モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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18話

冬木教会の礼拝堂。

そこには人だったモノが1つと半死人が1人、女性が1人、その2人に気付かれていない傍観者が2人いた。

 

半死人、間桐雁夜は何故こんなところに時臣の死体があるのか、何故このタイミングで女性、遠坂葵が現れたのか、という事には頭が回らずただただ弁解するだけだ。

 

「葵さんっ!!

違う!!

違うんだ!!!

これは俺がやったんじゃ無い!!」

 

自分の無実を叫ぶ。

だが、遠坂葵の視線は時臣の死体に釘付けで、雁夜は視界にすら入らず、ゆっくりとその死体に近づいて行く。

 

雁夜は葵から何かを言われる事が怖くて、ゆっくりと道を開ける様に葵から離れる。

遠坂葵は時臣の死体の元に着くと、しゃがみ込みながらゆっくりと手を伸ばしていく。

雁夜はただ黙ってそれを見ている事しか出来なかった。

 

そして葵の手が、血の気が引き、冷たくなった時臣の死体に触れた。

その表情は雁夜からは見る事が出来ず、誤解され、糾弾されるのをただ恐れているばかりだ。

 

「これで満足?

雁夜くん。」

 

遠坂葵が口を開いた。

その口から発せられた言葉は冷たく、雁夜は誤解されてしまった事を理解する。

なんとか説明しようとするが、もしかしたら信じて貰えないかもしれない、もしかしたら殺した事すら認めない卑怯者と思われるかもしれない、もしかしたら、もしかしたらとあらゆる最悪の光景を思い浮かべてしまい、言葉が詰まる。

 

「これで聖杯は間桐に渡ったも同然ね。」

 

心臓が痛い程跳ねる。

悪寒と冷や汗が止まらない。

 

「……お、俺…………!? ゴボッ!

ガッ! ゲブッ!?」

 

何とか声を出せたが、次の瞬間には咳き込み、血を吐く。

ビシャッ、と教会の床が血で濡れる。

その様子に葵は一瞬怯むが、即座に糾弾を続けた。

 

「いい気味だわ!

私から……私から桜だけじゃ飽き足らず!

よりにもよって時臣さんの命を目の前で奪って!」

 

「桜ちゃんを間桐に売り渡したのはそいつだ!!

そいつが全て悪いんだ!

俺は何もやっていない!

そもそも、こんな奴がいなければ誰も不幸にならずに済んだんだ!!」

 

糾弾に耐えられずに雁夜は大声で反論する。

急に大声を出したせいで、更に血を吐きながらも自分は悪くない、と言い張る。

 

「そいつさえ居なければ……!

葵さんだって桜ちゃんだって!

幸せになれてたんだ!」

 

「ふざけないでよ!!」

 

絶叫にも近い葵の言葉を聞き、その声に雁夜は体を跳ねさせて黙り込んだ。

ヒートアップしていた頭が冷や水をかけられたかの如く冷たくなる。

完全に思考が止まった。

 

「あんたなんかに一体何が分かるって言うのよ!?

あんたなんかッ………!

あんたなんかぁッ………………!

 

誰かを好きになった事さえ無いくせにッ!!!」

 

雁夜は一瞬、何を言われたのかが分からなかった。

脳がその言葉の意味を理解し終えた瞬間。

プツン、と雁夜の中で何かが切れた。

 

 

何で

なんでなんでなんでなんでなんでなんで!

どうしてよりにもよって自分の好きになった人に!!

ただ俺は好きになった人とその子供達に幸せになって欲しかっただけなのに!!

3人で幸せそうに笑っていて欲しかった!!

 

その為だけに俺は間桐へ戻って来た!

全ては3人が(4人で一緒に)笑っている未来の為に飲み込んできた!

一年に及ぶ修練(拷問)も!

聖杯戦争で戦って勝ち残れても死ぬという恐怖も!

何もかもを!

 

だから唯一の勝ち目であるバーサーカーを召喚して、ただ戦闘を行うだけで全身に走る痛みに耐えて来た!

今だって桜ちゃんがキャスターに攫われたから助けようとして、死にそうになってる!

 

それも全部、自分の好きな人、葵さんが幸せになれれば良いとひたすらに耐えて来たのに!!

それを、俺の理由を!

行動を!

 

よりにもよって葵さんに否定される事なんてあり得ない!

あり得てはいけないんだ!!

 

だから……!!

もう……!!

これ以上、何も喋らないでくれ!!

