屍が嗤う。
やはりお前はこちら側だとでも言っているかのように。
私を見て嗤う。
結局人殺しはどこまで行っても人殺しだった。
この平和な世界に少しでも馴染もうと思った。
この世界にいる間くらいは自分が人殺しであることを忘れたかった。
だけどそれは許されなかった。
どんなに忘れようとしても、その事実は夢という形で私に襲い掛かってくる。
屍が嗤う。
私を仲間にしようと手を伸ばしてくる。
今更それに抵抗する気もなく………………。
ふいに暖かい光が降り注ぐ。
この真っ暗な世界に暖かな光。
眩しくて、暖かくて、
私は光に向かって手を伸ばした。
目が覚める。
懐かしい部屋。
学園の保健室。
(私は……)
あれからどうなったのだろうか?
オルコットさんのブルーティアーズがあいつのフリーダムに重なって見えて、
インパルスの新しいシルエットが起動して、
私はオルコットさんを…………。
起き上がろうとして腕を引っ張られる。
「……………織斑君?」
私の手を握って眠っている織斑君がいた。
(…………あったかい)
もう一度横になって目を閉じる。
そうすると眠気がやってくる。
その睡魔に身を任せ、
今度は悪夢は現れなかった。
「本当にごめんなさい!」
次の日の朝一番に、私はオルコットさんに謝った。
もちろん昨日の試合(大会の優勝は篠ノ之さんと鳳さんのペアらしい)のことだ。
「……もういいですわ、過ぎたことですし」
だから頭を上げて?
そういわれて、オルコットさんを見る。
オルコットさんは笑っていた。
「こちらこそすみませんでしたわ、いきなり決闘など申し込んでしまって」
「それはいいんだけど……どうしていきなり?」
そう尋ねると、オルコットさんは困ったような顔をした。
「そうですわね……正直、勝敗にはこだわってませんでしたの」
「え?」
勝敗にはこだわっていない?
「ただ……そう、ただ一対一であなたと戦ってみたかった。
それだけですわ」
「それだけ?」
「ええ、それだけ」
何ともすっきりしない話だが、これ以上追及するのはやめておこう。
「ですが」
と、そこで今までの笑顔を引っ込めてオルコットさんが真面目な顔をする。
「貴女の力は危うい。今回戦ってはっきりとわかりましたわ。
その力をちゃんと制御できないと、いずれあなた自身を滅ぼす。
そんな気がしますわ」
それは忠告。
確かに昔から自制が聞かないところがあった。
しかし、今回はいくらブルーティアーズがフリーダムに似ていると言ってもここまで大事になるとは思わなかった。
(やっぱりまいっちゃっているのかな?)
自分でも知らないうちに追い詰められていたみたいだ。
「まあ!いつでもわたくしのように冷静に行動するべきですわね!
友人として忠告しますわ!」
(………?)
オルコットさんの声に首をかしげる。
「友人?誰が?」
「もちろんわたくしと飛鳥さん……いえ、進さんがですわ!
戦い、お互いの実力を認め合ったものどうし、これからは友人としてお付き合いしていきましょう?」
友人………友達………。
「オルコットさんって私が嫌いだったんじゃないの?」
「なっ!?誰がそんな出まかせを!?わたくしは理由もなく誰かを嫌いになったりしませんわ!」
「俺はすっごい嫌われてたような気がするけどな?」
織斑君が会話に入ってくる。
「確かにあの時はそうでしたが……今は違いますわ!」
織斑君がオルコットさんと何か言い争いをしているが、私の耳には入ってこない。
………友達。
私にとって友達と呼べる存在は極端に少ない。
ルナやヴィーノ、ヨウランは戦友。
アスランは……まあ置いとくとして、
友達と言われて思い浮かぶのはレイくらいだ。
それを不満に思ったことはないし、もしレイが私のことを友達だと思っていなくても構わなかった。
向こうでは必要なかったから。
だけどこの世界ではどうだろう?
少なくとも織斑君は私は友達だと思っているし、オルコットさんははっきりと友人だと言ってくれた。
「お、おい!進!大丈夫か?どっか痛いのか!?」
「へ……?なに?なんで?」
「だってお前………」
「泣いてるじゃねーか」
気付かなかった。
自分が涙を流していることに。
「だ、大丈夫ですの?進さん」
この世界に来て、名前で呼ばれることがこんなにうれしいなんて思わなかった。
友達ができることがこんなにうれしいなんて思わなかった。
「大丈夫。ありがとう、織斑君。オルコットさん」
そこで織斑君とオルコットさんが顔を合わせ、
「違うだろ?進」
「わたくしたちは友達なのですから、」
「「名前で呼んで」」
「ありがとう、セシリア、一夏!」
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「おまたせー!」
進の声が聞こえる。
そちらに目をやると……
黒髪の天使がいた。
「……………」
「?どうしたの?織……一夏」
まだ呼びなれないのか一瞬名字で呼ばれそうになったがそんなことはどうでもいい。
「進、お前その服……」
「あ、これ?セシリアに借りたんだ。制服しか持ってないって言ったら「殿方とのお出かけで制服で行くなんて許しません!私の服を貸してあげますから着ていきなさい!」って言われて、友達というよりお母さんだねって言ったら叩かれた」
セシリアグッジョブっと言いたかった!
