ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
□noside
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
その日の訓練が終わった直後に、双葉達は明日以降の方針を聞いた。
なお、小悪党組をボコった双葉だったが彼らのやろうとした事を未然に止め、「力を持ったことにより些か暴走気味だった彼らに対してお灸を据えた」と双葉が説明すると光輝は渋々納得してそれ以上の糾弾はなされなかった。
この事実に関しては檜山達が厳重注意を受ける……それもそうだろう。対魔物用に与えられたアーティファクトを‘対人’に使用して剰え、魔法を放ったのだ。通常ならば死傷者が出てもおかしくはないほどの威力になっているそれを双葉に放った以上、地球の日本で言えば‘殺人未遂’の罪過を背負うハメになるだろうが。
双葉は彼らを許し、「自分も若干やりすぎた、ごめんなさい」と謝罪していたので彼らも納得は一応した、一応。その直後に「南雲ハジメにこれ以上絡んだり、暴力は振るいません」と誓約書を双葉に書かされていたが。
そんなこんなで【オルクス大迷宮】に遠征となった次の日。宿場町に双葉たち生徒はやってきていた。
戦争に立候補した生徒だけでなく参加しない生徒も来ているのには理由があり、実戦訓練は必要だろうと国王、イシュタル教皇に命令を受け。渋々メルド団長はこの遠征を行った、と双葉に漏らしていた。
さて、双葉達はこれから挑む迷宮に対しての説明を聞き。その準備を進めて宿場町の【ホルアド】に所在を移して王宮直営の宿に泊まり、明日の実践訓練に備えていた。
【オルクス大迷宮】
それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。
またこの迷宮は、よく新米冒険者あるいは新兵の関連にも利用される。
と言うのも、階層により魔物の強さを測りやすいからということに加え、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだそうな。
ちなみに、魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。魔物が力強いのはその魔石から力を得ているからと言われている。
なお、魔石は魔法の触媒にしてもよし、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。そのため、どんな魔物も見た目で判断することはできない危険な者たちだと言うのはそう言う事である。
ハジメの元に香織が訪れているため、双葉は1人部屋に残されていたが。落ち着かず眠れないのでとりあえず空でも見よう、と宿の屋上にでた。
しかし、そこには先客がいた。
「あら、こんばんは。双葉」
「なによ、雫も寝れないの?」
そこにいたのは雫であった。
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月夜に照らされた屋上で語らう双葉と雫。しみじみと最近のことを話し合う。
「こっちに来て2週間ねぇ……どうなんのかな」
「そうね。戦争に参加なんてしたくなかったけど、光輝だけにやって貰うのは正直……」
「わーってるわよ。もしも、もしもだけど。光輝がピンチになったりしたら飛んでってやるわよ……あんなんでも幼馴染だし」
「頼もしいわね。光輝よりも強い人が言うと」
「……雫。もしかして怒ってる?」
自分よりも強い人がバックアップに回るのは面白くない、と言いたげな目で雫に睨まれている気がした双葉だったが、そんなことはないと彼女は苦笑する。そして雫は真剣な顔で。
「そんなまさか。ただ、香織と南雲くんのこと宜しくお願いね」
「……アンタは前で暴れてきなさい。ほら……刀の方が使いやすいでしょ?」
雫に腰に佩ていた物を雫に渡した。それは日本刀のように似せて作ったサーベルだ。
「あら……やっぱりわかっちゃった? ……刀じゃないみたいだけど、どこで手に入れてきたのよこれ」
「南雲くんの力作。厨二靈ゼンカイで作ってたのに私が付与魔法を馬鹿みたいにかけたやつよ。試作品だから気にせず振り回してちょうだい」
「なるほどね。南雲君にお礼を言っとかないとダメね」
受け取りながら鞘より引き抜き。ヒュンヒュンと振るう雫。重さも良好かつ、鋭い剣技を繰り出して見せる。
