ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
■双葉side
襲いかかってきたブリキの兵隊もとい‘騎士甲冑像’たちを相手にあたしとシアが前線を構築する運びとなるのは自然だった。
そりゃそうだ、アレら。なんだかんだ‘纒雷’なしとはいえ対戦車ライフルよりも高い威力のドンナーやデュランダルを食らっても、構築している一部が吹き飛ぶだけで済むほどの‘頑強さ’だ。
ちなみに、
「数が多いのもそこそこ厄介、ね!」
‘
斬り掛かってきた甲冑像の握る。あたしの身長ほどの大剣をガングニールの面で受け流し、カウンター気味に空いてる左手でぶん殴る。それだけでピンボールのように頭がすっ飛んでいくのだが、すぐに再構築されて頭が戻る。
そのお陰様で、あっちこちには騎士甲冑の残骸が散乱するごちゃごちゃした戦場になっているわけなのだが。
‘
袈裟斬りに振り下ろし、転身しつつ下段から薙ぎ払うように振り上げ。加えて‘ダークリパルサー’によるオーラ砲で至近に迫った甲冑像の胸部に穴あけて貫き、射線を通す。
「1……5体か。面倒だし、試したいこともあるし。──やるか!」
‘
籠手の倍加を8倍で止める。そして解放! ステータスが爆上がりして噴き出すオーラもここまでくると暴風となる。暴れる髪を無視してあたしはそれを行使すべく体制を整えた。
亜空間にガングニールをしまい、オーラを練り上げて右手に宿す。
「無理を通して、道理を蹴飛ばす! 二重螺旋に乗せて道を拓く! あたしを誰だと思ってやがる! いくよ──」
漏れ出て、膨れ上がった龍のオーラを円錐に、螺旋を刃のように……! そう、衝角。‘ドリル’といえばこの技!!
肥大化していくソレは限りなく真紅を超えた赫の色、輝き呻る‘ドリル’に左手を添えて両足を踏ん張り足を溜める。そして、その身を弾き出すように踏み込む!
「ギガぁあ……ドリルうぅぅぅ──ブレイクううぅぅぅぅ!!」
‘爆縮地’によるその名の通り暴虐な加速に加えて魔力放出によるブースト加速。最短でまっすぐ一直線に! 集団の中を突っ切るようにあたしは突き抜けた。
ごばぁん!
音速を超えてあたしが動いたことによって発生した
しかし、すぐに再構築されていく……こともない。そりゃそうだ。
ここまで戦ってきて導き出した答え。それはこいつら、騎士甲冑像は欠損して、欠けた‘重さ’をトリガーに再構築が開始される。
叩き割られて腕がもげるとその質量分、この部屋にあるなんらかの仕掛けで失った分の‘重さ’になるまで復元、修復される。
そこで、試しにやった‘ギガドリルブレイク’の結果。まぁ再構築不可能なくらいに
「見破った! シアはとにかくぺちゃんこに潰しにかかりなさい! ハジメ、部位が欠損するとその分の質量を復元するみたいだよ!」
「了解ですぅ! 寸胴にしてあげましょう!」
「なるほどな、つまり重さを変えないように潰せばいいのか」
ハジメがドンナーで甲冑像を蜂の巣にして露払いしつつ、豪脚による蹴り技主体の動きにシフトしていく。「やぁぁ!!」と殴りかかるシアの一撃で頭を鎧の中に埋め込まれて視界が切れた甲冑像を横殴りで薙ぎ払われたそれが密集していた甲冑像の元に弾き飛ばされて、さながらボーリングのピンみたいになっていた。
あたしも徒手に切り替えて、一体の甲冑像をむんずとその足首掴むと。どう、とそれを棍棒代わりに振り回す。同じ素材同士なのでそりゃ片割れはぶっ壊れたりするけど再構築されるから何度でも新品になるからけっこういいわね。
大槌による一撃で潰され、ハジメの蹴りや頑丈な銃身での打撃。あたしのメチャクチャな打撃でべこべこにされていく甲冑像たちは足を空洞の体内に物理的捩じ込まれたりと動けなくなる事案が多々発生。その結果数分後にはミレディご自慢のゴーレム集団は再起不能にされていた。
ハジメが祭壇のパズルを解き、門と形容すべきその扉を押し開ける……が。その部屋は飾りも何もないただの四角い空間だった。
「再生できなけりゃそこまでの脅威にはならねぇな。さて、ここが最後の部屋か?」
「どうだろ、これも仕掛けな気がするけど」
「何処まで人を馬鹿にすれば気が済むんですかぁ、ミレディ・ライセン!」
「……シア、落ち着く」
「リラックス、リラックス」
シアの悲鳴が聞こえた気もするが気のせいだ。やけに艶っぽい、色っぽいものな気がするが、無視だ無視。気を取り直し、あたしたちがそこに入ると……
内心で一番あり得る可能性が的中したのか、あるいはフラグだったのか。もう、うんざりする程聞いているあの音がこの部屋に響き渡った。
ガコン!
