時計と記憶   作:出没する18禁

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あくまで自己満足と妄想の副産物です。ご注意を。


前編

【記憶と時計工房】

都市に生きる人間なら知らない人間は居ない。

彼の作る懐中時計は大体古ぼけていて、

秒針は動かない。

都市に突如として現れたこの工房は悪評が後を絶たない。

「大金をはたいてオンボロのガラクタを掴まされた」だの「奴と取引した友人が帰ってこなかった」だの…。

それでも悪名高いこの工房が都市から排斥されないわけはその神出鬼没さにあった。

そう、この工房は都市のどこにいつ現れるか分からないのである。T社の巣に店を構えたかと思えば、P社の裏路地に出店を出す。

魅力的かつ胡散臭いキャッチフレーズで

〜幸せなあの頃へ。時間売ります〜

 

 

 

巣の外れ、

1人には広すぎる家に男は寝転がる。

部屋は薄汚れていて、ボロボロになった子供用品があちこちに転がり、宅配ピザの箱が乱雑に積み上げられていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

起きている時間はとても長く、憂鬱だ。

今日も。今日も、手がかりは得られなかった。

「あれ」を起こした犯人探しのために奔走し。

少しでも怪しい人間を尋問し殺す。

何人殺しただろう?果たして意味はあったのだろうか?彼ら彼女らの幸せを奪い。空っぽの俺の何が満たされたのだろう?…多分、何も───。

刃を向けた相手が助けを求めることがあった。

「家族がいるんだ!頼むッ…」と。

全くおかしな話だ。

なぜ、生きる目的を"持った”人間を"持たざる”人間が殺しているのだろうか?

果たして俺にそこまでの資格なんてあったのだろうか?

いや、ない。依頼でも、はたまた自分の復讐のためでも、人を殺して良い理由にはならない。

それでも、これからも殺し続けるんだろう。

振り返ればあの時から俺の時間は進んでいなかった。先を見ても真っ暗な未来が広がるばかりで、まるで今の俺の行動が無意味だと嘲笑うように。

それでもやるしかない。

ほんの一瞬、ほんの一瞬でいいんだ。

俺に楽に息をさせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、なにがなんだか分からなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

雨は男の服に付いた返り血を滲ませながら都市を循環していく。

「ここもハズレ…か。」

剣に付いた血を拭いながら男は裏路地を歩く。

(もうすぐ夜だ。そろそろ帰るか。)

裏路地の夜は面倒だ。奴らは数が多い。

男は腕に着けた時計にチラリと目をやり長剣を鞘にしまいながら歩く。

(今日も何も得られなかった。無駄に人が死に、俺が生きた。憎しみに駆られ、求めても求めても手に入れたいものは手に入らず、"死体の山”だけが積み重なり、かつて彼女の頬を優しく撫でた手は"血に染まり”手に入れたものは"何も無い”。無意味なガワだけが残ってしまった。)

「我ながら、……。ハァ」

男は溜息をつきながら、ズレてしまった仮面をつけ直した。

(嗚呼。あの頃に。やり直せるのならやり直したい。)

その時ある店が目に入った。

(…こんな店…来た時はあったか?)

看板の汚れを拭い、

そこに書いてある文字を読むと

【記憶と時計工房】

男はこの名前に聞き覚えがあった。あくまで噂でしかないが、曰く、ガラクタを売りさばくクソッタレな工房だの、客が突如として消えてしまうことがあるやばい工房だの、様々だ。そしてそのどれもが悪い噂ばかりだった。

ぼぅっと店のドアから零れる光を眺めていると

「おや、お客さんかな?」

突然背後から声を掛けられた。

(ッ!?)

男は声のした方向の逆へ飛び退きながら身体をねじり、剣を抜きながら声の主の方向を見た。

「ハハ。そんなに警戒しないでくれ。」

声の主はヒラヒラと両手を挙げながらおどけるようにそういった。

男は腰の得物に手をかけながら聞く。

「お前は。…一体何者だ?」

『…名前を聞く時はまず、自分から名乗るべきじゃ無いのかい?』

男は眉間に皺を寄せながら

「……。ローリー……ローリーだ。」

『…ふむ。まぁ今はそれでいい。…僕はクリスだ。よろしく。』

そう言ってクリスと名乗る男は握手を求めてきた。

男はそれを無視をして質問を続けた

「お前は、何者だ?掃除屋か?それとも便利屋か?」

『ハハハ。まあそう焦らないでくれよ。立ち話もなんだ、家に入って行かないかい?ほら、もうそろそろ日が沈む。君ほどの手練でも奴らを相手にするのは少し骨が折れるだろう?』

「いや、遠慮しておく。お前が何を企んでいるかは知らないが面倒ごとは勘弁だからな。それに日没まではまだ少し時間がある」

『そう、ツンケンしないでくれよ。僕は…。僕は君の知りたいことを知っているかもしれないよ?』

男は背を向けて帰ろうとしたが、クリスのその言葉にピクリと反応をみせ、立ち止まった。

「おれの知りたい事を知ってるって?」

『あぁ。たぶんね。』

「聞かせろ。」

『まあとりあえず、中に入りなよ。』

クリスはそう告げると店のドアを開けた。

男は少し考えたあと、剣に手をかけながらクリスに続いた。

 

