「まさかこの距離でばれるなんて、さすが進さんですわ」
携帯をしまってホッと一息吐く。
「それよりなんで悉くあたしのせいにしたのよ!」
「貴方がそこにいたからですわ」
「なんでよ!」
まったく、友人のために喜んで身代わりになる自己犠牲の精神は鈴さんにはないんでしょうか?
まぁわたくしがやれと言われたらよほどのことがない限りやらないでしょうけど。
「シャルから連絡だ。「異常なし。進がかわいすぎてお持ち帰りしたい」だと…………私はあいつとの付き合いを考えた方がいいんだろうか?」
「異常なしだけでよかったな。後半は完全に私情だ」
「ですわね」
「どこに向かってんのよ、あの子は」
正直最近のシャルさんの言動が読めませんわ。
最初は「紳士」という言葉が似合う素敵な方でしたのに……。
確かラウラさんと仲良くなってからどんどんおかしな方向へ行き始めたんでしたわね。
そんなどうでもいいことを考えているとわたくしの携帯がもう一度震えます(今度はしっかりマナーモードにしてありますわ)。
画面に表示された名前は更識生徒会長でした。
「もしもし、セシリアです」
『おはよ―セシリアちゃん!そっちはどう?』
「異常なしですわ。それよりも、本当にやるんですの?もし失敗したら大惨事以外の何物でもないですわ」
『そこは篠ノ之博士とシャルロットちゃんの腕の見せ所ね。私たちは万が一失敗した時の保険。念のためよ』
そう言われてわたくしは進さんにチケットを渡した日の前日を思い出しましたわ。
「囮作戦?」
「そうだ。敵の狙いは飛鳥、だがいつどこであの『穴』が現れるかわからない以上、どうしても後手に回ってしまう。
だから飛鳥を囮としてあいつらをおびき出す。
が、飛鳥の話では相手も正規の訓練を受けた軍人だ。飛鳥をこれ見よがしに人気のないところへ一人で行かせても敵が乗ってくるとは思わん」
「なら、この作戦はやる意味があるのですか?」
「そうよね。進を一人で行かせても敵が来なかったら意味ないわよね」
「確かにそうだが、この作戦は決定事項だ。最近、各国で多数のMSが確認されている。
そのすべてが無人機らしいが、今のところ何とか撃退していると言ったところだ。
MSの性能は脅威だ。個々のシステムではこちらが勝っていても、全体的な性能では各国に配備されている量産機などMSの足元にも及ばない。
だからこそ、今回の作戦を成功させる必要がある。決定的な『勝ち』が必要なのだ」
「でも、それも敵が確実に釣れなければ意味がありませんよね?」
「………まさか、民間人も囮にするとは言いませんよね?教官」
「政府もはっきりとは言っていないが、それも視野に入れておいた方がいいだろう」
「そんな作戦、認められませんわ!」
「ああ、そうだろう。束」
「ほいさぁ!ジャジャ~ン!これを御覧じろ!!」
「これは?」
「私や束が敵の二回の襲撃の時に何もしなかったと思ったか?」
「これは敵さんが出てくる『穴』から出てる特殊な周波数を確認し、『穴』が出てくる位置を特定するものだよ!
