「アルトリア、後日で構わん。
もう一度我が家に訪れるが良い、決戦への対策に関して話がある。」
「え?」
小さな声だったが確かに聞こえた
モルガンがもう一度、自分の家に来るようにと……
その言葉を聞き直そうとしたところでモルガンが語り始める
「征服王、私の王道は支配に他ならん。
全てにおいて適切な奉公を家臣と民に求め、その働きに対して適切な褒美を授ける。
贔屓や冷遇など以ての外。
全てはソレが有用であるか否か。
有用であれば重宝もしようが、そうでないのならそれ相応の扱いをするだけだ。」
「……それは公正と捉えるべきか、冷徹と捉えるべきか少し迷う王道であるな。
いや……その両方なのだろう。
まあ、そう悪い国にはなるまい。
国の平時はただ粛々と事を進め、荒事があれば先に鎮圧する手段を用意しておき、眉一つ動かす事なくあっさりと荒事を収めるであろうさ。
余の個人的な意見としては少し詰まらなそうな国ではあるがな。」
「ふん、貴様のような何もかもを引っ張っていくだけの傍迷惑な王よりはずっとマシだろう。」
「民の平穏さという点では全くもってその通り。
だが、人は平穏だけで生きるのでは無い。
そこには夢が無くてはならん。
そして王とはその国の民の頂点として、率先して夢を魅せる者よ。
故に余は最果てなどないと知られたこの星に、今もなお最果ての海を求める。
自らの目でこの星を巡り、この星の表面になければ、内海に潜ろう、それでもなければ宙の星の海へと出よう。
そこに未知がある限り、我らが遠征は決して終わらぬ!
故に我らの夢は永遠に終わらず、いつまでも輝き続け、人々を魅了する光となるのだ!」
征服王の言葉は前回とは表現が違えど大凡言っている事は同じだ
違うとすれば、その夢についてより深く語っている事だ
夢は人類がこれまで抱き、成し得てきた『未知への挑戦』そのもの
誰もが子供の時に持つ興味をいつまでも抱き続け、王になっても追い求め続けた世界屈指の夢追い人
なるほど、それならばあれら多くの臣下を纏め上げ、心象風景を共有するまでに至れるわけだ
その根底からして、誰もが持つ物を臣下と共有していたのだから
「ふう、で騎士王、最後は貴様だ
王道とは如何なる物か?」
「…………私の王道は守る事にこそある。
征服王、臣下や民の笑顔とは何物にも代え難い尊いものだろう?」
「当たり前よ。
如何なる財宝も、酒も、どれだけ手放す事を惜しく思う物であっても、臣下や民の笑顔には代えられん。
夢を追うという事に笑顔がないなど以ての外だ。」
「そう、その国を治める王にとって民草や臣下の笑顔は最も重要だ。
だが、私の国は絶え間ない戦争と侵略、常に飢餓一歩手前の食糧難、未だ残る神秘に集まってくる幻獣の類と笑顔を阻むものが多すぎた。
しかし、それが何だというのか。
たったその程度の困難を前に諦めていてはあまりにも救われない者が多すぎる。
故に、私は剣を取った。
征服王、貴殿が夢を追う姿を見せる事で人々に笑顔を与える王だとすれば、私はあらゆる困難から民の笑顔を守る王だ。
例え私の行く先が地獄であろうとも、その過程で多くの人を救えるのならば喜んでこの身を差し出そう。」
「……それはつまり、貴様は国の為に己の身を生贄にしたと、そう言うのか?」
イスカンダルが戸惑いを含んだ問いを投げかける
だが、その言葉は前回と同じ
それに対する答えもすでにセイバーの中では出来ていた
「ある意味ではそうだ。
だが、私1人が救おうとしていたわけではない。
多くの人が明日が良いものである事を望み、騎士達がその望みを背負い戦った。
私は彼らと一丸になり、その先頭に立っただけだ。
だが、いつからか護るべき対象を剪定する様になってしまった。
間違ってはいないが正解でもない道に入ってしまった。
より多い者を守る為、心のない天秤になったのだ。
そこで……恐らく私の幼い夢は終わりを迎えたのだろうな。
1人の大人として、騎士として、現実を直視せざるを得なくなった。
そして、天秤に徹したあまり、私は最初の夢そのものを忘れてしまった。
救われた者はいた筈なのに、その存在を無視してしまっていたのだ。
だから、かつての私は国を救いなおす為に我が人生のやり直しを願い、果てには私の初めの決意そのものを無かった事にしようとした。
ああ、分かっているとも征服王。
それは最悪の愚行だ。
幸いだったのは、それが絶対にあってはならない愚行だと気づかせてくれる人がマスターである事だ。」
いつの間にか酒を手放し、腕を組んでいたイスカンダルがセイバーの独白を聞き終え、少し経ってから腕組みを外してセイバーと向き合う
「ならば良し!
