遠坂に連れられて向かった先は、この聖杯戦争の監督役がいるという教会。
セイバーは表に残り、遠坂と2人で中に入った。
そこに居たのは何だか胡散臭い言峰綺礼という神父。
だが、そんな男がこの地でおこる聖杯戦争という殺し合いの監督役だという。
聖杯戦争から抜ける事を伝えるが、魔術師というもの、そして10年前の冬木大火災が聖杯戦争によるものだという事を聞いて、結局のところ俺が聖杯戦争に参加し続ける事を決めさせられた。
遠坂がここの神父のことをいけすかないと言ってたが、今ならその言葉に全面的に同意する。
神職者とは思えない程に性格が悪い。
兎に角、神父との話し合いを終えて、教会の外で待っていてくれたセイバーと合流して家に向かう。
……ってそうだ!
舞弥さん、そろそろ帰って来てる筈だ!
あの惨状を見られたらどんなに心配されるか……
それにセイバーという特大の爆弾、どう説明すれば良いのやら……
2度も命を狙われ、完全に忘れていた舞弥さんの事を思い出して頭を抱える。
「衛宮くん?」
「マスター、どうなされました?」
「いや、何でもない……わけじゃ無いんだが。
ウチの同居人というか母親担当というか、その人にどう説明すべきかと。」
「成る程。
大変ね、私だったら簡単に暗示でも入れるけど衛宮くん、出来る?」
「出来たら悩んで無い。」
「それもそうか。
ま、頑張んなさい。」
「すみません、霊体化出来ていたらご家族にも隠し通せたのでしょうが……」
他人事だからって……と恨み言が出そうになったのを飲み込む。
セイバーに関しては霊体化出来ないのは多分、己が魔術師として未熟も良い所だからだ。
セイバーは悪くない。
「ところで遠坂。
何でついて来てるんだ?」
「……まあ、触り部分だけならいいか。
簡単に言えばとある陣営を相手にするにあたって同盟を組みたいのよ。
少なくともこんな往来で詳しい話は出来ないから衛宮くんの家で話すわ。」
「同盟、ですか。」
「ええ。
今ここで話せるのはこれくらい。
何処に誰の目や耳があるのか分からないからね。」
「話は終わった?」
唐突に真後ろから聞こえた声。
振り返れば、白髪赤目の小さな女の子がそこにいた。
そしてその後ろには筋骨隆々と言うべき半裸の大男。
間違いなくサーヴァントだ。
「こんばんは、お兄ちゃん。
こうして会うのは2度目だね。
そして初めまして、リン。
私の名前はイリヤ。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。」
「アインツベルン……!
ヤバいわ、あのサーヴァント。
桁違いに強い……!
アーチャー、貴方は下がって援護。」
『私も前に立たなくて良いのかね?』
「貴方はセイバーに付けられた傷がまだ残ってるでしょ。
それにあのサーヴァントが相手じゃ前に立っても大した足しにはならなそうだから、アーチャーの本領を発揮できる遠距離から攻撃して。」
『了解した。』
「作戦会議は終わった?
じゃあ、殺すね。
やっちゃえ、バーサーカー。」
歌う様に告げられたその言葉がトリガーになって、イリヤという女の子の後ろにいた大男の体が動き出す。
まるで岩の様だった体が、血が急速に回り始めたからか赤く色づき、脈動し始める。
そして一歩踏み出し、跳んだ。
「シロウ!
下がって!」
セイバーが俺の前に立ち、着ていた黄色の雨ガッパを脱ぎ捨てる。
重力に引かれるままに落ちて来たバーサーカーの一撃を不可視の剣で抑えた。
(重い!!)
