ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双   作:ゆきほたる

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兎人族の愛

 □noside

 

 シアとユエの模擬戦から少し時間が戻り、ハジメの銃乱射から少し経ち、カム達ハウリア族が言われた通りに魔物を倒してきた頃。

 

「ハジメに追っかけ回されて、災難だったわね。でも、彼も理不尽にキレて追っかけ回したわけじゃないから許してあげてね?」

 

 まるで聖母の様に慈悲の微笑みを浮かべる双葉が彼らを出迎える。鬼の形相のハジメと打って変わって、惚れ惚れする様な彼女の微笑みは精も魂も疲れ果てていたハウリア族の精神的疲れを吹き飛ばす。

 

「いえ……私たちが不甲斐ないばかりにハジメ殿を怒らせてしまいました……もう、終わりだ……」

「“No problem !” 彼もわかってくれるよ。流石にやり過ぎたってハジメ、席を外してるから。まずは武道の心構えを説くわ……これがなくちゃ戦うことはできないからね」

 

 そう言って双葉はハウリア族に武の心得を説いた……双葉が喋るたびに若干闇属性魔法の気配がしたのは気のせいだろう──確かに気のせいだ。

 

 ──曰く、己が身を守ることは悪いことではない。

 

「生きたいって望む事は、決して悪じゃない。その「生きたい」って事を守ることが‘原初の闘い’だよ」

 

 ──曰く、生きるために殺すのは決して悪ではない。

 

「誰だって、生き物を殺したいわけじゃない。でも、あなた達は前々から木の実を食べたりこの森の恵みをもらって生きているでしょう? 彼らが子孫を残すため落とす種子を‘食い殺してる’──でも、それは悪じゃない‘生きるためには他者の命を戴く必要もある’それがヒトの業だから。それで、命を戴く以上、食べるときには「いただきます」と食べた後は「ごちそうさま」って感謝を忘れないであげて」

 

 ──曰く、生き残るために。敵の芽を摘む必要がある。

 

「魔物はこの世界が生み出してる‘理不尽’そのもの。弱肉強食を強要してくる悪い存在……とは流石に屁理屈だよね。でも、自然の摂理の中で不要な変質した魔力のせいで食肉にもならない……言わば、ヒトの生きる近くにいたら邪魔で仕方がない。だって飼い慣らしても食えない猛毒の肉の塊でしない。その身に宿す魔石くらいしか彼らに存在価値はないわね。そんな奴らは駆除しても問題はないし、可哀想と思う必要はない」

 

 ──曰く、そのために魔物を殺せ。

 

「ここまでこれば愚鈍なあなた達でもわかるわよね? ──魔物は友達でもなければ、お互いに益を分け合える隣人でもないただの害獣だって。でも、それが可哀想だと思うならこの魔法の言葉をあげる……“私たちのために死んでくれて、ありがとう”。魔物に対して感謝して、そして殺しなさい。そうすれば、あなた達を守る結界の維持が可能になるから」

 

 ──曰く、家族のために魔物を殺せ。

 

「ハウリア族存続のために魔物は退治すること……そこには情けも容赦も必要ないわ。あなた達、家族(ファミリー)を守るために私は力を伝授することにするわ。私があなた達に伝授するのはとある武闘家が祖母に教えてくれた‘武の極地’その御業、必ず身につけなさい。「心で知り、体で識る」── “水影心”の心得をまずは徹底的に叩き込むから」

 

 それから、双葉による猛特訓がハウリア族に襲い掛かった。まず、彼らは徹底的に双葉に追い回された。超人を超えたナニカな身体能力の、‘理不尽の権化’に追い回される。ハジメに追い回されるよりも恐怖を感じたのは仕方がないだろう。

 しかし、なぜ追い回されるのか。ハウリア達は余裕がない中でその理由を考えることが出来た。そしてそこで、初めてハッとする。

 双葉を観察して、彼女の短調な動きに対してなら次の挙動を瞬時に予測できる様になってきていたのである。そう、彼女はまず。彼らの危険察知能力を徹底的に呼び覚ます様に刺激した。

