第七話 「同族あるいは心配」
……………またいつもの夢だ。
あたり一面に広がる血だまりを見渡す。
この世界に来てから毎日見る夢。
(こんなもの見せなくてもわかってるよ)
私があの世界の異物だということは。
人殺しの私は幸せになっちゃいけない。
いつまでもこんな世界にいちゃいけない。
あの地獄へ帰らなければいけない。
「そんなことはわかってる!」
わかってるのに……………甘えてしまう。
この世界のみんなは優しすぎて、そのやさしさに甘えてしまう。
(どうして…………優しくするの?)
私に優しくしないでほしい。
私に甘えさせないでほしい。
私をヒトとして扱わないでほしい。
(お願いだから…………)
このままでは帰れなくなってしまう。
(それはだめ!)
帰らないといけない。
ここは私のいていい場所じゃない。
あの地獄が
ふと前を見る。
「………レイ?」
レイがいる。
私の戦友。
私の友達。
メサイアでの戦いの前の会話を思い出す。
《レイの運命は……変わらないの?》
《………そろそろ出撃だ。相手はアスランとあのフリーダムだ。気を抜くなよ》
《それとな……シン》
《……? なに?》
《この戦いが終わったら伝えたいことがある。だから生き残れよ》
《………そっちこそ! 勝手に死んだりしないでよね!》
伝えたいことって何だったんだろう?
(目の前のレイに聞いてみようか?)
するとレイが口を開く。
だけど………、
「…? なんて言ってるの? 聞こえないよ、レイ」
レイの声が小さすぎるのか聞こえてこない。
レイ?
そこで足を何かに掴まれる。
とっさに足元を見ると死体に囲まれていた。
「レイ……!」
レイに向かって手を伸ばす。
レイも私に向かって手を伸ばす。
私の手とレイの手が繋がれる。
その直前で目が覚めた。
「まず前回までの復習から行くぞ! 織斑! 急上昇から滞空! そして地面に加速! 着地寸前で急ブレーキだ!」
朝の夢を思い出す。
レイは何を伝えたかったのだろうか?
いやそれ以前にマユとステラもそうだ。
「よし! 次は篠ノ之! 同じことをやって見せろ!」
あの二人も夢に出てくるたびに私に向って何かを伝えようとしてくる。
本当に何を伝えたかったんだろうか?
今まできちんと向き合ってこなかったあの夢が、今になって気になってきた。
「ふむ、まぁ及第点だな。次!飛鳥!」
どうすれば三人の声を聴けるのだろうか?
私の夢なんだから望めば聞こえてきたりしないだろうか?
「聞こえないのか? 飛鳥!」
マユ……ステラ……レイ……。
私はどうしたらいいの?
振り下ろされる何かが目に映った瞬間、
体が動く。
一歩踏み込み、振り下ろされる敵の腕を右腕で阻む。
そのまま敵の腕をつかみ、投げ飛ばそうとして……
そして我に返る。
「……あ」
「私の出席簿を止めるどころかそのまま投げようとしたのはお前が初めてだ」
ぞっ!
肝が冷える。
冷汗が止まらない。
今更ながら今が何の時間かを思い出す。
(……授業中!)
「いい度胸だな、飛鳥」
あくまで冷淡に、感情を込めずに私に言う織斑先生。
それが私の恐怖心をあおる。
そして学校中に響き渡るほどの轟音がグラウンドに鳴り響いた。
「以後、教師に逆らわないこと! いいな?」
「はい! ご指導ありがとうございます!」
挨拶をして職員室から出る。
「いやぁ~やるな飛鳥! 千冬姉を投げ飛ばそうとするなんて!」
「怖いもの知らずというか、なんというか」
織斑君と篠ノ之さんが、私に声をかけてくる。
「というよりも、命知らずというのではなくて?」
「そーよねー。織斑先生に逆らっちゃいけないなんてこの学園じゃ常識よね」
こんどはオルコットさんと鳳さん。
「にしても、よく織斑先生の出席簿を止められたよね」
「まったくだ。その技量の高さは称賛に値するな」
デュノアさんにボーデヴィッヒさんが答える。
この六人が織斑君の言う『いつものメンバー』。
織斑君とトーナメントでペアになったのと、私も専用機を持っているという縁で私もよく一緒に行動するようになった。
「さて! 説教も終わったし昼飯食いに行こうぜ!」
織斑君の一言でみんなが動く。
(やっぱり人気者だなぁ)
私もみんなの後についていく。
(平和だなぁ……)
この世界は本当に平和だ。
いきなり爆音とともに地面が揺れることはない。
ご飯を食べてる時に警報が鳴ることはない。
寝ているときにスクランブルをかけられることはない。
(平和だなぁ……)
この世界は本当に平和だ。
だから道を歩いていると警戒してしまう。
だからご飯を食べてる時もいつでも動けるように身構えてしまう。
だから寝ていても少しの物音で起きられるようにする。
何時この平和が壊れてもいいように常に動けるようにする。
(これじゃ私がこの平和を壊してほしいと思っているようなものじゃない……)
平和を願って戦った。
戦争のない世界のために戦った。
戦って、
戦って、
戦った。
殺して、
殺して、
殺した。
(やっぱり……私は……)
平和な世界には必要ない存在なんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
飛鳥の様子がおかしい。
俺と模擬戦をしたあたりから様子がおかしかった。
まだあって一週間もたってないけどなんとなく様子がおかしいのはわかった。
(ホント…なんでだろうなぁ?)
気付けば目で追っている。
彼女の一挙手一投足に注目してしまう。
あってまだ一週間もしないうちに、飛鳥 進という少女は俺の中で大きな存在になっていた。
だがその理由がわからない。
千冬姉が気にかけているから?
束さんがやさしくするから?
異世界から来たから?
どれだけ考えても理由がわからない。
(そのうちわかるだろ)
そう結論を出し、食堂にみんなで向う。
飯を食ったらトーナメントに向けて飛鳥と特訓だ。
飛鳥のISはかなり特殊だし、しっかりと連携をとっていかないとな。
ちらりとみんなの最後尾を歩く飛鳥を盗み見る。
飛鳥は窓の外を見ていた。
その横顔は何かに悩んでいるようにも見える。
(手伝ってやりたいな)
苦しそうな飛鳥の横顔を見て、そう思った。