第三十四話 「一生あるいは目覚め」
あの夏祭りの襲撃から五日。
丸一日寝たきりだった私は一夏たちに起こされた。
それも夢で。
(あれは何だったんだろう?)
いつもの悪夢を見ていたと思ったらいきなり一夏たちが出てきた。
目覚めてそのことを聞いてみたけど一夏たちも何も知らないと言っていた。
あれは本当に夢?それとも現実?
(わからない)
だけど、あの夢の最後に出たマユとステラとレイの笑顔だけははっきりと覚えている。
あれは夢だったのかもしれない。
それでも、たとえ夢でもあの三人は笑ってくれた。
そしてみんなはが私をあの闇の中から引っ張り出してくれた。
それでいいんだ。
「じゃあ落ち着いてきたし報告するね?」
束さんの言葉から現状報告が始まった。
「まずあーちゃんを襲ったやつだけど、この五日間はおとなしくしてるみたい。あれから襲撃もなく、同時に犯行声明もなし。
各国は責任の押し付け合いと、あの現場にいたあーちゃんやいっくんたちに事情を聞こうとしてるみたい」
犯行声明無し。
当然だろう。
彼らは私と同じC.Eから来たのだから、ここで何か言ってもあまり意味はない。
そもそもあいつらの目的が不明なのだ。それを早くはっきりさせないといけない。
「このIS学園にいる間はどんな国が押しかけてきても守ってあげられるから大丈夫。
次にインパルスのことなんだけど……」
インパルス。
そう言われて自分の首元を触る。
FAITHバッジを模したペンダント型の待機状態のISは、今はここにはない。
「インパルスはあーちゃんを守ってかなりの損傷を負っちゃってね、機体の損傷がひどくて修復不可能。
コアは何とか取り出したけど、こっちも少しだけ損傷してるけど、動かないことはない」
修復不可。
つまり私は闘うための力を失ったと言うことだ。
「…………」
空を仰ぎ見る。
病室であるため青空なんか見えない。
力を求めて軍に入った。
そこでもらった力では何も守れなかった。
ボロボロになりながらこの世界でまた力をもらった。
だけど、また何も守れなかった。
力を手に入れて、そして失う。
「いつまで……こんなことを続けるんだろう……」
「あーちゃん……」
何も言わずにただそばにいてくれる束さんが、今はありがたかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『いつまで……こんなことを続けるんだろう……』
『あーちゃん……』
病室の外で、進と姉さんの会話を盗み聞く。
一夏がお見舞いに行くと言い、それに私たちが一緒についてきた。
病室にはすでに姉さんがいて、進に現状を報告していた。
「どうする?」
「出直した方がいいだろうな」
そう言って病室を後にする。
(渡すものがあったんだが仕方ないか)
そして廊下を十メートルほど進んだところでそれは起きた。
「あーちゃんのばか!!ばかばかばか!!おたんこなすのすかぽんたん!!!おたんちん!!!」
「束さん!!」
そんな大声で進を罵倒しながら姉さんが進の病室から出てきた。
泣きながら。
(…………え……え?ええ!?)
姉さんが泣いた!?
え!?
「ね、姉さん?」
「うわ~ん!箒ちゃ~ん!!」
本気で泣いてる。
ウソ泣きとかは見たことがあるけど姉さんが本気で泣いてるのは初めて見た。
「ど、どうしたんですか?束さん?」
一夏が困惑するのも無理はないだろう。
というかその場にいた全員があまりの事態に固まっている。
「聞いてよ箒ちゃん!いっくん!あーちゃんがね!!」
「うるさいぞ束」
突然私の後ろから出席簿が伸びてきて姉さんの頭に縦に突き刺さる……縦!?
(さ、刺さってる!)