 

 

 

数分か数十分か。

時間の感覚が分からなくなっていた雁夜がいつの間にか閉じていた目を開けると、目の前には生気の無い顔で首を掴まれている葵がいた。

 

否、首を掴んでいるのは自分の手だ。

 

「ヒィッ!?」

 

怖くなって手を離せば葵の体は何の抵抗もなくその場に崩れ落ちた。

 

「う、嘘だ嘘だ嘘だ。」

 

すぐに葵の肩を掴んで体を揺らすが、反応はない。

その葵の体の隣にある時臣の死体。

それが目に入ると同時に理解した。

時臣の死体と全く同じ……つまり葵さんは死んでいる、と。

 

「そんな……違う。

そんなつもりじゃなかったんだ!

ただ俺はあなたにだけは否定してほしくなくて!

 

なのに……何で…………どうしてだ!?

!?

ガァッ!?」

 

その瞬間、胸に痛みが走る。

精神的なものではない。

血を吐きながら、その場に膝をつく。

 

そのまま葵の方へと顔を向ければ、葵と時臣、2人の生気のない眼がこちらをじっと見つめていた。

その目が、お前だけは許さないと言っている様で怖い。

 

「違ッ…………ガフッ……違う……!

俺は……悪くない……!

葵さん……信ッ」

 

その瞬間、夥しい量の血を吐き、雁夜は血溜まりの中に倒れ込む。

それでも手を伸ばして、縋りつこうとする。

だが、体は動かない。

 

「あ……おい……さ………………」

 

そこで雁夜は事切れた。

最期のその時まで、自分の殺した想い人に手を伸ばしながら。

 

だが、その手は届く事は無かった。

その3人の倒れ方はまるで、その手の届かぬモノにいつ迄も手を伸ばし続けた男の哀れな人生を物語るかの様だった。

 

 

 

 

 

 

言峰璃正はちょうどその夜は教会を留守にしていた。

理由は単純、関係者との聖杯戦争の隠蔽についての話し合いがあったからだ。

普段は教会からアレコレと指示を出すだけなのだが、今回の関係者は間桐の生き残り。

臓硯が死んだ事により、聖杯戦争なんかが起こっている冬木市から一刻も早く脱出したい、だが、可能な限り安全な家に居たいと言う間桐鶴野に合わせて間桐邸に赴いていた。

 

アルコール中毒なのにアルコールが抜けて精神的に追い詰められていた間桐鶴野は最早聖杯戦争には関係がないから安心だと言っても、怒鳴り散らすだけだった。

 

仕方ないと判断して、鶴野を絞め落とし、教会関係者を動かして市外の病院へと搬送させた。

海外留学中だという間桐家の息子である間桐慎二は海外の聖堂教会のスタッフに連絡して保護する様に命令した。

この家やそこに通る霊脈の権利云々は間桐鶴野が正確な判断能力を取り戻した後に決めようと考え、璃正は教会に戻って来た。

 

やれやれ余計な仕事をさせられた、と内心ため息を吐きながら教会の扉を開ければ、血の匂いが漂っていた。

何事かと思い、臨戦態勢に移る。

 

教会の礼拝堂に1人の男が立っていた。

息子の言峰綺礼だ。

特に怪我をしている様子はない。

 

警戒を怠る事無く、そこに近づいて行く。

 

「綺礼!

これは何事だ!?」

 

だが、綺礼は答えるどころかこちらに見向きもしない。

その視線は教会の床に向けられている。

その先を見てみれば、そこには3人分の死体があった。

 

「これは!?

時臣君!?

それに葵さん、間桐のマスターまで!?

綺礼!

一体何があった!?」

 

そう聞くも綺礼は尚も動かない。

ショックで動けないのだと判断した璃正は倒れている3人の生死確認をしていく。

遠坂葵だけが辛うじて息をしているだけで、他の2人は完全に死んでいる。

 

「ぬう、兎に角救急車だ。

葵さんはまだ何とか生きている!

綺礼!

しっかりしろ!

救急ッ」

 

だが、それ以上の言葉は続かなかった。

体に衝撃が走り、言葉が止まる。

ゆっくりと自分の体を見れば、胸から血濡れの剣が生えていた。

 

「こ……れは……!?」

 

このまま倒れ込めば、自分の抱えている葵までもが剣に触れると判断して何とか倒れる軌道を変えた。

だが、可能なのはそこまでだった。

 

「綺……礼…………」

 

自分がやられたのなら息子も危うい。

その息子がやったのだとは露にも思わず、そう声をかける。

 

だが、その綺礼は倒れた自身の父親を見て嗤うのみ。

ギルガメッシュによって殺された己の師。

その死体を使った結果得られた雁夜の死。

そして、今、ここで自分は父親殺しを成した。

 

これらにどうしようも無いほど愉しんでしまう己に気が付いた。

嗤う。

なるほどこれが己にとっての愉悦か、と。

 

