「…………レイ」
またこの夢だ。
今度はレイだけじゃなくマユもステラもいる。
みんな何かを言っている。
だけど私には何も聞こえない。
「……何が言いたいの?」
いい加減ムカついてきた……。
いつまでたっても聞こえてこない三人の声に、
毎晩同じ夢ばかり見る自分に、
「何が言いたいのよ!」
そして叫んでいた。
「わかってるわよ!私があの世界にいちゃいけないことくらい!私が幸せになっちゃいけないことくらい!
でも………でもどうしろっていうの!?帰る方法がわからない!この学園を出て行ってもどこにも行く場所がない!
そんな私にどうすればいいっていうのよ!?」
吐き出す。
今まで押し殺していた不安を、
やり場のない憤りを、
目の前の何の関係もない三人に吐き出す。
そしていつものように亡者たちが私の前に現れる。
彼らが私を引きずり込もうとする。
私を彼らの仲間にしようとする。
「……けて……」
「…………だれか…………たすけて…………」
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!!!
目覚まし時計の音とともに跳ね起きる。
(情けない…)
誰かに助けを求めるなんて。
(そんな意味のないことをするなんて)
腑抜けきった私に喝を入れて着替えをすまし、学校へ向かった。
「お~っす!」
「おはよう、織斑君」
挨拶をかわす。
ここ毎日、朝に同じやり取りをしている。
「おりむ~!あっす~!おはよ~!」
「おっす!のほほんさん!」
「おはよう、布仏さん」
布仏さんとも挨拶をかわす。
「も~、あっす~!のほほんでいいって言ってるのに~!」
布仏さんが、ぷんぷん!と言いながら怒ってきた。
ぶっちゃけ全然怖くない。
「今日はおりむー達とらうらう達の試合だね!どっちを応援すればいいかわかんないよ~!」
「ら、らうらう?」
「ラウラのことだね」
私が思わず疑問を漏らすと、いつの間にか来ていたデュノア君が答えてくれた。
「おはよう一夏、飛鳥さん」
さわやかに挨拶してくるデュノア君。
下手するとその辺の男の子よりかっこいいんだろう。
その挨拶だけでクラスメイトの何人かがクラクラしていた(私はレイで慣れてる)。
「おっすシャル!」
「おはよう、デュノアさん」
先ほどと同じように挨拶をかわす。
「うん。今日は負けないから」
それは明確な宣戦布告。
試合の前から準備万端というわけだ。
「おう!こっちも負けないからな!」
織斑君が答える。
勝負は試合が始まる前から始まっていた。
『さあ!本日も始まりましたタッグトーナメント二日目!実況は昨日に引き続き、新聞部副部長!黛 薫子でお送りします!』
大歓声、昨日一日で慣れたものだ。
『本日は三回戦第一試合から始まりますが!なんとこのメンバー、一名を除いて前回中止になったタッグトーナメントの一回戦第一試合とメンバーが同じなのです!今度は騒ぎを起こさないでくださいねー!』
会場から笑いが漏れる。
織斑君に聞いたけど前回はボーデヴィッヒさんのISが暴走して中止になったそうだ。
もうそんなことは無いらしいから大丈夫だろう。
「作戦、覚えてる?」
織斑君に問いかける。
「ああ」
「それなら大丈夫ね。何とかボーデヴィッヒさんを引き付けるからなるべく早く、でも焦らずにお願い」
「わかった」
短く作戦会議を終える。
向こうも同じことをしていたのだろう。
会話を打ち切り、互いに集中する。
『ではカウント開始!』
《10,9,8》
今回は織斑君と冗談を飛ばしあう余裕がない。
《7、6、5》
ひたすら相手に集中する。
《4、3》
だからだろう。
《2、1》
気付いたのは直前だった。
(二人とも私しか見てない!?)
