モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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エピローグ

 

「げほっ」

 

モルガンの体の上に乗っかっていた瓦礫を除けると砂埃が舞い、咳が出た。

公民館は跡形もなく崩れ落ちていた。

残った大量の瓦礫だけがそこに公民館があった事を証明している。

 

周りを見渡せば、少し離れた所に切嗣が立っていた。

思わず文句を言ってやろうとしたところで、その先にある物に気が付いた。

空間に空いた真っ黒な穴。

 

それを見た瞬間に自身の本能が警鐘を鳴らす。

冷や汗が流れ出す。

 

「アレは……!?」

 

「拙いですマスター。

撤退しましょう。

すぐにあの穴から呪詛が流れ出てきます。」

 

穴を見たモルガンが即座にそう提案してきた。

どういう物なのかを正確に見抜けているからか、カイよりも焦った表情をしている。

そうしたいのは山々だが。

 

「その呪詛の流れ出る範囲はどれくらいか分かるか?」

 

「……恐らく、この街全体にまで広がる事は無いかと。」

 

それを聞いて安心した。

逃げた所で意味が無いほどに被害範囲が広かったのなら、この場に留まってモルガンに呪詛を浄化し続けて貰うのが最善策だった。

 

「なら逃げるか。」

 

衛宮切嗣、もといセイバー陣営との契約は切れている。

後は放っておいても構わないのだ。

態と契約内容を曖昧にさせていた事で見殺しも契約違反に含まれるのではないか、という疑念を互いに持っていたが、敗退したのなら契約は切れている。

既に『セイバー陣営』では無いのだから。

最後にチラリと後ろを向いて見てみれば、切嗣は瓦礫の山の上で穴を見上げて跪いていた。

 

そして間もなく、穴から呪詛の泥が流れ出し、公民館付近の住宅街を燃やし尽くし始める。

炎の燃える音、住宅街に住んでいたのであろう人達のあげる悲鳴の中に1人の男の慟哭が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を近くの高台から眺めていたのはモルガンとカイだ。

 

「……衛宮切嗣があんな表情で泣く男だったとはな。」

 

何もかもに絶望し泣き叫び、今は生気の感じられない顔で必死に生存者を探している切嗣を見て、カイはそう呟いた。

カイにとって、衛宮切嗣は魔術使いの中でも特に冷酷で、キリングマシーンと言っても良いのではないかと思う程、感情という物を表には出さなかった男だった。

 

「マスター、アーチャーと言峰綺礼がいる。」

 

「は!?

アーチャーは兎も角、言峰綺礼なら衛宮切嗣が確実に殺した筈だぞ!?

何処だ!?」

 

「公民館跡です。」

 

カイが即座にそちらに視線を向ける。

確かに全裸のアーチャー、ギルガメッシュと言峰綺礼がいた。

 

「……それにアーチャーは受肉しています。

どういう理屈だ?」

 

「さあな、とは言え今は敵対したく無い相手だ。

聖杯が破壊されたから聖杯戦争は終わりだとは思うが……」

 

そのまま、2人を見ていると、ギルガメッシュの視線が此方に向けられる。

 

「!」

 

思わず一瞬、身が竦んだ。

だが、ギルガメッシュはすぐに視線を切ると言峰綺礼を伴ってその場から立ち去って行った。

 

「……取り敢えずは平気そうだな。」

 

「ええ。」

 

アーチャーに今のところは戦闘の意思は無さそうなのを確認したカイは胸を撫で下ろした。

視覚強化の魔術を切り、何度か瞬きする。

 

「一度、拠点に戻りましょう。

そして夜が明けたら教会に手紙を持たせた使い魔を飛ばし、相手がどういう認識なのかを確認すべきでしょう。」

 

「ああ、賛成だ。

取り敢えずはこの夜を生き延びられた事を噛み締めるとしようか。」

 

聖杯から流れ出た泥は既に消えているし、追加の泥が出てくる様子も無い。

漸く張り詰めていた神経を緩める事ができ、思わずため息が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいッ!」

 

拠点へと戻った2人を出迎えたのは桜だ。

泣きそうな顔のまま、2人に抱きつこうとしてきた。

モルガンの外傷は既に治療済みで、埃や所々切れていた部分も一度霊体化する事で治っていた。

 

カイも未だに肋骨にヒビは入っているものの、外傷は大した事はなく、異常に頑丈な服も所々で解れ、埃がついている程度で傍目から見れば大した傷の無いままであったのが、桜を安心させた。

 

「ええ、ただいま帰りましたよサクラ。」

 

モルガンは駆け寄ってきた桜を抱き止め、カイもしゃがんで桜の背中に手を回した。

それにより、とうとう感情の針が振り切れたのか、桜は泣き始めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、泣き疲れた上に心配で眠れていなかったのか桜はすぐに寝てしまった。