その息子の顔を見る事無く、遂に璃正も息絶えた。

その中心で言峰綺礼は嗤い続ける。

 

そして、その様子全てを酒の肴にして眺め続けていた英雄王。

言峰綺礼が愉悦というものを理解した事を悦びながら、彼もまたその悲劇を愉しんでいた。

 

「酒の肴としては十分な寸劇であった。

よもやここまで酒の味が化けるとはな。

 

そら、貴様も飲むか、綺礼。」

 

ギルガメッシュから渡されたワイングラスに入っているのは地下に保存してあったワインだ。

何度も同じ様な酒を飲んだが、終ぞ酒を美味いと思った事は無かった。

だが、今の綺礼にはある種の確信があった。

 

言われた通りに酒を飲む。

 

美味かった。

味も香りも、同じな筈なのに何もかもが違う。

成る程これが美酒の味か、と納得した。

また飲んでみたいが、そうもいかない。

 

1人の男言峰綺礼としてでは無く、聖堂教会所属の言峰綺礼としての仕事がある。

ここに並んだ3つの死体と1つの死に損ないの女。

これを片付けなければいけない。

 

カバーストーリーは……間桐雁夜の暴走で良いだろうと判断してすぐに教会関係者への連絡を始めようとした。

その前に、一度振り返る。

 

憐れな4人。

そして、初めて美味いと感じた酒。

可能ならばまた、この様な酒を飲みたいものだ、と考えて、今度こそ頭を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武家屋敷の蔵の中。

その地下室、短い間ではあったがアイリスフィールが過ごしたその場所でセイバーは戦装束のバトルドレスのまま、剣を置き正座のまま目を瞑っていた。

瞑想に近い状態。

 

ランスロットとの戦いで覚悟を決めてしまったセイバーは、それからと言うもの唯ひたすらにこの状態を維持していた。

話すどころか会いもしないマスター、衛宮切嗣。

同盟を組んでいるとはいえ他陣営のモルガンとそのマスター。

 

邪魔は一切入らず、その身は食事も睡眠も必要としないサーヴァント。

ただ、聖杯戦争を勝つ為だけに己の感情に封をして、瞑想やイメージトレーニング、剣の鍛錬などを繰り返す。

 

騎士の誓いを立てたからには最早負けなど許されない。

その思いだけで集中を途切らせる事無く、トレーニングを続けていた。

 

最終決戦は近い。

そう己の直感が告げる。

勝てるのか、間違っていないのか、と囁く己の弱い心を締め出す。

 

その眼はアイリスフィールと接していた時の物では無く、絶対なる公正な王として己の感情を殺していた騎士王としての眼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の夜。

アーチャーのマスターは言峰綺礼となり、何事も無かったかの様にアーチャー対ライダー戦が冬木大橋にて行われた。

 

その半分はライダー、イスカンダルの固有結界『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』内で行われた為、使い魔を放って観戦していたキャスターにもアーチャー、ギルガメッシュの持つ謎の剣がどの様な物かも分からなかった。

 

その神秘の量とギルガメッシュが自ら持っていたという点からギルガメッシュの本当の切り札だという事だけは分かった。

戦いはギルガメッシュの勝ちだった。

 

イスカンダルはギルガメッシュまであと一歩というところまで迫るも一太刀も浴びせられずに敗退した。

 

圧倒的な強さだった。

イスカンダルだって並の英霊では無い筈なのに、歯牙にもかけずに一蹴したのだ。

とはいえ、勝つ方法はあると判断している。

 

初見殺しによる一撃必殺。

2度目からは通用しないため、本当に必殺を求められる。

勘付かれても警戒されてもダメだ。

油断を誘い、一撃で終わらせる、これしか無い。

 

その夜はさらに動きがあった。

冬木教会から言峰綺礼が何かを冬木市公民館へと運び込み、自身も公民館から出てこない。

更にはギルガメッシュも遠坂邸ではなく公民館へと入るのを確認した。

これは最早誘っているとしか考えられない。

 

決戦は明日だ。

そう確信した。




あと数話でZero編は終わりやね
そしたらZeroとstay nightの間の幕間を数話書いてからstay night編突入
stay night編はどんな風に話を拗らせようかな


モルガン宝具詳細

はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)
対城宝具
ランク EX

彼女の人生そのものが宝具化したもの。
アーサー王を否定し、円卓を否定し、キャメロットを否定した。
故にこの宝具はあらゆる円卓に連なる者に特効を持つ。
ただし、異聞帯のモルガンとは違い、妖精に対しての特効は存在しない。

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』
対◼︎宝具
ランク ◼︎
詳細は現在閲覧不可



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