モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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21話

 

波紋の中心が煌めき、その直後に武器が放たれる。

最早、豪雨の様に降り注ぐ数多の武具の前にセイバーとモルガンは走り回りながら自身に当たるものだけを弾く。

時折、反撃として風や魔力波を飛ばしたり、水鏡で武器を返したりするが、その全てがアーチャー本人に届く前に防御、迎撃されている。

 

状況は圧倒的劣勢。

それでも未だ被弾する事なく無傷で居られるのはアーチャーがセイバーとモルガンを弄んでいる事と、モルガンの魔力供給が潤沢である事の2つがあった。

 

モルガンの妖精眼から見るアーチャーの感情は、喜悦と慢心が大きく、僅かな飽きと警戒がある。

ここらが頃合いだろう。

そう判断したモルガンはセイバーに合図を送った。

 

それを見たセイバーは軽く頷いた。

セイバーが頷いたのを確認したモルガンは杖を横薙ぎに払い、壁の様に魔力波を展開。

放たれた武器を防ぐと共にアーチャーの視界を切る。

 

もって1秒にも満たないだろう。

だが、それで十分だ。

セイバーがその剣に風を集めて次の攻撃の威力を上げる。

そして、モルガンの方へと駆け出し、剣を振り上げた。

 

そして、モルガン目掛けて剣を振り下ろす寸前。

 

「そら取り替えっこ(チェンジリング)だ。」

 

妖精としての魔術、その基礎中の基礎。

モルガンが空間に干渉する魔術に才能がある理由。

これにより、モルガンとアーチャーの位置が入れ替わる。

 

「なにッ!?」

 

だが、アーチャーもそれに反応して、体をずらす。

故にセイバーの剣が切り裂いたのはアーチャーの左腕。

そして、切り裂くと同時に圧縮されていた空気が解放され、一気にアーチャーの体を吹き飛ばした。

吹き飛ばされたアーチャーは劇場の壁を突き抜けていった。

衝撃と破壊によって発生した煙で何処にいるのかは分からない。

 

仕留め損なった。

モルガンの提案した2度目は通用しないであろう初見殺しの戦法。

 

「キャスター!

仕留め損った!」

 

簡潔に舞台の上にいるであろう、キャスターに伝える。

だが、返答がない。

それどころか、気配すらない。

 

慌てて振り返る。

聖杯は空中に浮かんでいる。

だが、戦闘の余波でか舞台の床は無くなっていた。

少なくとも聖杯を持って逃げたわけでは無さそうだ。

恐らく下に落ちてしまったのだろう。

 

「……よもや、だ。

躾の済んでいない犬に噛まれるとはな。

この我の体に傷をつけた事は本来ならば万死に値する。

だが、セイバー、貴様なら精々躾を厳しくするくらいで済ませてやろう。

2度と我に逆らおうなどという世迷いごとを考えつかぬ様に徹底的にだ!」

 

煙の中から血を流したアーチャーが現れた。

波紋の中から何やら瓶を取り出すと、その中身を傷口にかけた。

すると、血が止まった。

 

「チッ、流石に生身と霊体では勝手が違うか。」

 

どうやら、腕が再生するまではいかなかった様だが、それでもモルガンのサポート無しでは厳しい相手だ。

もう一度、あの武具の雨が降る前に決めるべきだ。

 

そう考えて、セイバーは剣を頭上に掲げる。

風の鞘を解き、魔力を集中。

 

「ほう?

良かろう、躾の第一歩だ。

まずは格の違いを存分にわからせてくれるわ。」

 

そう言ってアーチャーは複雑な構造をした大きな鍵の様な物を取り出すとその構造を変えていく。

 

その間にセイバーは武器を降らせる事はないと判断して更に魔力を高めていく。

 

構造を変えた鍵の様なものによって波紋の中から取り出されたのは明らかにこれまで放ってきた武器とは比べ物にならないほどの神秘、魔力を保有する剣の様な何か。

 

その刃に当たる部分、3つの回転体の内、2つが周りだし、魔力が高まっていく。

 

「ッ!

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ァァァ!!」

 

最高威力になった所でセイバーは自身の宝具を解放した。

放たれた黄金の光が一直線にアーチャーへと向かっていく。

だが、アーチャーのその顔は余裕を崩さない。

 

「この程度、エアの真名解放をするまでも無いわ!」

 

エクスカリバーのその一撃に合わせる様に横薙いだそれは、放たれた光を弾き飛ばし、霧散させた。

弾かれたその一撃が劇場の壁や天井を破壊していく。

 

「バカな……!?」

 

間違いなく全力の一撃だった。

なのにも関わらず、宝具を放った訳でも無いのに軽く弾かれたのだ。

セイバーは剣を振り抜いたその姿のまま、驚きのあまり硬直している。

 

「フフハハハハハハハハハハハ!!

いい顔だ、セイバー!