『試合開始ーーー!!!』
号令とともにボーデヴィッヒさんとデュノアさんが私に向かって突っ込んでくる。
直前で気づけた私はフォースシルエットのブースターを全開して急上昇する。
織斑君は突然の出来事についていけず唖然としている。
そんな織斑君に向けてプライベートチャンネルを開く。
《織斑君、聞こえる!?》
《お、おお。いや、どうなってんだ!?》
織斑君はまだ目の前の状況に頭がついていけていない様子。
ブースターを全開にして高速起動で銃弾の雨をよけながら織斑君に向けて指示を出す。
《作戦中止!二人は先に私を落としてから織斑君の相手をするみたい!》
《うぇ!?じゃあどうする!?》
《こうなったら作戦も何もない、乱戦に持ち込むしかない。《AIC》にだけ気を付けながら先にどちらかを落とす!》
《できるのか!?》
《やるしかないの!行くよ!》
弱音を吐く織斑君を一喝しながら急降下。
いまだに地上にいた織斑君の方へ向かう。
「させないよ!」
デュノアさんが私の前に回り込んできた。
かまわずに盾を前面に構えて突っ込む。
「え!?突っ込んで!?ぐっ!!」
そのままデュノアさんを押したまま後ろを見ずにセンサーだけを頼りにボーデヴィッヒさんに《高エネルギービームライフル》を構える。
三連射。
ボーデヴィッヒさんにはかすりもしない。
だが牽制にはなったのだろう。
ボーデヴィッヒさんの速度が落ちる。
「おおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
そして開いた間に織斑君が割り込んでくる。
ボーデヴィッヒさんと切り結ぶ。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!ラウラ!」
「邪魔をするな!一夏!」
そんな問答を尻目に急停止。
盾に押されて身動きが取れなくなっていたデュノアさんが慣性の法則に倣って吹き飛ぶ。
そのまま無様に転がることなく、デュノアさんは華麗に着地。
「まさかあのまま突っ込んでくるとは思わなかったよ」
「車は急には止まれないって言うでしょ?」
軽口をたたきながらデュノアさんを観察する。
動きが硬い。
緊張しているのがわかる。
この感じは覚えがある。
勝とうという気持ちが前に出すぎて体がうまく動かない……今のデュノアさんはまさにそんな感じだ。
(勝負をあせってるの?)
どうして?
思い返せばボーデヴィッヒさんもそうだった。
この大会に何かかけているんだろうか?
私にとってはただのお祭り騒ぎだけど、二人にとってこの大会はそんなに勝たなければいけないものだろうか?
(だからと言って、手加減する気はない。)
フォースシルエットのブースターを全開で吹かす。
《PIC》とちがって私の《インパルス》はブースターで飛んでいるから、飛ぶときなどはこの予備動作でまるわかりだ。
もちろんそれを見逃すデュノアさんではなく、すぐに迎撃態勢に入る。
(このまま行ってもやられる……)
だから……。
フォースシルエットをパージする。
ブースターで得た推力そのままにデュノアさんのほうに飛んでいくシルエット。
その影に隠れながらソードシルエットに換装する。
だがデュノアさんはこれを読んでいたかのようにシルエットをやり過ごす。
(かかった!)
《7.92㎜CIWS》を飛んでいったシルエットに向かって発射する。
シルエットがちょうど避けたデュノアさんの真横を通過しようとしたところで7.92㎜弾が着弾。
衝撃に耐えきれずシルエットが爆散。
「きゃあ!!」
爆発で吹き飛ばされるデュノアさんに一気に接近。
《エクスカリバーレーザー対艦刀》を二刀流で持ち、デュノアさんに振るう。
右手で横薙ぎ、左手で縦振り、返す刀でビームがついていない峰のほうでデュノアさんを殴りつける。
体勢が崩れる。
そのまま右手で袈裟懸に振り下ろす。
だがそのままやられているデュノアさんではない。
右手にショットガンを呼び出し、発砲。
弾丸はすべて私の胸部装甲に吸い込まれる。
が、
「散弾ではね!」
《VPS装甲》にすべて阻まれる。
C.Eの技術で作られたこの装甲は、実弾による装甲のダメージをシールドエネルギーを少し消費することによって遮断することができる。
散弾の衝撃が私を襲うが、少しよろける程度。
戦闘に支障はない。
「そんな!?」
今度こそデュノアさんが驚いたように固まった。
「もらったぁ!」
両手に持つ大剣を同時に大上段から振り下ろす。
その衝撃でデュノアさんは吹飛ばされ、アリーナの壁に叩き付けられる。
《敵性IS機能停止》
《搭乗者の生命活動:正常》
インパルスから送られてくるデータを確認して、ほっと一息つく。
同時に歓声が聞こえる。
『試合終了ーー!!!
勝者!織斑アンド飛鳥ペア!!』
あたりを見回すと織斑君の前で機能停止している《シュヴァルツェア・レーゲン》が見える。
(勝ったんだ……)
こういっては失礼だが勝てるとは思ってなかった。
私は織斑君に近づいていく。
「織斑君」
「おお!飛鳥!お疲れ!」
「うん、お疲れ様」
一回戦とは逆に私から手を上げる。
それに気付いた織斑君が一瞬怪訝な顔をして、
すぐにどういう意味か気づき同じように手を上げる。
「「勝利のハイタッチ!!!」」
こうして私たちは一番不安だった三回戦を勝ち上がれた。
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⦅ちょっと賭けをしよっか?⦆
⦅先に相手を倒した方が学食で何かおごるっていうの⦆
その賭けに俺は負けた。
飛鳥は三分と掛からずに相手を瞬殺し、そのまま俺の援護に回った。
その援護も的確で、攻めあぐねていた俺は一気に突破口を開くことができた。
そして一回戦は危なげなく勝ち進んだ。
ただ二つ誤算があった。
飛鳥がハイタッチを知らなかったこと(これによって俺は心に少し傷を負った)、
うちの学食は生徒は無料で利用できるということだ。
どうしようか?という風に飛鳥が思案する。
そこで俺は一つ閃いた!