モルガンはそんな桜をベッドに運び、柔らかい笑みで膝枕をし、髪を梳いている。

カイはその様子を椅子に座りながら眺めていた。

 

「……こうしてみると、やはりサクラの様な罪なき幼子は私の様な存在にとっては眩しく温かいものですね。」

 

モルガンがそう自嘲する様に呟いた。

カイにもその感情はよく分かった。

 

「正直に言って、サクラを打算ありきで救うつもりが、私もサクラに救われていました。

この身が仮初である事も、己が魔女である事も、聖杯戦争という闘争に身を置いている事も少しの間ですが忘れられた。

 

マスター、私はこの子が望むのであれば養子にしたいと思っています。その時は貴方は我が夫、そしてこの子の父親となるでしょう。

構いませんか?」

 

「ああ、十中八九聖杯戦争は終わったし問題はモルガンが受肉してない事だけ。

それもモルガンなら解決できるだろ?

戸籍やら何やらは任せてくれ。」

 

カイがそう言うとモルガンは笑った。

膝枕をしていて動けないモルガンの側にカイが行けば、モルガンはぐっ、と腕を引っ張ってカイの唇にキスをした。

まだ聖杯戦争が終わったとは決まってはいないが、聖杯戦争を生き残ったという確信と共にその夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、モルガンは日が上るとすぐに使い魔に確認の手紙を持たせて冬木教会へと飛ばした。

返答が来るまでそう時間はかからなかった。

 

書かれた内容は

『聖杯戦争の賞品たる聖杯が破壊された以上、これ以上の聖杯戦争の続行には意味は無いと判断し、聖杯戦争の監督役である言峰綺礼、そして聖堂教会の名の下に第四次聖杯戦争の終結を宣言する。』

というものであった。

 

これにより、聖杯戦争は完全に終わった。

聖堂教会の名と、その証である印を手紙につけている以上、2人は嘘では無いと判断した。

ギルガメッシュという不安要素はあるものの、聖杯戦争が終わった以上は必要以上に干渉してくる事は無いだろうと考え、2人はそのまま戦後処理についての手紙を送った。

 

結果として、下水道の工房はその大半を破棄する代わりに住人の居なくなった間桐邸とモルガンの戸籍を獲得。

残った令呪は未だにサーヴァントが残っている為、回収すべきかどうかで揉めたが、令呪4画全てをモルガンの受肉に使用する事で強引に解決した。

ダメ元で令呪による受肉を試した所、予想以上に上手くいきモルガンは聖杯を頼らずに願いである受肉を果たした。

 

衛宮切嗣はあの後、あの火災から助け出した子供を引き取り、退院した久宇舞弥との3人で聖杯戦争の後半に使用していた日本家屋に住んでいる。

聖杯戦争の終結だけを知らされた。

 

言峰綺礼とギルガメッシュは冬木教会で過ごしている。

令呪を使用した証明と今後の関係をハッキリさせる為に2回訪れた以降は互いに不干渉を貫いている。

その関係は『次回の聖杯戦争が起こるまでは互いに戦闘行為は禁止。』

というものである。

 

まかり間違って2人の存在がバレて聖堂教会、魔術協会、そして野良の魔術師達から狙われるのはかなり面倒になるどころか、野良の魔術師ならまだしも、聖堂教会と魔術協会の一部の人員ならモルガン、ギルガメッシュ両名の命を奪う事が不可能では無い事が決め手となった。

 

本来なら約60年で起こるという聖杯戦争だが、モルガンは次回が起こるのはそんなに掛からないと見立てた。

不完全な形で終わった今回の聖杯戦争。

その魔力があの呪詛の泥として放出されたとは言え、その量は英霊5騎をくべたにしては少な過ぎるのだ。

所詮は住宅地の一角を燃やし尽くした程度なのだ。

あまりにも影響範囲が狭すぎるし、その影響の質もそう高いものでは無い。

 

長くて30年、モルガンはそう予想した。

 

「正直に言いましょう。

30年程度では私は満足しません。

可能ならば今、聖杯戦争は解体したい所ですが、英雄王は聖杯を完全な形で顕現させる事が目的だと言いました。

 

不戦条約がある以上は次の聖杯戦争で英雄王を下し、然るのちに聖杯戦争の解体を行うしかありません。

つまり、次の聖杯戦争にも私達は参加します。」

 

モルガンはカイにそう伝えると、カイはそれを快諾。

元間桐邸、現モルガン邸の地下の工房で次に向けての準備が始まった。

 

 

とは言え、常時準備を行う訳ではなく、モルガンは次の聖杯戦争が起こるまでの間、自身の夫となったカイと、養子になった桜の3人で現世を存分に堪能するのだった。




切嗣の心理も、カムランに戻ったセイバーも幸せを掴んだモルガンとカイには関係ないのでカットカット

これでZero編は終わりです
この後は間話が暫く続きます

まずは時計塔に戻ったウェイバー君の話かな

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