そうだ、恐れ慄くが良い。

貴様が無謀にも立ち向かった相手がどの様な存在であるかを心に刻め!」

 

ギリ、と歯軋りする。

八方塞がりだ。

モルガンの言った唯一の作戦は失敗。

自身の最強宝具であるエクスカリバーは容易く迎撃された。

 

まだ心は折れてはいない。

だが、自分一人ではどうにも出来ない。

ならば、モルガンが戻ってくるまで時間稼ぎに徹するしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を整える。

銃に入っているのは電撃弾。

防御は不可、回避は先に放たれる弾丸の着弾点から電撃範囲外に逃げる事で可能ではあるが、それは単発で発射された場合のみ。

サブマシンガンの弾幕から逃げられる訳はない。

 

初めに動いたのはそう考えていたカイだ。

電撃弾をばら撒き、綺礼がそれを避けようとするが、着弾点で弾けた電撃が体を襲い、その度に僅かに体が硬直する。

そこに切嗣の弾丸が撃ち込まれる。

だが、撃ち込んでいるのは起源弾ではなく高威力というだけの通常の30-06スプリングフィールド弾。

 

無論、それでも鍛え上げられた言峰綺礼の鋼鉄の体でも無傷で受ける事は不可能だ。

だが、起源弾と通常弾の見分けのつかない綺礼には避けないという選択肢は無い。

その上、受けた時は魔術回路は使ってはならないという判断がある。

 

結果として魔力による単純な強化すらも出来ずに大口径ライフル弾を避けきれず、あちこちに掠らせ、血を流しながらも回避を続けていく。

そして、僅かなリロードの瞬間。

その一瞬でこれまでは見せてこなかった最速で衛宮切嗣に接近する。

 

「なっ……!?

くっ、Time Alter」

 

それを見た切嗣は詠唱に入るが綺礼の接近の方が遥かに早い。

カイはリロードを終えるが、マガジンの中身は電撃弾。

使えば切嗣にまで余波が届く。

即座にタクティカルリロードして、電撃弾から影響範囲の狭い凍結弾に替えようとするが間に合わない。

 

綺礼の拳が切嗣に炸裂する。

カイの様に服が防具では無い切嗣に対して放たれたその一撃は間違いなく肋骨を砕き、肺や心臓にまで致命的なダメージを与えた。

手応えからそれを確信した綺礼は即座に方向を変えてカイへと向かって行く。

 

無論、カイとてただ無抵抗にやられる訳がない。

後ろに下がりながら弾丸を放つ。

放たれたそれを綺礼は避ける事すらせずに、急所の多い顔に当たるものだけは黒鍵で防ごうとする。

それが爆破弾や電撃弾なら正解だった。

 

だが、今回は凍結弾。

当たった側から黒鍵を、そして体を凍りつかせていく。

その結果、綺礼の視界が塞がれた。

すぐに氷を振り払おうとするが、その一瞬でカイが逆に距離を詰め、ナイフで斬りかかる。

綺礼は凍った黒鍵を盾にしようとするが、モルガンによって強化されたそのナイフは氷どころか黒鍵の刃すらも容易く断ち切った。

 

まともに受けたらマズイと判断し、ナイフそのものでは無く、ナイフを持つ手を弾く。

 

Time Alter(固有時制御) Triple Accel(三倍速)

 

それと同時に自身の後ろから聞こえるはずの無い声が聞こえた。

カイと距離を取って振り返ると切嗣が物凄い速度でナイフを手に走ってくる。

バカな、確実に致命傷もしくは即死だった筈だ。

 

一瞬の狼狽の後、黒鍵を展開させる。

背後からはカイが近づいて来ている。

同時に前後から挟み撃ちしようというのだろう。

それを迎え撃とうとしたところで

 

天井が落ちて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイが気がついた時には、そこは最近住み慣れた下水道に作った一室だった。

 

ふむ?と首を傾げる。

間違いなく自分は切嗣と組んで言峰綺礼と戦っていた筈だが……

そこまで考えた所で誰も居なかったその部屋にモルガンが入ってきた。

 

「どうしました?

そんなに眉間に皺を寄せて。

もはや聖杯戦争は終わりました、そこまで悩む様な事は何も無い筈ですが。」

 

訝しげな表情でそう尋ねてくる。

聖杯戦争が終わった?

 

「ほら、その様な顔をしていてはサクラが不安がります。」

 

ああ、成る程。

合点がいった。

次の瞬間には自分の手に現れた持ち慣れた愛銃でモルガンの頭を吹き飛ばしていた。

 

「精神干渉か。

だが、誰が何のために?」

 

銃声を聞いたのだろう。

慌て怯えた様な表情で部屋の中に入ってきた間桐桜が何か口を開く前に頭に銃弾を叩き込む。

 

「間違い無く記憶まで読まれている。

だが、どこか杜撰な精神干渉だ。」

 

撃たれた2人の死体は泥の様に溶けた。

その泥は1つに集まり、形を作る。

 

「……何故だ、何故分かった?」

 

「都合が良すぎるからだよ。

無傷で完全勝利だ?

