モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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2話

ついに聖杯戦争が始まった。

開戦の合図となったのは遠坂邸。

 

遠坂邸に到達したアサシンと思われるサーヴァントが遠坂が召喚したと思われる金色のサーヴァントによって一方的に殺されたのだ。

 

まさしく鎧袖一触。

アサシンは一切の抵抗すら出来ずに敗退した。

 

と考えるのは戦争というものを知らない現代の魔術師やど素人だけである。

マスターとしてその不自然さに気付いたのはアインツベルンの用意した魔術師殺しの衛宮切嗣とモルガンのマスター、カイの2人だけであった。

 

彼らは魔術使いであり、戦争経験者であった。

戦争に参加した目的は違えど、その経験は間違いなく生きた。

 

とはいえ、不自然さを感じただけであり、遠坂が描いた脚本の真実には到達していない。

精々がアサシンはまだ生きている、そして遠坂とアサシンのマスターが手を組んでいる、という可能性に至った程度である。

 

「これで本当にアサシンが退場してくれてたなら楽なんだがな。」

 

「もしそうならアサシンのマスターは正しく無能であったと言わざるを得ませんね。

暗殺者というのは最後に勝利を横から掻っ攫っていくのが仕事です。

こんな序盤に姿を現し、そして即座に敗退など普通に考えれば有り得ない話でしょう。」

 

遠坂邸での戦いを見終えた後、話しながら観戦中、警戒の薄くなっていた他の陣営の様子を確認していく。

現在どの陣営にも動きはなし。

 

どうやら今日はこれで終わりらしいと判断した2人は下水道に張り巡らされた結界の確認を終えた後に、モルガンが作り出したベッドに座った。

 

「明日から聖杯戦争は本格的に動き始める。

現状、姿と戦闘能力の一端が分かっているのは遠坂のサーヴァントのみ。

マスター権限で取り敢えずクラスはアーチャーだと判明したが、同時に判明したステータスは軒並み高ランク。

サーヴァントの本命はスキルと宝具とは言っても……どうだ?」

 

「真っ向勝負なら勝ち目は無いでしょうね。

多少は白兵戦も出来ますが、もしあの攻撃を連続してやられたら受け流せる自信はありません。」

 

「じゃあ、決まりだ。

魔女の陣営なんだ、魔女らしくいこう。」

 

そもそも聖杯戦争とは勝ち抜き戦でも誰が1番多く敵を倒したかでもない。

どんな手を使おうが最終的に残ったペアが勝者なのだ。

その点、モルガンはその様な事は生前から経験がある。

 

モードレッドという爆弾を円卓に送り込み、只管に耐え抜いた結果、ブリテンは崩壊した。

たとえそれが内側から勝手に円卓が崩壊したが故のものであっても勝ちは勝ちだ。

今回の聖杯戦争でも同じだ。

 

まともにやって勝てないなら他の陣営同士で潰しあって貰えばいい。

幸いにもそういう工作はモルガンにとって得意中の得意である。

無論一筋縄ではいかないだろう。

相手も人類史に名を残す英雄達。

魔女の甘言に耳を貸す理由は無い。

 

だが、マスターはその限りでは無い。

他陣営に対して付け込む隙があるとすればそこだ。

マスターとサーヴァントの関係が良好で無いのなら尚更良い。

モルガンの武器の一つはその言葉だ。

人を惑わし、疑念を植え付け、巧みに操る。

気がついた時にはもう遅い、毒の様に手遅れなまでに心に染み渡り、蜘蛛糸の如く行動を縛る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、ついに運命の歯車が廻り出す。

ドイツの地で召喚されたセイバーが冬木へと到着。

全てのサーヴァントが冬木の地に揃い立った。

 

何処となくそれを感じ取ったのだろう。

七騎のサーヴァント全員の発する気配が僅かに冬木の空気を塗り替える。

 

「この顔は……」

 

街中に放った使い魔で冬木に到着したアインツベルンを発見した男はその隣に立つ男装の麗人、その顔に目を疑った。

モルガンと瓜二つのその顔。

霊体化していないのは不思議だが、サーヴァントに間違いないであろう尋常ならざる気配。

 

「ふ、ふふふ、ふはははははは!!

なんとも数奇な運命よ。

ああ、マスター。

使い魔越しではあるが紹介しよう。

我が腹違いの愚妹にして仇敵。

ブリテンの最後の統治者にして滅びを齎した愚王。

忌まわしき騎士達の憧れ、真名をアルトリア・ペンドラゴン。

またの名を騎士王アーサー・ペンドラゴンだ。」

 

一緒に見ていたモルガンは壮絶な笑みを浮かべながら芝居がかった様子でセイバーの正体を暴く。

憎悪と歓喜を噴き出させて、セイバーを己の獲物と見定めた。

 

「行くぞマスター、出陣だ。」

 

「待て待て待て!!

昼間にサーヴァント同士が争うのはご法度だ!

