モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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ルフェイ家イギリス旅行①

ある日、モルガンが家に帰って来ると家の前に誰かが立っていた。

日本人らしからぬ金髪で質のいい服を着た貴族の様な少女と黒の長髪に少しくたびれたスーツを着た長身の男でスーツケースを持っている。

 

そんな目立つ2人組がいるに関わらず、その側を通る通行人は目も向けない。

長髪の男が持つ煙草の煙から僅かに魔力が含まれている。

魔術師ないし魔術使いだ。

 

だが、この街に来る魔術師ないし魔術使いは大抵、衛宮切嗣かカイに恨みを持つ者であり、襲って来るその度に葬っている。

 

「何だ貴様等は。」

 

「お会いできて光栄です、モルガン・ル・フェイ。

私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。

嘗ての聖杯戦争に参加していたランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの姪にして義理の妹です。

此方は今回私の従者として同行して貰っている嘗てのライダーのマスター、ウェイバー・ベルベット改め、エルメロイ当主代行のエルメロイ2世です。」

 

モルガンの問いに答えを返したのは少女の方だ。

聖杯戦争関係者だと言う答えに僅かに警戒を強める。

殺気も敵意も無いが警戒するにこしたことは無い。

 

「ほう?

今更になって仇討ちにでも来たか?」

 

「まさか。

逆立ちしたって勝てない相手に挑むほど叔父に思い入れはありませんので。

今回はただ単に貴女に力を貸して貰いたい事があるのです。」

 

「ふむ……取り敢えず上がっていけ。」

 

少し考えるフリをして妖精眼で見る。

取り敢えずは本当の事を言っている様だ。

仮に何か隠していても外よりも自身の縄張りである工房の中の方が迎撃も事後の隠蔽も容易い。

そう判断して2人を迎え入れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、現エルメロイ当主代行と次期エルメロイ当主が雁首揃えてこんな極東に何の用だ?」

 

2人を応接室に案内して、基本家にいるカイも交えて4人での会談。

 

「力を貸して貰いたいのですよ。

少しばかり厄介な事がありまして。」

 

「それに俺らが手を貸すメリットは?」

 

「おや、異な事を聞きますね?

時計塔でも有数の影響力を持つエルメロイとの接点を持てる。

それだけで時計塔に所属する魔術師から余計な事はされなくなる筈ですが?」

 

「ああ、そうだな。

封印指定なんてものが無ければな。」

 

「勿論それも何とかします。

……我が愛しの兄上が。」

 

その言葉にエルメロイ2世がバッとライネスの方を向く。

その顔には「聞いてないぞ!?」とありありと書かれていた。

 

「まあ、それはそれで良い。

問題はその依頼と報酬が釣り合うかだ。

両方しっかり提示しろ。

裏切って悪いが、なんてされたく無いからな。」

 

「良いでしょう。

イギリス有数の霊園『ブラックモアの墓地』をご存知ですか?

まあ、そこで少々厄介な実験が行われているそうです。

神秘の秘匿に反するという事で近々抑えられるのですが、問題はその実験内容でして。

 

端的に言えば人工的にアーサー王を作り出そうとしているそうです。」

 

その言葉にモルガンが僅かに反応する。

 

「聞くところによればその村はモルガン姫、貴方に縁のある村だそうで。

歴史も古く、地下に巨大な地下墓地(カタコンベ)もあると。

中に逃げ込まれてその中に神代から残ったトラップでも仕掛けられていたらたまったものでは無い。

だからこそ頼みたい、というわけです。」

 

「…………ああ、あそこか。

思い出した、愚妹の死体をアヴァロンに運ぶ時に最初に停留した村か。

成る程確かに私の不始末と言えばそうだな。」

 

「報酬はエルメロイとのコネ、封印指定排除、ついでに金銭をこの程度。

それと……」

 

