ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
□Noside
平原を何時間走ったか、双葉の目には遠くに町が見えた。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町で、街道に面した場所に木製の門がある。
その傍には小屋もあり、アレはおそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。
「さて、街に行く前に。2人とも、ステータスプレートいじんなくてもいいの?」
「うん? どうかしたの?」
「なんか問題でもあるのか?」
一行は目の前に見えている街から二キロほど離れた丘にて初見で騒がれること間違いなしの、魔力駆動二輪を二台とも宝物庫にしまい。いざ街へと行かんと張り切っていたところに、双葉に呼び止められたハジメと香織。
「そのステータスを大っぴらにするつもりなら止めないけど?」
「「……ああ、なるほど!」」
双葉の意図を理解した二人はステータスの隠蔽機能を有効にする。
ステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能があるのだ。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。
「これでよし、あたしのもっと……」
「これで問題はないかな。そんじゃ、行こっか!」
「……機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」
改めて街の方を見て微笑むハジメに、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている。
「んー、それはねシア。奴隷の首輪モドキなんだ」
「ぴえっ!? ど、奴隷の首輪……モドキ?」
「一応、体面上はあたしがシアの所有者ってことにしてるから、合わせてね」
双葉はシアを嗜めるように。しかし、納得できないご様子の彼女に「ごめんね」と香織が申し訳なさそうな顔で補足する。
「本物の奴隷の首輪と違って絞殺するような機能はつけさせてないから安心してね? シアちゃんも一応知ってるとは思うけど、亜人族は王国内じゃ奴隷しかいないの。それを誤魔化すために、双葉の所有物ってことにしとかないと……」
人里にいる亜人族は基本的に奴隷として見られている……人として扱われていない彼らの待遇がよくわかる文化であった、そして。奴隷の首輪は誰かの所有物であると言う証明だ。
その首輪がないと言う事は誰の物でもないと言う事。
何より愛玩用として人気の高い兎人族で、更にその中でも物珍しい白髪に加えて、容姿もスタイルも抜群であるならば……間違いなく町に入って即座に目を付けられ、絶え間無い人攫いの嵐になるだろう──そう、補足されてはシアも渋々納得せざるを得ない訳である。
「……シアのため……我慢すること」
「ただでさえトラブルメイカーじみたウザウサギだ。このメンツの中で一番強い双葉に守ってもらわねえと困るだろ?」
「そのために、奴隷の身分ですかぁ……くすんっ……」
納得したが不満ですぅ! と言わんばかりのシアを引き連れながら、一行は町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。
その格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながら自然にステータスプレートを取り出した。
「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」
ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメ達のステータスプレートを受け取り、チェックする。
「そっちのお嬢さん方も連れの人かい?」
「ええ、彼と同じパーティーな訳よ」
「錬成師と治療師、戦乙女。いい感じのバランスだな……何よりすんげー別嬪さんを両手に花とは、なかなかやるな、ボウズ」
「どうも。でも、頼りになる仲間だよ」
「ちっ、ますます羨ましいじゃねえか」
態とらしい舌打ち。しかし、本気で妬んでいるわけではなくフレンドリーなやり取りに双葉は内心ほっとした。まぁ、隠蔽機能を有効にしていなければ門番は二、三度ひっくり返っているに違いないだろうが。
「まぁいいや、そっちの嬢ちゃん達も見せてくれねぇか……?」
門番がユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。
ユエは言わずもがな、ミステリアスな雰囲気にどこか妖艶な様はまるで傾国の美女。そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女である。喋らなければ、だが。つまり、門番の男は二人に見惚れて正気を失っているのだ。
双葉がわざとらしく咳払いをする。それにハッとなって慌てて視線をハジメに戻す門番にハジメはまぁ、仕方ねぇよなと彼に謎のフォローをしていた。
「こっちにくる途中で魔物の襲撃にあってな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は……わかるだろ?」
その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷きながら受け取っていたステータスプレートを彼らに返却する。
