もう一話追加じゃあ!
結局、凛と桜の2人は一夜が明けるまで目が覚めず、士郎達一行はルフェイ邸で一夜を過ごす事となった。
とは言え、士郎達一行がルフェイ邸に来たのは朝。
その間、何もしなかった訳では無く……
士郎はカイに扱かれていた。
「な……んでさ」
冷たい石の上に倒れ込みながら、息も絶え絶えに士郎はそう呟いたそうだ。
「少し運動する気は無いか?」
始まりはそんなカイの言葉だった。
「運動?」
「ああ、正確には鍛錬だな。
お前は現在、聖杯戦争参加者の中でぶっちぎりに弱い。
マスターの脱落も防がなきゃならないからな。
付け焼き刃でも1つの選択肢にはなるだろう。」
その言葉に人の良い士郎が納得しかけた所でサーヴァントであるセイバーが割って入って来た。
「申し出は有難いが不要だ、モルガンのマスター。
鍛錬は私が付ける。」
「徒手格闘と対銃戦、対魔術師戦を教えられるなら良いが。」
その言葉にセイバーは押し黙った。
たしかに徒手格闘は多少できる程度(円卓基準)で銃に関してはズブの素人だ。
教えられる事は少ない。
「心配なら横で見てれば良い。
敵でも味方でもない相手に騙し討ちする様な騎士王サマじゃないだろう?」
少し考えた後、セイバーはその提案を呑んだ。
モルガンはともかくとしてこのマスター、カイ個人は信じても良いと判断したのだ。
そして移動した先は先程談合を行った地下室だ。
しかし、いつの間にか先程のテーブルは無くなっており、ただがらんとした広く冷たい空間があるだけだった。
「それじゃ、まずは軽く説明から始めるか。
まずは攻撃。
徒手格闘、打撃は基本的にはコンパクトに打つ。
大振りが当たるのは精々そこらのチンピラ相手が良いところだ。
とにかく素早くコンパクトに、可能ならそこに重さを求める。
狙いはとことん急所だ。
眉間、人中、顎、鳩尾、脇腹とかだな。
蹴りは不慣れな奴がやると隙になり易いからあまりやるな。
特にハイキックは絶対にやめろ、狙うならローキックで相手の足下を崩す様にしろ。
寝業、固め技は狙えれば狙う程度で良い。
素人が下手に狙うとそこが隙になるし、効率的な固め技を知らなきゃ逆に返される。
そして投げ技、これは基本的にカウンターだ。
相手の動きを利用するのが一番楽に投げる方法だからな。
やるとしても殴ってきた腕を掴んでの一本背負い、攻撃性を求めるなら途中で腕を離して思い切り地面に叩きつける事だな。
取り敢えずの説明は以上だ。
俺に向かってやってみろ。
初めはこっちからは攻撃せずに、ダメなところは指摘する。」
その簡潔な説明に戸惑い、士郎は構えを取ることも無く立ち尽くす。
そして言葉の意味をしっかりと理解した上でおずおずと確認を取る。
「えっと……良いんですか?」
「当たり前だ、実践しなきゃ何にもならないだろ。
それにど素人の攻撃が当たる様なヘマはしないし、当たった所で問題ないくらいの鍛え方はしてる。
言ったろ?
お前がダントツで弱いって。」
まあ、実戦を考えるともしかしたら今の状態でもエルメロイ2世に勝てるかもしれないが……とカイは心の中で呟く。
仮にもロード代行のクセに弱すぎるのだ。
とはいえ、その分自分が直接戦闘に巻き込まれない様に立ち回るのが上手いからトントンかもしれないが。
「えっと、それじゃあ行きます!」
そう言って士郎は飛び出しながら拳を構える。
(顔、は止めよう。
ボディ狙いでフック!)
ブン、と横振りの拳は易々とガードされる。
そのくらいは出来るだろうと逆の手で正面からのストレート打ち。
「ん、流石に多少は心得はあったか。
だけどまだ甘いな。
顔を狙わないのは優しさのつもりか?