『!?』
仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、あたし達の体に横方向からのGがかかる。それと同時にあたしはそれに付き合う義理はないのでとある準備を進めることにした。
「何!? なんですかぁ!?」
「この部屋自体が移動してるのか!?」
「……そうみたッ!?」
「ふきゃん!?」
「やれやれだわ」
縦横無尽、上下左右。あっちこっちに振り回される皆を尻目にあたしは倍加を重ねる。いい加減イラついてきていたの盤面をひっくり返してやろうと思ったのだ。と言うか、あたしたち以外で此処の攻略なんてできるわけがないだろう。
きっかり40秒の、およそ16倍加で一旦止めて。部屋も同時にピタッと止まった感覚を覚える。慣性保存の法則はどうした、とツッコミたいがその労力を割くのも面倒だ。
そこにある扉に手をつき、部屋の中で振り回されたのがシアだけだったのが救いかな? 実際、ハジメが靴の底にスパイクを作り出して香織とユエを両脇に抱き抱えてるから。
「うぇっぷ……気持ち悪いですぅ……」
「ゲロインにはなりたくないわよね、ほら酔い覚ましよ」
地球から持ってきていた酔い止めをシアに飲ませておき。とりあえず扉を押し開ける。そこは……
「……何か見覚えないか? この部屋」
「……シアちゃんがぶっ潰してた部屋だよね? 名残を感じるんだけど」
「ん……最初の部屋に似てる、特にあの石板の位置」
扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。見覚えがある。いや、これ。
「似てるじゃないですよ、最初の部屋……ですよぉ!?」
シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったあのウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。
よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。
‘ねぇ、今、どんな気持ち?’
ブヂッ……ナンノオトカナー
‘’苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち? ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ、どんな気持ち?”
「「「……」」」
「双葉ちゃん、ステイ。ステイね?」
「ふふふ、大丈夫、まだ、怒ってないから」
「あっ(察し」
ハジメ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。シアはふふふ、と笑い始め。ユエは何も言わないが若干魔力を迸らせて不機嫌な雰囲気に。そんな感情豊かな三人が微動だにせず無言で文字を見つめている。あたし? 香織に宥められて落ち着いている。すると、更に文字が浮き出始めた。
“あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します。いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです。(^^)”
“嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ! (^ν^)”
“ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄ですケド、ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! m9(^Д^)プギャー”
その文字で誰かがキレる、前に。
「よーし、ここまであたしたちをコケにしたんだ。もう我慢の必要もないでしょう」
あたしは右手を掲げ、今まで使わなかった魔力を宿して。
「これは我が怒りを代行する剣である」
トリガーとなる言葉を唱えると光が灯る。右手は燦々と、爛々と輝く。空間が震え、嘶く。
「なっ、香織。障壁をたのむ!」
「あー、うん。双葉さんめっちゃ、ブチギレしてるねクォレは」
「な、何をするんですかぁ!?」
「……やばいわよ」
赤龍帝の籠手を右腕に添えて、溜めていた力を一気に解放……ではなく。
‘
溜めていた力を全て、アガートラームに譲渡する。すると、輝きを増した義腕はその力を膨大な術式に変換した。
無から有を──‘夢幻’から‘無限’を。
光は右手に、左手を添えてアガートラームが分解。一筋の光へと変貌する。そして、物質に再構築されたそれは大きな鉄塊とも言うべき、私の身長よりも大きな大剣だ。
「其は全ての敗北を殲滅する
「其は全ての戦いに勝利を齎す
左手でその柄を握り。足腰を落として正眼に構える。
「悉く、全てを打ち滅ぼさん。駆けろ、
そのまま、‘突き’を放つ。数瞬ほど世界が置き去りにされたような無音。光となった大剣が閃き、世界を突き抜けていった……直後。
ぐごごごぅん!!