ライネスが指を立てるとエルメロイ2世が持っていたスーツケースをテーブルの上に置いた。

その鍵を外して蓋を開けると、その中には山盛りの宝石が入っていた。

 

「これは手付け金です。

質の良い宝石で、売るも触媒にするもどうぞご自由に。」

 

それを見たモルガンとカイは一瞬目を合わせる。

恐らくはリスクとリターンで見ればリターンの方が上回っている。

時計塔のロードとコネを持っておけば後々で色々と楽になる事もある筈だ。

カイがそう頭の中で思い浮かべればモルガンは妖精眼でその思考を読む。

 

「良いだろう。」

 

「お受けして下さり誠にありがとうございます。

勿論移動費や滞在費は此方で持たせて頂きます。

それにもうすぐ夏休み、というのがあるのでしょう?

依頼の完了後はご息女と共にイギリス観光などもして頂ければと。」

 

「それは良さそうだ。

桜の夏休みは今週末から。

それまで時間があれば客人として泊まっていくと良い。」

 

「ではお言葉に甘えて。

パスポートとチケットは此方で手配します。」

 

「ああ、宜しく頼む。

暫くはここで待っていると良い。」

 

そう告げてモルガンとカイは部屋から出て行った。

残った2人は部屋の扉が閉じられたのを確認してから大きく息を吐いた。

 

「やれやれだ、全くもって疲れたよ。

兄上、キミはあんなのがゴロゴロいる聖杯戦争をよく生き残れたな。

その図太さだけは尊敬するよ。」

 

「あの時は差というものが頭では分かっていても体感では分からなかっただけだ。

時計塔の権力争いに揉まれて漸く分かる様になった。

時計塔のロードの内でもアレと実力でタメを張れる奴なんてそれこそ魔導元帥程度だろう。」

 

「全くもってその通りだ。

我が叔父上も情けないとは思っていたがその考えは撤回する事にしよう。

ここは彼女の領域、その気になれば指1つで我々なんか殺せただろう。

その事実のせいで余計疲れた。

 

兄上はまだ良いさ、変に交渉に口を挟まない様に初めから言ってたから案山子に徹してられたもんな。」

 

「ああ、そこだけは感謝しておいてやる。」

 

彼ら2人にとってこの家に入った時点で生殺与奪の権利はモルガンに握られていたのだ。

その気になればモルガンは指1つで一瞬で殺せるという確信があったからこそ、舐められない様にしながらも丁寧に機嫌を損ねない様に。

そう意識しながらずっと話し続けていたライネスの心労は察するに余りある。

 

エルメロイ2世はまだ交渉という点では甘い部分がある。

そんな彼に話させて無意識に地雷でも踏まれたら困るからと交渉の間は出来る限り話さない様に事前にライネスが言い含めておいたのだ。

 

心底疲れたという表情でソファにぐったりと寄り掛かる。

モルガンという神代を生きた魔術師、その影法師とは言えど魔術の真髄はその知識にこそある。

言うなれば神代に生きていたサーヴァントの中では唯一ステータスという弱体化に囚われないのがキャスタークラス。

 

その受肉した存在とパイプを持てたのはかなり大きい。

実際には切れずとも、ただそういう存在がいるという見せ札があるだけで権力争いでは優位に立てるだろう。

可能なら教鞭を取って欲しいと思う部分もあるがそれは流石に高望みというものだ。

取り敢えずは親しい仲になれるだけで態々日本に来てまで心労を溜めた甲斐はあるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「といったところだろうな。

時計塔が神秘の秘匿に対して動くのは本当だろうが、厄介?

厄介程度で繋がりのない相手から戦力を借りるかよ。

目的はモルガンと繋がりを持つ事、力を借りたいのも嘘ではないがそこまで必要でもない。」

 

「成る程。

僅かに感じた違和感はそれですか。

取り敢えず害はなさそうなのであの2人はこのまま客として扱いましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。

お母さん、お客様?」

 

「ええ、急ですが数日泊まって行きます。

ところでですが、夏休みになったらイギリスに仕事をしに行くのですがそれが終わったら観光をしましょう。」

 

「イギリス?

