バーサーカーを逃したその後。
幸いにもモルガンのマーキングが付いた虫は無事らしく、後を追えている。
だが、今度は安っぽいビジネスホテルではなく本拠地である間桐邸に引っ込んだ様だが。
今回のでバーサーカーのマスターも警戒を強めるだろうから、同じ手は通じない。
それに本拠地を強襲すれば臓硯も出張ってくるだろう。
セイバーとキャスターで強襲を掛ければ確実に勝てる。
だが、そうなれば他の陣営にいよいよ同盟を組んでいる事がバレるだろう。
それ自体は別に良い。
だが問題はリスク、コストとリターンが釣り合うかどうかだ。
そこら辺に煩いのは魔術師殺しである。
魔術師殺しの性格からして得体の知れない化け物に成り果てた間桐臓硯は確実に魔術師殺し内でのブラックリストの上位に位置するだろう。
機会があれば殺したい、けど殺すのに掛かるコストやリスクが莫大すぎて手が出せない、そういうブラックリストだ。
だが、聖杯戦争中は違う。
ちょっとサーヴァントの攻撃が掠って、偶々当たりどころが悪くて、死んでしまった。
そういう事があり得る。
マスター衛宮切嗣の本命はバーサーカーとそのマスター。
魔術師殺し衛宮切嗣の本命は化け物の間桐臓硯。
十分に有り得る話である。
まあ、なんにせよこれ以上セイバーを動かすなら本格的に衛宮切嗣の了承が必要になる、という事だ。
とは言え、余程の非常事態が起きない限りは十中八九、衛宮切嗣はバーサーカーの追撃にうって出るだろう。
問題はアーチャーとライダー。
とはいえ、あの2人は互いに狙いを定めている。
余裕を崩さない英雄王は恐らくうって出るのはライダーと聖杯戦争の最後のみ。
征服王は対アーチャー戦に向けて力を温存しておきたいだろう、と考えられるが、かなり刹那的な所が見られるイスカンダルについては考えるだけ無駄だ。
と、一通り思考を纏めた所で男は自身の胡座の上に座って本を読んでいるモルガンを見る。
昨日ので味を占めたのだろうか、帰って来てすぐに「あぐらをかけ」と命令してその通りにしたら、その上に座って来た。
どこからこんな知識手に入れたんだ。
男は無駄にモゾモゾと動いて押し当ててくるそれを努めて無視しながら、思考を回す。
マスターはどう考えているのか。
遠坂は初日からマスターが穴熊を決め込んでいる。
動くにしても後1騎落ちてからだろう、つまりそこまで気にする必要はない。
言峰はアサシンは失ったが、まだ遠坂との同盟は続いていると見るべきだ。
その場合、教会の元代行者の戦闘能力は厄介だ。
低級サーヴァントとどっこい、場合によっては上回ると考えられる。
一番困るのは間桐に攻撃してる所に後ろから攻撃を仕掛けられ挟撃に遭う事だ。
間桐はマスターである雁夜は昨日のを見る限りは戦闘の経験はないのだろう。
その上、手傷を負わせているから放っておけば暫くは自分からは動けない。
問題は臓硯だ。
雁夜の後ろには必ずこいつがいる。
アレが参謀として本格的に動き始めたら厄介この上ない。
ウェイバーは完全に征服王に引っ掻き回されてマスターとサーヴァントの関係が逆転しているからそこまで考えなくても良い。
切嗣は契約で縛っている内は直接的にも間接的にも攻撃は仕掛けられない。
見殺しにする事も態と曖昧な文章にさせた事によって契約に引っかかると考えて出来ないだろう。
とはいえ裏側でどんな準備をしているか分からないが。
自分がやるとしたら下水に何か混ぜる。
ガソリンを混ぜて火を点けたり、混ぜてはいけない薬品を別々の場所から入れて特定の場所で合流、毒ガスで殺そうとしたり、とかだろうか。
だが、お得意の爆薬でも完全にこちらの工房を破壊し尽くすのは難しい。
それ程までに広大な工房である事は既に伝えてある。
爆薬を使おうとすれば冬木市全体を絨毯爆撃する必要がある。
つまり無理だ。
後は俺に発信機でも付けて、発信機のある地点にピンポイントで爆弾や宝具でもぶち込む。
あるいは最後の3騎になった所で共闘し、相手を倒した瞬間に消耗したこちらを強襲させる。
騎士王は騎士道に従うだろうからそれを渋るのを見越して令呪で宝具を強制的に使わせて対応させずに殺す。
まあこんな所だろうか。
そこまで思考が回った所で、男はそれをモルガンに伝える。
そこにモルガンが同意しながらもある程度の修正を加える。
それを元に今後の展開を予測していく。
夜が明けるまで2人の話し合いは続いた。
そして昼頃に鏡を通してキャスター陣営へと切嗣から手紙が届けられた。
内容は油断を誘う為、中1日空けてから間桐邸を襲うとあった。
確かに、現在アインツベルンの防御の要の1つである森は征服王によって、道路から城まで一直線に進めるようになってしまっており、防御力は低下している。
そこを狙われないとも限らない。
そう考えれば分からなくも無い。
という事でその日はのんびりと過ごす事となった。
だが、そうは問屋が卸さないのが聖杯戦争。
夜になった所で、侵入者が現れる。
「マスター!