これで穴が出てくる場所もまるわかり!「どこで」が分かったから後は「いつ」を確認できればいいんだけど、そこまでの物はまだできないんだよねぇ」
「だが、場所が分かればいくらでも対策ができる。束にも対MS用の兵器をいくつか作ってもらっている」
「後はあーちゃんといっくんには普通にデートを楽しんでもらって、奇襲のつもりで『穴』を開けた敵さんに逆にこっちが奇襲を仕掛けるってこと」
「本人たちに囮であることを知らせなければただデートを楽しんでいるようにしか見えんからな。
『穴』を開けた敵が『穴』から出てくる前に仕留める」
「ですが……」
「場所と人の心配をする必要はないわよ」
「生徒会長?」
「何年か前に更識の人間が遊園地を立ててね。そこを使えばいいわ。
一般客のふりをした更識の人間も用意できる。
更識は対暗部用暗部。もし失敗して死者が出てもみんな覚悟はできているわ」
「納得できなくても納得しろ。理解できなくても理解しろ。
敵が来なければただのあいつらのデートの監視、もし来たとしても出てくる前に叩けばそのままあいつらのデートの監視になるだけだ」
「どうあがいても監視はするのね」
「遊園地にカメラマンを紛れ込ませてるわ。あの二人の初デートへのバックアップは万全よ?」
「え~……」
「生徒会長は本当にこれでよかったんですの?もし失敗したら……」
『言ったでしょ?私たち更識の人間は覚悟できてるって。それに、私はこの作戦失敗するとは思ってないからね』
生徒会長はいつでも自信満々ですわね。
『それより、絶対に作戦のことを進たちに悟らせちゃだめよ。あの子たちのことだからもし作戦のことがばれたらブチ切れるわ』
「そうですわね……二人とも優しい子ですから、自分たちのせいで死ぬかもしれない人がいるなんて言われたらどうすることか……」
きっと作戦を考えた織斑先生や政府に殴り込みに行きそうですわね。
『……万が一に備えときなさい』
そう言って会長との通話は終わりましたわ。
時間はお昼の三時を回ったところ。
これまでに進さんたちはほとんどのアトラクションをまわりましたわ。
たまにシャルさんから送られてくる「進可愛い」という通信さえなければ平和な時間でしたわ。
そして再び生徒会長から通信が……。
『敵さん、来たみたいよ』
その言葉に全員が上を見上げる。
そこには音もなくあの『穴』が開こうとしていましたわ。
『はぁ~い!みんな聞こえる?』
『聞こえてます。今目の前にあの穴があります』
『よ~し!シャルちゃんはそのままもうちょっと待機!合図と同時にお願いね?』
『はい。早く終わらせてこんな遠くからじゃなくてもっと近くで照れて真っ赤になってる進が見たいです』
シャルさん……いえ、もう何も言いませんわ。
『お!じゃあ束さんも一緒にいこっかな~!』
『束。準備できたぞ』
『ナァイスちーちゃん!じゃあ行っちゃうよ~!!
デスティニーの戦闘データから掘り出して束さんがデストロイから回収して再現したビーム兵器!
名付けて!《スーパースキュラモドキ》!全門斉射!!』
その言葉とともに遊園地の外から放たれた赤いビームが『穴』に吸い込まれていきましたわ。
『シャルちゃん!』
『行きます!』
束さんの声とともに上空で光学迷彩で姿を隠していたシャルさんが現れます。
ここからでは見えませんがおそらくシャルさんは今穴の中にたくさんの爆弾を投げ入れているはずですわ。
今回の作戦はこうです。
まず、先日襲撃してきたデストロイの頭部がほぼ無傷で残っていたのでそれを束博士が移動砲台として改良。遊園地の近くに設置しますわ。
次に進さんたちのデートが始まってから拡張領域いっぱいまで爆弾を積んだシャルさんが光学迷彩を使って上空に待機。
後はエキストラ役の更識の皆さんを貸切にした遊園地で待機させ、進さんと一夏さんを普通にデートさせます。
見事敵が釣れて、『穴』が出現しましたら移動砲台の照準を『穴』にむけ、そこにビーム兵器を打ち込む。
その直後シャルさんが大量の爆弾を『穴』に向かって投げつける。
そして『穴』が閉じ始めたら……。
『!閉じ始めた!シャルちゃん!』
『了解!』
そう、『穴』が閉じる直前に発信器を投げつける。
これで敵にダメージを与えつつ敵の本拠地を探ることができ、なおかつ敵の奇襲を防ぐことができる。
当然敵も奇襲の対策をするでしょうから今回限りの大作戦。
その結果、こちらの勝利で終わりましたわ。
『ほらね?言ったでしょ、失敗するとは思ってないって』
「……ふぅ。そうですわね」
ブー!ブー!
思わず一息ついたとき、わたくしの携帯電話が鳴りましたわ。
画面を見ると…………。
「?誰からだ?セシリア」
「どうしたのよ?」
「……まさか」
ラウラさん、そのまさかですわ。
「……進さんからです」
多分、この時のわたくしはブルー・ティアーズよりも青い顔をしていたでしょうね。
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遊園地に入ってみるとそこには少しの違和感があった。
(何だろう……?)
「?どうした?進」
「あ、ううん。なんでもない」
気のせいだと思い一夏と一緒に歩く。
そう言えば遊園地に来るなんて何年振りだろう?
