あの戦いから、数日がたった。
あれから起こったことを、俺なりに纏めようと思う。
あれから進は眠るように意識を失った。
原因は不明だが、体がかなり衰弱しているみたいだった。
アスランの話では、プロトユニットを限界まで使った後遺症……プロトユニットの呪いが危険なところまで来ているらしい。
体も傷だらけだし、死んでいないのがおかしいくらいだったらしい。
進は今も、集中治療室で治療を受けている。
どうなるかは……誰にも分らない。
事件の発端になったネオ・ロゴスのメンバーとクルーゼたちは、アスランが元の世界に連れ帰ることになった。
ただ、クルーゼの寿命もそう長くないらしく、あと一ヶ月も持たないらしい。
アスランから聞いた話だけど、もともとクローンとして生み出されたクルーゼは人よりテロメア? まぁ、寿命が短いらしく、それに加えてこれまでのプロトユニットの使用ですでに助かる方法はないらしい。
それについて何も思わないわけじゃないけど、改めて、そんなものを作り出す進の世界の技術が恐ろしくなった。
今は、束さんを中心に進の世界で作られたMSを破片の一かけらまで回収しているところだ。
ISを超える技術、これは間違い無くこの世界に害悪にしかならないと言うことで、今は回収したであろう各国に向けて束さんが圧力をかけMSの残骸とデータを回収している。
今回の事件で、亡くなった人は多い。だからこそ、こんなことが無いようにMSはすべて回収して誰の手も届かないところで破壊するそうだ。
その場所は、俺にも教えてもらっていない。
アスランは、進が目を覚ますかあと三日ほど待ってから帰るらしい。
これが今生の別れになるから、最後にあいさつはしておきたいらしい。
千冬姉や束さんと話をして、やっぱりプロトユニットのデータは元の世界に帰り次第すべて破壊すると言っていた。
これはアスランの世界でもオーバーテクノロジーらしく、今の人類が使っていいものではないと言っていた。
それについては、俺も同意だ。
あのデストロイとかいうやつに乗せられていた子供たちも、束さんの尽力でちゃんと生きられるようになった。
最初は戸惑っていたみたいだが、千冬姉と束さんの働きかけによりしばらくIS学園で面倒を見ることになった。
二人を一緒に引き取ってくれる親を今探している最中らしい。
二人は千冬姉とカズキになついているけどな。
そうだ、カズキのことだ。
あいつは、なぜかこの世界に残ることに決めたらしい。
「帰っても祖国は私が愛した祖国とは違う形になっている。あの世界にも何の未練もない。それに……この世界で、やりたいことができてしまった」と、最後の方に千冬姉の方をやたらチラチラ見ながら言っていたけど……なんだか、俺と戦った後は憑き物が落ちたような顔をしていたし、たぶん大丈夫だと思う。
俺としても人生で初めてのライバルと会えなくなるのは惜しいので、反対するつもりはない。
クルーゼは、あれから何も言わない。
ただ、目が覚めてから自分が死んでいないことにひどく驚いていたようだ。
世間では、この事件は「大きなテロ組織が何年も計画しておこした計画的テロ行為」になっている。
異世界云々なんて言えるわけがないし、ネオ・ロゴスも自分たちが異世界から来たとは言っていないからそこはごまかしが効くらしい。
ネオ・ロゴスがどこから来たのか、MSとは何だったのか、それは闇に葬られることになるだろう。
あと、ネオ・ロゴスを倒したのは俺達ではなく援軍に来るはずだった各国のISの連合部隊になるらしい。
流石にIS学園の生徒とはいえただの学生である俺たちがそんな巨大なテロ組織を打倒したと言うを表に出すわけにはいかないらしく、「連合部隊が束さんの支援を借り、多大な犠牲を払いながらも勝利した」ということにするらしい。別に名声とかがほしくて戦ったわけじゃないからどうでもいいけど。
それに伴って、「首なしラビッツ」は存在しないはずの部隊になると言うことを千冬姉に聞いた。
こうすることで、俺たちは元の学園生活に戻れるらしい。
今纏められることができる情報はこのくらいか。
「い、一夏一夏一夏一夏一夏一夏!!! 一夏!!!」
「うぉっ!? どうしたんだよ鈴?」
「進が、進が目を覚ました!!」
鈴が言い終わる前に、俺は部屋を飛び出した。
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目を覚まして視界に飛び込んできたのは、ぼやけた天井。
「……ぁ……?」
声を上げようと思ったけど、喉がカラカラで声が出ない。
体を動かそうにもまるで全身に鉛でも括り付けられたかのように重く、動かない。
「進? ……起きたの!? ちょ、ちょっと待ってて! 今誰か……ああもう! 一夏ぁぁぁぁ!!」
バタバタと走って外に出ていく誰か……多分、声からして鈴……を見送りながら、霞む視界でどうにかして状況を確認する。
だけど、うまく見えない。
体は動かないし、周りはよく見えない。
(どうでもいいけど、行く前に水を飲まして欲しかったなぁ……)
喉がカラカラで気持ち悪い。
あれからどうなったんだろう?
