ありふれない天龍姫と魔王の異世界無双 作:ゆきほたる
□noside
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。
小さな無数の魔法陣から、骨格だけの体に剣を携えた魔物‘トラウムソルジャー’が溢れるように出現した。
空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。
しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じていた。何より、その後に続いたメルド団長の言葉に耳を疑った。
「よせ、双葉! そいつは、ベヒモスはいくらお前でも太刀打ちできる相手じゃない!」
彼女が一歩を踏み出しそして、ベヒモスの咆哮を聞きメルド団長は我に帰る。
「メルド団長、ここはあたしが引き受ける。光輝、行って!」
「わかった! メルド団長、アランさん! カイルさん、イヴァンさん、ベイルさん……撤退します!」
「なぁ!? 何を言っている!? カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん!」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
「貴方たちも、俺たちも、双葉の邪魔なんです!」
「なん……だと……!?」
「双葉……ごめん!」
「頼むぞ、双葉!」
その言葉を聞き、呆然とするメルド団長の腕を掴み、光輝は下がる。雫、龍太郎たちも騎士たちを連れて下がった。
「ありがとう、光輝。──メルド団長、とりあえずあたしを信じてくださいッ!」
十メートル級の魔法陣から出現したのは、体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……メルド団長の話が正しければベヒモスと呼ばれる魔物だろう。
「いくわよ、ドライグ」
『応ッ!』
[
「まだ、溜めるわよ……‘限界突破’ァッ!!」
双葉は
「10秒保てばあたしの勝ち……いくわよ!」
双葉は‘縮地’の効果で魔力を爆発的に放出させダメ押しで‘神速’の加速、そのまま槍をその自慢そうな頭の甲殻に叩き込む。「速度×質量=威力」の公式だったがしかし、甲高い金属音と共に大きく弾かれる。
「グオァァァンッ!?」
弾かれたことに舌打ち、付与魔法で強靭になっているはずの穂先にはヒビが入っていた。甲殻を突破するにも、それを貫ける威力が必要となる。
「しゃーない、魔力の消費は抑えたいけど、四の五のと言ってらんないかな」
残り6秒。ベヒモスは怒りを露わに、双葉を敵として認め。排除すべく襲いかかる。
よく見ると穂先を弾かれたが、その頭部甲殻より血が流れていたのを確認した双葉は。ベヒモスの足元を抜けて後ろに回る。鞭のようにしなる尻尾を紙一重で避けながら、スライディングの要領で躱す。
「流石にタフだね……でも、負ける気がしねぇ!」
残り3秒。ベヒモスは双葉を轢殺せんと突進を行おうとするが、その寸前。ベヒモスの後脚が石橋に沈み込んだのだ。
「天龍さん! 足止めは任せてくれ!」
「グオオオオオンッ!!」
ハジメの声が届き、ありがたいとつぶやく。そして、ベヒモスの怒りの咆哮が聞こえる。泥濘のようになった石橋に脚を捕らわれ、もがく様に動くしかできないと自分も怒るか、と双葉は納得した。
残り、0秒
[
「よっしゃ! いくわよ……」
身体的能力は現在、4倍加に加えて‘限界突破’の効果により。さらに3倍となっている。その数値は──12倍だ。
「天雷の鏃。貫け……!」
自身の手にした槍を放り投げ、双葉も飛び上がる。そして、石突に爪先を引っ掛けるような体勢となり。そして
「
オーバーヘッドで石突を一気に蹴り込む。槍は雷光を付与され、稲妻の如き速さでベヒモスの背中に突き刺さると、甲殻を突き破り。体内部に槍に込められていた魔力の雷を解き放つ。
「グルァァァァァッッ!!??」
体の内側から蹂躙され、ベヒモスの内臓機能が低下すると、その動きは格段に鈍くなっていた。
それでもなお、暴れるくらいは可能で……ハジメの隣に着地した双葉はその場にへたり込むように動けなくなった。
「やばい、負荷が……許容ギリギリ……」
「みんなが弱ってるベヒモスに魔法を撃ち込むから、天龍さんは早く逃げて!」
「了解……ありがと。あと、ごめんね。南雲くん」
「槍はまた作るさ! 早く!」
「オーケー。任せた!」
そう言い残し、双葉はトラウムソルジャーの残党を蹴散らすのを手伝いつつ双葉は振り向いて、雷の魔力を突き立てた槍目掛けて叩き込むと。ベヒモスはさらに弱々しい動きになっていく。
そして、ほぼ全員が避難したあと。ハジメは撤退すべく走り出した。
■双葉side
「疲れた……」
「お疲れ様、双葉ちゃん! すぐに癒すね! 天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん──‘天恵’」
私は魔力と疲れ、筋繊維断裂などの内傷の治療を受けながら、派手な花火のようになっているベヒモスの惨状を見る。極限まで弱らせて遠距離から蹂躙する人間の数の利点だと。
「やっぱり戦いは数だよ姉貴!」
「わかりやすいネタをありがとう、香織」
トラウムソルジャーの増援も打ち止めとなり、あとは南雲くんの帰還を待つだけ……そう思っていた矢先の出来事だった。
「グルァァァァァッッ!!」
「う、わぁぁ!?」
なんと、死力を振り絞ったのか、ベヒモスが再活性化。南雲くんを道連れにせんと動き出した──っ!?