「使いやすい……本当にいいものよこれ」
「《風刃、強靭、無敵、さいきょぉぉぉ!!》だっけな、付与魔法は」
「どこかの海馬社長みたいな付与魔法ね」
「……真顔で返すなぁ!! いい知れない敗北感があたしを満たすから!!」
「所詮、双葉は敗北者じゃけえ!」
「……はぁ……はぁ……敗北者? ──いい加減にしてよ!?」
ボケる雫とツッコミに回る双葉。しかし、そんなボケとツッコミの応報をしばし続けていた中で。双葉は雫の目を見続けて、ふと気付いた。
揺れる彼女の赤い瞳、その奥に怯えの色が見えたのだ。
「……やっぱ、そうよね。怖いわよね」
「双葉……?」
「昔さ、よくこうしてあげたよねー」
腰掛けていた椅子、双葉は雫の頬に左手を回すようにして添えて。引き寄せると、彼女にもたれかかるような体勢に持って行く。
雫の、サラサラと手入れの行き届いた黒髪の感覚を楽しむためではなく。
そのまま、優しく撫でて。落ち着いた声音で双葉は彼女に呟いた。
「私はまぁ、特殊な家系だって言ってたわよね」
「ヴァルキリー……って言ってたけど、設定でしょ?」
「今このタイミングで設定とか言わないわよ。見せた方が早いね……」
双葉はそう言いながら右手で虚空に指を這わせるように、何かを描く。
「‘
K、Fと澄んだ白の魔力で描かれたそれは虚空で燃え上がり。彼女の掌の上で留まる。
「それって……トータスの魔法じゃない……の?」
「トータスだと火球だっけな。これは始原の火。知らしめる火……オーディン様が初めて火を起こした話に出てくるルーン魔術よ」
「ケルト、北欧で有名なルーン魔術……? 北欧ってヴァルキリーの原典よね……は?」
火を霧散させる双葉を見て、理解が及んだ雫はギョッとする。
「マジだったの……?」
「うん、おおマジ。私の母さんが北欧で現ブリュンヒルデだし」
「大物のヴァルキリーだった!?」
「ニーベルングの指環では自殺して終わるヴァルキリーだけど、最強ってのは確かだよ? 不吉だからブリュンヒルデとかやめてほしいわ」
「ニーベルングの指環は物語だから! 関係ないでしょ!?」
ひっくり返りそうになる雫を左腕だけで支えつつ。しかし、ご本人は納得いかないと言う顔である。
「とまぁそんなことはどうでもいい」
「どうでも良くないでしょ!? 情緒不安定!?」
「鋭い突っ込みだよ、雫。やっと普段通りになった気がするぜ」
「……もう、ほんっとに遠回りするのが好きなのね」
昔からの付き合いでわかるっしょ? と言わんばかりのドヤ顔をする双葉に対してはビンタで返す雫だった。
「ひでぶっ!」
「自業自得よ。でも、ありがと」
「んふふ……いいよ、んなもん。緊張して怪我されたら面白くないし、誰だって怖いわよ」
「双葉は……」
「私は怖くないわよ。メスゴリラ舐めんなよ?」
「自虐ネタをぶち込むのはやめましょう?」
「うっせえわ」
そう言いながら、双葉はさて、と立ち上がる。
「明日は迷宮に行くわけだし、そろそろ寝よっか。香織も帰ってきてると思うし」
「そうね。おやすみ、双葉。ほんとにありがとう」
手をひらひらさせながら自室に戻って行く双葉を見送り。負けていられないか、と雫は頬を張った。
浴衣の腰にサーベルを佩くと柄に手を置いた。大丈夫、やれる。そう自分に言い聞かせるよう、雫も自室に戻っていった。
■双葉side
たいまつもなしで進めるダンジョン。鉱脈をぶち抜いて作られたようなその迷宮の壁。その壁の中にある、ぼんやりと緑に光る緑光石によって灯りが灯されているらしい。
そんなことを考えながら、私は愛子先生や南雲くん、香織たち後衛を守るべく槍を手にしながらみんなの戦闘を見ていた。
光る刀身を唸らせながら広範囲の魔物を一瞬で切り裂く光輝、多くの魔物を殴り蹴飛ばし、後衛に近寄らないように善戦している龍太郎。
そして、流麗で冴え渡る美しい剣技と、抜刀術のように、居合斬りで多くの魔物を屠る雫。
彼らに負けずと、後衛組が魔法を放てば灰燼に帰す魔物たち。ちょっとばかし、「オーバーキル過ぎないだろうか?」とも思わなくもない。
「やることないわねー。香織、南雲君が焦る必要がないのはいいことなんだろうけど」
「あははっ、そうだねー。あれ? 双葉ちゃん、呼ばれてるよ?」
「メルド団長かな? 私は後衛の護衛だというに」
「双葉。お前も動きを見せてくれ」
「へーへー」
やってきたメルド団長の指示に従い、私は前に出る。
湧いてきた魔物……ラットマンだっけな?