我ら英霊とて人間、間違う事など幾らでもあろう。
だが最終的にそれに気付き、直せたのなら他人がとやかく言うことは無い。
余から言う事はただ一つ。
貴様の王道は騎士王らしい生真面目な王道であったな!」
豪快な笑みと共に放たれたその言葉をセイバーが飲み込むまで少し掛かった
その言葉は前回とは全く異なるもの
10年前の聖杯戦争では己の至らなさがあったとは言えど、全てを否定された
だが、今は……認められたのだ
あの聖杯問答はセイバーにとって強く記憶に焼き付いている
それを今、乗り越えたのだ
「ん?
どうしたセイバー?」
「いや、何でもありません。
ところでその王道の話、アーチャーには振らないのですか?」
「君らが焼きもせずに凄い勢いで食べているのを誰が焼いていると思っているのかね?
それに、私はあらゆる意味で王道とはかけ離れた英霊だ。
期待するだけ無駄というものだよ。」
「うむ、語れと言うのは厳しそうだからな。
故に我らの話を聞いて、誰の王道が最も良いものであると思うかを問うと決めていたのよ。
さあ、アーチャー、貴様は誰の王道が最も尊く、理想であると思うか?」
アーチャーの言い分を回避する様な質問をイスカンダルが問いかける
その質問にアーチャーは鉄板の上で動かしていた手を止める
「……理想、理念だけで見るなら騎士王だ。
だが、その王道は本人が言う通り不可能な道に他ならない。
かと言って、妖精姫の様な完全な支配も征服王の夢を魅せ続ける遠征も同じく夢物語だ。
理想とはそれだけで重荷であり、多くの障害が伴う。
故に君達と違って大した事のない英霊でしかない私は王道なぞには興味はない。
どんな手段を取ったとしても過酷な現実と戦い続けるだけだ。」
「なんだつまらんなぁ。」
「つまらなくて結構。
私はアーチャーであって、君たちの道化役では無いのだからな。」
アーチャーは肩をすくめてから鉄板の上に目を戻す
再度ヘラを動かし始め、食材の調理を再開した
「遊びがないというのは仕事では美点だが、それ以外でそんな調子では余りにも面白みが無さすぎる。
あと、出来ればヘラクレスとも話はしたかったが…………バーサーカーだからなぁ……
せめて言葉が話せる程度の狂化であればと思うが……残念と言う他ない、な。」
「一応、令呪を使えば狂化ランクを下げる事は可能だが?」
「む、そうか。
おおいバーサーカーのマスターよ、1つ令呪でヘラクレスの狂化を下げる気は無いか!?」
「あるわけないでしょ、バカなの?」
まあバカな事は確かだな、とエルメロイ2世が声に出さずにイリヤスフィールに同意していた
「むう、残念だな。
是非ともヘラクレスとは話がしたかったのだが……」
心底残念そうな表情と声でそう言うイスカンダルだったが、他のサーヴァントもマスターも特に反応する事も無かった
その後も鉄板焼屋での宴は続いていった
夜はどんどん更けていく
そして次の日
衛宮邸に戻ってきた士郎は、屋敷の中であるものを探していた
「ここ、でもないか。
爺さんの事だからどこかにあると思うんだけどな。
イリヤ宛の手紙なり遺書なり。
びっしり渡航記録が残ってるパスポートはあったんだけどなぁ。」
「流石にその様な重要書類は切嗣個人で管理していました。
隠し金庫の類はない筈ですから、土蔵、工房、自室のどこかに限られると思うのですが。」
「舞弥さんでも分からないなら虱潰しに探すしか無いな。」
イリヤと話をした時、イリヤは最後『証拠もないのに』と言っていた
つまりは確固たる証拠があれば良いわけだ
あそこまで諦め悪くイリヤの所に行っていたと思われる切嗣なら本人に読ませるつもりは無くても、その気持ちを何かにしたためる位はしていても良さそうだと思う
だから朝から俺とセイバー、舞弥さんの3人がかりで屋敷の中を探し回ってる
……正直、勝算はそこまで高くないと思う
けど、イリヤを救えるのはきっと俺じゃ無くて切嗣だ
そこに賭けるしかない
と考えてから半日
魔術で同調して屋敷中を探査して漸く見つけられた
場所は工房の更に下
態々、工房の地面を掘り起こしてスペースを作り、まるでタイムカプセルの様に埋められていた
用心のしすぎにも程があると思うんだけどな
兎に角これでイリヤを説得するピースは揃った
と言っても今日は流石に草臥れた
イリヤに会いに行くのは明日にしよう
「モルガン、少し機嫌が良さそうだな。」
「……そう見えるか?
