と言わんばかりの表情で無詠唱の拘束魔法により、双葉の逃走を防ぐ。

 それをよそにユエが魔力を練り始め、こめかみに“D”のような形で血管を浮き上がらせ、静かに怒りを含んだ声音のハジメがカムに問いかける。

 

「カム、言い訳は聞こうか。ああ、一応俺は優しいからなぁ……なんかあるか?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

 しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、場の雰囲気に耐えられなくなったのか逆ギレする。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

 逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

「とりあえず私も巻き込むのはやめてー!?」

 

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 そんな中でそれとなく兎人族の子供達を避難させる香織に、そんな彼らの足元に縛光刃によって芋虫の如く、拘束されて転がされた双葉はユエに懇願する。しかし……ユエは目を伏せて、わざとらしく、ごめんなさい! とつぶやいた……口元もはとても笑いを堪えるべく、唇を噛んでいたが。

 そして、その醜態を目に、青筋を浮かべたハジメが、一言、ポツリと呟く。

 

「……やれ」

「ん」

 

 ハジメの言葉に一歩前に出たユエが練り上げた魔力を右手頭上に掲げる。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。

 

「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

「何が一緒だぁ!」

「ユエ殿、族長だけにして下さい!」

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

 喧々囂々と騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

 

「‘嵐帝’」

 

 ── アッ────!!! 

 

 天高く舞い上がるウサミミ達+軽装の戦乙女。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。

 

 ■双葉side

 

「ひどい目にあった……」

「双葉が悪いよ、あれは。大事なことは今後、先に話してくれ」

「……ごめん」

 

 天空にカチ上げられ、三半規管をぐるんぐるん鳴らされたあたしはハジメに背負われ移動してる……自分の宝物庫に防具をしまっているから軽くはなったはずだ。というか、無言の復讐として。むにゅう……とハジメの背中にあたしの胸を押し付けてやる。

 

「双葉……それ以上やるなら今夜は覚悟しとけよ?」

「……ほーん、なにが?」

「……そうか、今日が双葉の初夜か。香織てつむがっ!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!! まだそこまで行く勇気がないから!!」

 

 その言葉を聞いてあたしはすぐに体を浮かせ、ハジメに謝罪した……まだ、あたしはそっち方面の腹は括れないんだ……よね……ハジメには悪いんだけど……。

 

「悪い、そっち方面の耐性がないんだったな……」

「香織に教えた身分のくせにあたし、恥ずかしがりなもんだから……もうちょっと待ってくれない……?」

「おう。まぁ、あまり積極的になられても俺が死ぬだけだ」

「……なんか、ごめんね?」

 

 ハジメの疲れた声に若干、罪悪感を覚えるあたしだった。そんなこんなで現在。あたし達はギルさんの先導でフェアベルゲンに向かっている。あたし達、ハウリア族、そしてアルフレリックさんを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いているんだけど……なかなか着かない。

 ザムさんと呼ばれていた伝令は相当な駿足だったみたいで。

 でも、しばらく歩いていると。この樹海を充たしているはずの霧が晴れる。ただし、晴れたといっても全ての霧がなくなるってわけじゃないみたいで。

 一本真っ直ぐな道が出来ているだけである。

 

「こりゃすごいな……」

「不思議ね、霧のトンネルみたい」

「あの青い石が原因かな……」

「……神秘的」

 

 よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるような気がする。

 ハジメとあたしが、青い結晶に注目していることに気が付いたのかアルフレリックさんが解説を買って出てくれた。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は‘比較的”という程度だが」

「なるほど。まぁ、わかるわ。四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろうし」

「住んでる場所くらい霧は晴らしたいだろうな」

 

 あたし達は各々で所感を述べて、納得できた。どうやら樹海の中であっても街の中は霧がないようで。十日は樹海の中にいなければならなかったので朗報である。香織とユエも、霧が鬱陶しそうだったのでアルフレリックさんとあたし達の会話を聞いてどことなく嬉しそうだ。

 そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の‘国’というに相応しい威容を感じる。

 あたしとハジメは絶句。香織とユエは呆然。正直、すごい。

 

「「「「……」」」」

「どうですかな? 我が国自慢の大門は」

 

 アルフレリックさんはあたし達の反応に満足そうに微笑んでいる。

 ギルさんが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹の上から、すこし不快な視線が突き刺さっているのがわかる。人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようだ。

 アルフレリックさんがいなければ、ギルさんがいても一悶着あったかもしれない。

 おそらく、その辺りも予測して長老自ら出てきたと聞きたとハジメは後に、あたしに話してくれた。

 そして門をくぐると、そこは別世界だった。

 直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、樹の幹に空いた窓からは暖かな光が木漏れ日の様に漏れている。

