「進、ちょうどいいところに!」
寮の廊下を歩いていると箒に呼び止められる。
見れば一夏以外の全員がそろっていた。
「あれ?どうしたのみんな?」
「今日夏祭りがあるだろ?それで着物の着方がわからないやつ全員の着付けを手伝ってやろうと思ってな。
進はどうだ?着付け方知っているか?」
着物……。
昔マユがお母さんに着付けてもらっていたのは覚えている。
オーブとこの日本は似ている。
オーブの学校に通っていた時に授業で習ったことがあるが、オーブは私の世界にあった日本という国の多数の日本人移住者で構成されているらしい。
国民のほとんどが過去の日本人の血を引いているし、そのせいで昔日本人が行っていた行事や昔話などの多くがオーブにも伝わっていた。
夏祭りもそのうちの一つで、家族全員で行ったことがある。
その時はめんどくさいと言って私は着物を着なかった。
「それ……着なきゃダメ?」
「当たり前だ。せっかくの祭りなのだからな」
「でも大変そうじゃない?歩きにくそうだし、私は遠慮しとくね」
「ダメだ。一緒に来い!」
くるりと踵を返して逃げようとした私の首根っこをつかんで箒が私をずるずると引きずっていく。
「セシリア~!たすけて~!」
「あら?わたくしは着物を着た進さんを見て見たいですわ」
「またセシリアに裏切られた~!」
これで二回目だ!
そうして私は引きずられながら箒の部屋に引きずり込まれた。
後から思い返してみるとホラー映画のワンシーンみたいだった。
「一夏とは向こうで待ち合わせだっけ?」
「ああ。箒は向こうで巫女としての仕事があるから先に行くそうだ。
それにしても着物というのは動きにくいな」
「そうだよね。でも、いろいろ隠しもてるところは多そうだね」
「む?確かに、この袖とかナイフを隠し持つには最適だな」
「あんたたちなんて会話してんのよ……」
「物騒だよ二人とも……」
ラウラと話していたら鈴とシャルに呆れられた。
セシリアもやれやれと言った顔でこっちを見ている。
そんな会話をしているとみんなの準備ができたみたいだ。
「ほら、バカなことやってないで行くわよ」
「む?」
「あ、待って!行く行く!」
「あ、あれ一夏じゃない?」
「ホントだ」
「なんというか……ああやって頻りに身だしなみをチェックしているのを見ると複雑な気持ちになるね」
「わたくしたちの努力は何だったのでしょうね?」
「あたしたちと会うときなんてそんなに気にしてなかったのにね」
セシリアたちが何か小声で話してる。
みんなたまに内緒の話をするんだよね……。
そう言うときはちょっと疎外感を感じる。
(ダメだなぁ……私)
こんなに弱くなるなんて思わなかった。
少し前まではこんなに誰かの行動に心を動かされることなんてなかったのに……。
(これじゃあアスランのこと悪く言えないな……)
今の私はみんなのためならザフトを裏切るかもしれない。
それだけみんなの存在は私の中で大きくなっていた。
(アスラン……フリーダム……アスハ……ラクス・クライン……あの人たちは何を思って戦ったんだろう?)
ただただ戦いをやめろと一方的に通告してくるだけだった。
そんなあいつらの言葉に耳を貸す人たちはほとんどいなかった。
だけど、今になって思う。
あの人たちの話をちゃんと聞いていればどうなっていたのだろう?
(…………)
その場での戦闘は終わるだろう。
あの人たちの言うとおりに武器を収めて立ち去れば、その戦闘での死者は出ないだろう。
だけどその後は?
武器を収めて、国に帰ったそのあとは?