見た目は灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。
筋肉ムキムキマッチョマンの変態じみた魔物が結構な速度で間合いを詰めてきていた。しかし焦ることもなく拳を構え、そして──ボッ! いう音とともに。
ぱきゃっ!! と弾け飛ぶネズミの頭から魔物の血が噴き出す。それを震脚の要領で地を蹴り、地盤を捲り上げるとラットマンの死体は私と正反対の方向へと飛ぶ。
「とりあえず、把握。結構弱いな、こいつら」
向かってくるのを蹴りやなんでもないショートパイクで次々、心臓を貫き、頭を柘榴を割るように吹き飛ばされ。絶命させられるラットマンは仲間の大半がやられたのを見て逃げ出すけど……
「逃がすわけないでしょ?」
私は先ほど見た魔法を模倣して渦巻く炎を天にかざすように。すると、魔法が発生して形を作る。
「‘螺炎’って言うのかな?」
それを躊躇うことを知らず私はぶん投げる。逃げていったラットマンの群れは炎の塊に呑まれて灰に帰っていった。
「魔石は残ってるでしょ?」
「すごーい……」
香織がぱちぱちと手を叩き、ポカーンとしてるクラスメイトの視線などつゆ知らず。私は魔石を回収してメルド団長に渡す。
「流石だな……歯牙にも掛けないとは」
「この程度で調子に乗れないですよ? ほら、いきましょうか」
「お、おう」
自惚れるわけでもなく。私は淡々とメルド団長に提案した。
それから特にピンチに陥ることもなく私たちは迷宮を進んでいく。それにしても、南雲くんの護衛をしていると時々感じる。
ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。
香織に向けられているものであり、南雲君が強く見られている。
その視線は今が初めてというわけではなかったらしく、今日の朝から度々感じていたものだ。視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散すると言う。朝から何度もそれを繰り返しており、南雲君もいい加減うんざりした表情を見せている。
……十中八九アイツよね……まぁ、今は捨ておこうか。何かをしているわけでもないし。
さて、私たち異世界から来た組からすればこの程度の敵は本当に造作もなく倒せる程度の強さだった。20層にあっという間に到達したのである。
20層はやたらとゴツゴツした場所で隊列を組んで進みにくい。せり出した岩が邪魔でならなかった。
そんな時。私の気配感知に反応があり、パーティーの2人に注意を促した。
「香織、南雲くん。私から離れないで」
「うん、わかった!」
「情けないなぁ、僕は本当に」
「適材適所、よ。南雲君」
先頭の方で騒ぎがあり、おそらく魔物が出たのだろうか? 呑気にそんなことを考えていると……耳障りな咆哮が聞こえると思ったら、岩が飛んで来た。
「見事な砲丸投げのフォームね」
「言ってる場合じゃないよ、天龍さん!?」
岩の迎撃をするべく私は拳を握る。しかし、なんと。岩が突如としてゴリラになった。ルパンダイブさながら香織に突っ込んで来たので、手をかざして魔力を練り上げる。
「たまげたな。こんなのもいるんだねー」
無詠唱で魔法が発動、それは聖絶。障壁を張る魔法で、ロックマウントとか言う魔物は不可視の壁に貼り付けられたようにびたんっ!!