戦いは? クルーゼは? 一夏は? みんなは?
何もわからない。
不安になる。
誰か教えてほしい。
誰か。
一夏!
「進!!」
開きっぱなしだった扉から、誰かが飛び出してくる。
その誰かは一直線に私が横たわるベッドまで近づいてくる。
「……ぃ……ちか?」
満足に動かない喉を震わせて、ぼやける視界に映る誰かに問いかける。
いや、問いかける必要なんてない。
この声を知っている。
この頭をなでる温もりを知っている。
ぼやけた視界の中でもしっかりと見える優しいまなざしを知っている。
「おはよう、進。お帰り」
ただでさえぼやけた視界が、さらにぼやけてもう何も見えなくなる。
こんな時でさえ、一向に動く気配のないこの体が恨めしかった。
あれから起こったことは、一夏が粗方説明してくれた。
クルーゼたちの処遇、MSの行く末、事件の顛末。
その後みんなお見舞いに来てくれた。
相変わらず視界はぼやけたまま、体も全く動かないままだったけど、本当にうれしかった。みんなの顔がちゃんと見れないのは残念だったけど。
アスランは明日には帰ると言っていた。せっかくだし見送りにはいきたいかな。
びっくりしたのは、カズキ・ヤマモト二尉が私の病室に訪れたことだった。
織斑先生の監視付きで私の病室に現れた彼とは、少しの間だけ会話をした。
「シン・アスカ……いや、飛鳥進か。私は今日、お前に宣言しに来た」
「……なにを、ですか?」
「そこの織斑に負けてから、私も考える時間ができてな。あの艦の中で拘束されながら、ずっと考えていた。私は、これからどうするべきなのかと」
「……」
「結局、艦の中では結論が出ず、お前に直接会って決めようと思ったよ。私はお前を赦せるのか、赦せないのか。そして今、私はお前に会い、そして確信した。
私は、お前を赦すことはないだろう」
ヤマモト二尉は私の眼をまっすぐに見ていった。
だけど、彼の眼はかつての憎しみに染まった眼とは全く違った目をしていた。
「私はお前を赦すことはないだろう。戦争だから仕方ないと言うものもいるだろうが、戦争だからこそ私は赦さない。お前がその命をドブに捨てようものなら、地獄の果てまででも追いかけて私がお前に引導を渡す。覚悟しておくんだな」
「……そんなことは絶対にしません。この命は、もう私だけの物じゃないから」
「……それなら、私は何も言わない。邪魔をしたな。たまには、思い出話に付き合ってくれ。私も君には父としてのトダカ一佐のことを聞いてみたいと思う」
それだけ言って、ヤマモト二尉は帰っていった。
そして、場所は変わってラビット号の中。
IS学園の制服を着て束さん御手製の眼鏡をかけて車椅子に座った私は一夏に押してもらいながら格納庫に来ていた。
「随分長くこっちにいた気がするよ……ルナマリアたちにはどうする? 何か伝言でも残すか?」
「……いえ、ただ、レイのお墓に花と、オーブの慰霊碑に、これをお願いします」
ゆっくりとアスランに花束を渡し、そしてもう一つ包みを渡す。
「これは?」
「……ずっと、私が預かっていたものです。私の物じゃないのに、いつまでも持っていたら怒られちゃうから。だから、マユに返そうかな……と。元の形とはかけ離れたものになっちゃったけど、それでも、返しておきたかったから」
「……そうか、わかった。必ず届けておくよ。
じゃあな、シン。いや、進。最後にお前と一緒に戦場を飛べて、うれしかったよ」
「さようなら、アスラン。向こうのことを頼みます」
ようやく動くようになった腕で、ゆっくりとザフト式の敬礼をする。
それにアスランも同じように返し、ヤマモト二尉を除いたこの世界に来たC.Eの人達と共に帰っていった。
