モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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17話

 

アイリスフィールが攫われた翌日。

ついにバーサーカーがキャスターの工房へと襲来した。

感知結界によればバーサーカーのマスターは工房内へは入って来ていない。

 

すぐにカイは切嗣へと連絡を取った。

 

バーサーカーは魔術工房の自動迎撃を避け、手に持つ武器で払い、壊し、その奥へと侵入していく。

そんな中、雁夜は何をしているのか。

魔術師としては魔術回路も知識も三流以下であるが、敵の工房に生身で入る事の危険性は知っていた。

 

最初の偵察時に蟲を殺されていたからだ。

だからこそ、雁夜は地上に留まった。

バーサーカーがキャスターを倒した後に桜ちゃんを迎えに行く。

敵マスターが居てもバーサーカーが居れば問題ない。

 

今ここで何も考えずに自分が飛び込んでも何の役に立たないどころかバーサーカーの足手纏いになるだけだろうという事は分かっていた。

だからこそ待つ。

 

バーサーカーに吸い取られていく魔力、それを補おうと刻印虫は雁夜の血肉を貪っていく。

だが、ここさえ耐えれば桜ちゃんには明るい未来が待っている。

そして最後に時臣を殺せば全て終わりだ。

 

だからこそここで負ける訳にはいかなかった。

 

「バーサーカー……頼むぞ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やや想定以上の速度でこちらに向かって来ているか。

まあ、どうせ大したダメージは与えられぬだろうし、こちらの戦力も揃った。

いい加減に終わらせるとしよう。」

 

空中に投影された立体図でバーサーカーの現在地を確認していたモルガンはそう言うと、鏡から入って来たセイバーを連れて歩き出す。

 

目的地は地下貯水槽。

この下水道で最も開けており、戦闘にはうってつけの場所だ。

ライダーが通って荒れたコンクリートはそのままだが、壊された術式は既に修復済みである。

 

そこにセイバーとモルガンは並んでバーサーカーを待ち構える。

ガシャリ、ガシャリと鎧を鳴らしながらバーサーカーが下水道の中から黒いモヤを纏って現れた。

そして2人の姿を確認すると同時に港の時と同じように雄叫びを上げた。

 

持っていた鉄パイプを地面に刺して背負っていた荷物を手に取った。

銃だ。

この銃は、バーサーカーがセイバー陣営の拠点を襲撃した際に奪って行った物だ。

 

その銃が宝具化されており、両手に銃を一丁ずつ持ってそれぞれがセイバーとキャスターを狙っている。

吐き出された弾丸はキャスターは水を操って盾にして防ぎ、セイバーは柱から柱へと走り抜ける事で避け続ける。

 

ここで仕掛けたのはモルガン。

斧と槍が合わさった様な形へと変わった杖を地面に突き刺す。

するとバーサーカーの頭上からその杖に形取られた魔力刃が襲い掛かった。

バーサーカーは易々とそれを避けるが、その瞬間だけ銃撃が止む。

 

それと同時にセイバーは魔力放出で加速、勢いを付けて剣を振り下ろす。

その一撃はバーサーカーが銃を片方犠牲にする事で防ぎ、もう一つの銃を撃って反撃した。

セイバーがすぐにその場から狙いを付けられにくい様にジグザグに走りながら距離を取り、バーサーカーにモルガンの魔力弾が命中した。

 

爆炎と煙で視界が塞がれ、銃撃が止む。

その様子を見ること1秒、2秒。

煙の中から銃弾が放たれた。

狙いの付けられていないメチャクチャな弾道で軽く避けるだけで済む。

 

煙をその宝具化した鉄パイプで切り裂いてバーサーカーが現れる。

セイバーを銃で牽制しながらモルガンへと近付いて行く。

モルガンはそれに対して魔力弾による弾幕を張るが、バーサーカーは的確に必要なものだけを鉄パイプで弾いて進んでくる。

 

遂にモルガンの目の前まで来て飛び上がりながら鉄パイプを振り上げたところでバーサーカーは真横からの巨大な魔力光に飲まれた。

流石に空中で自分の体よりも大きいビームの様な魔力光にはガードするしか出来ず、吹き飛んでいった。

 

だが、吹き飛んで行った先でバーサーカーは普通に立ち上がった。

だが、防御に使った銃と鉄パイプはバーサーカーの手の中で砕け散る。

これでバーサーカーは今完全に無手。

好機と見たセイバーが一気に詰め寄ってその剣を振り下ろす。

 

だが、それはバーサーカーに届かなかった。

避けられた?