(町まで行けばいい!)
学園を出れば喫茶店なんて腐るほどあるんだ。
何も学食にこだわらなくてもいい!
そのことを伝えようとしてふと、弾の言葉が脳裏をよぎる。
⦅男と女が二人で一緒に出掛けたらそれはもうデートだぜ!⦆
デート。
恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引(あいびき)およびランデヴーとも言う。
Wikipediaより
その瞬間、胸の鼓動が激しくなる!
(いやなんでドキドキしてるんだ!?デートじゃないし!恋人関係じゃないし!友達に飯奢るだけだし!)
やけに高鳴る心臓を押しとどめるのに苦労しながら、俺は飛鳥に提案した。
(どうしてこうなった?)
なぜか高鳴る心臓を抑えながら飛鳥の部屋に足を踏み入れる。
二回戦が終わり、次の相手がラウラとシャルだということが判明し、少し不安になっていた俺を、作戦会議だと言って飛鳥が部屋に招き入れてくれた。
(いやいや落ち着け!友達の部屋に遊びに行ったことなんて何度もあるだろ!)
そう思いつつ部屋を見渡す。
そこには何もなかった。
ベッドと机、時計とその横にピンクの女の子らしい少し古い型の携帯が置いてあるだけだった。
今まで何人かの友達や女の子の部屋に入ったことはあるが、ここはまさに寝て起きるための部屋だった。
振り返ってみると飛鳥はボーっとしている。
「飛鳥……?」
俺の声でハッとこちらに気付く。
「あ…ごめん、ちょっとボーっとしてた」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。織斑君は優しいなぁ」
そんななに気無い言葉にいちいち反応する俺の心臓はきっと病気なんだろうな。
そんなことを思いながら作戦会議は始まった。
そして三回戦。
当初の作戦は相手の行動ですべて水の泡となった。
始まった瞬間セオリー通りに一対一になるのではなく、なぜか競うように飛鳥を狙うラウラとシャル。
《こうなったら作戦も何もない、乱戦に持ち込むしかない。《AIC》にだけ気を付けながら先にどちらかを落とす!》
《できるのか!?》
《やるしかないの!行くよ!》
飛鳥の一喝で今だ状況を飲み込めていなかった俺はすぐに気を取り直す。
「おおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
飛鳥がラウラを撃ち、距離が少し空いた一瞬のスキを突き、飛鳥とラウラの間に割り込む。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!ラウラ!」
「邪魔をするな!一夏!」
ラウラが吠える。
なぜか知らないが今のラウラとシャルには飛鳥以外眼中にないようだ。
「そんなこと言うなよ!」
話しながらラウラに切りかかる。
防がれるが相変わらずラウラは俺を見ていない。
「そこをどけ!私はあの女に勝たなければならん!」
その言葉にさらに疑問を浮かべる俺。
ラウラとアスカはあまり接点がないはずだ。
ラウラは最近緩和してきたがやはり自分以外を下に見る傾向がある。
飛鳥はとにかく一人になろうとする。
どうしてそんなに飛鳥を敵視するのかは俺には分からない。
(けどな!)
「勝負の最中は目の前の敵に集中しないと!」
《雪片弐型》でラウラの《プラズマ手刀》を跳ね上げる。
「勝てる戦いも勝てないぞ!」
《零落白夜》を起動、
そのまま手が跳ね上がり無防備になったラウラの右脇腹に渾身の胴を打ち込む!
シールドが切り裂かれ、《絶対防御》が強制的に発動。
ラウラのISはその機能を停止した。
『試合終了ーー!!!
勝者!織斑アンド飛鳥ペア!!』
あたりを見回すとこちらに歩み寄ってくる飛鳥が見える。
「織斑君」
「おお!飛鳥!お疲れ!」
「うん、お疲れ様」
飛鳥から手を上げる。
それに気付いた俺は一瞬訳が分からず、
すぐにどういう意味か気づき同じように手を上げる。
「「勝利のハイタッチ!!!」」
こうして俺たちは一番不安だった三回戦を勝ち上がれた。