トレセン学園はトレーナーも魔境(荒木荘風味) 作:銀能神
ここはチーム『パッショーネ』の部室がある棟の前だ。
問題の書類事態は直ぐに届けることが出来た。ここのチームのボスであるジョルノ・ジョバーナトレーナーはフラフラと歩き回る事をせず、どっしりと構えトレーナー専用の部屋で書類仕事をしていたからだ。
『パッショーネ』にはサブトレーナーが多く所属しており職員室とも呼ばれるトレーナー達複数で兼用される部屋が用意されている。そこで話を通せばジョルノトレーナーの居る部屋に直ぐに案内されたと言うわけだ。
予想よりも早く仕事が済んだ私はとあるウマ娘に見つからないようにさっさと去ることにした。
そのウマ娘というのは丁度あのようにカウガールのような格好をしたスタイルの良い……
「オゥ! そこに居るのはスー先輩デース!」
危機感知が遅れた私は逃げる間もなくその豊満なボディに顔面を包まれる。もう何度繰り返されたかわからないこのハグに内心ため息を吐きながら無理やり引き剥がしていく。
「スー先輩! 今日は何の用事で来たんですカー? もしかしてワタシに会い来てくれたんデスカ!?」
彼女の名前はタイキシャトル。
短距離やマイルで最強を決めるのならという話で必ず名前が上がる程の俊英である。
アメリカからの留学生で、何故かはわからないが何かと此方に構いまくってくるのだ。
やっとの思いで引き剥がしたタイキシャトルに既に用事が終わり今から部室に帰ることを伝えた。
「オーゥ……カナシイデース……」
そもそも脚質適正的に私とは全くレースで噛み合わないというのに何故こんなに懐かれたのだろうか。
いや、タイキシャトルの性格的にこれがデフォルトである可能性が高いかもしれない。
私はお世辞にも友好関係が広いとは言えないのでそこら辺を見極めるのは難しい。
帰ると伝えても今だ離れる様子がない彼女に気になっていることを聞いた。
「えっ? トレーニングは無いのか、デスカ?」
そう聞くとタイキシャトルはあっ! というリアクションをした後で頭を抱える。
「そうでした! トレーナーさんが待っていたのでした! スミマセンスー先輩! シツレイシマース!」
溢れんばかりのパワーによる踏み込みで加速し颯爽と走り出すタイキシャトルを見送って私はまた自分のトレーナーの元へと歩いていった。
▲▼▲▼▲▼▲
三女神の像と三柱の男の像の前、帰り道を歩く私の前に葦毛のそして見覚えのあるウマ娘が見えた。
「ん? スー先輩じゃないか」
サンドウィッチを口に運びながら此方に歩いてくる彼女はオグリキャップ。
私と同じく、地方からやってきたウマ娘。
数年前にこの中央に地方から凄いウマ娘がやってきたと聞き、興味本位で会いに行ってからの仲となる。
しかしこの時間は何時もならまだトレーニングをやっている筈だと思い聞いてみる。
「今日は軽いトレーニングだけをやって好きにして良いとトレーナーに言われて」
成る程、地方から来たこのオグリキャップを熱心に口説いたというトレーナーの指示だったかと思い納得する。
「あぁ、トレーナーが……稀には休みを取らないと栄養状態が悪くなってその綺麗な手が台無しになってしまう……と言っていた」
……話には聞いていたが随分と変わった説得をするトレーナーだ。
おそらくだがここ最近オグリキャップの調子が悪くなっているのでどうにかして気分転換をさせたかった……のだと思う。
綺麗な手と言われてふんすと自慢気に鼻をならすオグリキャップを見ているとこの分では日課の朝練も程ほどにすませているに違いない。
うん、多分そういうことだろう。
……今度時間を作って様子を見に行く? いやトレーナーにそれとなく聞いてみた方が良いかもしれない。
そんなことを考えていると目の前からくぅ、と可愛らしい虫の声が聞こえた。
「す、すまない。一応運動を控えめにしているから食事も控えめにしようと思ってお昼もどんぶり5杯しか食べてないんだ」
それは充分食い過ぎの領域では?
そう思ったが口には出さずオグリキャップの手元にあったサンドウィッチが消滅するのを見届ける。
だがしかしそれでも全く物足りないのだろう。その悲しげな表情がそれを物語っている。
しかし、我慢するくらいならトレーナーに聞いてみれば良いのでは? トレーナーもオグリキャップとは数年の付き合い、オグリキャップが大飯食らいなのをしっている筈である。
「それは……確かにそうだな。有り難う、聞いてみることにする」
そうした方が良い。
リフレッシュの為の時間なのに無理に我慢する方が問題なのだから。
そう言ってオグリキャップと分かれて今度こそ私はトレーナーの元へと向かった。
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