魔力放出によって攻撃の一つ一つの威力が底上げされているにも関わらず、圧されている。
鍔迫り合いは不利と判断してバーサーカーの持つ岩で出来た剣を横に流す。
僅かな溜めの後、魔力放出全開で剣を振り抜けば、防御はされたがバーサーカーの体を吹き飛ばす事は出来た。
吹き飛ばされて無防備になったバーサーカーにアーチャーからの援護攻撃が突き刺さる。
一撃目はモロに受け、着弾と同時に発生した爆破により大きく吹き飛ばされる。
だが続く二撃、三撃、四撃はその剣で打ち払われ、五撃目でもう一度当たり、更にその後の二発が直撃。
大爆発が起こるが、爆炎が収まったその中心に立つバーサーカーには傷一つ無い。
「ウソ、効いてない!?」
無論、今のは通常攻撃に過ぎない。
多少手札を切れば攻撃が通る可能性もある。
だが、それは可能性でしかない。
そして、今はまだ聖杯戦争の序盤も序盤。
こんなタイミングで手札を見せたくは無い。
爆心地で立つバーサーカーにセイバーが突っ込んだ。
一合、二合と剣を交わらせる。
一見互角に見えるが、セイバーは内心でその凄まじい力に警戒心を高める。
魔力放出が最も有効に働くのは鍔迫り合いでは無く、この様な打ち合いだ。
にも関わらず、バーサーカーはその場から一歩も動かずに攻撃を受け続けているのだ。
更に言えば、その不可視の剣を確実に捉えている。
ゴッ、と僅かに踏み込んだ一撃で押し負かされた。
ダメージは無い。
すぐ様また距離を詰める。
攻撃を仕掛けるが、やはりその場から動かない。
此方は踏み込みもない攻撃に対して避けるなり受け流すなりしていると言うのにだ。
逆袈裟の一撃を逸らそうとして、弾かれた。
大きく身を曝け出す事になったが、その次の一撃。
真上から振り下ろされたそれを僅かに身を返して避けて、地面を割った剣を踏む。
これでバーサーカーは剣を使えない上に致命的な隙を晒した。
「獲った!」
遠坂がこれで勝てると思ったのか喜色を示す。
バーサーカーの首を狙って剣を走らせる。
だが、バーサーカーは剣から手を離し、身を逸らしてその一撃を回避した。
それどころかそのまま反撃までしてくる。
ガードしたとは言え、蹴りを喰らった。
力だけでは無い、武にも通じている。
第四次聖杯戦争に出ていたランスロットの様なスキルもしくは宝具によるモノでは無い、と自身の直感が訴える。
恐らくは体そのものが効率的な戦い方を覚えているのだろう。
生前は我々円卓の騎士以上に苛烈な争いにその身を置いていたのだろう。
だが、芸達者なバーサーカーはすでに経験済みだ。
そうと分かれば対処のしようはある。
だが、場が悪い。
この様な己よりも力で勝つ手合いを相手取るならば遮蔽物が並び立つ場が好ましい。
この付近ならば、すぐそこの森か、その先にある教会近くの墓地だ。
小細工の出来ない開けた場で相手する様な相手では無い。
どうにかしてそこまで誘導する。
幸いにも相手は理性のないバーサーカー。
芸達者とは言え、それはその場その場での話だ。
戦術的な面ではその経験は働かないだろう。
そしてイリヤスフィールを名乗るマスターもバーサーカーに絶対的な自信がある様に見える。
誘い込もうとしても止めはしないだろう。
デメリットはある。
あれほどまで鬱蒼とした森に入るのだ。
アーチャーの援護は今以上に無くなると思った方がいい。
メリットとデメリットを天秤にかければメリットが勝つ。
なにせあのバーサーカーにアーチャーの攻撃は通用していないのだ。
視界を潰したり、体勢を僅かに崩す程度には使えそうだが、その程度でしかない。
マスター殺しという手もあるが……と騎士王としての冷酷な部分が囁くが、あのイリヤスフィールとどんな関係なのかを聞きたいという点からその考えは却下した。
無論、そんなのは自分のエゴでしかない。
だが、相手は嘗てのマスター達の子であるのだ。
負けてしまった後ろめたさも多少はある。
だからこそイリヤスフィールを相手にマスター殺しという選択は取れなかった。
ならばこそと森の方へ向かおうとした所で
『リン、乱入だ。』
「は!?