私とマユが大きくなってからはお父さんもお母さんも忙しくなってあまり遊びに行けなくなっていた。
「どれから乗る?」
「進に任せるよ」
「え~…じゃあ定番からいこっか!」
選んだのはジェットコースター。
自分で飛び回るのとは違って体を固定されて自分の意思とは関係なく飛び回るのはなかなかスリルがあった。
そのあとも遊園地の定番と呼ばれるアトラクションは片っ端から乗っていった。
「メリーゴーランドって……この年で乗ると周りの視線が……って何写真撮ってるの!?一夏!?」
「いや、記念にとっておこうかと」
「早く消して!」
「断る!」
「コーヒーカップって目が回るよな」
「その辺は訓練で鍛えてるから私は回らないよ?」
「ホントか?」
「むしろそうしなきゃとてもMSでの戦闘なんてできないしね」
「空中はISで慣れたと思ったんだがなぁ」
「自分で飛ぶのとはまた違った感覚があるよね」
「思うんだけど空中ブランコって考えたやつは頭おかしいと思う」
「あはは、でもそれを言ったら遊園地全否定じゃない?」
「……」
「?どうしたの?一夏」
「いや、このフリーフォールの地面がどんどん迫ってくる感覚がな、進が来る前、ISの訓練の時に地面に激突した時のこと思い出して……」
「大丈夫だったの?」
「白式のシールドのおかげで怪我一つなかったんだけど……グラウンドに穴開けちゃってさ。その穴を埋めるの独りでやらされてな…」
「……ど、どんまい?」
「バイキング……」
「ご飯の時間はまだだよ?」
「わ、わかってるって!」
「ふー…。結構回ったね」
「だなぁ……」
(正直お化け屋敷に行ったのは失敗だったなぁ……)
私も一夏も怖いの全然平気だったから何とも思わなかったし。
それでも今回は童心に帰って遊ぶことができてよかった。
時刻は三時を過ぎたころ。
私たちは「ISシューティング」というアトラクションをしていた。
実際にISに乗っているかのような3D映像がなかなかすごくて、ハイスコアを取った時に現れる織斑先生が鬼のように強かった。
「あれ絶対勝たせる気ないよな」
「あの映像と本物どっちが強いのか……本物に決まってるよね」
「だな」
だけど、気になることがある。
さっきのアトラクションの最中に音が聞こえた気がしたのだ。
(あれってやっぱり……)
つい最近も聞いたビームの音。
「一夏、ちょっとおトイレ行ってくるね」
「ん?おう」
そう言ってトイレに入って電話をかける。
相手はセシリア。
何があったのか知っているはず…。
『……もしもし?』
「もしもし。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『…なんですの?』
「今さっき、敵が来たりした?」
ズバリ核心を突く。
『…何のことですの?』
「さっきビームの音が聞こえた気がしたんだけど…」
『さぁ?わたくしは何も聞こえませんでしたわ』
「……そっか。分かった、ありがと」
『いえいえ。では、デートを楽しんでくださいな』
「うん。じゃあね」
通話を切る。
(後で刀奈さんに確認しよう)
絶対に何かあったはず。
「ごめん一夏、お待たせ」
「おう。次はどうする?」
「そうだね、じゃあ定番に行っておわろっか」
遊園地の最後と言えばやっぱり観覧車だよね。
対面に座るのではなく、手をつないで横に座る。
「ISで見るのとはまた違った景色だな」
「そうだね…」
目の前に広がるのは普通の街並み。
戦争もなく、平和に育った町。
守らなきゃいけない。
この街並みを焼かせてはいけない。
(世界を二度と焼かせちゃいけない……絶対に)
そのためにも、今のデスティニーを使いこなさなきゃいけない。
場合によっては……整備中に見つけたあのシステムを使うこともためらわない。
「進?」
「ん?なに?」
「いや、なんか思いつめた顔をしてたから……」
「そう?」
「ああ」
私ってこんなに顔に出やすかったっけ?
「今日はありがとな、誘ってくれて。
俺遊園地ってほとんど行ったことなかったからさ。
進から誘ってくれてうれしかったよ」
「うん。こちらこそ、来てくれてうれしかった……」
どちらともなく距離が縮まっていく。
「なぁ…進」
「…なに?」
「お前は……まだ元の世界に帰ろうと思ってるのか?」
それは、いつか聞かれると思っていたこと。
避けては通れない問題。
「…………うん」
「!どうして!」
「だって、私は本当はここにいちゃいけないんだよ?