否、受け止められたのだ。

真剣白刃取り。

セイバーの宝具『風王結界(インビジブル・エア)』により、不可視の筈のその剣が完全に。

 

それを見たモルガンが確信した。

アレはアルトリアのエクスカリバーの間合いを良く知る人物、即ち円卓の騎士かそれに準じる人物、もしくはアルトリア・ペンドラゴンに立ちはだかった人物であると。

 

「バーサーカー。

貴殿は余程名のある騎士とみた。

2対1で騎士道も決闘もあるまいが、この私がブリテン王アルトリア・ペンドラゴンである事を知って挑むのであれば、騎士たる者の誇りを以って己が名を明かすがいい。」

 

その中でバーサーカーになってもなお、あれ程までの冴え渡る技を持つであろう者といえばただ1人。

 

剣を引き、間合いを取ったセイバーにそう言われたバーサーカーはその鎧の下で笑い出す。

非常に低く、こもった様な笑い声だ。

それと同時にバーサーカーの姿を覆っていた黒いモヤが晴れる。

それによりこれまでは見れなかった鎧の姿がハッキリと分かるようになった。

そしてセイバー、アルトリア・ペンドラゴンにはその鎧姿に見覚えがあった。

 

「……そ、そんな……」

 

明らかな動揺を見せるセイバー。

モヤがバーサーカーの右手に集まり、剣の形を成す。

 

「ア、アロンダイト……」

 

その声には動揺だけでなく恐怖も含まれていた。

かつては円卓の騎士の中で最強と呼ばれ、アルトリア・ペンドラゴンが無二の親友としながら、王妃ギネヴィアとの道ならぬ恋に落ち、円卓の瓦解を促した1人。

モードレッドが叛逆の騎士ならば彼は裏切りの騎士。

バーサーカーの兜が割れ、その素顔が明らかになる。

 

「……サー・ランスロット……」

 

最早、その声は取り繕う事すら出来ない程に震えていた。

 

「……Aaaaaaa…………Aaaaaaaarrrrrttttthhhhhuuuuuurrrrrrrrrrrr!!!!!!」

 

ランスロットが吠え、セイバーへと突撃する。

セイバーはそれに対してただ顔を歪ませながら攻撃を剣で受け止めるだけ。

狂気に焼かれた湖の騎士の眼差しがまるで自分を責めている、否、まるででは無く確実に自分を責めている。

 

最高の騎士とまで呼ばれたランスロットをそこまで追い詰めた罪悪感と、聖杯を取って故郷を救わなければならないという義務感。

その2つの感情に挟まれてセイバーはただただ悲痛な顔のまま剣を受け止めるだけ。

それに痺れを切らしたのはモルガンだ。

 

戦闘中にも関わらず完全に腑抜け、間合いを取ろうとすらしないセイバーに苛立つ。

セイバーには対魔力のスキルがあり、多少強い魔術を放ってもダメージは受けない。

だが、それは契約に違反する可能性がある。

故に魔術を放つのではなく、ランスロットの真後ろに転移し、斧と化した杖を振るう。

 

ランスロットはそれに即座に反応して、アロンダイトでその一撃を防いだ。

そしてモルガンを視界に入れた瞬間、

 

「Morgaaaaaaaaaaaaaannnnnn!!!!!」

 

モルガンの名を叫んで、狙いを変えた。

放たれた攻撃を斧から槍に変えて受け流し、それでも残った衝撃を利用して後ろに跳ぶ。

ランスロットは最早、セイバーの事は眼中に無いらしくそのままモルガンを追って行く。

残されたセイバーはランスロットの視線が外れた事に思わず安心し、安心した自分に気がついて嫌悪した。

 

視線の先ではモルガンがランスロットと戦っている。

魔術と白兵戦を組み合わせて有利に立っているが決め手に欠ける。

 

騎士王アルトリア・ペンドラゴンならば迷わずランスロットに加担してモルガンを倒し、然る後にランスロットからの断罪を受けるだろう。

だが、ここに居るのはセイバークラスのサーヴァント、騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

あくまでもサーヴァントである彼女はモルガンと手を組んでいる。

だからこそ、モルガンと共にバーサーカーを迎え撃ったのだ。

 

にも関わらず、相手がランスロット卿と分かった瞬間、この体たらくだ。

あまりの情けなさに笑えてくる。

 

モルガンと戦うランスロットは正気を失ってなお、キャメロットの敵であるモルガンを倒そうとする騎士の中の騎士なのだろう。

だが、すまない。

これは騎士の誉をかけた戦いではなく、聖杯戦争。

 

ランスロットが自分にどんな恨みを抱いていようと、私は私の願いを捨てられない。

人の心を失った天秤、人の心が分からない王、それで良い。

それでブリテンの滅びを回避出来るのなら私はどんな汚名をも背負おう。

 

サー・ランスロットに感謝と謝罪を。

貴殿の狂気に染まってなお騎士たる姿を見て決意が固まった。

私は必ず聖杯を手に入れる。

だから私は貴方の断罪は受けられない。

どうか許してなどとは言わない。

 