ライダーだ!」
そう、キャスターの工房に侵入してきたのはライダーである。
チャリオットの突進でドンドン工房内を突き進んでいる。
空間に映写された映像からは、対侵入者用の仕掛けは発動しているが、チャリオットの突進の方が攻撃ランクが高いのだろう、無効化されているのが見える。
高笑いしながら工房を破壊していくその姿は正しく征服王の名に相応しい。
「これ以上、好きにさせてたまるか!
キャスター! 誘い込むぞ!」
「仕方あるまい!」
モルガンは征服王のチャリオットへの攻撃を止めた。
そして、別れ道を封鎖していき一本道として地下貯水槽だった、だだっ広い空間へと誘導する。
その様子を見たイスカンダルは、ふむ、と思案する。
「ライダー、これって……」
「うむ、誘っておるな。」
「行くの?」
「行くに決まっておろう。」
「キャスターの十八番は防衛戦で、工房内ではほぼ間違いなく最強って言っても?」
「無論よ!
むしろそれを聞いて更に心踊るわ!」
それを聞いたウェイバーははぁ、と大きく溜め息をつく。
「分かった。
ただし危なくなったら即撤退だぞ。
こんな所で消滅されても困るんだからな!」
「応ともさ!
しかし貴様も余の王道というものが分かって来たではないか、うん?」
「うるさい、どうせ言っても聞かないんだから諦めてるだけだ。」
「はははははは、そう照れるな。
ほれ、素直に言ってみよ。」
「違うって言ってるだろ!」
そう笑いながら口論を続け、2人は工房の奥地へと踏み込む。
暗く狭い下水道を抜けた先にはただ広い空間があった。
洪水や大雨が降った時用の地下貯水池である。
その中心にキャスターは立っていた。
「おうキャスター!
この魔術工房とやらと貴様自身、纏めて征服しに参ったぞ。」
「ふん、神代の魔術師とその工房を侮った代償は大きいぞライダー。
だが始める前に1つ問いを投げよう。
どうして我らの工房が分かった?」
「うん、そりゃこの坊主のお陰よ。
余に川から水を持って来させて何やら調べてたぞ。」
「水中の魔力量を調べてたんだよ、説明しただろうが。」
それを聞いたモルガンは、そういう事か、と納得した。
勿論、モルガンは排水に過剰な魔力を混ぜたままで川に流したりなどしていない。
だが、実際に出ていたという事はやったのは恐らく現状の敵勢力で唯一キャスターの工房の位置を知っている間桐だ。
排水口付近に虫を放って殺し合いでもさせたのだろう、と推測できる。
とことんまで癇に触る間桐に対してヘイトを溜めながら、モルガンは思考を戦闘に切り替える。
恐らく勝てる。
それがモルガンの出した結論だ。
固有結界を発動されれば工房という地の利が皆無になるが、征服王は工房ごと征服しに来たと言っていた。
つまり、固有結界を使う確率は低いと見て良い。
さらに使おうとした所で即座に転移で逃げられる。
工房というバックアップがあれば負けはしない、と算出した。
「では、始めようかキャスターよ!
いざ征かん! 『
イスカンダルが手綱を操れば、チャリオットを引く雄牛が雷鳴を轟かせながら走り始める。
それを空間転移で避けたモルガンは床を杖でコン、と1つ叩いた。
それと同時に空間内に張り巡らされた対侵入者用の仕掛けが一斉に発動する。
先の通路で発動されていたそれとは質も量も桁違いな魔力弾、魔力光がチャリオットの四方八方から発射される。
「ハァッ!」
イスカンダルは更にチャリオットの速度を上げて強引に前方を突破、急カーブしてモルガンの方へと向かってくる。
だが、それも転移で回避される。
「ライダー!
