モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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16話

 

「ええと……こう?」

 

「そうです、よく出来ましたね。」

 

モルガンが教科書の問題を解いた桜を褒めながら頭を撫でた。

その様子を見ながら、男はモルガンが何のためにこの桜という子を連れて来たのかを何となく悟った。

 

肉体的誘惑に引っかかってくれないから外堀から埋める気だ、と。

現状、桜にとって優しく親切で自身を助けてくれた人というプラス評価しかないモルガンに桜はまだ少し硬い所も見られるが、心を開いている。

そして連鎖的に男にも心を開いているのだ。

まだ連れて来てから2日目だと言うのにだ。

 

間桐の当主(自称)に聞くところにはこの子は養子。

しかもバリバリの魔術師の養子だ。

間桐が魔術師の家系として終わったなら遠坂はまた別の魔術師の家系へと養子に出すだろう。

もし、モルガンが聖杯戦争に勝利し、その受肉を果たし、遠坂がまだ生き残っていれば神代の魔術師の元に養子に出せると知れば大喜びだろう。

 

それが桜にとっても悪く思ってない相手ならばなお良い。

その際、父親となるのは男だろう。

本当に目的に対して有効な手段のみを取っていくその手腕に戦慄を覚えるばかりである。

 

とはいえ男はモルガンとなら夫婦になっても文句は無いどころか感謝するレベルだと思っている。

モルガンもその妖精眼で男が自身の事を悪からず思っているのは分かるだろう。

それでもなお、外堀を埋めるのは彼女が生前は真の愛など知らず、全てに策略と思惑が隠れていた事を知り、経験したが故に不安なんだろうと予測した。

 

だからこそ男はその微笑ましい光景をそのままにしている。

それでモルガンの気が済むなら安いものだと考えながら。

 

それはそれとして戦闘が起こった時にどうするべきかに頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバー陣営は拠点をアインツベルン城から切嗣が確保していた屋敷へと移した。

これはそもそもあのアインツベルン城を使うのが予定外だった事に起因する。

 

港での戦闘後、判明したライダー、イスカンダルとセイバーの天敵モルガン。

どちらも歴史や伝承に大きく名を残す大英雄クラスである。

だからこそ最初の内は拠点を防備の固いアインツベルン城を使用していた。

 

だが、そのモルガンは不戦条約を取り付けたお陰で最後の局面までは敵として考えなくても良い。

その他の脱落していないサーヴァントにとって城の防備など紙みたいな物だと、聖杯問答の前に城の正門を軽々と破壊された事で思い知らされた。

 

つまり防衛戦をするだけ無駄なのである。

ならば攻勢に出る。

切嗣の得意なやり方はとことん戦場を引っ掻き回して、目標が出て来た瞬間に仕留めるか、穴に籠ったままの目標を穴ごと仕留める方法である。

 

幸いにもバーサーカーの目標は現時点ではキャスターに固定され、行動の読めないライダーは魔力回復にでも勤しんでいるのか最近は夜毎に冬木市の上空を駆け回っているだけ。

アーチャーは本当にあの言葉通りに最後まで静観を決め込むのだろう。

 

これで警戒すべき相手がある程度絞られた。

切嗣にとって最も警戒すべきは言峰綺礼。

次点で突発的な行動を取るライダー、イスカンダル。

3番目は言峰綺礼に連れ去られたバーサーカーとそのマスター。

4番目はアーチャー、ギルガメッシュ。

5番目が同盟相手のキャスター、モルガンとカイであった。

 

それに次にサーヴァントが脱落すればアイリスフィールは動くのが辛くなるだろう、という予想もあった。

無論、アイリスフィールの中に埋め込んだエクスカリバーの鞘、アヴァロンの効果によって聖杯顕現によるアイリスフィールという器の崩壊は押し止められはする。

 

だがアヴァロンはセイバーが近くにいなければその効果を発揮できない。

そしてサーヴァントとまともに戦えるのはサーヴァントだけだ。

常にアイリスフィールの近くにセイバーを置いておく訳にはいかない。

 

ならば動けるうちに新拠点へと移動し、新たな拠点の防備を固め、何かあった時にすぐに対応出来る様にしておいた方が良いと判断したのだ。

鏡を含めた最低限の荷物だけを持って移動。

 

拠点となるのは家屋ではなく、蔵の方だ。

家屋は劣化が酷く、修復は勿論のこと一部は改修が必要な為使わない。

キャスターに頼んで蔵の地下に工房を設置。

 