それってお母さんの……」

 

「ええ、一応故郷という事になります。

1週間ほどの滞在の予定で仕事は早ければ1日で終わります。

着替えや宿題などをちゃんと持っていく様に。」

 

「はい。

いつから行くの?」

 

「夏休みに入った次の日からです。

さあ、いつも通り手洗いとうがいを終えたら夕食の支度を手伝って下さいね。」

 

うん、と頷くと桜は洗面所へと歩いて行った。

既にあの2人は客室へと案内した。

何やら話をしてはあちこちに連絡している様だ。

恐らくはチケットやパスポート、宿泊先などの手配をしているのだろう。

 

何か策を弄していたところで顔を見合わせれば妖精眼でそれと分かるし、その場で殺せる。

その程度の事は向こうも把握しているはずだ。

それでも尚、どうにか出来ると考える愚か者でない事を祈ろう。

さもなければ一度は客人として迎え入れた者を殺すハメになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして週末までの数日間、エルメロイの次期当主と当主代理はルフェイ家で過ごした。

その間にエルメロイ2世は第四次聖杯戦争参加者として知る権利があると判断され、第四次聖杯戦争の結末を知る。

 

聖杯から溢れ出した呪いの黒泥。

それにより受肉したアーチャー、ギルガメッシュ。

その後の調査により発覚した大聖杯の存在とその汚染。

 

「…………成る程。」

 

タバコを吸うためにベランダに出てカイからその話を聞いたエルメロイ2世はタバコを咥えながらイスカンダルが聖杯そのものを疑問視した事を思い出していた。

 

「間違いなく解体すべきだ。

とはいえ、それはギルガメッシュが居たままでは実現は不可能。

そして、現状ではギルガメッシュに対抗できる札はモルガン姫か時計塔や教会のバケモノ連中のみ。

…………万全を期すならば次の聖杯戦争が起こった時に大半の陣営を纏めてギルガメッシュにぶつけて最初に落とし、そして聖杯を解体すべきだな。」

 

「ああ、俺たちもそういう結論に至った。

選出が確定しているのは遠坂とアインツベルン。

間桐は居なくなったが、高確率でウチから1人は選出されるはずだ。

となれば後は4枠。

その内最低でも1枠は時計塔の誰かが確保する筈。

 

それがアンタらに近しい人物だったら手を組む事は容易い。

遠坂は何やら言い含められてるから難しそうだが、純粋培養のアインツベルンなら交渉の席に付かせればモルガンにとっては手を組ませる事なんて朝飯前だ。」

 

「同感だ。

貴方達ルフェイ、アインツベルン、そして選ばれた人物次第ではあるが時計塔からの参戦者。

3陣営での共同戦線が張れたのならマスターの腕もある程度保証されているから相当ハズレのサーヴァントを引かなければ勝ちの目は十分にある。

 

もし私が第五次にも選ばれたのなら、その時は貴方達が裏切らない限りは力を貸すと約束しよう。」

 

「それはどうも。

取り敢えずはその日までアンタが時計塔の中で生き抜ける事を祈るよロード・エルメロイ。」

 

「……その名を背負うにはまだ若輩者なのでね。

どうか2世をつけてくれたまえ、ミスター。」

 

そうして男2人はがっしりと握手をした。




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本当にありがとうございます!!

まだエルメロイ2世は時計塔内での権力争い経験値が足りないのでライネスに引っ込んでろと言われました。
実際事件簿でも散々あちこちの地雷に踏み込んでた(無意識)し残当。
強運は強運でも本格的に命が危なくならないと発動しない悪運タイプだよね。
第四次は常時選択を間違えてたら命が危なかったから悪運が常に仕事してたんでしょうや。

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