ふざけんな、人生も戦いもそんな甘くないわ。」

 

不定形の人型が尋ねたのでそう答えてやる。

 

「で、お前は誰だ?

衛宮切嗣でも言峰綺礼でも無いだろ。

かといって残ったモルガン以外のサーヴァントがこんな事が出来るとは思えないし、必要もない。」

 

「私は………………」

 

そこまで言いかけた所で人型の動きが止まった。

まるでそいつだけ時間が止まった様な硬直の仕方だ。

そして次の瞬間にはその世界ごと消えて無くなった。

 

意識が浮き上がる感覚と共に青い光に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。

目の前にはモルガンが居た。

あちこちに切り傷を作り、服も汚れている。

何より自身の体の痛みと不快感が現実であると証明していた。

 

「ああ、良かったマスター。

泥に触れていた時間が短く、すぐに助け出せた。

受けた呪いも微々たるもの。

浄化は容易い。」

 

心底安心したという表情でモルガンが笑顔のまま、そう言う。

詳細は分からないが、どうやら割とピンチな所をモルガンに助けて貰った様だ。

 

「何があった?」

 

「聖杯から高密度の呪詛が泥の様になったものが溢れ出した。

それに呑まれていたのだ。

幸い私がその場にいたからすぐに助け出せた。」

 

その答えに顔を顰める。

聖杯使い物にならねぇじゃねぇか、と。

 

「大丈夫です。

私なら多少時間は掛かるが浄化は可能。

そうすれば聖杯は正しく機能するでしょう。」

 

抜けた天井の先から戦闘音が聞こえてくる。

どうやらまだアーチャーとの決着はついていないらしい。

 

「モルガン、行け。

令呪でバックアップする。」

 

「ええ、頼みます。」

 

カイがそう言えばモルガンは一飛びに上の階へと戻って行った。

 

「ならば私に聖杯を寄越せ!

お前にとっては不要なものでも私にとっては有要だ!

アレが生まれ出るというのなら、私の迷いの答えの全てが齎されるに違いない!!」

 

背後から叫びが聞こえた。

振り返れば、綺礼と切嗣がいた。

切嗣のコンテンダーが綺礼を捉えている。

 

「貴様こそ愚か過ぎて理解できないよ。」

 

切嗣はそう静かに言い放ち、綺礼の胸を撃ち抜いた。

 

「……どうする?」

 

カイがそう問い掛ければ切嗣は一瞬、上を見上げた後。

 

「愚問だ。

この聖杯戦争を終わらせる。」

 

2人はその場から駆け出した。

決戦の場である上階を目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が辿り着いたのは劇場の2階席。

戦場が見下ろせる場所だ。

アーチャーは片腕を失っているが、戦闘続行には支障は無さそうだ。

セイバーとモルガンは幾らか負傷しているが、致命傷や重傷は全く無い。

 

「アーチャーを頼む。

聖杯は任せてくれ。」

 

切嗣がそう言い放ち、場所を変えていく。

 

「はっ?

おい、逆じゃないのか!?」

 

カイが呼び止めようとするが、その時にはもう手遅れだった。

 

「衛宮切嗣の名の下にセイバーに命ずる。

その宝具を解放し…………聖杯を破壊せよ。」

 

「は……?

一体何を……?」

 

命令の内容が理解出来なかったのかセイバーは戸惑っているが、それとは別に剣を覆っていた風の鞘が解かれた。

 

「待て……!

ダメだ……!」

 

「重ねて命ず。

聖杯を破壊せよ。」

 

「しまった……!」

 

カイが切嗣との致命的な勘違いに気付くがもう遅い。

モルガンに命じて止めさせる事も無理だろう。

 

「チィッ!

婚儀の邪魔立てをしおって!」

 

「何故だ!?

何故、よりにもよって切嗣、貴方が!?

頼む! やめてくれ!

今ならまだ間に合う!」

 

「更に重ねて命ず。

聖杯を、跡形もなく、破壊せよ。」

 

「止めろおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

令呪の強制力により、剣が振り下ろされた。

それで魔力を使い果たしたのだろう。

セイバーが絶望の表情のまま、消えて行った。

 

これでセイバー陣営は敗退。

エクスカリバーの一撃に耐えられなかった公民館が崩壊していく。

 

「マスター!」

 

モルガンがカイを庇う。

崩れ落ちる公民館の中、衛宮切嗣だけがやり切ったという表情をしていた。




次回でZero編最終回かな。

実はこの辺で切嗣による策略でカイが致命傷を負ってそれを治す代わりにモルガンが敗退、セイバーに恨み言「何故だ!? どうして貴様は私から何もかもを奪って行く!? 地位も名誉も栄光も!! そして私が唯一愛した男すらも!! 答えろアルトリアァァ!!」みたいな事を言ってセイバーさんの懺悔ゲージを加速させるルートがこの話の構想を練っている初期の時点ではあったりしました。

流石にどうかなぁと思ってボツにしましたが。
そして6章後半を見てボツにして良かった、と思いました。

感想、評価お待ちしてます。

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