私たちにはもう向こうと連絡を取ることも様子を見ることもできないけど、アスランならきっとうまくやってくれると思う。
「……さて、束さん。最後の仕事ですね」
「……本当にいいの? あーちゃん?」
私の方を心配そうに見てくる束さん。
ふと見れば、みんなも私の方を悲しそうな目で見ていた。
「そんな目で見ないでよ。大丈夫、ちょっと悲しいけど、決めたことだから……」
そして、あの事件以来格納庫に安置されたままだったボロボロのデスティニーを見る。
察してくれたのか、一夏が近くまで車椅子を押してくれる。
「ありがとう、一夏」
「いいってことよ」
デスティニーを見上げる。
度重なる戦闘でどこもボロボロ。
無事なところは……右手くらいかな?
「……お疲れ様。今までありがとう。……こんなありきたりな言葉しか思い浮かばないな。だけど、今まで何度も私を護ってくれてありがとう。あなたは、私の最高の戦友で、相棒だった。こんな終わらせ方しか考えつかなかった私を赦さなくてもいい、恨んでくれてもいい。だけど、こんな終わり方だけど、貴方は、私の唯一無二の相棒だった。
…………本当に、今までありがとう」
頭を下げる。
何度も何度もボロボロになって、それでもずっと私と一緒に戦ってくれて、護ってくれた私の相棒。
私に力を貸してくれて、私に飛ぶ勇気を貸してくれた最高の戦友。
だけど、その力故、デスティニーはこの世界ではいてはいけない存在。
他のMSと一緒に、この太陽系の中心で彼はその役目を終える。
多分、これからの生涯で私がもう一度ISに乗れるようになっても彼以上の相棒とは出会えないと思う。
デスティニーに背を向けて、格納庫を出る。
一夏に車椅子を押してもらい、格納庫が一望できる部屋まで行く。
「じゃあ、行くよ?」
「……お願いします」
束さんが私に確認を取ってから、あるボタンを押す。
それと同時に隔壁が下り、格納庫が艦から隔離される。
そしてゆっくりと、格納庫の床が開いていく。
そこに次々と吸い込まれていくMSの残骸たち。
一度艦が揺れ、このラビット号に取り付けられていたデストロイの装備も艦を離れて宇宙を進んでいく。
そして、最後に残っていたデスティニーも艦から落ちていく。
その光景を、私は目に焼き付ける。
こちらに右腕を伸ばした姿勢のまま宇宙に消えていくデスティニーを、私は見えなくなるまで見続けた。
「……刀奈さん、起きてくださいよ」
「……あと……五年……」
「ふざけてないで起きてください。今日から新学期なんですから、刀奈さんは始業式であいさつがあるでしょう?」
「……ん~~?……う”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!!!??? まずい! まずい! 進ちゃん!? 今何時!?」
「おはようございます。今は午前六時ですよ」
「六時!? ……六時?」
「はい」
へにゃへにゃと刀奈さんがその場に崩れ落ちる。
「よ、予定時刻までまだ一時間もあるじゃない……なんでそんな時間に起こしたのよぉ~!」
「何時もギリギリに起きてドタバタするじゃないですか。たまには余裕を持ちましょうよ」
「……余計なお世話ですよ~だ」
そっぽを向く刀奈さん。
同性であってもその魅力がよくわかる。
刀奈さんと一緒に少し早いご飯を食べてから、刀奈さんは学校へ行き、私は一度部屋に戻ってから日課になったリハビリ代わりのストレッチをする。
あの戦いから、私の体は満足に動く事が無くなった。
身体能力も著しく下がり、夏休み中ずっとリハビリを頑張ったかいがあったのか松葉杖があれば歩けるけど、束さんが言うにはこれ以上私の身体能力が戻ることはないらしい。