崩落の轟音と共に、土煙が晴れると世界が青くなった。天井が吹き飛び、青空が覗く。どうやら、朝になっていたらしい。
フィンディアス。またの名を‘勝利の剣’。フレイ様の武器たるそれを参考に作り上げた‘多目的殲滅術式’だ。
ドライグの譲渡の力を最大限に活かして。その実‘対人〜対権能’のランクまで対象を指定できる。今回は‘対城’を想定したが、こりゃオーバーキルかもなぁ。
瓦礫に埋まった迷宮。一応、上に狙いをつけておいたから地下に傷はつけていない。せいぜい一階部分からその上が消滅した程度だろう。
フィンディアスの属性は‘無窮’を持つ。直線上にある、その属性に触れた物質やら全てを‘破砕’する。無論これは敵味方関係なく巻き込むので、後ろにみんなが下がったのはきっちり確認済みだ。
手にしていた大剣が粒子となり、溶け消えていくと。銀色の義腕へ元通りになっていく。しかし、やはりと言うか……
「ん、使った後はやっぱガタが来るわね」
「丸々1日使えないのが反動のせいだからな」
擬似神経の接続に少し違和感が出ており、ぎこちない動きの義腕。また慣らす必要があるか、と思いつつシアを見やる。
ぽかーん、と間抜け面。そりゃ常識外にも程があるわよね、迷宮を蒸発させるなんて。
「さて、邪魔なガラクタは全部取っ払ったし、進もうか。十全に機能していない今のうちにね」
□noside
迷宮そのものを破壊した双葉をみて、ハジメ、ユエとシア達はどことなくすっきりした顔をしていた。まるで憑き物が落ちたかのような、それはそれは晴れやかな顔だ。それはそうと、部屋に新たな文字が浮かび上がる。
“……は? なに、なんなの?”
気持ち困惑しているのは気のせいだろうか。
“迷宮がなくなっちゃったぁぁぁ!?”
「ザマァ、ですよーだ!」
「流石に悪辣すぎたし、双葉がここまでブチギレてぶっ放すのは初めてみたぜ」
「……因果応報」
カタカタと震える迷宮。どうやら再構築されそうになっているが、その速度は地を這うナメクジのように遅い。
‘こ、こんなの想定できる訳ないじゃん!? 苦労して作った迷宮が、根こそぎ吹き飛ばされるなんて! お家返してよー!!’
