遅れてスマソ
「おはようございます、先輩。
昨日アインツベルンに襲われたって聞いて心配だったんですよ?」
ニコニコと笑いながらそう言う後輩を見て、俺は漸く桜が魔術師だという事に実感を持った。
「その様子だと母さんの予想通り、私の家の事についても聞いたんですね。」
士郎を庇う様にセイバーと凛が前に立つ。
「良い度胸ね、ルフェイさん。
ここが何処で誰が居るのか分かってるのでしょうね?」
「ええ、遠坂先輩。
でも今は朝ですよ?
魔術も魔法も聖杯戦争も引っ込む時間です。
お互い、こんな事で面倒なペナルティは受けたくありませんもんね?
それでも襲って来ると言うのなら抵抗はさせて貰いますけど、ね?」
威嚇する様に言い放った遠坂に対して桜は笑みを崩さないままにそう答える。
最後の方では桜の影が蠢いた様な気がした。
「……1つ聞きたい。
貴女はあのモルガンの養子だと聞く。」
「ええ、そうですよ。」
「何故だ?」
「何故、とは?」
「何故、養子になることを良しとした?」
セイバーのその問いに対して、桜はポカン、とした表情を見せた。
何でそんな当たり前のことを聞くのかという表情だ。
「あれ、知りませんでした?
私は貴女も参加していた第四次聖杯戦争の際にあの人達に救われたんです。
命を、そして尊厳を救って貰いました。
それどころか私に帰る場所もくれた。
理由なんてそれで十分でしょう?」
「それは……!」
「母さんに打算があったから、ですか?
それは否定はしません。
ですが、貴方にとってのと私にとってのモルガン・ル・フェイという女性は全くの別人です。
それは多分母さんにも言える事なんでしょうが……
まあ、それは一旦置いておきましょう。
今日は先輩の無事を確認しに来たのと母さんから手紙を預かったのでそれを渡しに来たんです。
多分、怪しんで怪しんだ結果見ずに捨てるだろうと言ってましたから概要だけここで話させて貰いますね。
内容は同盟もしくは一時不戦条約についてです。
そしてこの手紙は全陣営に同じものが今日の内に届けられます。
理由は大聖杯に異変があるから。
嘘だと思うのならご自分の目で確かめて貰っても構いませんよ。
大聖杯付近は私のサーヴァントが抑えていますが、昼間に行く分には素通りさせても良いと言ってあるので見に行くのなら昼のうちにどうぞ。
逆に夜のうちに入ろうとしたのなら敵と見做して攻撃します。
また、結論は出さずとも話し合いだけでもしたいと言うなら同じく昼のうちに我が家を訪ねて下さい。
特に母さんはセイバーさんには知らせておきたい事があるそうなので。」
そこまで話して桜は服の内側から手紙を取り出した。
しっかりと蝋で閉じられたものだ。
それを士郎に手渡す。
「では失礼しますね。
ああ、それと私は暫く学校を休むので学校では話せないので気をつけて下さい。」
それではまた、と言い残して桜は去って行った。
その後ろ姿を目で追い、桜が角を曲がって見えなくなったところで漸く3人が動き始める。
「……どうする?