待っているのは敵前逃亡した兵士としての汚名。
戦場で、第三者の言葉での戦意喪失からの敵前逃亡。
よくて独房入り、悪くて銃殺刑。
どちらも免れたとしても反逆罪で国を追われることになるだろう。
(結局、私たち兵士は上の命令に従って戦うしかない……)
あの人たちの言葉を聞くことは初めから選択肢に入れてはいけないことなのだ。
「進?どうした?」
ラウラに呼ばれて我に返る。
いつの間にか思考の海に沈んでいたみたいだ。
「ねえ、ラウラ……」
「ん?なんだ?」
「もし、もしもだよ?もしもドイツ軍の偉い人に一夏を殺せって言われたらどうする?」
私の質問にラウラは一瞬呆気にとられるも、すぐに答えてくれた。
「決まっている。上層部に殴り込む」
「でも、ラウラは軍人でしょ?上からの命令は絶対なんじゃないの?」
「今の私は軍人である前にラウラ・ボーデヴィッヒという一人の人間だ。
教官と一夏が私を人間にしてくれた。だから私は人間として行動する」
「軍人としては最低の言葉だね。
…………だけど、人間としては最高の言葉だ」
「フッ、私にとっては褒め言葉だな。
さあ行くぞ。一夏たちが待っている」
一夏たちのほうに歩いていくラウラがすごく羨ましかった。
やっぱり、ラウラはまだ人を殺したことがないのだろう。
だからあんな甘いことが言える。
それが酷く羨ましかった。
(私も、あんなふうにいれたらよかった……)
今のラウラを見ていると、ザフトに入隊したての頃の私を思い出す。
力を手に入れて、これで全部守れると思った。
だけど、同期の二人を守れなかった。
せめて民間人は守ろうと、ユニウスセブンを壊そうとした。
だけど、廃墟と化したコロニーは落ちてしまった。
私と同じように戦争の被害者で、死をひどく恐れる少年を守ろうと思った。
だけど、あの子は雪の中現れた青い天使に討たれた。
昔の戦友が出てきて混乱しているだけだと思った。
だけど、あの人はザフトから逃げて、私がこの手で討った。
討って、
討たれて、
討たれて、
討って。
心が擦り切れて、殺すことにためらいが無くなった。
「私は多分…………討つんだろうな……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(今日……今日告白する!)
心の中で決意を固める。
この夏祭の最中に、進と二人で抜け出して告白する。
雰囲気がいい場所も見つけた。
先にここにきて脳内シュミレーションもすました。
シンが異世界から来たと言うことはわかってる。
だけどそれでも俺は進を好きになった。
好きだと気付いてしまったんだ。
この気持ちを胸にしまったままこれから一生をすごすなんてできっこない。
だから、今日ここで告白する。
ちらりと隣を歩くシンを見る。
着物は箒に選んでもらったらしい。
青い着物にところどころ金魚が描かれている。
少し子供っぽいと思うがおいしそうに綿あめを食べる進を見たらかなり似合っていると思う。
選んだ箒にはGJと言いたい。
「ぁあああああ!!!!イライラする!!ちゃんとできてるじゃないのよ!!」
「インやダメだね嬢ちゃん。ほら、尻尾が欠けてる」
「そのぐらいいいでしょ!?」
「フッ。忍耐力が足らんな、鈴」
「嬢ちゃんは足が欠けてるね。失敗」
「馬鹿な!?」
「まったく……そんなに騒ぐからできないのですわ。わたくしにかかればほらこの通り……」
「残念。顔が欠けてる」
「なん……ですって……!?」
「…………何があったんだ?」
「片貫をしてたら白熱しちゃって……一夏と進もやる?」
「この惨状を見たらだれもやりたいと思わないと思うよ?シャル」
たしかに、これを見てやりたいと思うやつは相当な負けず嫌いだろう。
「「「もう一回(ですわ)!!!」」」
「…………一夏たちは先に行ってていいよ。僕は三人を見てるから」
そう言いながらシャルが俺に向けてウィンクしてきた。
(二人っきりにしてやるから楽しんで来いってところかな?)
断る理由もないのでありがたく行かせてもらおう。
「仕方ないな。行こうぜ、進」
「え?みんなはいいの?」
「こうなったらあいつらは成功するまでここを離れないだろうな。後ろから見てるのもいいけど、正直巻き込まれたくない」
「そっかー。分かった、いこっか」
おれ は しん と ふたりきり に なった !
(いや!まて、まだだ。まだ笑うな。堪えるんだ!)
思わぬチャンスに頬が緩みそうになるのをこらえる。
そのあとは二人で祭りを楽しんだ。
射的では進は百発百中。
くじ引きは進が外れを連発して進の運気を吸ったかのように俺が一等から五等まで当てまくった。(恨めしそうにこっちをにらんでくる進は可愛いと思った)
あたり付のたこ焼きを買ったら進が見事にあたりを引いてあまりの辛さに悶えていた。
くじ引き占いで進が大凶を引いていた。涙目になっている進は可愛かった。
「遊んだなぁ……」
「そうだねぇ…………そろそろみんなと合流しよっか」
いま俺たちは神社の裏手の高台の上にいる。
ここは本当に眺めがいい。
ここからIS学園がよく見える。
(今しかない)
たぶん今を逃したらもうチャンスがないんじゃないかと思う。
何の根拠もないけどそう思った。
だから……、
「進」
「ん?何?」
喉が渇く。
緊張で手が震える。
もし振られたらどうしよう?