キャスターが敵になった時の事を考えて、最低限の結界以外は自分達で工房を整えた。

内部は3部屋に分かれている。

地下に降りてすぐの武器庫、1つ奥に入って鏡を設置した会議室、その更に奥に動けなくなったアイリスフィールが過ごす為の部屋。

 

それをある程度形にしたら、切嗣は舞弥とセイバーを外に出して、アイリスフィールの体に埋め込んでいたアヴァロンを回収した。

ここからはセイバーがアイリスフィールの側を離れている方が多い。

無駄に長く苦痛を感じさせるつもりは無かった。

 

キャスターに頼めばアイリスフィールという人格と器は何とか出来るかもしれない。

だが、それは共闘関係だけという名目からは外れる。

そうなればキャスターは魔術師として対価を要求してくるだろう。

どんな物かは分からない。

だが、共闘関係とは別に借りを作られたら最終局面で足枷になる可能性は十分にあり得ると切嗣は判断した。

だからこそ切嗣はキャスター陣営を頼りにはしなかった。

 

最悪の場合、これが最後の2人の会話になるだろう。

そう考えたアイリスフィールは夫に愛の言葉と2人の子供、イリヤスフィールを頼むと伝え、切嗣もまたそれに応えた。

 

舞弥にこの地下室でアイリスフィールと聖杯の護衛を頼んだのはアイリスフィールという1人の女を愛した衛宮切嗣という1人の男としての最後の名残りだった。

地下室を出た後の衛宮切嗣の顔は魔術師殺しの衛宮切嗣へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君に依頼したい内容とはアイリスフィール・フォン・アインツベルンという女性型ホムンクルスをセイバー陣営から攫ってくる事だ。」

 

光の差さない部屋の中、そう言峰綺礼は言う。

 

「無論、セイバーにバーサーカーが過剰反応するのは承知の上。

私の残った令呪、2画の内1画を授けよう。

2画を以ってバーサーカーにこう命じるのだ。

『セイバーは無視してホムンクルスを連れて来い』と。

そうすれば君のやるべき事は終わり、契約は締結する。

 

後は君のしたい事、間桐桜をキャスターから助け出すという事を存分にすると良い。」

 

言峰綺礼の手の甲が光り、その令呪が間桐雁夜の元へと移った。

これで2画。

令呪が切れても雁夜はバーサーカーのマスターのままである。

令呪という切り札を失うのは痛いが、それをどうこう言う資格は無い事は分かっていた。

 

「タイミングはこちらで、セイバーとそのマスターが近くにいない時に合図する。

蟲を1匹、私につけていたまえ。」

 

言われた通りに雁夜は蟲を綺礼の服に付けた。

 

「女の受け渡し場所も蟲を通して伝えよう。

早ければ今夜にも……」

 

そこまで言ったところで言峰綺礼の言葉が止まった。

 

「予定変更だ。

今がその好機だ。」

 

ニヤリと顔を歪める様に笑った言峰綺礼はそう言い放った。

 

「分かった。

令呪2画を以って命ず。

バーサーカー、セイバーを無視して敵拠点へ侵入。

中にいるホムンクルスの女を捕まえろ。」

 

2画の令呪が赤く光り、そして消えた。

それと同時にバーサーカーがその場から消える。

 

「ではバーサーカーが帰ってくるまで私もここで待たせて貰おう。

なに、そう時間はかかるまい。」

 

その言葉通りに数分後、バーサーカーは白髪の女を担いで帰って来た。

それを受け取った言峰綺礼は彼女を担いだ。

 

「では後は先程言った通りに存分にキャスターを狙うと良い。」

 

そう言うと言峰綺礼は闇に溶ける様に姿を消した。

 

「これで漸く……漸くだ……!