「──ハジメくん!?」
「みんな、集中砲火だ!!」
光輝の指示に従い、後衛のみんなが南雲くんを救うべく雨霰。最後の与力を振り絞って魔法を放つ。もちろん私も魔力の塊を叩き込んだ……なんで火球が飛んでったの?
ベヒモスに火は効きにくいよ?
直後、火球はベヒモスから南雲くんへと標的を変えて……は?
今から、飛び込むか? いや、間に合わない……!?
あんだけベヒモスが暴れりゃあーなるか、橋が崩落を始めてるし!?
「──え? ハジメくん……? ハジメくんっ!?」
そうこうしてるうちに火球が……南雲くんに直撃した……は?
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。
南雲くんは動かない……いや、ダメージが大きくて動けない……!!
「ハジメくんッ!! 離して、助けないと!」
「ダメだ、もう間に合わな……ぐはっ!」
「ちょっと香織を借りるわよ、光輝」
私は自分の中にあった魔力を込めて光輝を殴った。殴ったついでに《原初のルーン》を彼に譲渡する。
「光輝、あたしがあげたのをうまく使いなさい」
「どういう、待ってくれ。双葉っ!」
香織の手を引きながら私は崩落する橋に向かって歩みを進める。
「香織、行くんでしょ? 手伝うわ」
「双葉ちゃん……ありがとう!」
あたしはメルド団長にごめんなさい、と心の中で謝り。そして、崩落する橋に向かって走る。
「まて、双葉! まってく……」
「ここに在れ、獄炎よ」
あたしは焔の魔力を放出してみんなを足止める。そして、指先を檜山に向けた
「必ず生きて帰るわ。だから……‘ガンド’」
「がっは!?」
最後のルーン魔術で檜山を殺さないギリギリの魔力量で撃ち抜き、あたしと香織は南雲くんの元へ走るのだった。
■光輝side
「行くな! 双葉、戻ってこい!」
メルド団長の叫び声、しかし前に出れない……とんでもない熱量の魔力が俺たちを阻んでいた。
そして、橋が完全に崩落すると……双葉、香織。そして南雲の姿は……どこにもなかった。
「メルド団長……撤退しましょう」
「光輝……お前……」
「双葉がいます! あいつがいれば南雲や香織は生きてます! 信じましょう!」
「……全く、意味のわからん事を言う奴だが、なんとなく理解はしてるさ……わかった。これ以上の犠牲は出せん。撤退するぞ」
メルド団長は撤退の準備を進めるために体制を立て直さんと点呼をかける。そして、伸びていた檜山を縛り、俺たちは地上へと戻るのだった。
「雫……その……」
「慰めはいらないわ。双葉がいるなら、南雲くんと香織は無事よ」
「ああ、そうだな。だから」
僕たちは出来ることをしよう。
■双葉side
そして、冒頭の回想からここに繋がる訳なんだが……え? メタい? お気にならさず??
あたしたちは絶賛落下中。南雲くんを背負って戻る算段だったけど、やっぱ間に合わなかったや。
「2人ともしっかり捕まってね」
「ほんとに手はあるんだよね!?」
「双葉ちゃんを信じて、ハジメくん」
赤龍帝の籠手を霧散させると、2人の腰に腕を回して、固定すると。あたしは
「ごめん。上には上がれないからこのまま下に降りるよ……多分未知の領域だから覚悟して進もうか」
「上等……こうなりゃやけだよね!」
「香織、やけにならないでね? 何かあったら困るのは僕たちだし」
「わかってるとも。もちろん、わかってるよー」
まだ見えぬ底を見ながら、私は下降する。空を見上げて、微かな点となった地上の光に対して未練を振り払うよう。そして何より、あの光に戻るその時を心に誓い。
「必ず、どんなに時間が必要だったとしても。地上に戻ろう、だから……よろしくね、ハジメ、香織」
私は南雲くんに対して、その名前で呼ぶ。ハジメ、と。彼は少し戸惑いの声で私の苗字を呼ぼうとするので
「天龍さ……」
「双葉よ? 双葉って呼びなさい……この状況は親しくないと生き残れないんだし」
「……わかったよ。……双葉」
「うんうん、それでいいんだよ。ハジメくん……そのまま双葉ちゃんもモノにしちゃっていいよ?」
「何言ってんの香織!?」
「ほんとに何言ってるのかな、香織さん!?」
私とハジメの息の合うツッコミが、奈落の底に響き渡る。まぁ、いいや。この2人を護るのは……あたしの役目だと、そう心に誓い。私たちは未知の領域へ脚を踏み入れるのだった。
──
to be continued