「た、束さぁぁぁぁん!!!」
「貴様もうるさいぞ、織斑。束と同じ目にあいたいか?」
「……」
黙る一夏。
さすがに出席簿を縦に突き刺される事態は勘弁願いたいらしい。私もだが。
「行くぞ、束」
そうして姉さんはずるずると千冬さんに引きずられていった。
姉さんの頭から流れていた紅い液体など私は見ていない。
お見舞いという雰囲気でもなくなってしまった私たちは寮に帰ることにした。
そうして誰もいない寮のロビーで今後について考える。
「まず、進はもうISがないから戦えない。そうなると私たちが守らねばならないが、進が闘えないと言うのは戦力的にかなり痛い」
司会進行はドイツで部隊長を務めていたラウラ。
「ちょっと待ってくれラウラ。その言い方は……」
「今は個人の感情は一時捨てろ、一夏。冷静に、客観的に考えろ。
敵の力は強大だ。実際確認したわけではないが、MSとやらのスペックは箒の紅椿と同等だ。
それは実際に戦ったことのあるお前が一番わかっているだろう?」
ラウラの言葉に一夏が押し黙る。
『なかなかの分析。主とは違って物事を客観的に見ることができる。ラウラ嬢が主だったらどれだけ楽だったか……』
「うるさいぞ椿」
『そういうならすぐに頭に血が上る癖を直してくれ』
余計なお世話だ。
「話をつづけるぞ。進の操縦技術は我々の中で一番だ。
あらゆる状況に対応できる柔軟性。
それを実現できる技術。
豊富な戦闘経験。
どれも今私たちにないもので、これからの戦いで必要になるものだ」
その通りだ。
私たちはあらゆるものが足りていない。
そしてそれを埋めてくれる進がもう戦えない状態なのだ。
「私たちのISは強化され、MSと戦えると言うのも一夏が証明した。
そしてここで決めなければならないのがこれからどうするのかだ」
「それは、どういう意味ですの?」
「言った通りの意味だ。このまま敵と戦うのか、それとも戦いを国家代表などのプロに任せてわたしたちは引き下がるのか。
このままなし崩し的に戦うわけにはいかない。ここで決める必要がある。
戦うか。
退くか」
戦う。
そう言ってしまうのは簡単だ。
だが相手はあの進を倒した奴らだ。
今度は私たちが進のように重傷を負う可能性もある。
『ちゃんと覚悟をして戦場に出ないと最悪死ぬかもしれぬからな。主も、周りに流されずにきちんと決めろよ。退くのは恥ではないぞ』
いつもは私に毒を吐く椿も、今は真面目に私に助言をくれる。
死ぬ。
いつ死ぬかわからない戦い。
今までのようなスポーツの延長線上の戦闘ではなく、本当に生死をかけた戦い。
「…………進も、こんな気持ちだったのかな」
一夏の言葉に、全員が注目する。
「ほら、あいつ元の世界で戦争してただろ?いつも死ぬかもしれない戦いをしてたんだろ?
だからさ、今の俺たちと同じ気持ちを、あいつは何回も抱いてたんだろうなって思ったら……な」
そうか……。
進も、もしかしたら今の私たちのような葛藤を抱いていたのかもしれない。
「だからさ、俺は戦うよ。
敵を倒すためじゃない。
進を守るために戦う」
そう言って決意を固める一夏の横顔は、どこまでもかっこよかった。
そんな一夏を惚れさせた進が羨ましく、また妬ましく、
一夏に惚れた私が誇らしかった。
私が惚れた相手は間違っていなかった。
その眼差しが私の方を向くことはないことはわかっているが、それでも間違いではなかったと確信できた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラウラの現状把握と確認が終わって。
外は夜。
気晴らしに散歩している最中にそれは現れた。
空が割れた。
「夏祭りの時と同じ!」
白式を展開して空にあいた穴をにらむ。
場所は学園の端。
穴から出てくるのは無数のMS。
すぐに飛び立とうとして、思考が止まった。
無数のMSから一拍遅れて現れたのは四足の機体。
カニのような外見。
そいつ一機でアリーナの半分は埋め尽くすであろうという巨体。
「あれは……進の記憶にもあった……」
MAザムザザー。
MSとはまた違う進の世界の兵器だった。
みんなと合流して、MSの軍団と対峙する。
『おい!餓鬼どもに用はない!シン・アスカを出せ!』
「ここにはいねえよ!」
『そんなバレバレのウソに引っかかるかよ!とっととあの人殺しを差し出せ!』
「あんたたちも同じでしょうが!」
『うるせえぞ餓鬼!ぶっ殺されてえか!!』
「やれるもんならやってみなさいよ!」
その鈴の一言が合図となり、四足のMA……ザムザザーからビームが発射される。
それを散開して避け、《雪片・甲》と《雪片・乙》を構えて無人機に切りかかる。
『織斑君!聞こえますか?山田です!MSのスペックと織斑君たちのISのスペックは見せてもらいました!
正直、学園にある訓練機ではどうしようもありません!自衛隊を派遣してもらっているんですが、到着まで三十分はかかるみたいです!
