「過去に囚われたまま戦うのはやめろ! お前も!」
目の前の紅いMSから聞こえる声。
この三か月間に何度も聞いた声が私の耳に入る。
「そんなことをしても、何も戻りはしない!」
戦闘中にそんな大声を出して随分と余裕だな。と頭の中でどうでもいいことを考える。
「なのに未来まで殺す気か! お前は!」
「そんなのただの言葉じゃない! 誰がそんなこと決めたのよ!」
目の前の男の言葉に、気付いたら反論していた。
裏切り者の言葉に耳を貸す気はなかった。
だが、気付けば大声で怒鳴り返していた。まるで三か月前に戻ったようにお互いの言葉をぶつけ合う。
「こんなことをして本当に世界が平和になると思っているのか!? それで本当に幸せになれると思っているのか!」
「戦争のない世界以上に幸せな世界なんて、あるはずがない!」
「力で押さえつけた平和なんて、本当の平和とは言えない!」
「なら他にどうしろっていうのよ!!」
右手に持つ対艦刀「アロンダイト」が紅い機体のビームライフルを真っ二つに切り落とす。これでお互いの遠距離武器は取り回しが悪く、牽制には使えないものしか残っていない。
必然、接近戦になる。
私と紅い機体が鍔迫り合う。
「あんたに議長以上の案があるの!? 戦争を今すぐ終わらせるための案が!」
私の言葉に、目の前の男が呻く。
「それは……」
何も答えることができない目の前の男に私はさらに言葉を突きつける。
「どんなに綺麗事を並べても、結局は力がすべてなのよ!」
「それは違う! それは間違っている! 力がすべてなんて、そんなことがあっていいはずがない!!」
「だったら証明して見せてよ!」
後ろに引いて鍔迫り合いから脱出し、左手の「パルマフィオキーナ」を起動させる。
「あんたが正しいっていうのなら、私に勝ってみせろ!!」
光り輝く掌を目の前の男に向ける。男は盾を出してそれを防ぐが、私が出力を上げると盾についているビーム発生装置が爆発する。
その衝撃で男は月面に叩き付けられた。
「ハッ…ハッ…」
荒い息を整えながらゆっくりと男に近づいていく。
「これでやっと終わる……」
右手に剣を携えながら私はつぶやく。
「この戦争も……」
強敵をやっと倒し、あとはとどめを刺すだけ。
「私の戦いも……」
今この瞬間、私の胸には三つの感情があった。
強敵をやっと倒せたという達成感と、
これで戦争がなくなるという幸福感と、
私程度に負けるのかという目の前の男への失望感。
そしてこの三つの感情が、
「すべてが!!」
私に油断を招いた。
「まだだ!!」
紅い機体が吠える。
ブースターを目いっぱいふかして月面の砂で砂埃をおこし、目くらましにする。
すぐにどこから来てもいいように、私は下がって砂埃を注視する。
(……そこか!)
出てきた陰に即座に切りかかろうとし、
自分の失敗に気付いた。
「リフターだけ!?」
ガツンッ!
右手が何かにはじかれ、アロンダイトを落とす。
「まだ終わってない!!!」
そして砂埃から飛び出してきた紅い機体に無防備な左腕を切り落とされる。
「……ぁ」
声にならない声が漏れ、
「くっそぉお!!!」
気づけば私はまた叫んでいた。
「まだやれる! まだ……」
残った右手のパルマフィオキーナを起動させ目の前の男を迎撃しようとする。
怒りで視野が狭まり、
そのせいで気づくのが遅れてしまった。
ズバンッ!
先ほど射出したリフターが戻ってきて、右腕と両翼、そして残った武装を一瞬で切り刻んでいく。
その衝撃で今度は私が月面に落ちていく。
「アスラン……やっぱあんたすごいや……」
無意識に口から出たのは称賛の言葉。
見上げるとこちらを見て苦しそうな、辛そうな、そして少しだけ嬉しそうな顔をしている紅い騎士が見える。
(さっきの聞かれたのかな……だったら……少し恥ずかしいな)
そんなこと思いながら、私は意識を手放した。
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爆炎を上げながら落ちていく少女を眺める。
ギリギリの戦いだった。
実力差はないに等しく、こちらが勝っていたのは経験だけ。
それもすぐに埋められる程度しかない。
⦅アスラン……やっぱあんたすごいや……⦆
少女が落ちながら発した言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。
はじめはいつも何かに怒っていた。
少しするとまるで子犬のようになついてきた。
また少しすると失望した目でこちらを見てきた。
俺が逃げたときなんか泣きながら攻撃してきた。
逃げるな……と。
降伏しろ、基地に戻れ……と。
少し怒りっぽくて、やさしい奴だった。
もう一度堕ち行く少女を見る。
せめてその最期は自分が見届けなければいけないと。
そして少女は落ちてゆき、
月面に叩き付けられる。
その直前で少女の姿が消え去った。
「………………え?」
この時の俺にはまったく理解ができなかった。