俺は話を聞いても良いと思うんだけど。」
「私は止めておいた方がいいと思います。
前回の聖杯戦争時に実際に同盟を結び、何度か話して、契約に関する事のみは信用しても良いとは思いました。
ですが、本質はそう変わるものでは無く、何かしらの企みがあると見るべきです。」
「私は……取り敢えず御三家として大聖杯の確認だけは行う必要があるわ。
同盟や条約に関しては大聖杯の調査結果次第では受けても良いとは思う。」
私の個人的な感情を無視すれば、という一文を除いた遠坂にとってモルガンとカイはいけすかない存在だ。
なんか知らないうちに間桐家を潰し、知らないうちに妹を養子にしている。
幼い頃は言峰の言うことを全て真に受けて会う度に睨み付けていたが、涼しげに受け流されるだけ。
成長して言峰の言う事が信用ならないという事に気付いてもこれまでの態度からどうにも確執を感じてしまう。
更にはその複雑な心内すら見透かされている様に思えて仕方がないのだ。
なんせ時々会うと自分にだけ分かる様に生暖かい表情を向けてくるのだ。
副音声を付けるなら「フッ、まだまだ青いな」だろうか。
その程度の感情を隠す事なんて簡単なはずなのにだ。
その余裕そうに揶揄っている様な表情が気に入らなくて更に苦手意識が加速し、敵意となる。
反応すればそれこそ相手の思う壺なのが分かっていながらそうせざるを得ないのが、遠坂凛という少女の厄介なところだった。
「私も今日は学校を休むわ。
大聖杯に異常があるっていう話なのにそんな悠長に授業受けてられないし。」
「じゃあ、俺も。」
「いえ、衛宮君は行って。
他に学校関係者がマスターではないとも限らないから、そっちの方を探っておいて。
セイバーは……どうしましょうか。
霊体化出来ないんじゃ連れてく訳にもいかないし。」
「ではその学校の近くで待機しておきます。
何かあったらすぐに駆け付けるので、その時は念話を。
それでも間に合わなさそうでしたら仕方ありませんので令呪を切って呼び出して下さい。」
セイバーのその言葉に遠坂はジトーっと士郎の手の甲を見る。
そこには一画欠けた令呪。
「変な事に令呪一画使っちゃったのよね。
それで助かったのだから文句は言わないけど。」
なお、同じ様に勢いだけで変な事に令呪を使った遠坂である。
人の事は言えない。
「それじゃあ、今日は学校に残らずに真っ直ぐ帰って来ること。
私も衛宮君が帰ってくる頃に合わせてこの辺にいるから。
襲われても暫く戦っててくれれば駆け付けるし。
じゃあまた放課後会いましょう。
それと私が休みだって言ってくれると助かるわ。」
そう言って遠坂も行ってしまった。
それを見送った士郎も取り敢えず学校に行こうと準備を始めるのだった。
衛宮邸から出た遠坂は念のために装備を整えるために一旦自宅へと戻った。
工房に下り、魔力を込めた宝石を取り出す。
そうしていると道中で連絡しておいたアーチャーが戻って来るのを感じた。
「アーチャー、どうだった?」
「気取られたな。
だが、様子見するだけで手は出してこなかった。
確認できたサーヴァントはあのライダーのみ。
他のサーヴァントは恐らく霊体化しているのか」
「本当に大聖杯付近に陣取っているか、ね。
まあ、行けば分かるわ。」
丸一日着ていた服を脱いで、普段着を着る。
そして、その上から外套を羽織った。
家から出ると分かったか、アーチャーは霊体化する。
「円蔵山周辺の林には自然霊以外の霊は受け付けない結界が張られてるわ。
唯一、サーヴァントが入れる道は山門とそこに続く階段。
私だったらそこに門番を配置するわね。
何がいるか分からないから用心しておいて。」
『了解した。
とはいえ今は昼間だ、流石に向こうもそんな所では仕掛けてこないだろう。』
「ええ、そこではね。
大聖杯は山に空いた洞窟の奥に隠されてるわ。
中もそれなりに広いから昼間でも戦うならうってつけの場所よ。」
『まあ、任せたまえ。
マスターの身くらいは守ってみせるさ。』
「そ、なら良いけど。」
登校時間はすでに過ぎている。
この時間に学校の外にいる学校関係者なんて不良か聖杯戦争関係者か、ただの遅刻である。
一般人なら見られても暗示をかけておけば良い。
念のために人通りの多い道は避けて柳洞寺に向かう。
アーチャーが上から周りを見てくれるお陰であまり人とは会わずに進むことが出来た。
目の前には延々と続きそうな石畳の階段。
周りは平日の昼間であることを除いても不自然なほどに人通りがない。
その様子からこの階段が人を拒んでいる様な錯覚を受ける。
その錯覚を振り払って遠坂は階段を一段一段登っていく。
敵の姿はおろか、気配すら感じない。
念のためにと注意していたのに結局何事もなく、山門に辿り着いた。
「予想はしてたけど結局何も無かったわね。
アーチャー、サーヴァントの気配は?」
『ある。
だが、場所が全く分からないな。
恐らくは何らかのスキルか魔術だろう。』
厄介ね、と呟く。
いる事自体は隠さないが、どこにいるかは隠す。
入ってきた敵は警戒心が高くなり、精神力や集中力が戦う前から削られる。
これが人や重要なものがない場所なら宝具やらで薙ぎ払ってしまえば良いが、ここは住職やお坊さんのいる寺であり、更には大聖杯がある。
そんな方法は取れない。
「残るクラスはアサシンかキャスターよね?