清楚な真っ白なワンピースと少し大きな麦わら帽子は綺麗な黒髪とお互いを引き立てあって進の魅力を前面に押し出している。
首にかかっている待機状態の何かのバッジの形をしたネックレスも進の魅力を引き立てる。
道行く人が100人いたらその全員が振り返るくらい綺麗だった。
「にしてもヒールって歩きにくいね。いつもブーツとか運動靴しか履かないから全然履いたことがないんだ。
こんなに長いスカートも全然着ないから動きにくいし……」
仕切りに足元を気にする進。
その仕草の一つ一つが可愛くて、戦っている時の凛々しい彼女とのギャップがすごくて………。
「ホントに大丈夫?一夏?」
「……!お、おう!今日はどこ行くんだっけ!?」
「この街を案内してくれるんでしょ?自分で言ってて忘れないでよ」
「そ、そうだったな!よし、まずはどこから行こうか!」
「お任せするよ、ガイドさん」
そうして俺たちは歩き出した。
すれ違った人が全員振り返る。
男も女も関係なく振り返る。
透き通るような白い肌。
なにかと比べるのもおこがましいくらいに綺麗な髪。
特徴的な紅い瞳。
そんな彼女を包む白いワンピース。
ある男は彼女を見すぎて電柱にぶつかり、
又ある男は彼女らしき隣の女に頬を抓られる。
ほとんどの男が彼女を目で追いかけ、
その視線が隣を歩く俺に移った瞬間に激しい嫉妬の視線に変わる。
「一夏!次はあそこ行こう!」
そんなことを知ってか知らずか、進は次の場所に目をつける。
「ゲームセンターか……わかった」
そこでクレーンゲームをやって進のお目当ての人形を取ってやったり、対戦型の格闘ゲームをやって進が使うやたら中二くさいキャラ(なんだよ面影糸に巣を張る蜘蛛って)に負けて連コインしたりと、楽しい時間を過ごした。
にしても今日の進はやはりいつもと違う。
いつもは少し物静かな感じがするが、今日はすごく浮かれてる感じがする。
楽しんでくれているのだろうか?
そして時間は過ぎていき、
日が落ちてかけてきて寮の門限の時間になった。
「一夏」
「ん?なんだ?」
「今日はありがとう」
紅い、彼女の瞳と同じ色をした夕日に照らされた進は、
(綺麗だ)
写真に残すのをためらうほどの美しさとはこういうものだろうか?
「こんなに楽しかったのも、笑ったのも本当に久しぶり。
友達とこうして遊びに行くのもここ何年もなかったからほんとに楽しかった。
だから、今日はありがとう」
そう言って彼女は笑う。
何時かと同じようにその笑顔に見惚れる。
俺は……。
初めて会った時から進を見るたびに感じてきた胸のわだかまり。
それが何なのか少しずつわかってくる。
俺は進のことが……。
「よう!一夏じゃねーか!」
もう少しで答えが出ると思ったところで俺を呼ぶ声がする。
「こんなところで何してん…………おい一夏、ちょっと来い」
そしてその声の主………五反田 弾に首を引っ張られる。
「お、おい!なにすんだよ!弾」
「いいから来い!すいません、ちょっと一夏借りていきます!」
へらへら笑いながら俺を引っ張る弾。
それを手を振りながらにこやかに見送る進。
「くっそーーーーー!!」
そして俺は段に引っ張られていった。
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突然現れた男の子(たぶん一夏の友達)に引っ張られていった一夏を見送る。
今日はほんとに楽しかった。
こんなに思いっきり遊んだのなんて何年振りだろうか?
そんなことを思いながらベンチに座りながら一夏を待っていると、
「隣、いいですかな?綺麗なお嬢さん」
と尋ねられ、そちらを見ると、
「…………レイ?」
「礼?ああ!これは失礼、いきなり隣に座るのはいささか礼を欠いておりましたな」
そこにはレイそっくりの男性がいた。
「ああ!いえ違うんです!貴方が知り合いに似ていたもので!」
「おや、わたしに似ている人か……多すぎて見当がつかんな」
ハハハと男性が笑う。
「あの……それで何か?」
「おや、これは失敬。いや少し知り合いと雰囲気が似ていたものだからね、お声をかけさせていただいたのです」
そこで男性は言葉を区切り、
「戦場帰りの知り合いとね」
その一言に私の心臓が大きく跳ねる。
「彼女はつい最近戦場から日常に帰ってきたのだが、長い間戦場にい続けたせいか平和に馴染めていなくてね。
さらに彼女が戦場に行った理由が家族の敵討ち、復讐のためなのだよ」
彼の言葉が私の心を貫いていく。
「世のため人のためならまだしも単なる私怨のために戦場に出て人を殺す。
それについて、お嬢さんはどう思う?」
「……わ、私……は」
男が立ち上がる。
「もうこんな時間か。ではわたしは失礼させてもらうよ」
そして男は消えていった。
一夏が戻ってくるまで、私は肩を震わせてひたすら待ち続けた。
タッグトーナメント編終了です。
シンちゃんに友達ができました!
やったね!(白目)
格ゲの行でシンが使ったのは作者の持ちキャラです。