 そして、それの開花を認識すると次は彼らを棒切れでつつく様になる。尻や腿などの、比較的柔らかく怪我をしにくい場所をつつき回す。

 そして、つつかれると双葉が‘纒雷’を超々低出力で発動させているため感電する。ビリビリするのだからたまらず彼らは避けるし逃げる。しかし、双葉の方が速度が速いためどうしてもつつかれる。

 つつかれるのが嫌ならば、相手の動きをきっちり把握して避ける必要がある。それを双葉が言葉にして彼らに伝えると。自前の危機察知能力を全開にして、双葉の動きを観察。そして、集中して彼女の動きをトレース、あるいは把握。

 散々追い込まれ、疲労もある中で荒削りにも研ぎ澄まされたもうほぼ‘第六感’と呼んで差し支えのない、彼らの中に芽生えた感覚が警鐘を鳴らし。双葉の動きを‘見切れた’のだった。

 

「うん、合格。完全にあたしの速度についてこれるくらいの‘見切り’を取得したね。みんなにとってそれは戦いを大きく変える代物……その感覚を絶対に忘れないで」

 

 双葉はよく頑張りました。と彼らに労いの声をかける。そして、その日は終わった、が。その次の日が地獄だった。

 双葉は彼らにある程度の‘武の舞’を教えた。彼女が立っているだけに見えるのだが、普通の目で追い切れる速度でない動きを見せてそれをトレースしろと無茶振りをしてきたのである。出来なければ、双葉の「ざーんねーん」と気の抜ける言葉を聞かされながら、纒雷を死なない程度に浴びせかけられる。なお、その最初の犠牲者はカムだった。

 

「目で‘追おうとする’からできないんだよ。昨日の感覚を思い出してね」

 

 何人かのハウリア族が男達。彼らがほぼヤケになりながらぶっつけ本番な武の舞。しかし、双葉の微笑みと共に纒雷でノックアウトされ、撃沈された後、女子供達に双葉のヒントが飛ぶ。

 

 それは‘目で見るな’と言われた様なもので……試しにハウリア達は聴覚を研ぎ澄まし、目で追う事を諦めた。すると、鮮明に聞こえる音がした。その音を必死にトレースする。

 

 双葉が拳を突き出し、剣を振るう。または蹴り上げを行なってそのまま流れる様に足払い……その全貌が見えてきた。そして、ハウリア達は己の見たものを共有、トレースし合い……完璧なものへと仕上げていった。

 

「心の眼を開いた。よくできたね、えらいよみんな。無茶させちゃってるけど、まだ休ませないからね」

 

 これで終わりか……と思った矢先、双葉は彼らに瞑想をやらせる。微動だにせず、自然と一体化する感覚を叩き込まれた。……少しでも動くと足元に強いてある布から纒雷の電流が全員に行き渡り、一人が痺れて瞑想をやめると一族全員が痺れてしまうという連帯責任となる。

 しかし、この訓練には子供は参加させられなかったのがまだ救いだろうか? 

 ただし、子供達は武器の素振りを無理しない程度に、そのかわりノルマを達成するまではサボるなと命じられて。大人達の惨状から見て自分たちもああなる可能性がゼロではない事を悟ってか……哀れながらも、サボる子は一切いなかった。

 

 そしてハウリア族は双葉の課している、非常に厳しい訓練を受けた後の自由時間で。ふと、シアと双葉の修行を目撃することとなる。

 そこで目にしたのはシアと双葉が組手をしており。双葉から立ち登る何やら不可視の力を新たに得た技能である‘心眼’で見たのだ。それこそがのちにシアが開花させるオーラ……‘生命力の発露’と呼ばれる現象であった。

 

 それは自然と融和する様に……その燦然とした輝きは兎人族達からすればまさに、どんな宝飾にも劣らない輝きだった。

 

「シア、もっと重心を落として。そして、体幹をもっと安定させて体重を乗せる。そんなへなちょこパンチじゃ魔法すら砕けないよ」

「なんのぉぉぉ! ですぅ〜っ!!」

「甘い。シア、10点」

「はぁうあ!? あぁぁれぇ〜!?」

 