ルール違反で他の陣営からも狙われる様になるぞ!」

 

「ん……そう、でしたね。

失礼、少し熱くなってしまった。

奴の監視はマスターが続けて下さい。」

 

男にそう諌められると、モルガンは不自然なくらい素早く気持ちを落ち着かせた。

そのまま他の陣営に放った使い魔の視界を確認し始めたが、数十分もしない内にどこかソワソワとして落ち着かない様子を見せ始めた。

 

「恋人に恋焦がれる乙女かお前は。」

 

思わず男が突っ込むと

 

「聞き捨てなりませんねマスター。

元はと言えばウーサーとマーリンの謀によって作られたと言えど、私の物になる筈だった玉座も支配も栄誉も何もかもを奪っていったのが奴です。

復讐は終えたとは言えど、またしても私の前に立ちはだかるというのなら忌々しく思うのは当然でしょう?」

 

まあ、分からんでもない、と男は言い分に納得はするが、それにしても……とも思っていた。

 

「マスターには分からんだろう。

文字通り生涯を通して怨み続けた仇敵ともう一度相対したんだぞ。

奴が敵以外ならいがみ合うだろうが、折り合いはつけられる。

だが、今回は敵だ。

大手を振って、生前では成せなかったこの手で直接奴を殺せるチャンスなのだぞ。

多少気が逸ってもおかしくは無いだろう。」

 

「分かった、変な事言って悪かったな。」

 

「分かれば良いのです。」

 

男が謝れば、モルガンはあっさりと引き下がった。

それでもソワソワしているのは変わらないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モルガンは日没寸前になると、すぐに男を伴って下水道から出た。

他陣営に顔が割れれば、マスターが不明というアドバンテージが薄れる事を考慮して下水道から出てからは別行動である。

 

モルガンは使い魔を通してセイバーを追い、適切なタイミングを見計らう。

男は適当に入ったビルの屋上に陣取って双眼鏡でそれを追い、見えなくなったら身体能力を強化してビルの屋上から屋上へと飛び移って、適切な位置を確保する。

 

そして日は落ちる。

追っているセイバー達は人気のない海岸へと出たが、まだモルガンは動かない。

仇敵であるが故に能力はよく知っている。

仕掛けるタイミングは完全にモルガンに任せた男はただただ遠くから見ているだけである。

 

「!」

 

『マスター、感じましたか?

誰かが誘っています、各陣営の動きは?』

 

「出る前に見た通りだ。

ライダー陣営は橋の上に陣取っている。

エルメロイはホテルから出るのは確認できたがその後は不明、遠坂も今のところ動きは無い。

間桐も動きは無い。

ここまで大々的に動くなら……」

 

『エルメロイ陣営ですね。

このまま奴を尾けます。』

 

「了解、場所によっては見えなくなるだろうから使い魔越しの視界に切り替える。」

 

双眼鏡でセイバー達を確認すれば、さらに人気のない港の方へと向かっている。

付近に高い建物が無いのは確認済み。

かといって迂闊に近づいて気付かれるのも厄介だ。

 

夜間だろうがモルガンの魔術で強化されたカラスは視界を確保できる。

モルガンがセイバーの追跡に使っている使い魔の視界とリンクさせて状況を監視する。

 

「使い魔との視界共有完了。

視界良好だ。」

 

『了解しました。』

 

念話が途切れ、男は共有した視界に集中する。

セイバー達はどんどん港の方へと進んでいく。

 

それを追う事数分。

港にはランサーと思わしきサーヴァントが佇んでいた。

 

「よくぞ来た。

今日一日この街を練り歩いて過ごしたもののどいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。

俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ。

 

その清澄な闘気……セイバーとお見受けしたが如何に?」

 

『マスター、あのランサーの真名に心当たりがあります。』

 

使い魔越しにランサーの前口上を聞いているとモルガンからそう念話があった。

 

「早いな?」

 

『マスターの言っていたケルト、妖精(同族)の気配がする黒子、何もしていないにも感じる魅了の呪い(祝福)

これだけの情報があれば嫌でも分かります。

フィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナです。』

 

「よし、真名を使って揺さぶってやろう。」

 

こんな序盤で2騎のサーヴァントの真名が割れたのはデカい。

そう考えながら戦場を見ていれば、漸く始める様だ。

なぜこうも前口上が長いのか、と思いながら戦いを見ずに周辺を見渡す。

 

……やはりエルメロイの姿は見えない。

魔力供給の関係上、近くにいると踏んでいたが流石にそう簡単に姿を現すほどバカでは無いらしい。

モルガンが龍脈から魔力を得ている為、冬木市内であれば男からの魔力供給は例え全力戦闘であっても必要ない。

 

「……は?」

 

そして男は信じられない人物がいる事に気が付いた。

 

「……魔術師殺し?」

 

魔術師殺し、衛宮切嗣。

ここ数年間は活動していなかったが、その前は世界中の紛争地帯に現れては片方を皆殺しにする事で戦争を終わらせてきた魔術使い。

特に戦争に託けて暗躍する魔術師は必ず葬ってきた事から魔術師殺しという2つ名を付けられた男。

 

聖杯やサーヴァントに興味を持った?

あり得なくは無いがあの男は慎重だ。

そんな危ない橋を渡る様な真似をする男では無い。

 

何処かの陣営と組んでいる?

あり得る。

だが、どの陣営だ?

時計塔から来たウェイバーとエルメロイはあり得ない。

御三家は?

…………くそ、情報が足りない。

 

「……キャスター、姿を現した時にセイバーの横にいる女が本当にマスターなのか調べてくれ。

妖精眼を使えば簡単だろう?」

 

『分かりました。

詳しくは後で聞きます。』

 

男はどうしようも無い考えをすぐに止めるとモルガンに念話で指示する。

こういう時にすぐにある程度理解してくれるモルガンはありがたい。

 

「……気付けて良かった。」

 

目の前の戦いに目を奪われている間にあの男に背後から忍び寄られるなんて考えただけでも寒気がしてくる。

 

戦闘に目を向ければ、使い魔越しでは仔細を見る事は出来ないが、周囲に走る衝撃からヒートアップしているのは分かる。

さて、ここからどう転ぶか。




感想みてると皆モルガン様好きなんやねって分かる

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