 人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成していたり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそう。

 

「……なんつー幻想的なところなんだ。‘it's fantasy’だな。こりゃ本物だ」

「私たちは今、幻想郷に迷い込んだんだよ!」

「東方ネタかい。幻想郷は和風だろうに……でも、その形容がしっくりくるわね」

「……素晴らしい、自然の調和と、木漏れ日の様な最低限の光がより美しさを引き出している……これは、この景色はどんな秘宝よりも価値がある」

「「「どうしたのユエさん!?」」」

 

 あたし達がその美しい街並みに見蕩れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしいが、ギルさんが正気に戻してくれたようだ。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだね?」

 

 そして、アルフレリックさんの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。あたし達はそんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した。

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ」

「空気も美味しいし、ユエも言ってた様に自然に溶け込んだ街って感じで……憧れます!」

「調和の世界。これはたしかに……人間が来るべき場所じゃあないわね」

「ん……綺麗」

 

 飾りもなく、掛け値なしのストレートな称賛。流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人の皆さん。

 だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのかわかんないけど。皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 その様子を見てあたし達は苦笑いしつつ。あたし達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックさんが用意した場所に向かった。

 

 □noside

 

 あの時、幻影とはいえ。オスカー・オルクスの話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟をハジメに話した。

 それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと。そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が解放者という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。

 この地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だろうとアルフレリックは語った。

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺たちがその資格を得ている、と……」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

「貴様ぁ! ハウリア族を、その忌み子を庇うというのか!」

「当然、この人たちはあたし達が守ってるんだ! そのために、庇わないわけがない!」

 

 ハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメのいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達のハウリア族、そして香織、双葉、ユエが待機している。どうやら、双葉が誰かと争っているようだ。ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、双葉と対峙していた。双葉の目には怒りが滲み出ており。熊の亜人を睨みつけて、シア達を庇ったのか。彼女の顔に傷はないが、殴られた跡があった。香織は腰の銃を抜くか迷い、ユエはシア達を守るために隅に避難させていた。

 

 ハジメは……双葉が殴られたという事実に一瞬キレかけるが双葉が怒らず、我慢している以上は手を出さないことにする。しかし、怒りは滲ませながら……アルフレリックの懇願もあり、殺気は抑えていた。

 そして、彼らが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を、熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、そんな人間族の小僧と小娘が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメと双葉を睨む。

 

 ハジメは後にギルから聞くが、フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。

 今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。

 だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

「……人が我慢してりゃいい気になって……このクマっころには仕置きが必要かな?」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いているが、しかし。

 

 その進路上に双葉が突如として移動する。突進している身で急に止まることはできない…… 身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、彼女に向かって振り下ろされた。

 

 熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族と傍らのユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった双葉を幻視した。

 

 しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

 ぱしっ……

 

 その豪腕は静かに、双葉の左手によって受け止められた。

 

「……あんたから受けた都合の三発……殺しかねないから一発で我慢したげる」

「……な、なに!?」

 

 受け止められるとは思っていなかった熊の亜人は焦燥を覚えるがもう遅い。

 

「……擬/赤龍帝の籠手(シャドウ・ブースデット・ギア)っ!!」

 

 双葉の意思に応えるように、燻んだ真紅で彩られた大型の籠手が彼女の左腕に装着される。それはまるで龍を模したかのような無骨な物だ。

 亜人達はなんだそれはと言わんばかりに、驚愕の表情だ。

 

 [倍加(Boost)ッ!! ──Explosionッ!!]

 

 双葉の身のうちに秘めたオーラが暴風の如く吹き荒れ、調度品を、窓を、カーテンをばたつかせて引きちぎる。

 

「ま、まて! 俺が悪かった……!」

「問答無用……ぶっとべ」

 

 双葉は義肢の右手を握ると、拳を熊の亜人の顔目掛けて振り上げ、寸止めする。‘豪腕’は発動はしていないのにもかかわらず。その拳圧で熊の亜人はカチ上げられ、天井を突き破り、吹き飛ばされていった。

 

「……ふん……よっわ」

 

 とん、とその場を蹴り。双葉は跳躍すると気絶しながら落下してきた熊の亜人を空中で掴み、ズドン! と音を響かせて着地した。

 

「……これでお分かり? ……気に入らないならかかってこい……敵ならば容赦しない」

 

 凄む双葉の目を前に、亜人族の中で挑み掛かる者はいなかった。

 

 

 ──

 

 to be continued

双葉の進化先、バランスブレイクはどちらを優先する?

  • 赤龍帝の鎧ベース。これしか勝たん
  • 白龍皇の鎧ベース。銀の腕だし映える
  • 二天統一ベース。オリジナル亜種禁手化
  • 禁手化を状況的に使い分けろ!
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