一体誰よ!?」
リンの声が響いた。
恐らくはアーチャーから何かしらの報告を受けたのだろう。
誰、と聞いているからには……乱入してくる者がいる。
そして雷鳴と共に高らかに雄叫びを上げて突っ込んでくる者がいた。
神性を纏う二頭の雄牛に戦車を引かせたそいつは迷う事なくバーサーカーへと戦車を突っ込ませた。
土煙を上げながらバーサーカーを轢き、暫くして停止した。
その姿を見てセイバーの思考が僅かに止まった。
「ほう、余の『
そして分かる。
分かるぞ、余の中に流れる血が貴様の正体を教えてくれるわ!
なあ、そうであろうあらゆる英雄の頂点。
ギリシャ一の益荒男、ヘラクレス!!」
「へえ、凄いね。
まさかバーサーカーを一度殺した上に真名まで分かっちゃうんだ。」
「む、やはり殺していたか。
道理で手応えが妙だと思ったわ。
貴様がヘラクレスのマスターか?」
「ええ、そうよ。
凄いでしょ、私のヘラクレス。」
「応とも。
流石はその武勇のみで世界に名を知らしめた大英雄よ。
そんな相手ならば此方も名乗らねばなるまい。
我が名はイスカンダル!!
ライダーのクラスをもって現界した!
双方、一度剣を収め我が言の葉を聞くが良い!」
「そんなこと言ってる場合か。
相手は理性のないバーサーカーだぞ。
どういう訳か殺しても復活したし、今もやる気満々だ。」
ライダーの戦車に乗っていた長身の男が落ち着いた様子でそうライダーに声をかけた。
視線の先ではバーサーカーが雄牛の頭を掴んで未だに押し潰そうと力を込める二頭を抑えている。
「まあ、それはそうなんだがな。
そこの幼きマスター。
どうにか一旦ヘラクレスに剣を収める様に言えんか?」
「うーん……どうしようかしら。
……まあ、面白そうだし聞くだけ聞いてあげるわ。
バーサーカー、一旦中断よ。
戻って来て。」
その言葉を聞いた途端、バーサーカーは雄牛を掴んでいた手を離してイリヤスフィールの側に戻った。
赤く脈動し、膨れ上がっていた筋肉も今は戦闘前程度に落ち着いている。
「其方もだ。
ミスター・エミヤにミス・トオサカ。
一旦で構わない戦闘を止めてくれ。」
「……一旦停戦って事だよな?」
「ええ、今仕掛けてもほぼ確実に打ち取れないし、最悪2対2で再開よ。
一旦様子を見ましょう。
アーチャー、戦闘中断。
指示があるまで待機してて。」
「セイバーもそれで良いか?」
「ええ、従いましょう。」
前回の聖杯戦争でイスカンダルがどの様な人物かを知っているセイバーは変な事はしないだろうと考えて剣を下ろした。
それを見たライダーは一つ大きく頷くと語り始めた。
「さて、余がこの戦いに手を出したのにはワケがある。
率直に言おう。
貴様ら、一騎当千の英雄共よ。
我が下にくだり、聖杯を譲る気は無いか!?
無論、タダでとは言わん。
我が軍に入れば、基本報酬は勿論、成果に応じて追加報酬もだそう!
貴様らの先輩となる戦士達も皆気前のいい者ばかりよ!
不満があれば直接余に申せ、相談には必ず応じる!」
「何でコイツ、無駄にセールストークが上手くなってるんだ……」
そこにいるライダー本人と理性の無いバーサーカー以外が何だか微妙な表情をする。
言っていることは要は聖杯戦争を降りて聖杯を譲れと言う事だし、その見返りも提示している。
いるのだが、無駄に現代企業の社員募集の広告じみていて呆れると言うか呆気に取られたと言うか。
「……何それ、つまんないの。
あーあ、気が削がれちゃったわ。
帰りましょバーサーカー。
じゃあね、お兄ちゃん。
また遊びましょ。」
最初に動いたのはイリヤスフィールだった。
短く別れを告げるとバーサーカーの肩に乗って何処かへ行ってしまった。
「ぬう、断られたか。
あのヘラクレスを引き込めたらどれ程自慢できたものかと思っていたが、流石にそう上手くはいかんか。」
「そもそもお前はギリシャ神話の中だったらヘラクレスよりもアキレウスの方が好きだろう。」
「そりゃあな?