「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? ボウズって意外にボンボンで金持ち?」
「所有者はこっちの戦乙女さんだよ。よく見てみろ、手には厳つい手甲。脛には脚甲。バリバリの拳闘士だぞ?」
「はぇ〜……戦闘系。しかも、あの兎人族が……珍しいな」
「まぁ、あたしの弟子みたいなもんだし」
ユエとシアの二人を見ながら、門番はまぁ、俺には縁のないことか。と呟き、本業をしっかりと勤めんと。ハジメ達を通した。
「まぁいい。通っていいぞ」
「ああ、どうも」
ハジメ達は門をくぐり町へと入っていくが、そこで双葉が立ち止まり。門番に話しかける。
「あ、そうだ。素材の換金場所って何処にあるかわかりますか?」
「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるからな」
「おぉ、それはありがたい。ありがとうございました」
門番から情報を得て、門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしく、町中はそれなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。ハジメだけでなく、ユエも楽しげに目元を和らげている。
門をくぐり少ししてからハジメは、シアの首輪について彼女に説明する。
「シア、悪いな。奴隷って身分に落とし込むような真似してよ」
「その立場から私を守ると言うことはもう理解しましたから、いいですよぉ……」
「その首輪だが、念話石と特定石が組み込んであるから、必要なら使え。直接魔力を注いでやれば使えるから」
「はぇ、念話石と特定石ですか?」
「念話石は生成魔法で作った新しい石でね? 込めた魔力量に応じて遠方と念話が可能になるわけよ。まぁ、今の段階じゃあ内緒話には向かないんだよね」
「特定石は魔力を込めると、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことで識別出来るようにした」
双葉とハジメの説明に、感心の声を上げるシア。
「ちなみに、その首輪、きっちり特定量の魔力を流すことで、ちゃんと外せるからな?」
「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというハジメさんの気持ちというわけですね?」
「訳のわからんことを言うな」
「いや〜、照れ屋さぶへっ!?」
調子に乗って訳のわからないことを言うなとハジメのゲンコツがシアの頭頂部に落とされる。たまらず彼女は、奇怪な悲鳴を上げながら頭を押さえる。
そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さいが──そんなことを思いながらも、ハジメはギルドのドアを開けるのだった
■双葉side
あたし達にとって小さな冒険者ギルドは荒くれ者達の場所という勝手なイメージで。傍迷惑かもしれないけれど、薄汚れた場所と考えてしまっていた。ホルアドのギルドは大きさ故にきっちり掃除も行き届いていたけど……このブルックのギルドもきっちりと清潔さが保たれていた。
あたし達が入った正面……入り口からまっすぐにいったところにカウンターがあり、左側は飲食店になっているようで。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことから察すると──元々、この飲食店に酒は置いていないのかもしれない。
酔っ払いたいなら大衆酒場に行けということなのだろうか。いや……酔っ払うと大体喧嘩してそうだからそういうことなんだろうな、そういうところやぞ男子ども。
さて、あたし達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。
最初こそ、見慣れない五人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかっだのだろうとは思うけれど。彼等の視線が香織、ユエとシアに向き、最後にはなんでかあたしにまで注目が集まってきて……なんでやねん。
彼らの好奇心がこの4人の美少女()に集中して増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者。あの門番さん同様にボーと見惚れている者。鼻の下を伸ばしていたのが第六感判定かなんかでバレたのか、女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしく、痛そうだった。
テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようで、足止めされなくて幸いとあたしとハジメを先頭にカウンターへ向かう。
カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたお姉さんがいた。どうやら美人の受付というのは幻想ではないようで大変驚いた。あたしが想像していたのは、恰幅のいいオバチャン。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。
目元に皺もなく、肌艶のしっかりした輪郭と尖るように細い顎のライン。肢体の方も自慢なのか胸元が実にセクシーな“敏腕の美女秘書”と言った具合だろうか?