 彼らは知らぬ間にその戦いを見つめ続けていた。双葉はシアの拳による連打を脇を締め、片腕で空に楕円を描く様に‘廻す’、その手は手刀──繰り出されるシアの拳を手を添えて捌く様に……‘廻し受け’で受け払い、拳を流す。そして、まさか片手だけで連打を止められるとは思わず、引き攣った笑みを浮かべ固まるシアの止まった腕。その手首に手を添えるとそのままシアを投げ飛ばした。

 

 その練習を食い入る様に見つめていたハウリア達はすぐさま自己訓練を開始。そして‘廻し受け’を習得して見せた。その後も、厳しい訓練の傍らでこっそりとシアと双葉の修行風景を「見て、聞き、学んだ」彼らは……とうとうその輝きを手にした。

 

 自身達の手にあるその不可視の力。‘オーラ’と双葉が称する自然との調和が生み出し、生命を持つ者たちにのみ使うことが許される神秘の力。

 双葉が気がついた頃には取得していた“水影心”でオーラを分析して。彼らが連鎖的にオーラに目覚めた後であり、マジかよと彼女は思わず真顔になっていたのが彼らの記憶に鮮明に刻まれている。

 

「……そこまでできるなら、色々教えてみようか?」

 

 そして、もう開き直った双葉は彼らに武道を仕込んだ……‘とんでも武道’と呼ばれる代物を。そして現在に時を戻す。そこにはその教えを如何なく発揮した彼らの姿があった。

 

 ──────

 

 レギン・バントンは熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。

 

 もっとも、それは、レギンに限ったことではなくバントン族全体に言えることで、特に若者衆の間でジンは絶大な人気を誇っていた。その理由としては、ジンの豪放磊落な性格と深い愛国心、そして亜人族の中でも最高クラスの実力を持っていることが大きいだろう。

 

 だからこそ、その知らせを聞いたとき熊人族はタチの悪い冗談だと思った。自分達の心酔する長老が……一人の人間に為すすべもなく、精神的に再起不能にされたなど有り得ないと。しかし、現実は容赦なく事実を突きつけた。

 医療施設にて、ジンに充てがわれた個室で。「人間怖い……人間怖い……」と壁に向かってブツブツと呟き、虚な目で壁を見つめるジンの姿が何より雄弁に真実を示していた。

 

 レギンは変わり果てたジンの姿に呆然とし、次いで臓腑が煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた彼は。あくまでも冷静に、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。そして、全てを知ったレギンは、長老衆の警告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。

 

 長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族を駆り立てることはできなかったが、バントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達が集まり、憎き人間を討とうと息巻いた。その数は五十人以上。

 

 ところがそこに、思うところがある虎人族の若者が二十六人、協力させてくれ! と現れた。彼らは、双葉と交流のあった虎人族がギルに手を出すなと説得されたが、自身達の敬愛する長老であるゼルの怒りを汲んで立ち上がった若者たちだ。

 

 レギン達はそれを歓迎して、虎人族と手を取り合い。もっとも効果的な報復としてハジメ達が大樹へと至る寸前で襲撃する事にした。目的を眼前に果てるがいい! と。

 

 普段のレギンは優秀な男だ……本来ならこのようなご都合解釈はしなかっただろう。深い怒りが目を曇らせていたとしか言い様がない。だが、だとしても。繰り返すがだとしても、己の目が曇っていたにしたって──

 

「これはないだろう!?」

 

 レギンは堪らず絶叫を上げた。なぜなら、彼の目には戦闘力においては亜人族の中でも底辺という評価を受けている兎人族が、戦闘に長けた自分達熊人族と虎人族を圧倒しているという有り得ない光景が広がっていたからだった。

 

 ──────

 

 ことの発端は数刻前に時は遡る。そろそろ一団が来るだろうと踏んでいたレギンらの元に。

 

「失礼する。貴方達の目的を教えてもらえないか?」

 

 一人の兎人族が自分たちの陣地に現れた。音もなく、そこに悠然と佇んでいたのだ。

 

「貴様いったいどこからここに入ってきた!?」

「囲め! 返答次第では生かして帰さん!」

「……殺し合いをするために来たのではないのだがな」

 

 襲撃を実行に移すために警戒は怠ってはいなかった彼らだが、警備網を易々と抜けて一人だけで自分たちの陣地に潜り込んできた男を武器を構えて包囲する。

 男はそんな状況でも冷静に……否、いきり立つ熊人族、虎人族に憐憫の眼差しを向けていた。

 