そんな弱気な自分を切り捨てる!
行くぞ!!
「お前が好きだ!!」
進は一瞬キョトンとして、
「うん。私も好きだけど……どうしたの突然?」
一瞬喜び欠けるが、まだだ。
「違うんだ。多分、今進が考えてる好きと、俺が言った好きは違うんだ……」
「違う……好き……?」
「そうだ……」
行け!織斑一夏!
ここで行かなきゃ俺はみんなに顔向けできない!
俺のことが好きだと言って、それでも俺の恋を応援してくれると言ってくれた五人に胸を張るためにも!
「俺は……!お前を愛してる!
俺がお前を幸せにしてやる!!
だから俺と結婚してくれ!!!」
ほとんど叫ぶように告げた。
そして進をまっすぐに見る。
長い沈黙。
「…………一夏」
そして、進の答えが返ってくる。
「一夏の言葉はすごくうれしいよ。だけどね?その言葉は私なんかじゃなくてもっと別の子のために言ってあげて?
一夏は本当に素敵だよ。だけど、私じゃ一夏と釣り合わない。
一夏みたいな素敵な人には、私なんかよりも一夏にふさわしい人がきっと現れる。
だからその言葉はその子のためにとっておいてあげて?」
進が何を言っているのかわからなかった。
進じゃ俺と釣り合わない?
進よりも素敵な人が現れる?
俺にふさわしい人?
正直、絶対に成功するとは思ってなかった。
進には故郷に好きな人がいるかもしれないとか、俺は進にとって恋愛対象になってないかもとか、そんな風に不安になってた。
だけど、この答えは何だ?
進は断っている。それはわかる。
だけど、断る理由は何だ?
俺にふさわしい人って何だ?
俺と釣り合わないって何だ?
「それに私は…………誰かに愛される資格なんてないから…………」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが切れた。
「ふざけんなよ……」
「……え?」
「ふざけんなよ!!俺にふさわしい人ってなんだよ!!俺と釣り合わないってなんだよ!!愛される資格がないってなんだよ!!!
俺はお前が好きなんだよ!!お前が言う俺にふさわしい人なんかじゃない!!!飛鳥進が好きなんだ!!」
「そんなの……一夏が本当の私を知らないからそんなことが言えるんだ!!」
俺が叫ぶと進も叫ぶ。
「一夏は本当の私を知らない!!わたしは一夏が思っているようなきれいな女の子じゃない!!誰かに好きだなんて言ってもらえるような資格がある人間じゃないんだ!!」
「そんなこと誰が決めたんだよ!!人に愛されるのに資格なんているのかよ!!」
夜の高台で進と俺の怒鳴り声が響く。
騒ぎを聞きつけてだれかが来るだろうけど構うものか。
こいつの間違った認識をここで正してやらないと!
その時、大きな音が鳴り響いた。
(……花火?)
そう言えば今は夏祭りの最中だった。
音がした方に目を向ける。
「なんだ…………あれ?」
そこには穴ができていた。
何もないところに、まるで空間そのものに穴をあけたように。
進もこの異常に気付き、目を見開いている。
そして、穴の中から無数の人間が出てきた。
(いや違う人間じゃない!あれはIS……か?)
あれは間違いなくISだろう。
だけどどこか違和感がある。普段見慣れているISとは決定的に何かが違う。
そんな違和感が……。
「そんな…………あれは……MS!?なんで!?」
進がMSと呼んだ機体は、ただ無言でこちらを見下ろしていた。
記念すべき三十話目&総投稿話数四十話目の今回、とうとう謎の組織が直接攻撃に打って出ます。
今までストーカーのように茂みからシンちゃんを覗き見ることしかしてこなかった謎の組織。はたして彼らの目的は!?
以下、次回予告!脳内BGMはvestige-ヴェスティージ- で!
夏祭りの最中、ついに姿を現した謎の組織。
ISがなく、戦えない一夏を置いて単身戦いを挑む進。
だが、進の前に現れた人物は進に容赦のない現実を突きつける。
次回!
[IS]運命の翼の少女!第三十一話 「開演あるいは現実」
壊れていく少女の心を護る為に、飛び立て!白式!