店の中は薄暗くこじんまりとしており、壁に所狭しと時計がかけられていた。そのどれもがカチコチカチコチと子気味良い音を立てている。

男はその光景に少し落ち着きと不気味さを覚えた。店の中を男が見渡していると

『ローリー。だったかな?あ、これお茶ね。そこら辺座ってて貰っていいから。』

店の裏手からクリスが戻ってきた。

「…ああ。」

男は差し出されたマグカップを受け取り薄緑色のソファーに腰を下ろした。それに続くようにしてクリスもカウンターに腰を下ろした。

男は我に返ったように、

「なぁ、もてなしてもらってるとこ悪いんだが俺も暇じゃないんだ。さっさと話すこと話してもらいたいんだが。」

『まあ、そんなに焦らないでくれ。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着いてくれよ。』

男は仕方なくマグカップに口をつけ中身を飲むフリをした。

「ほら。飲んだぞ、それで?俺の何を知ってるって?」

『ハハ、君はせっかちだな。まあいいか、まずは自己紹介。改めて僕の名前はクリス、この工房の管理人さ。知ってるだろ?【記憶と時計工房】については。』

「あぁ。知ってるさ、悪い噂ばかりでいい印象はないけどな。」

『ハハ、そうだね。まあ、彼らにはその資格も覚悟もなかったのさ。』

「?」

『ん、ああ、こっちの話だよ。』

「…まあいいか。それで。何を教えてくれるんだ?クリス?」

『あぁ、君の知りたいこと…それについて教えるんだったね。』

「ああ、頼むよ。ご存知だと思うが俺はあまり気が長くはないし、今は機嫌もあまり良くないんだ。」

『焦らないでくれよ。夜が明けるまで時間はまだあるんだ。』

「生憎、夜が明けるまでここにいるつもりはないんだが?」

『フッ、釣れないね。……そうだな。言いづらいのだけど。』

「なんだ、早く言え。」

『実は…君の知りたいことなんて僕は知らないんだ。』

「は?ふざけてるのか?」

男は苛立ちを隠さずにいる。

『ローリー…まあ、落ち着いてくれよ。ああでも言わないと君は足を止めてはくれなかっただろう?』

「……」

「…それで?」

男はソファーに座り直して話の続きを促した。

『君は…、君ならここについてはある程度知ってるよね。ここでは時間を売っている、それは間違いない。ただ、"普通の時間”じゃない……。"後悔”の時間というものなんだ。……あのときあんなふうにすれば良かった、このときあういう風にしておけば良かったなんて思ったことあるだろう?僕の工房で作る時計はその事象が起こる時間まで世界の時を戻すことができるんだ。』

『例えば……死んだ人が生きている時間に…とかね。』

男はピクリと反応した。

「…。それは…本当か?にわかには信じられないな。もし本当に世界規模での時間逆行が可能だってならいくら積んででも自分の足で"俺の知りたいこと”について調べに行くし防ぎに行くんだがな。だけど無理な話だ。あのT社ですら限られた空間でしか時間の操作は成功していない。それをこんなオンボロ詐欺工房が実現しているとは俺はどうしても思えないけどな。…冷やかしのためのでっち上げなら今すぐお前の首を落としてやってもいいんだが?」

『本当だよ。証拠を見せてあげたいけれど生憎、時間逆行には"犠牲”と"覚悟”が必要なんだ。』

「証拠もなしに信じろってのか?ふざけるな。」

『信じてくれ、とは言わないさ。君次第だからね。ただ、僕は君にチャンスを与えてるんだ。……君のことはよく知っている。君は今まで僕が見てきた人達の中で最も後悔している。ただの偽善に聞こえるかもしれないけど僕は君を救いたいんだよ。』

「…。」

『後悔と懺悔、そして憎悪。そんなものに自分を閉じ込めてどうするんだ?』

「……。」

『復讐して?それから?君の未来は明るいものかな?』

「…だまれ…」

『それが都市に生きる者の運命なんだと自分に言い聞かせ続けてそれでもまだ受け止めきれずにいるじゃないか。』

「……だまれ。」

『どうして君は全てを背追い込もうとするんだ?』

「だまれだまれ…」

『……彼女は、』

「やめろ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼女は"今”の君を望んだのかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!だまれェェェ!!」

男は机を蹴りあげるとカウンターに座るクリスの首元に聖剣を突き付けた。

「それ以上その口を開いてみろ。お前の首を落とす。」

クリスの額を汗が濡らす。

「お前に…お前に何がわかるんだ?さっき、会ったばかりのお前に。友達どころか知り合いですらないお前に。俺の中で何者でもないお前が俺の事を知ったように語るな。俺の懺悔が、憎悪が、後悔が。…彼女の事が…。分からない…。おれは、俺はどうすれば、いいんだよ…。」

男はクリスの首元を解放すると頭を抱えながらソファーにへたりこんだ。

 

 

 

『…分からないさ。分からないよ、言ったじゃないか、君の知りたいことなんて僕には分からない。その懺悔も憎悪も後悔もそのどれもがどれだけのものなのかすら分からない。だけど…だけど君が僕の言っていることを少しでも信用してくれれば、君のその負の感情を紛らわすことができる。君の未来に多少なりとも意味を持たせられるかもしれない。』

 

「…。」

男は頭を抱えたまま動かない。

『そうやって頭を抱えても、いくら考えてもこの問題は解決しない。ローリー、いやローラン。選択のときだ。代償を支払い未来に意味を持たせるか、過去に縋り真っ暗な未来を生きるかだ。』

 

ローランはドス黒い仮面に手をかけ素顔を晒した。

震える声で、だがしっかりと決意を持って

「おれは。俺は何をすればいいんだ?」

 

 




後編は少ししたら更新します。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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