「うわ、気持ち悪っ!?」
「ごがぁぁぁぁ!!」
言葉がわかるのかこいつ……あ、言語理解のせいか。キレて障壁を殴り出すがびくともしない。めんどくさ……とりあえず。
「吹っ飛べ。‘火球’」
「ぎがぁぁ!?!?」
障壁越しに火球を見舞い、消し炭にした。
「相変わらず規格外の魔力……‘今のはメラゾーマではない、メラだ’って言っても納得できる気がするね」
「どこぞの魔王と一緒にしないで。ちょっと前に行ってくるわ」
2人にそう言い残し、狭い通路の壁を走って前に行く。
苦戦こそはしていないが、光輝が大技を……おいおいあれって……!?
「万翔羽ばたき、天へと至れ──」
「あっ、こら、馬鹿者!」
「ダイナミックキャンセルゥゥゥ!」
「天sへぶっ!?」
構えている光輝の横っ面を蹴飛ばして‘天翔閃’の発動を強制的にキャンセルさせながら、籠手を顕現させてドライグの力を借りる。
「
[
「魔力収束、蓄積解放! 吹っ飛べ……ドラゴン・ブラスター!」
ざっと気配感知に反応があった位置全てを巻き込むように暗い真紅な極光の魔力砲撃を叩き込む。射線上にあった物は全て吹き飛ばされ、気配感知の反応が全て消え失せた。
籠手を顕現させたままだが頬を抑える光輝の胸元を掴むと前後に揺すりながらとりあえず叱る。
「地下で縦軸に振り下ろす技とか魔法を使うなぁぁぁぁっ! あほ! バカ! 間抜け! 崩落させるつもりか!」
「ぐえっ、ガクガクさせないでくれ、双葉!? 悪かった! 次は気を付ける!」
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
とりあえず怒りをぶつけてから光輝を離すと土下座させてしまうがそこはいい。なんかいま不穏なこと言わなかったっけ?
「ふんっ、次は気をつけなさいよ……あれ?」
なんか足元に魔法陣が展開されて。瞬く間にあたり全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現……は?
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
メルド団長が叫ぶがもう遅い。光が満ち、私達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる──空気が変わったのを感じた。次いで、私は魔力感知の応用して空間を探知して着地する。
周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。
「どこに飛ばされたの、これ」
「わからない……メルド団長」
光輝はメルド団長の方へ行き、私はあたりを観察。そして…… 私たちが転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。長さはおよそ百メートルで、天井も高く二十メートルほど。
橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
道幅は広い……およそ十メートルかな? 手すりもない心折設計だけどなぁ!! 落ちたら奈落の下ってか? 冗談じゃないぞぉ?
奥に見えるのは次の階層への入り口。後ろ側には上段へ上がるための階段かな?
しかし、魔力感知に嫌な反応がする。そう、これはトラップだ。
「光輝、お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」
メルド団長は危険を感じ、雷の如く轟いた号令を。わたわたと動き出すほかの生徒達。しかし、階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……撤退したけりゃ突破しろってことかな?
‘力を持つものには責任がある’……母さんの言葉を思い出して、私は覚悟を決めた。
「光輝、後ろはお願い。アレは私が潰すから、みんなの避難を優先……頼むわよ」
「……わかった」
前に出る。アレの相手をできるのはうぬ溺れるつもりはないけど、あたしだけだろう。
「ドライグ、いくわよ」
『地龍もどきか。肩慣らしにちょうどいいかもな』
さっきのドラゴン・ブラスターで使った魔力はとっくにリチャージされている。私はパンッ、と右拳を左掌で受けて音を鳴らし、気合を入れる。
あたしのステータスはこの2週間で全く上がっていない……経験足り得ないから、だと思う。光輝程度では強敵足り得ず、メルド団長もあたしにとっては敵ではない。そのステータスの差が仇なのか──ステータスの仕組みはまだわからない。
だが、越えるべき壁が前から来たなら……
「上等、やってやろうじゃん」
「グルァァァァァアアアアア!!」
咆哮を上げたトリケラトプスモドキに対し、あたしはメルド団長の静止を振り切るように。踏み込んだ
──
to be continued