それに似合う陰湿なやり方だわ。」
『まあ、それと同時に有効な手段ではあるがね。
私とてこの状況なら同じような手段を取る。』
やはり人のいない境内を通り抜け、更に奥に踏み入る。
暫く歩くと、山肌に大きな穴が空いている。
「ここよ、ここからは更に警戒しておいて。
中に入ったらいつ何を仕掛けてくるか分かったもんじゃないわ。」
『了解だ我がマスター。』
アーチャーの返事を聞いて中に踏み込む。
天然の洞窟だという龍洞。
中は家にある文献通りに広く、下手に歩き回れば迷ってしまうだろう。
周りを警戒しながら進んでいく。
結局、拍子抜けなほどに何もないまま、大聖杯の下へと辿り着いた。
「……ウソ」
そんな声が漏れた。
文献には大聖杯は球体の一部が割れ、その中に人の形をした彫刻があり、材質は金属のような物だという記述があったのだ。
だが、目の前では毒々しい色をしたナニカがまるで脈動しているかのように蠢き、ゴポリゴポリと呪詛まみれの泥を吐き出している。
これはマズい。
こんなものが放置されていたなんて。
原因が何かは知らないが出来るだけ早くにどうにかする必要がある。
戻ったらまず言峰に聖杯戦争中断を宣言してもらう必要がある。
サーヴァントが敗退すればその魂という高魔力は大聖杯に集められる。
つまりはコレに餌を与えるという事だ。
そんな事は許してはならない。
『これは……』
「ええ、マズいわ。
こんな事になってたのに気付かなかったなんてホント最悪。
さっさと戻りましょう。
対策を練らなきゃ。」
そう言って大聖杯に背を向けて走り去っていった。
「すぐには結論は出せない。」
それが言峰の答えだった。
完全に予想外の答えに一瞬、遠坂は唖然とし、すぐに猛烈に騒ぎ始めた。
「バカなの!?
アレは今すぐにどうにかしなくちゃいけない代物よ!
御三家としてそういう責任があるの!」
「まあ、そう年頃の娘ががなりたてるな凛。
此方にも理由があるとも。
まず、キャスター陣営から君と同じように全陣営間での停戦の申し入れがあった。
しかしそれは我々教会を通さずに全陣営にも送られている、ここでルール違反だ。
監督役として何かしらの対応をする必要がある。
2つ目はその異常というものがそもそも怪しいという事。
前回のキャスターと今回のキャスターは同陣営だ。
2人のキャスターがいればサーヴァントすら騙す幻覚を見せることも不可能では無いと容易く推測できる。
故にいくら君の言葉とはいえど慎重にならざるを得ない。
3つ目は他の御三家、と言っても間桐は絶えてしまったから残るアインツベルンだけではあるが、彼らの意向も聞かねばなるまい。
無論、これに関しては既に使い魔を送って返事を待っている状態だ。
何か反論はあるかね?」
冷静にそう反論されて遠坂は言葉が詰まる。
しっかりと筋の通った理由だ。
「無論、それでも、というのなら監督役としてしっかりと対応させてもらうがね。
だが、もしも君の言うことが間違いだったならその時は監督役として、聖杯戦争を止めた事に対するペナルティを君にも与えなくてはならなくなる。
まさか騙されたから無罪とは言うまい?」
ぐぐぐ、と唸った後にはぁ、とため息をつく。
「分かった、分かったわ。
調査でも何でも好きにしなさい。
けど、結論が出るまでは私はセカンドオーナーとして安全策を取るわ。
戦闘が起こったら片っ端から介入して有耶無耶のうちに終わらせる。
それなら別にルール違反では無いでしょ?」
「グレーではあるがね。
まあ、君の言葉だけで他に確証があるわけでもなし。
それと君との関係も含めて見逃すとしよう。」
「じゃあ、結論が出たら真っ先に知らせてちょうだい。
それによってやる事が変わってくるから。」
「了承した。」
バタン、と音を立てて教会の扉が閉まった。
残された言峰は悪意に満ちた深い笑みを浮かべていた。
遠坂 言峰に言われて大聖杯の惨状が幻覚かもという考えに至るが、あの禍々しさが本当に……?という感じなので6:4くらいの信じ方
6がモルガン側 一応自分でも大聖杯の惨状について調査するつもりではある
言峰 次の一手の為に時間稼ぎ あわよくば(どこがとは言わないが)拗れに拗れてくれれば良いという考え
って感じですかね
次回はいよいよW姉妹喧嘩とキャスターお披露目かな
まあ、大体想像はついていそうだけど
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