それまで何とか足止めをお願いします!』
「もちろん!自衛隊が来るまでに終わらせますよ!」
無人機を切り裂く。
そして雪羅を荷電粒子砲モードで起動。
ザムザザーに向けて発射。
だけど、それは弾かれる。
『陽電子リフレクターの前ではそんなもの無意味だ!』
「だが、対処法はもう考えてある」
そう言いながらラウラが四本の腕にそれぞれ近接ブレードを構えて突進。
全て装甲に突き刺す。
「もう一撃!」
姿を消していたシャルがラウラの真横に現れて近接ブレードを突き刺して空いた穴に向けてマシンガンを乱射。
「とどめだ!」
そして箒がブレードを更に突き刺す。
「ダメ押しのもう一撃よ!受け取りなさい!」
鈴の投げた双天牙月が深々と突き刺さる。
それと同時にザムザザーの下腹部から吐き出される三人の人間。
その三人が地面に落ちた直後、ザムザザーは爆散した。
「案外楽勝だったわね」
「近づけばたいしたことはないな」
「皆さん、そろそろ無人機と戦ってくださいませんか?
先ほどからわたくしと一夏さんだけで相手をしているんですが」
「ごめん。すぐ行く!」
「これで終わりだな!」
ラウラが四本腕で無人機の両手両足をつかみ、動けなくしてから六本のワイヤーブレードで串刺しにする。
「やりすぎじゃないか?」
「四本も腕があるのだからな。一度やってみたかった」
とにかく、これで殲滅完了。
こっちも被害らしいものもなし。
「後は、あの穴だけか」
「中に入ってみる?」
「敵の巣に入りたいのならどうぞご自由に?わたくしは遠慮しておきますわ」
「いっそのことあの中に爆弾でも放り投げてみる?」
「シャル…お前はどんどん過激になっていくな」
「まて、何か出てくるぞ」
箒の声に気を引き締める。
そうして出てきたのはスカイツリーと同じくらい大きな巨体。
その周りを随伴する四機のMS。
「…………うっそぉ」
「……大きいですわね」
「………想定外だ」
「……あれを想定できる方がおかしいよ」
「………どうする?」
「……退くわけにもいかないだろ」
『貴様らはやりすぎだ、餓鬼ども』
巨大なMS……デストロイがこちらに手を向ける。
その指には巨大なビーム発射口。
「避けろぉ!!」
叫ぶと同時に全力で回避。
人ひとりなど簡単に呑み込めるほど巨大なビームが通り過ぎる。
「あれをもらえばいくら強化されているISと言えども一瞬で蒸発しますわよ!」
「先ほどの四足と一緒だ!懐に入れば!」
「それをさせると思っているのか?」
青い翼をはやした機体がデストロイの懐にはいろうとしたラウラに接近。
ビームサーベルを振りかぶるが、それをラウラは盾で防ぐ。
「ラウラ!」
「お前の相手は俺だ!」
ラウラを助けに行こうとしたシャルが背中に戦闘機のようなものを付けた機体に蹴られる。
助けに行こうとして、センサーがアラートを鳴らす。
回避。
さっきまで俺のいた場所に無数のビームが降り注ぐ。
「避けられた…」
「ならもう一度だ」
レイが使っていた機体のバックパックによく似たものを付けた機体が二機。
その四機をよく見ていると、共通点があった。
(武装は違うけど……全部進が乗ってたデスティニーか!?)
有人機、四機のデスティニー、デストロイ。
(どうする?どうすればいい?)
戦局は一気に劣勢になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ホントにやるの?あーちゃん」
「はい。いきます」
アリーナのピット。
今、ここで私は機体の最終調整を行っている。
思い出すのは今朝の出来事。
束さんの現状報告が終わってからの会話。
『束さん。インパルスのコアは壊れたわけじゃないんですよね?』
『え?うん。損傷はしてるけど、これくらいなら自己修復で治るよ。どうにもならないのはインパルスのほうなんだけど……』
『なら、インパルスのコアをデスティニーにつけてください』
『……え?』
『MSにISコアをつけることはできるんですよね?だったらデスティニーにインパルスのコアをつけてください。そうすれば、また戦えるかも…』
『あーちゃん。私言ったよね?デスティニーにISコアをつけるのはやめるって。ヴォワチュール・リュミエールと干渉してどうなるかわからないからって』
『でも、つけることはできる』
『だめ。あーちゃんが危ない。もしISコアとヴォワチュール・リュミエールのどっちも暴走したらあーちゃんが……』
『それでも、それで私は戦える様になります。これは元はと言えば私の世界の問題です。だから、私がここで寝ているわけにはいかないんです!』
『でも!』
『束さん!お願いします!』
『あーちゃんのばか!!ばかばかばか!!おたんこなすのすかぽんたん!!!おたんちん!!!』
『束さん!!』
そして、今ISコアを取り付けたデスティニーの最終調整が行われていた。
「どうなっても知らないからね!あーちゃんなんてそのまま出撃して痛い目見て帰ってくればいいんだ!」
「あはは……」
「で?勝算はあるのか?」
織斑先生が束さんに聞く。
「正直五分五分。MSにISコアを搭載するなんて初めてだし、本当に何が起こるかわからない」
「……いいのか?」
「それはそこのわからず屋のあーちゃんに言って」
そう言って私をにらむ織斑先生。
それをにらみ返す。
「私が行かなくちゃいけないんです」
「私たちに任せてもいいんだぞ?」
「無理です。これは私がやらなくちゃいけないんです」
にらみ合う私と織斑先生。
そして折れたのは織斑先生だった。
「分かった。勝手にしろ」
「ありがとうございます」
「準備できたよ」
束さんに呼ばれる。
そこには今までと変わらないデスティニーが私を待っていた。
「ただいま。またよろしくね」
そう言って私はデスティニーに飛び乗る。
OSを立ち上げるともはや見慣れた……そして久しぶりに見る、
Gunnery
United
Nuclear-
Deuterion
Advanced
Maneuver System Ver.1.62 Rev.29
の文字。
「ガンダム?」
束さんが呟く。
そう言えば頭文字をとってそう呼ばれることもあると聞いたこともある。
確か前大戦の五機の「G」につけられたのがこのOSの始まりだったかな?