だが、あのヘラクレスだぞ?」
「ああ、もう分かってる。
お前はそういう奴だ。
それで、其方の返答は?」
イスカンダルとわかり合ったかの様に話していた、恐らくはマスターと思われる男がそう問いかけてくる。
「その前に、貴方は?
人の名前は一方的に知ってるのに自己紹介も無し?」
「……ああ、それは失礼したミス・トオサカ。
時計塔、現代魔術科のロード、エルメロイ家当主代行のエルメロイ2世だ。
どうぞ2世を忘れる事なくつけて呼んでくれ。」
「時計塔のロード……!」
「……なあ、遠坂。」
「後で説明するから今は黙ってて。」
「はい。」
知らない単語が次々と出てきた事に困惑して士郎は遠坂に聞こうと話しかけるが、強い口調で止められ、逆らう事なくそれに従ってしまう。
「私の答えはノーよ。」
「ふむ、ではセイバーとそのマスター、貴様らはどうだ?」
「俺は……アンタらが聖杯を悪用しないと約束してくれるならそれでも構わない。
けど、セイバーの意見も聞く。
セイバーは?」
「私は断じて断ります。
この身にも聖杯を譲れぬ理由がある。」
「…………なら、ダメだ。
セイバーには命を助けて貰ったんだ。
悪いけどアンタらよりも俺はセイバーの方を優先する。」
その答えとその前のセイバーへの問い掛けでセイバーはこの衛宮士郎という青年が、前回のマスター、衛宮切嗣とは全く違うマスターであることを確信した。
同じ衛宮という姓を名乗ってはいるが、その性質は真逆と言って良いほどに異なっている。
恐らくはマスターとしての能力なら切嗣の方が圧倒的に上だが、己との精神的な相性は比べ物にならない程この士郎という青年の方が上だ。
「そうか……つまりはそこのセイバーを納得させられれば良いのだな。
ならば、今は一旦引こうではないか。
……ああ、そうだ忘れるところであったわ。
トオサカ、と言ったか。
既に余と同盟を組んだ相手から伝言だ。
大聖杯に異常あり、聖杯戦争は中断されたし、とな。
詳しいことは知らんから気になるなら自分でその大聖杯とやらに赴くが良い。
では確実に伝えたぞ。」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい!
それって一体どういうことよ!?」
「詳しいことは知らんと言ったぞ。
それと、余の軍門にくだる件については何時でも心変わりしてくれて構わんからな。」
そういうと、ライダーはハアッと掛け声をあげて手綱を引き、雄牛に戦車を動かさせて去って行った。
『リン、今なら狙えるが。』
「ダメよ、攻撃はしないで。
でも逃がさないで、同盟相手が誰かは見当が付くけど確証が欲しいわ。
追って。」
『了解した。
暫く離れる。』
「……ハァ、次から次へと問題ばっかりね。
頭が痛くなるわ。
取り敢えず、衛宮くん。
今度こそさっさと帰りましょう、あのバーサーカーとアインツベルンの気が変わってまた襲って来ないとも限らないんだから。
説明も相談も何もかもはその後よ。」
「お、おう。
分かった。」
こうしてどうにか聖杯戦争の二戦目を乗り切った衛宮士郎は今度こそ自宅へと帰ることが出来た。
「士郎、随分と遅かったですね。
…………セイバー……!?」
「……」
帰った瞬間にまた別の、それもかなり大きい厄ネタが発生してしまったのだが。
エルメロイ2世、今回のライダーの仕業について
「知 っ て た」との事
案の定やらかしてくれた
真名バレも勧誘も予想していて止めるだけ無駄だと割り切ってる
そして次回
衛宮家に次々と放り込まれる爆弾
もうやめて!
士郎の心の余裕はZeroよ!
次回、士郎のSAN値、直葬!
になりますわ確実に
感想、評価お待ちしてます