幾らでも恨んでくれていい。

どんな罵詈雑言を浴びせてくれてもいい。

この身を犠牲にしてでも私はブリテンを救う。

その先には貴殿もまた救われているだろうと信じて。

 

だから

 

「サー・ランスロット!!」

 

どうか邪魔をしてくれるな、我が無二の親友よ。

 

セイバーが声を張り上げた事でランスロットは振り向いた。

そこには魔力放出で飛んで来たセイバーの姿があった。

即座に防御の体勢に移るが、モルガンが斬撃を転移させる事でそれを弾く。

その結果、ガラ空きとなった胴が袈裟斬りにされた。

 

心臓、即ち霊核が砕かれたランスロットはその体を粒子に変え始める。

 

「……何故……何故ですか我が王。

どうしてよりにもよって魔女と……」

 

「すまないサー・ランスロット。

全ては聖杯を手に入れブリテンを今度こそ救う為だ。

恨んでくれて構わない、呪ってくれて構わない。」

 

「……いえ、私は……ただ貴方に裁いて欲しかったのです。

それはついぞ叶いませんでしたが……貴方に看取られて死ねるのなら……まるで私が……忠節の騎士の様ではありませんか……」

 

「っ…………そんな事はない!

サー・ランスロット、貴殿は正しく騎士の中の騎士。

私などよりも余程騎士らしく生きた!」

 

「勿体なき……お言葉です。

ですが……嗚呼…………英霊になってなお……ブリテンの為にと剣を執る。

そんな貴方が…………心配です。」

 

「ならばここに誓おう。

騎士王の名の下、キャメロットの為、ブリテンの為にと我が元に集ってくれた全ての騎士達の下に。

私は必ず聖杯をこの手に掴み、ブリテンを救うと。」

 

セイバーがそう誓いを立てれば、ランスロットは困った様な笑顔のまま、消えて行った。

その粒子が全て消えて無くなるまで見送ったセイバーは立ち上がる。

 

「愚妹、貴様は私があの夜言った事を覚えていないのか?」

 

「ブリテンは必ず滅ぶ、と?

これ以上、私を惑わせようとするな魔女。

騎士の誓いを立てたからには私は最早迷わない。

あと2人、征服王と英雄王が斃れるまではその実力と裏切らない事だけは信用しておく。」

 

それだけ言うと顔も向けずにセイバーは去って行った。

その胸には間違った想いだけを乗せて。

自分でも薄々勘づいている。

 

モルガンの言っている事が正しいのだと。

だが、それでは余りにも報われない。

全てはより良い未来の為にとその身を犠牲にしてきた騎士達。

ブリテンの為にと干上がらせた村に住む人達。

あの時、ブリテンに住んでいた全ての人たちが。

 

だからそんな事実は認められない。

自分もモルガンも気付いていないだけで救える道はあるはずで、聖杯ならばその方法を見つけ実現できると盲目的に信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲボッ、ゴホッ!」

 

文字通り血を吐きながら雁夜は歩く。

ふらふらになりながら、向かう先は冬木教会だ。

そこには己を助けてくれた言峰綺礼がいる。

 

バーサーカーはやられた。

これ以上自分には切れる札は無い。

だが、あの神父ならばまだ打つ手があるはずだ。

 

そう考えて何とか奇跡的に雁夜は教会に着いた。

中は明かりが無く、ステンドグラスから入る月明かりが照らす。

そんな中、礼拝堂の椅子に誰か座っていた。

掠れる目を細めてよく見てみればそれは遠坂時臣だった。

 

命の危機に瀕している雁夜にどうしてこんな所に、などという考えは浮かばない。

ただ怒りと憎悪に突き動かされて近づいていく。

 

「遠坂……時臣ィ……!」

 

だが、その時臣は動かない。

いつもの優雅たれかと思い、更に近づく。

だが、身動き1つしない。

 

「おい、無視する……な?」

 

肩に手を当て揺らした瞬間、時臣は何の抵抗もせずにパタリとそのまま床に倒れ込んだ。

何が起こったのか分からなかった。

 

「おい? 時臣?」

 

倒れた体を揺する。

だが、顔には血の気が無く、揺すっても反応はない。

 

時臣が死んでいる、自分はやっていないがこの状況を誰かに見られたら……

 

「雁夜……君?」

 

ビクリ、と体が跳ねた。

その声は良く知っていた。

 

「葵……さん。」

 

考えうる限り最悪のタイミングで最も居てほしくない人が、自分の初恋の人で遠坂時臣の妻、遠坂葵がそこに居た。




あーあ、ペンドラゴンさん家のアルトリアちゃん、変な方向に覚悟ガンギマリしちゃった
現実逃避気味に覚悟決めたせいで聖杯取れなかった時のダメージがエゲツない事になるでしょう

そして教会にて、言峰冬の愉悦祭り開催

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