なお、ハジメも以外そうに見惚れかけていたが、香織の氷のような微笑みを受けて背筋を震わせながら我に戻っていた。これは宿でお仕置き(意味深)が待っているのだろうかと内心では冷や汗を流しているんだろう、南無三。
そんなハジメの内心を知ってか知らずか、お姉さんはニコニコと人好きのする笑みであたし達を迎えてくれた。
「両手に花を持ってるどころか、四人も侍らせてまだ足りなかったのかい? 残念だったね、アタシは人妻だよ?」
……このお姉さんは読心術の固有魔法が使えるのかもしれない。なんて考えてるであろうハジメは頬を引き攣らせながら何とか返答する。
「いや、そんなこと考えてないから」
「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」
「……肝に銘じておくよ」
ハジメの返答に「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね?」と、申し訳なさそうに謝るお姉さん。何とも憎めない人だ。チラリと食事処を見ると、冒険者達が「あ~あいつも姐さんに説教されたか~」みたいな表情でハジメを見ている。
どうやら、ここの冒険者達が大人しいのはこの人が原因のようで……というかなんか喋り方に違和感があるなこの受付嬢さん。まぁ、藪蛇を叩くのもアレだしあたしは無関心を貫くように、女は秘密を抱えると美しくなる原理なんだろう、たぶんきっとめいびー。
「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」
ハジメの疑問に「おや?」という表情をする受付嬢さん。
「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうだったのか」
「受付嬢さんの言う通りだよ、ハジメ。冒険者になれば様々な特典も付くって習ったでしょ──生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材って冒険者が取ってくるものがほとんどだしね」
「言われてみればそうだったな」
香織の指摘にハジメが思い出したかのように頷く。
そう。この世界は町の外が危険地帯なのだ。外ではいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然なのだ。
「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
ルタ。この世界トータスの北大陸共通の通貨。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石を加工して特殊な方法で刻印したものが使われているもので。
青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。
「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくか?」
「ん、そうだね……双葉は確かお金持ってたっけ?」
「え、あーうん。持ってるよ」
「お嬢ちゃん、待ちな」
そこに受付嬢さんが待ったをかけた。
「可愛い子四人も侍らして男が文無しなのかい? 何やってんだい」
「うぐ、ちょっとばかし事情があってな。魔物に追っかけられたり、馬車を野盗に取られたりで散々な目にあっちまってな」
ハジメはバツの悪そうにしながらも軽く嘘をついた。お姉さんはそれをじろり、と一瞥して……吊り上がっていた目元を穏やかにして。
「……アンタも苦労はしてんだね。よし、魔物の素材があるなら買い取ってあげるよ。まったく、今後は不自由させてやるんじゃないよ?」
「助かるよ、ありがとう。姐さん」
「あはっはっはっはっ! 姐さんだなんてやめとくれ。アタシはこれでも49なんだよ?」
受付嬢さんがかっこいい。つか美魔女かよなんて驚愕をハジメが露わにしながらも。あたし達はその有り難く厚意を受け取っておくことにしてステータスプレートを差し出しながら、あたしは内心で彼女を姐さんと呼ぼうと思う。畏敬の念を込めてね!!
ステータスプレートには名前と年齢、性別、天職欄しか開示していない。
姐さんは、ユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それはあたしが断っておいた。
二人は、そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態で衆目の目に付くことになってしまうわけで。
あたしやハジメもおそらく同じ気持ちなのだろうけど──二人のステータスを見てみたい気もしたが、おそらく技能欄にはばっちりと固有魔法なども記載されているだろうし。
それを見られてしまうこと考えると、あたし達の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと念話でこっそりと相談して、今は諦めることにした。
そして、あたし達の手に戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに「冒険者」と表記され、更にその横に青色の点が付いている。
青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。
「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」
「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
姐さんは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀な人だなぁ……ハジメは、あらかじめ‘宝物庫’から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出して。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石。ポピュラーな素材だし問題はないだろう……と思っていだが。
カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、姐さんが驚愕の表情をする。
「こ、これは!」
恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げた姐さんは、溜息を吐きハジメに視線を転じた。
「とんでもないものを持ってきたね。これは……樹海の魔物だね?」
「ああ、そうだけど……?」
奈落の魔物の素材など、こんな場所で出すわけがない、というか出せるかあんなもん。未知の素材を出されたら一発で大騒ぎだし、それは流石にアカンとあたしもハジメも自重したし。
樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろうことは予想していたから少し迷ったけど……他に適当な素材もなかったので、買取に出した。
そして姐さんの反応を見る限り、やはり珍しいどころかすごい素材なのだろうか?
「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」
その言葉にあたしは会話に口を挟むことにした。
「やっぱり珍しいの?」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」
姐さんがチラリとシアを見た。おそらく、あたし達はシアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。
それから姐さんが、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ……かなりの額では?
「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「いや、この額で構わない」
ハジメが五十一枚のルタ通貨を受け取り、財布代わりの袋に入れる。なおこのルタ貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。
もっとも、例え邪魔でもあたし達には宝物庫があるからなんの問題はないけどね?
「ところで、姐さん! 門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんですけど!」
「姐さんはやめとくれよ、まったく。ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来で。それを見て思わずハジメが。
「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだけど?」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
「辺境で務める人材じゃないでしょ……」
思わず香織が呟くほどの逸材だ。それだけこの姐さんの優秀さと有能さがやばかった。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。
「そうか。まぁ、助かるよ」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その四人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
姐さんは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメが苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、あたしと香織が「ありがとうございました」と礼を言い。あたし達は入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合っていたのは無視した。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」
姐さんの楽しげな呟きがやけに耳に残ったのだった。
──
to be continued .