だったら大間違いだ。
一撃でかつダメージを後に残さない倒し方は脳を揺らす事だ。
そのために打撃で狙うべきは顎だ。
ボディへの攻撃はガードを下げる、またはダメージを蓄積させるのには向いているが、タフな奴が相手なら全くと言って良いほどに倒れないからな。」
そう教えながらカイは士郎の動きを観察し解析していく。
中途半端ながら戦場で鍛えられる様な効率的な体の動きがあるのはあの魔術師殺しの右腕だった女性、確か舞弥とかいう女が教えたからだろう。
それ以外は相手を威圧しつつダメージも与える喧嘩殺法に近いものがある。
確か衛宮邸に出入りしている教師が地元のヤクザの関係者だったからそのツテで少し教えてもらったのだろう。
「距離の詰めかたが甘い。
中途半端に距離があるとカウンターが刺さるぞ。
ヒットアンドアウェイかインファイトのどちらかにしろ。」
そう言うと士郎は半歩ほど距離を詰めてくる。
だが、カイはその距離のままで士郎の攻撃を次々と受け止めている。
「腰の使い方が甘い。
拳に重さを加えるには、強く踏み込む、腰を入れて回転をパンチ力に変える、一番拳に勢いが乗るタイミングで叩き込むの3点を意識しろ。」
このように士郎が何かしら攻撃をすればそれを受け止め、余裕をもって躱し、そしてアドバイスをする。
その度に士郎はそのアドバイスを出来る限りすぐに自分の行動に落とし込み、実践する。
それが数分ほど続いたところで、カイからストップがかかった。
士郎が軽く息を切らしているのに対し、カイは息一つ乱していない。
「取り敢えずある程度は分かった。
努力する才能はあるから帰ってからもシャドーでいいから続けろ。
手頃な相手がいれば一番良いんだが……まあ、そこは自分で何とかしてくれ。
次は防御を教える。
具体的にはガード、受け流し、回避、受け身、一部カウンターだな。
ガードはそのまんまだな。
初心者は反射が重要だ、兎に角慣れろ。
だが、基本は可能な限りガード以外でどうにかしろ。
じゃないと防戦一方になって簡単にダメージが溜まっていく。
受け流し、ガードばかりだと簡単に崩される。
受け流して相手の体制を崩す、受け流してダメージを最小限にする。
攻撃の途中に横から軽く叩く、基本はこれだ。
それだけで割と簡単に攻撃の軌道は変えられる。
回避。
基本は2種類だ。
スウェーバックとダッキング。
要は後ろに下がって避けるのと逆に懐に入って避ける。
だが基本的にスウェーだけにしろ、下手に踏み込むと肘鉄やら膝蹴りが飛んでくるぞ。
受け身。
これはやったことがあるんじゃないか?
これの役割は衝撃の分散と大事な部位の保護だ。
吹き飛ばされた時、投げ飛ばされた時は絶対にやれ。
そしてカウンター。
まあ、これは実践した方がわかり易いだろう。
というわけで一発撃ってこい。」
そう言って軽く構えを取ったカイに士郎は一瞬たじろぐ。
「狙いは顔面、ゆっくりでも思いっきりでも好きな方で良い。
ただし、必ず踏み込みはしっかりやれ。」
「そういうことなら……」
そう言って士郎は大きく踏み込んでゆっくりと右の拳をカイの顔面に近づけていく。
それに合わせるようにカイは一歩踏み込み、拳を体を左に傾ける事で避け、右の拳を士郎の顔の寸前まで近づけた。
「ボクシングのライトクロスってカウンター技だ。
どんなカウンターでも基本は今やった通り。
相手の踏み込みに合わせて行動、相手の攻撃を避け相手の攻撃の勢いそのものを自分の攻撃の威力の一部とする。
とは言うが、カウンターはタイミング勝負だ。
経験が無いなら無理に狙うな。
下手にやれば自分も踏み込んだ分喰らうからな。
後は相手の攻撃を掴んで投げ技や固め技に持ち込むのもアリだ。」
どちらかと言えばこっちの方がまだ難易度は低いだろうな、と言ってカイは構える。
「実践練習だ。
俺が攻撃を仕掛けるから防御しろ。
最初はゆっくり、少しずつ早くしていく。
俺の動きの速さと同程度の速さで対処しろ。
ゆっくりだからと無理な動きはするなよ。
どうやったら次に繋げられるかを常に考えながら動け。」
士郎との距離を詰めて間合いに入る。
そうして士郎が構えたのを確認するとゆっくりとパンチを繰り出した。