カタパルトまで進む。
戦況は大体理解している。
デストロイと四機のデスティニー。
しかもデスティニーはそれぞれ装備がフリーダム、ジャスティス、レジェンド、レジェンドに似た機体の四機。
『君には、ハイネが率いるはずだった部隊の隊長を頼みたいと思っている。
まだ完成はしていないが、デスティニーを量産して平和を守る絶対的な力にしたいと思っている。
その量産したデスティニーの部隊……「コンクルーダーズ」の隊長を、君に頼みたい』
いつかデュランダル議長が言った最強の部隊。
おそらくそのなれの果てが、敵に渡ったのだろう。
「インパルス……私を守ってくれてありがとう。
デスティニー……ボロボロのあなたをまた戦わせてごめんね?」
『発進準備ができた。
…………生きて帰って来いよ』
「当たり前です」
『あーちゃん……気を付けてね』
「はい」
機体も私も十全ではない。
だけど、それでもまだ戦える。
《エネルギー残量63%》
知ったことか。
《パイロットの生命活動に危険あり》
《撤退を進言》
知ったことか。
この空の向こうで一夏たちは戦っている。
なら、私も行かなくてはいけない。
人任せになんてできない。
(私がやるんだ!)
「シン・アスカ!デスティニー!行きます!!」
ブースターを思いっきりふかす。
翼型の推進装置も使って一気に最高速に乗る。
ヴォワチュール・リュミエールは使えない。
核エンジンは動かない。
機体はいつバラバラになってもおかしくないハリボテだ。
だけど飛ぶ。
ハリボテの翼を目いっぱい羽ばたかせながら、私とデスティニーは空へ舞い上がった。
シノンさーーーーーーーーん!!!俺だーーーーーーーー!!!結婚してくれーーーーーー!!!
はい、今もホロウフラグメントにはまっている作者です。
今回はデスティニー復活の前座回です。
椿さんは絶好調!
なんだかんだで椿さんと箒の会話を書いてる時が一番楽しかったり…。
かませ犬のザムザザーさん。
書く前はもっと苦戦させようと思っていたんですが、一夏君たちはシンちゃんの夢の中で一度見ているので簡単に倒せます。
スパロボの合体攻撃みたいになりましたね。
そしてこのまま終わるのはあんまりだろ?ということでデストロイ登場!
ホントはもっと後の出番でしたが我慢できず量産型デスティニーと一緒に来ちゃった。
箒ちゃんのシンちゃんに渡したかったと言う荷物はもう少し待ってね。
そしていつになく視点が多い回。
進→箒→一夏→進という視点です。
ここまでコロコロ視点を変えるのは初めてです。
なんかあとがきも長くなってるな。
因みにデストロイはGガンダムのモビルファイターみたいな感じです。
スカイツリーがIS世界にあるのかって?
こまけぇことはいいんだよ!
以下、次回予告!脳内BGMはvestige-ヴェスティージ- で!
進は飛ぶ。自分を好きだと言ってくれた彼のため、友達だと言ってくれた彼女たちのため、進は飛ぶ。
立ちふさがるのはかつて自分が救えなかった少年の象徴。自らの罪の象徴。
進が過去との決着をつける時、運命は新たなる姿を見せる!
次回![IS]運命の翼の少女 第三十五話「目覚めあるいは運命」
自らの過去に決着をつけ、目覚めろ!シン!