目も悪くなって、裸眼ではほとんど何も見えないくらい視力が落ちていた。今は眼鏡をかけている。
プロトユニットを使った副作用のせいでこうなったけど、正直この程度で済んでよかったと思う。下手したら死んでしまっていたかもしれないんだ。この程度で済むなら安いものだ。
夏休みの最中に少し確認してみたけど、ISには何とか乗れた。
ただ、昔のようなキレがある動きはできないみたいだ。
C.Eで鍛えた戦闘技術が発揮できないのは少し残念だけど、この世界でいる間はほとんど必要ない技能だしまだまだ純粋な技術だけで一夏たちに負けるつもりはないので問題はない。
「ふぅ……」
ストレッチが終わり、暇になる。
始業式の開始が八時からで、今は七時二十分。
松葉杖で歩くことを考慮すれば、今から行った方がいいかもしれない。
「……」
床に手をついて、起き上がってみる。
足に力を入れ、思いっきり踏ん張って二本の足で立ち上がる。
「……ん……あ!」
ステン。と、耐え切れずに尻餅をつく。
改めて非力になった体を自覚し、少し嘆きたくなる。
「大丈夫か進? 結構大きな音が聞こえたけど……」
「……あ、一夏。大丈夫だよ、何でもない」
「そうか?」
いきなり声をかけられ、少し驚きながらも一夏に応える。
一夏には合い鍵を渡している。
もし何かがあった時すぐには入れる様にと刀奈さんが用意してくれたものだ。
「それより、そろそろ行くぞ? 今日から新学期だ!」
「……うん。そうだね。行こっか」
一夏から松葉杖を受け取り、一夏の手を借りながら起き上る。
鞄を取ろうとしたら一夏に持たれたので、お礼を言いながら杖を突き、歩く。
「先に出ろよ、鍵は閉めとくから」
「ありがと」
廊下の向こうから聞きなれた声が聞こえる。
多分、私たちをどうやって茶化そうか考えているんだと思う。
「あ、ちょっと待って一夏」
「ん?」
扉を閉めようとした一夏を止め、部屋の中をのぞき込む。
中にはもちろん、誰もいない。
だけど、今の私にとってここが、この部屋が帰ってくる場所だから。
「……行ってきます」
だから、そう声をかける。
扉から離れると、一夏が私を見て微笑んでいたので、私も一夏に笑い返す。
杖を突きながら歩き出すと、その速度に合わせて一夏もゆっくりと歩いてくれる。
それが嬉しくて、ついつい笑顔になって。
『『『――――――――』』』
不意に、寮の廊下の中なのに風が吹いた気がした。
気になって後ろを振り向いてみても、何もない。
だけど、確かに聞こえた。
「どうした? 進?」
「……ううん、何でもない!」
空耳かもしれない。私が生み出した幻聴かもしれない。
だけど、それでもよかった。
ちゃんと、聞こえたから。
「行こう、一夏!」
「……ああ! 行くぜ進!」
『『『いってらっしゃい』』』
長かったようで短かった。
いろいろ言いたいことはありますがすぐに後書きを投稿するのでそちらで言います。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
どんな生物も生きることが許されない灼熱の宙域、太陽系の中心、太陽。
そこに向かって、いくつもの残骸が流れ込む。
MSと呼ばれたそれらはゆっくりと、だけど確実に一体ずつ太陽の熱に跡形もなく焼かれていく。
そしてすべてのMSが焼かれた後、残った最後のMS……『シードデスティニー』が太陽に到着する。
右手を地球がある方向に伸ばしたまま、デスティニーは下半身から少しずつ溶けてなくなっていく。
やがて、デスティニーは動き出す。
伸ばしていた右手を更に伸ばし、その開いていた手を握り拳に変え、
そこから親指を立てて『サムズアップ』をしながら太陽に飲み込まれていった。
[IS]運命の翼の少女 『完』