「私はカム・ハウリア。もう一度聞く、貴方達の目的は何かな? 我々を襲撃にきたのかね?」

「そうだ、といえば?」

「即刻退去を提案しておこうと思い、ここに参上したわけなのだが……そうか。不退転の決意があるのだな?」

「……何が言いたい、兎人族!」

 

 あからさまにカムは肩をすくめながら「はぁ」とため息を吐き、言いたいこともわからないのかと。

 

「私は‘慈愛’を持ってして、‘貴方達’に接しているつもりだ。愛なき拳に意味などないからね」

「「「「……は?」」」」

「我々は君たちと良い隣人でありたい。そう願っていたが……剣呑な眼差しに加えて、武器を向けられてはこの愛をぶつけ、わかり合う必要があると思うわけだ。師父ハジメを筆頭に、あの方々に君たちが迷惑をかけぬ様。‘手心’と‘真心’を込めて……君たちと愛を語らおうではないか」

 

 す、と拳を構えるカム。武器もなしに何をと嗤う未熟者達に対して、レギンを始めとする相応の実力者達はカムが危険な存在であるとその闘争本能が警鐘を鳴らす。

 あれは‘敵対すべきではない’と頭が理解するが……

 

「訳の分からねぇ事をごちゃごちゃと! 死んどけ雑魚ウサギが!」

「よせ、ボンゴ!?」

 

 一人の若者がカムに向かってメイスを振り下ろす。カムはその場から動くこともなく……手を閃かせる。

 一閃。手刀は若者の首を射抜くごとく、どっ……とその熊人族の特徴である巨体が地に沈む。

 

 あたりを静寂が包み、亜人達はその様を呆然と眺めた。

 

「大丈夫だ。殺すつもりはない……最終通告だ。退いてくれないか?」

「……ボンゴをよくもぉぉぉ!!」

「野郎オブクラッシャーッッッ!!」

「お前たち、待て、無闇に突っ込むな!?」

 

 ジンならばこのいきり立った者たちを、その実力とカリスマ性を持ってして。一喝して鎮めれたのだろう、しかし彼はおらず──レギンは己の未熟さに臍を噛む。

 

「愚かな。皆、死なない程度に痛めつけて差し上げろ」

 

 カムは襲撃者に対して、そっと円を描くように。オーラを練り上げ、脚を強化すると……

 

「ショウッッ!!」

「「「なぁ!?」」」

「と、跳んだぁぁぁぁ!?」

「なんて高さに跳び上がりやがった……あん?」

 

 裂帛の気合とともにカムが上空に跳び上がり、その場から離脱すると。何やら

 

ドドドドドドドド……ッッッ

 

 大地が揺れる。軽い微震の如く……地が震えていた。そして、バキバキと木々を小枝のように薙ぎ倒しながら……ナニカが叫びながら、奥深い霧の中より現れた。

 

「「「超級覇王電影弾っっ!!」」」

「「「「「ぐわぁぁぁぁぁっ!????? ッッッ」」」」

 

 常識的に見れば。初見であれば、それは‘薄翠の発光体から生首が生えている’ような、その絵面、その衝撃の度合いは推し図れまい。

 驚愕にあんぐりと顎を開き、目の前の暴虐的な存在を前に若者達は呆然として。ボーリングのピンがマシだと思える様に、弾き飛ばされ宙を舞い。その得体の知れぬ威力、何より容貌に熊人、虎人族達は浮き足立ち、パニックに陥る。

 

「な、なんだアレは!?」

「レギン殿! 後退してください! アレが、あの変な化け物がこちらにきます!」

「殿ば私が! お任せください!」

「トント……しかし!」

 

 レギンもまた、見たことのない強烈な絵面に戸惑いを隠せず。一時は硬直したが、すぐに立て直しを図るために部下の提案を数舜で判断した──が。その判断は遅すぎたのをすぐに悟る羽目になった。

 

「退却だ! トント、任せ……」

「逃がすかぁぁぁあっ! 敵に背を向けるとはそれでも男か!」

 

 彼らの前に、数人の兎人族が立ちはだかったのだ。女も混じっていたが彼らの顔は愛らしさの中に精悍さを滲ませている……戦士ならば見惚れるほどに、その武練の様は研ぎ澄まされていた。