どうするんだ、アレ!
転移をどうにかしないとジリ貧だぞ!」
「分かっておるわ!
ならばこうよ!」
ライダーがそう言うと同時にモルガンの周りに数体の戦士が現れる。
その姿は先日、イスカンダルの宝具『王の軍勢』で見たものだ。
「固有結界外にも召喚可能か。」
だが、召喚されたのはサーヴァントとは言えど、クラスすら振られていないサーヴァントとしては最低限の存在。
そして、モルガンはモードレッドに剣を教えられる程度には武器の扱いにも長けている。
右から突き出された槍を杖を剣に変えて受けて流す。
受け流しながら剣から斧へ。
そのまま下から振り上げて1体を撃破。
反対側からついてきた槍を振り抜いた勢いそのままに打ち払う。
斧から槍へと変えて、穂先は逆側へと伸ばす。
槍を引きながら穂先で虚空を刺し、それを別の戦士へと転移、2体目を撃破。
上から振り下ろされた槍を防御魔術で受け流し、接近、剣へと変えて胴を薙ぐ。
これで3体目。
突進して来たチャリオットを跳んで避ける。
着地点に再度召喚された戦士は、その足元の水を操って全て串刺しにした。
その場から転移して更に突っ込んできたチャリオットを回避した。
「全然ダメじゃん!?」
「うむ、白兵戦は苦手とか言ってたのはブラフであったか。」
「いや、苦手だが?
円卓を基準とすれば、な。」
「白兵戦の本職中の本職を基準にするなよ!
ライダー、明らかに分が悪過ぎるぞ!
工房にいる限りキャスターに魔力切れなんてあり得ない!
撤退だ!」
「むう……」
「ボクの魔力だって決して多い方じゃ無いんだからな!
このまま続けてたらガス欠だ!」
「話している暇はある様だな?
オークニーの雲よ!」
モルガンがそう唱えれば、イスカンダル達の前方に膨大な魔力で作られた槍の様なものが現れる。
「こりゃいかん!」
即座に方向転換して、狙いを定まらせない様に蛇行しながら出口へ繋がる通路へ向かい始めるイスカンダル。
「逃すと思うか!?」
動きを先読みして放たれたそれは真っ直ぐに通路へ向かっていく。
僅かに先にイスカンダルのチャリオットが通路に飛び込み、その後を魔力槍が追う。
「ライダーぁぁぁぁぁぁ!!!??
少しずつ距離が縮んでるぞ!?」
「ふは!
余の『
坊主、しっかり捕まっておれ!」
狭い通路内で放たれる魔力弾を避けながら猛スピードで出口へと向かっていくイスカンダル。
その後ろを蒼い魔力槍が追っていく。
チャリオットと魔力槍の距離はジリジリと狭まっていく。
「ライダーぁぁ!!
もうダメだ、追い付かれるぅ!!」
その距離が最早手を伸ばせば届く程までに狭まった所で漸く迷路の様な下水道の出口が見えた。
魔力槍がチャリオットに接触する寸前、下水道を抜けイスカンダルはチャリオットの進路を一気に真上に取った。
突然の方向転換は出来なかったのか魔力槍はそのまま進んで川の中でそのエネルギーを爆発させた。
その様子を上空のチャリオットから確認したウェイバーは魔力槍に込められていたエネルギーを見てヘナヘナと腰を抜かす様にチャリオットの床に座り込んだ。
「た、助かったぁ。」
「どうだ坊主、あのギリギリでの脱出劇。
映画みたいでカッコ良かったであろう?」
「そんな事言ってる場合か!?
アレをまともに喰らってたら絶対に無事に済まなかっただろうが!」
「無事に済んだんだから細かい事言うでない。
今宵は余の負けであったが、次に対峙した時は負けんぞ。
帰って作戦会議だ坊主。」
そうしてライダー達は自身の拠点へと帰って行った。
昨日は更新できなくてすみませんでした。
リアルの方が忙しくて……
書きだめしとくのが良いんでしょうけどそれが出来ない性格なので毎日4500〜5000字を書いてます
評価下さいって言ったらマジで高評価増えまくってて嬉しみ
ありがとうございます