それを士郎もゆっくりとした動きで受ける。
何回もそれを繰り返すが、時折カイの攻撃が士郎に当たる。
「当たってるのは無駄な動きがあるからだ。
とことん効率化しろ。
ペースを上げるぞ。」
そう言ってカイは体の動かす早さを上げる。
士郎に当たる攻撃が多くなり、士郎もそれに合わせて必死に考えながら防御や回避、受け流しを繰り返す。
そして十分ほど続けたところでカイがストップをかけた。
「よし、そうしたら今度は攻撃と防御の両方を同時にやる。
俺はお前の行動の早さに合わせてやる。
好きに掛かってこい。」
カイがそう言うと士郎は頷くと構えた。
「行きます。」
そして実戦を意識しながらも、少し手加減するくらいの早さでカイに向かって行った。
そして数十分後、自分の攻撃は全くクリーンヒットしないのにカイの攻撃は散々通っている。
肉体にダメージは無いが体力が切れ、更に精神的にボコボコにされた士郎は床に倒れていた。
「ま、素人にしてはいい線行ってたな。
本当に強くなりたいなら出来るだけ毎日これを繰り返せ。
武器を持っててもそれは同じだ。
で、対銃、対魔術師戦だが、実はこれといった対策はない。」
「……話が違うではありませんか。」
そんなセイバーのジト目の視線と責める言葉を受け流しながらあっけらかんと答える。
「まあな、半分騙した。
とはいえ、これという対策が無いのは本当だ。
銃は自分の見える範囲なら目線と射線から弾道をある程度予測して避ける事は可能だが、知覚範囲外からの狙撃は俺でも無理だ。
生き残りたいなら準備を怠らない事だな。
俺は常日頃から魔術加工して防具にした服を着てる。
魔術に関してはある程度ジャンル分けは可能だが、事前情報なしじゃ相手が何を使ってくるかも分からんからな。
情報のない相手と戦う時は無事に逃げられればラッキーくらいに考えとけ。
倒したいなら相手に何もさせるな。
起点を潰す、準備して無効化する、一撃で倒す。
その為にも知ることを怠るな。
知らなきゃ対策も立てられないからな。
もしもう少し魔術について知りたければエルメロイ2世を頼れ。
時計塔のカリスマ講師だ。
分かりやすく教えてくれるぞ。
で、どうする?
教える事は教えた。
もう少し付き合ってほしいなら付き合うが。」
「……いえ、少し自分で落とし込んでみます。
もし良かったらまた今度教えてくれたらありがたいです。」
その言葉を聞いたカイは若干呆れながら返答する。
「敵にならないか、敵になっても聖杯戦争の後に2人とも五体満足で生きてたらな。
確約が欲しけりゃ今この場でさっきの同盟の話を受けろ。」
それに対して士郎は少し困った様子で頬を掻きながら答える。
「……あーー、それはちょっと凛やアーチャー、セイバーと相談しないと……」
「だったら不用意な発言は止めるんだな。
下手に言質を取られるのは魔術的にも普通の社会でも相当マズイ事に繋がりかねないからな。」
「はい、肝に銘じます。」
結構本気で反省しながら士郎は自分の心に教えられた事を刻んだ。
「なら、地下室は暫く貸しておくが、くれぐれも他の部屋に入らない様にしろ。
見られたり、触られたら困るものがあるし、何よりトラップを大量に仕掛けてる。
命の保証は出来ないからな。
武器を使いたいなら刃を潰した奴を持って来てやるがいるか?」
「じゃあお願いしてもいいですか?」
その言葉にカイは頷いて更に細かく尋ねる。
「使うのは何だ?
剣、槍、弓とかの基本どころしか無いが。」
「じゃあ剣で。
予備も含めて幾つかお願いします。」
「分かった、少し待ってろ。」
そう言うとカイは地下室の奥の通路に入って行った。
「セイバー、少し付き合ってくれるか?
今教わったことを武器でもやってみたい。」
「ええ、構いませんよ。
貴方が少しでも強くなってくれるなら心強い。」
その後、カイが持って来た武器を使って士郎とセイバーは数十分ほど鍛錬に勤しんだ。
セイバーにとっては幾らか複雑な気持ちになる事だが、士郎はカイに教わった事を意識する事でかなり効率的に経験を積む事が出来た。
はい、今回はここまで
これで本当にストック無くなったから次回投稿もまた結構時間が空く事になるかもしれないです