桜ちゃん……待っててくれ。

すぐに救い出してみせるから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスター陣営に突如届いた情報。

アイリスフィール・フォン・アインツベルンが何者かによって攫われた。

その情報に対してキャスター陣営が取った行動は静観であった。

 

興味が湧かなかったのだ。

戦術的にも何ら影響のない人物が攫われた。

セイバーや夫の衛宮切嗣にとっては大事な人物かもしれないが、キャスター陣営にとってはそこまででもない。

故の静観だった。

 

使い魔越しに得られた情報としては、攫ったのはイスカンダル、に化けていたバーサーカーだ。

それを伝える術が無かったが故に最初に現場に駆け付けたセイバーは最初は化けたイスカンダルを追っていたが、途中で撒かれ、直後に視界に現れたイスカンダルを追い始めた。

 

バーサーカーがどこに行ったのかは分からない。

情報が無かった初期と比べ使い魔の必要性が薄れて使い魔の総数を減らしていた。

それ故に、使い魔が速度で振り切られて追えなくなってしまったのだ。

 

後に入ってきた情報によれば久宇舞弥は命に別状はないが重傷を負った。

どうやらアイリスフィールに庇われたらしい。

これにより、命はあるが事実上として久宇舞弥は戦力としてカウント出来ない。

それどころか利き手の腱を切られたらしく、回復しても戦士としての復帰は見込めないだろう。

 

共闘関係として切嗣に情報を伝えた時は切嗣は不気味な程冷静だった。

黒幕は聖杯戦争が何たるかを知る言峰綺礼であり、アイリスフィールという器に隠された聖杯を壊す様な真似はしないと判断した。

そのあまりの冷静さにセイバーは

 

「切嗣!

奥方が連れ去られたと言うのに何故貴方はそこまで冷静、いや冷徹でいられるのか!?

まだ助けられる望みはある!

私にアイリスフィールを探す許可を!」

 

その言葉に切嗣は無視を決め込まなかった。

間接的に伝えられる人物が存在しなかったからである。

 

「ダメだ。

バーサーカーがアイリを連れて行った以上はすぐにでもキャスター陣営に殴り込みをかけるだろう。

分の悪い賭けと確実な賭け。

しかも分の悪い賭けで勝ったとしても得られるのはアイリの身柄のみ。

確実な方を取ればサーヴァントを1騎葬れる。

どちらが合理的か少しは考えろ。」

 

発した言葉は否定。

夫としての衛宮切嗣を切り捨てた彼には情は無い、訳ではない。

だが、遅かれ早かれアイリスフィールは聖杯戦争、そして人類の恒久的平和の犠牲となる。

ならば、どうせ捨てる物なのだからその犠牲を出来るだけ価値の高いものにしてやりたい、というある種の諦めがあった。

 

1日経てば世界中で一体何人が無益に死んでいっているのか。

だからこそ切嗣はアイリスフィールを切り捨てる。

アイリスフィールを助けた事で聖杯戦争が終わるのが伸びた、ならまだ良い。

だが、そのせいで聖杯戦争にすら勝てなかったのならアイリスフィールに手向ける物が無くなってしまう。

 

だが、その真意はセイバーには伝わらない。

しかし彼女は顔に憤怒を浮かべながらも動かない。

何故なら彼女は騎士達の王。

彼女が自身を騎士王であると自己認識している間は決して騎士道には背けない。

だからこそ彼女はマスターという仮初であっても仕える主の命令に背けないし、そのマスターが相当の外道、それこそ本来のキャスター陣営の様な堕ち切った外道で無い限りは裏切れない。

 

それがモルガンの言ったセイバーを縛る正しさという鎖の1つであった。

彼女がもしもその性質を反転させた存在だったならば、また違っただろう。

 

セイバー陣営の軋轢は最早限界寸前であった。

これまで耐えていたのはアイリスフィールという緩衝材があったから。

それすら無くなれば後はこれまでの比にならない速度で悪化していくのみ。

しかし、それは限界寸前のまま更に悪化するという矛盾である。

 

絶対に果たすべき目標が両者共にあるからこそ、最後の一線だけは越えない、越えられない。

ここにこの第4次聖杯戦争、最も歪んだ主従が誕生した。




先に言っておこう。
基本、キャスター陣営かセイバー陣営を主に描くので最も綺麗な終わり方をしたイスカンダルVSギルガメッシュ戦はダイジェストでお送りします。

その分、相対的に愉悦要素が強くなるぞ!
次回バーサーカー戦かな

自分で書いててなんだが、今回の話、序盤と終盤の温度差がデカ過ぎてやべえわ。
感想欄でアイリスフィール、モルガン様いるからワンチャン助かるんじゃね、と言った方が居ましたがそんなわけは無かった。
zeroで原作以上にセイバーを落として、stay nightで原作以上に上げてやるんだよォ!

つまり第5次あります
題名変えないとだな……

感想、評価お待ちしてます

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