 

「貴様等一体なんなんだ!? 今我々が相手取っているのは、本当に我々の相手が、あの兎人族なのかぁ!?」

「「「俺(私)のこの手が真っ赤に燃えるぅぅっ! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅぅっ!」」」

 

 トントの渾身のツッコミ。それに応える様に、ハウリア達は各々の手を赤く、紅く、赫く。迸るオーラで染め上げた。

 

「「「ばあああああああああくぬぇつぅ……ゴォォォッド……フィンガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」」」

 

 その手には灼熱と呼んで差し支えのない、爆発的な‘生命の発露’が宿り、キラキラと輝いているッッ!! 

 

「「「流派東方不敗……最終奥義ィィッッ!!」」」

 

 そして右腕を弓引く様に構え、ハウリア達は……次の瞬間、理不尽なるオーラの奔流を手を突き出す様に解放したッッッ!!! 

 

「「「石、破ッ!! 天、きょぉぉぉけぇぇぇええんッッッッ!!!!」」」

 

 その手より弾き出されたオーラの奔流。いわゆるオーラ砲はレギン達の足元に直撃、オーラは地を割り、その内側から爆ぜる様に……大地をひっくり返した(・・・・・・・)故に……

 

「「「「グワーッ⁉︎」」」」

 

 爆破に巻き込まれた熊人族、虎人族達は訳もわからぬまま天に放り投げられる。そして上空より飛来したのは……先ほど跳躍して見せていたカムが天を闊歩するが如く、足裏よりオーラを弾けさせて滑空して来たのである。

 

「我が慈雨を受けるがいい……行くぞ、‘剛掌(ごうしょう)百烈拳’っ!!」

 

 慈雨と称するには些か荒々しい雨の如く拳打が突き込まれる……訳ではなく。カムが握った拳を虚空で突き出し、拳大のオーラを飛ばす様なものであり、つまりはグミ撃ちと称される……双葉に教わった‘天翔百烈拳’を彼なりに昇華させた業である。

 

 そのオーラは相手に「耐性」無視の打撃ダメージを与え、かつ不殺さずの秘孔を突き抜いて戦闘不能に陥らせるもの。

 よって、カムの攻撃を受けた者たちは例外なく恍惚の表情で地に伏しており、辛くもそれを空で身を捩って躱した一部の者たち以外、立っているものはいなかった。

 

「残すところは君たちだけだ……」

「これはないだろう!?」

 

 叫ぶレギンに対し、カムは、ハウリア族はゆったりと歩み寄り。

 

「友達になろう。それで、君たちは私たちと戦わずに済む」

「なっ……ふざけるなぁぁあ!!」

 

 にっこりと笑みを浮かべて、カムはそういった。レギン達は逆上して襲い掛かろうとするが、ハウリア族を見て引き攣った笑みを浮かべて止まる。

 

「……無手……だと……っ!?」

「師父ハジメは武器を持っている。しかし、我々はそんなものを必要としない……私たちは君たちを傷つける意図は全くないのだ。見てみ給え」

 

 周りをカムが一瞥する。レギンは戦闘中に不謹慎な、と思っていると……吹き飛ばされたり、爆破された熊人族、虎人族を分け隔てなく治療しているハウリア族の姿が目に見えた。

 

「な、施しのつもりか!」

 

 情けをかけられていることにレギンは怒りを示す。戦いに来たのだ、殺しに来たのだぞ、と吠え散らす……そんな彼に帰ってきたのは。

 

「何を言う。拳を交えれば……家族だろう?」

 

 カムの快活な、イケオジスマイルだった。

 

「なっ……」

「言ったではないか、最初に。我々は‘手心’と‘真心’を込めて……君たちと愛を語らおうではないか、とね」

 

 その言葉にレギンは……心をへし折られた。まるで、最初から自分たちが敵ではない……そう認識させられた。

 

「さぁ、君たちも治療を受けてほしい。慈愛を受けてくれ」

 

 カムの言葉は、熊人族、虎人族の若者達の矜持を木っ端微塵、粉微塵に打ち砕くのだった。

 

 ──

 

 to be continued .

 

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