ならそれは不機嫌になる要素が1つ取り除かれただけだ。」
ルフェイ邸、その地下で準備を進めていたモルガンにカイが話しかける
僅かな変化ではあったが、モルガンの機嫌は長い付き合いのカイであれば分かる程度には良くなっていた
「まあ、なんにせよ機嫌がいいのは良いことだ。
ところで、クー・フーリンについてだが奴は腐っても大英雄。
世界の破壊になんて手を貸すとは思えないんだが。」
「ええ、同意見です。
エルメロイ2世によれば、奴のマスターは元は時計塔から来た者らしい。
なら、まず監督役の言峰綺礼に接触し、その時に無防備な背中から襲われて令呪とランサーのマスター権を奪われたと簡単に予想できる。
奴の性格からして意趣返しとして相手にとって最悪のタイミングで裏切ろうとする筈だ。
となればそれは、最終決戦時。
というのは簡単な予想だ。
相手もその程度は既にしている筈。
対策は簡単だ。
令呪三画を用いて『全力で目の前の敵を斃せ』とでも命令すればそれで済む。
その上、言峰綺礼は監督役だ。
過去の聖杯戦争で使用されなかった令呪をその身に宿している筈。
三画程度なら使い捨てられる。」
その予想はこの聖杯戦争が起こってからずっとしていた事だ
敵戦力の中で獅子身中の虫と言える英霊、クー・フーリン
仕事とあらば多少の外道は犯すだろうが、決して致命的な間違いだけは犯す事は無い
だが、相手もそれは承知の上だろう
「となれば、クー・フーリン攻略は俺が鍵か。
俺が可能な限り早く言峰を殺せば、それだけ早くクー・フーリンにかけられた令呪の効果は無くなり、マスター権は消失する。
そうなれば再契約の隙すら出来る。」
「ああ、再契約が出来るとしたらそれは貴方だ。
遠坂と衛宮は勝ったとしても魔力不足により、もう一騎との契約は不可能だ。
エルメロイ2世も魔力はそう潤沢では無い。
貴方には……そう易々と他のサーヴァントと契約をしてほしくは無いが…………背に腹は変えられない。
桜の令呪を一画移し、マスター権を偽造しておきます。
それで仕込みは十分でしょう。」
「ああ、任せろ。
ランサーも全てが終わったら契約は破棄する。
向こうだって一矢報いることが出来ればそれで不満はないだろうさ。
……さて、そろそろ俺も言峰対策用の最後の一手を取りに行って来ないとな。」
「ええ、10年前から続く貴方と言峰の因縁を断ち切るのには正にうってつけの礼装でしょう。」
「いや、それは違うな。
この因縁は……」
続く言葉は音にせず、モルガンだけが分かる様に心の中で語る
薄く微笑んだモルガンを見てから、踵を返して地下から上がる
……決戦の日は否応なしに近づいてくる
Huluでstay night、UBW、Zero、事件簿、strange fakeが公開されてるのマジで有難い
stay night、UBW、事件簿は一気見しました
現在Zero視聴中
やっぱりたまには原典に立ち返らなきゃね
今話はstay nightをやると決めてからずっとやりたかった話でもあります
成長したセイバーが再度、イスカンダルを通して自分の王道と向き合う話
いやー、書きたかった話だから筆が進むわ進むわ
感想、評価お待ちしています