その字を見て香織は苦笑い、双葉はなにやら違和感を覚える。
「って言うかなんで、リアルタイムで起こってることに反応してるのよ。コレ」
そう、迷宮が破壊され。ここに居ないはずのミレディからの抗議と考えると、と文字を指差しながら双葉は思案した。
「……地縛霊みたいになってるんじゃね?」
「あり得なくはないかなー。私たちの知らない魔法もある訳だし」
「……ん、死霊術にもそういった物もある」
「なるほどー。つまり、ミレディ・ライセンは今の時代にも生きている訳ですね!」
「……シア、若干楽しそう?」
ユエの指摘にシアはむふふ、と笑い。
「直接ぶん殴らないと気が済みませんので!」
「ああ、そう言うことか」
ハジメの憐憫の眼差し。一番、この迷宮におちょくられていたのはシアだ。私怨も募ればなんとやら。触らぬキレウサギに祟りなし、とハジメは口を紡ぐ。
「なら、ご本人のところに行こうか。トラップも生きてるのは地下の方にあるやつだけだし……!」
そう、双葉が言った直後。世界が震え、彼女達の前方に召喚の魔法陣が浮かび上がった。
「あれは……召喚魔法の」
『白いの、これは……』
『間違いない、フタバ。気をつけろこの気配は‘邪龍’だ!』
「やれやれ、死後の世界でのんびりしてたと思えば。また、呼び出されるとはなぁ」
ごきごき、首を鳴らしガリガリと頭部を掻くその鱗は漆黒、双眸は銀色に煌めく。
肉体は強靭にして、二足で立つその姿はまるで巨人。双葉の10倍はあるだろう巨躯のドラゴンだった。
「テメェがエヒト君の恐る赤龍帝かぁ?」
「
「お、知ってくれてるとは自己紹介が省けて効率がいい……あん? なんで白龍皇も混じってんだよ……いや、なんで邪竜の気配がするんだ?」
噛み合わない、そんな会話を尻目に。騒ぐ文字が映し出される。
“げぇぇ! このクソみたいな術式の気配! エヒトの介入!? 迷宮が吹っ飛んで場所が割れちゃったじゃん!”
「知らんがな。元はと言えばてめぇが双葉をキレさせたからだろうが」
迷宮の崩壊はともかく。目の前に現れた明らかにヤバいやつへの対処にハジメは頭を回す。ベオウルフの名はハジメも知っている英雄の事だ。それに倒されたと言うことは悪しき存在に違いはないだろう。
ふと皆を見ると、相対する双葉はともかく。実戦慣れしている香織とユエですら緊張感を滲ませている。大方、彼我の戦力比を見抜いたのだろうと彼は当たりをつける。
「とんだビッグネームが乱入してきたわねぇ」
はぁぁぁ、と双葉は大袈裟に溜息を吐くと。亜空間よりガングニールを引き抜いた。
「どうせあたしを狙ってきたんでしょ。なら話は早いほうがいい、みんな。先に行って……足手纏いを世話する余裕ないわ」
その言葉はハジメ達を思ってのことだ。どう足掻いてもまだ半人間の彼らには荷が重すぎると双葉は判断……したのだが。
「エヒト君の命令でこの場にいる奴は皆殺しにする必要があってなぁ、それによ。暇で暇で仕方なかったから弱いのも殺しテェんだよ」
「……悪趣味」
「同感だねぇ……で、双葉。私たちが足手纏いなの?」
眉を顰めるユエ、香織は双葉を名前で呼ぶ。その貌は不満で歪んでいた。
「状況が変わった、ね。護りながらたたk」
ドパンッ! ドンッ!
「ちっ、硬ぇ。双葉、俺たちも頭数だ。全員で生き延びて地球に帰るんだろ?」
「そーそー。相手は私たちも狙うって宣言してるんだし」
「ぐっ……いいねぇ、迷いなく目を狙いやがるとは」
纒雷なしの弾丸を叩き込むが、咄嗟に目を閉じたグレンデルの鱗に阻まれる。それを見て舌打ちする彼は獰猛な笑みを貼り付ける。
「はん、グレンデルだかなんだか知らんが俺たちの道を阻むなら……糧にしてやるよ」
「黙って邪魔されるほど弱くないつもりだしね」
「……ん、邪魔者は排除」
「こ、怖いですけど。その程度ならなんとでもやってやるですぅ!」
「ったく。どいつもこいつも……ドライグ、アルビオン。全力で行くわよ!」
『『応ッ!!』』
一致団結した彼らを見て。邪龍は嗤う。漆黒のオーラは喜色を滲ませている。
「さぁて、遊んでくれよ。赤龍帝! あの屈辱の返上、リベンジマッチだ!」
「と言われてもあたしはあんたのこと知らないんだけどね」
「こまけえことは気にするな!」
こうして、来る災厄を、跳ね除けるべく。双葉は宙を舞うのだった。
──
to be continued