私は帰らなくちゃいけないんだよ?」
「…………帰らなくちゃいけないんだな?」
「……そうだよ。帰らなくちゃいけないの」
「じゃあ、帰りたいわけじゃないんだな?」
その言葉にハッとする。
「お前はいつも「帰らなくちゃいけない」って言ってた。
だけど、「帰りたい」って一度も言わなかっただろ?
だから、ここで教えてくれ。「どうしなきゃいけないか」じゃない。「どうしたいか」を教えてくれ」
私は……。
私は!
「帰りたくないよ。あんな戦ってばかりの世界嫌だよ。いつまでも戦争が終わらない世界なんて嫌だよ!
でも、私が帰らなくちゃ花を守る人がいなくなる」
「花?」
「うん。あいつらは、花は植えるものだって言って今ある花を守ろうとしないんだ。
私がこの世界に残っちゃったら、あの世界で吹き飛ばされようとしている花を守る人がいなくなっちゃうんだ。
みんな、新しい花ばかり見て、今枯れちゃいそうな花を守らなくなるんだ。
そんなのダメだ!
だから!」
「もういい!」
体が暖かいものに包まれる。
気付くと一夏に抱きしめられていた。
「もういいんだ……もう何も言わなくていい」
「一夏ぁ……」
帰りたくない。
絶対に言ってはいけない言葉を、私は口にしてしまった。
あの世界で、吹き飛ばされる花のために戦う人はいない。
みんな、新しい花を植えようとする。
私がおかしいのだろう。
だけど、それでも私は過去に吹き飛ばされてしまった花のために、今吹き飛ばされようとしている花のために戦う。
そう決めたから。
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「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」
「笑い事じゃないでしょう?隊長」
どこかの空間に男の声が響き渡る
「これが嗤わずにいられるか!こっちから奇襲しようとしたら逆に奇襲されたんだぞ?とんだお笑いだ!!」
「まぁ、今回は完全にしてやられましたねぇ」
なおも響く笑い声
「無人機はビームと爆弾で全滅。部隊の八割の損害。これは見事な敗北だ!!まさか高々二十前後の小娘たちにしてやられるとは思わなかったぜ!」
そこに仮面の男が割って入る
「その割には、楽しそうだな」
「おう大将!俺たちザフト組は《鬼神》に恩があっても恨みがあるやつらは少なかったからな!これでうちの奴らも火がついたと思うぜ?」
「それならいい。帰投するぞ。もうここに用はない」
「オーライ!」
「ハァ……」
隊長と呼ばれた厳つい男とその部下が帰っていく
「……ん?」
仮面の男も帰投しようとしたとき、それを見つけた
まず肉眼では見つけるのが難しい大きさの小さな機械
シャルロット・デュノアの投げた発信機である
「……ククク」
仮面の男は小さく笑うと特に何もせずにその場を去って行った
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「どうだ?束」
「ちょっと待ってね~~……ほい!場所は!!…………え?」
「これは……」
「ちょ~っと予想外……いや、ある意味当然かな?」
「まさか…な」
「そうだよね~まず私たちの世界の住人ならこんな場所考えないよね~」
「宇宙から来てたなんてね」
「行けるか?束?」
「私を誰だと思ってるの?ちーちゃん……この束さんの作ったISはもともと宇宙開発用のパワードスーツだよ?」
「ふ、愚問だったな」
今、静かに戦いの幕が上がる
ここ最近迷走気味の作者です。
今回の前半部分は完全にいらなかったかもしれない……。
まぁ一番書きたかった観覧車の部分は欠けたので良しとしましょう。
シンって原作の前半こそはちゃんと自分の意志で戦ってるんですが、後半から「俺がやらなきゃ」って言う使命感で戦ってるイメージが作者にはあります。
軍人として正しいことをしている……だけど自分がやりたかったことは本当にこんなことだったのか?
その思いがアスランとの戦いに負けたことであふれだした感じですね。
ジエッジデザイアの「俺は本当は何がしたかったんだ?」のシーンは作者の一番のお気に入りだったりします。
というわけで、次回予告!脳内BGMはいつも通りvestige-ヴェスティージ- で!
本当の自分の気持ちをさらけ出し、一層仲が深まっていく一夏と進。
一方、シャルロットが仕掛けた発信機の示した位置に全員が驚愕する。
次回![IS]運命の翼の少女 第三十九話「遊園地あるいは宇宙」
戦いの舞台を整えるために、駆けまわれ!束!