モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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1ヶ月半ぶりの投稿
早いな、うん

イドクリアに加えて、プライムビデオでアポクリファとバビロニアが無料で見れるブーストで8割位はここ数日で書き上げました

1ヶ月以上もかけて2割程度しか書けなかったってマ?


22話

掌底

 

対言峰綺礼用に拵えた防御術式込みの服が無ければ確実に死に、装備込みでも致命傷一歩手前のダメージを負うであろうその攻撃を態と一歩踏み込み、攻撃の勢いが最も強くなるタイミングをずらして受ける

骨が軋み、内臓に負荷がかかるそれを自分から後ろに飛んで幾らか受け流して漸く即時の戦闘続行が可能な程度のダメージに抑えられる

 

肉体的にだけでなく、勘や技術も衰えていると思っていたが……流石に見通しが甘過ぎたらしい

それに、段々と攻撃が鋭くなって来ている

これまでの攻防が奴にとってはただの錆落としに過ぎなかったらしい

 

「っは、化け物を殺す連中が化け物じゃないわけ無かったか。」

 

目の前の男が過去に聖堂教会のどこに所属していたかを思い出す

長期戦になればなるほど不利だろう

これまでの攻防でナイフで傷をつけて出血を強要させる事には成功している

この出血分を含めれば体力的には互角に持ち込めるだろうが、ダメージレースで圧倒的に不利だ

流石に大動脈への攻撃だけは通してくれない

 

「少々、軽率だったな。

戦闘においては、先に切り札を切った方が負けるらしい。

私の切り札はこの肉体と技量、対する君はそのナイフがそうだ。

切り札を残しているのは私の方であり、現状は私がやや有利、そして時間は私の味方だ。」

 

「もう勝ち名乗りか?

取らぬ狸の皮算用って言葉知ってるか?」

 

そう軽口を叩いて余裕がある様に見せかける

事実、余裕はない

しかし、勝機が全くないわけでもない

ただしそれを悟られたら間違いなく詰むが

勝ち筋が真正面から不意打ちするしかないのだ

慎重にもなる

 

誘い込むしかない、か

ドッ、と鈍い音を立てて言峰が突っ込んでくる

反応は出来る、が、行動全てが間に合うわけではない程の速さ

一歩前へ出て跳び上がって顔が来るであろう場所に右膝を置く

その反撃は簡単に掴んで防がれるが、それも予想済み

体を曲げて右手のナイフを首へ

 

右膝の対処に左手を使ったからナイフの防御はそれなりに難しいはず、なんだが……

血が垂れ落ちる……が、その傷口があるのは口元

上半身を反らして噛んで止めやがった

 

「……っ!」

 

鈍く、身体の芯に響く重い一撃

左手の一撃で吹き飛ばされ、受け身を取るがダメージは大きい

だが致命傷には程遠い

コイツ、俺の事を甚振ってるな?

蹲ってから立ち上がるまでの間に追撃は入れられた筈なのに言峰綺礼は一切の追撃を入れなかった

その事実に頭に血が上るが、同時に笑みが浮かぶ

 

やはりコイツの戦いの勘は衰えている

現役の、死ぬか殺すかしか選択肢のない状態だったらあり得ない行動だ

付け入るなら……ここだ

良いぞ、具体的な勝ちの目が見えて来た

そうなればやる気も湧いてくるというものだ

 

後は勝ち筋を作り上げるだけ

勝手に勘違いしてくれているのも有り難い

切り札や伏せ札を俺はまだ出し切ってはいない

一つ大きく息を吐き、笑みを消す

勘づかれる訳にはいかない

 

「さて、今のも私は軽傷で防いだ訳だが……まだやるかね?

私は君の事を見逃しても良いと思っているが。」

 

「はっ、そうしたら奥に行ったモルガン達を追いかけるか、固有結界に入った奴らを待ち構えるんだろ?

俺にはお前を殺すか、ここで足止めし続けるしか選択肢はねぇな。」

 

当たり前だが、死んでもそれは同じだ

故に死ねないし、死んで条件達成が出来たとしてもそれはごめん被る

自分1人の犠牲でどうにかなる?

そうだとしたらそんなもんはクソ喰らえだ

 

勝つのに必要なのは一手だ

奴に一手だけ間違わせればそれで良い

 

「さあ、続けようぜ。

最初に言ったろ、良い加減決着をつけよう。」

 

構え、飛び出す

ギアを上げろ、追い込め、選択肢を突き付けろ、判断を鈍らせる程に!

地面に刃を走らせ、石畳を切断

腕力を強化し、切り出した石の塊を掴んでぶん投げる

それを目眩しに一気に接近、砕いたのなら伸ばした腕を狙う、避けたのなら背後に回る

対応は……避けたか、なら背後に回る

次はどうする?

一旦距離を取るか、そのまま攻撃してくるか

 

ははっ、俺の方もどうやら鈍っていたらしい

そうだ、俺の本来の戦い方はこうだった

自分の戦力には自信がないからこそ、積極的に周囲環境を利用し、一方的に嵌め殺す

 

さて、言峰が距離を取ったのならそのまま追撃、攻撃してきたのなら下手には受けられない

だから距離を取り……ああ、面白い事を思い付いた

言峰は……攻撃か!

 

「ッははははは!

楽しくなってきたぁ!」

 

攻撃を避け、距離を取る

そして、上着の『布』という概念を切り裂き、『糸』へと変化させる

『糸』の持つ概念は『物を繋ぎ、留める物』

それを左腕に巻き付け、先程と同じ様に地面を切り裂き、石片へと変え、そこに魔力を通した糸を通す

形を整え、表面の硬度を強化、そして『糸』が人形モドキに繋がっているならそいつは『糸人形』だ

無理があってもそういう概念を即席でも付与すれば不格好だが実現はできる

 

「即席礼装『土石龍』ってなァ!!」

 

上着の守りは失ったが、上々だろう

今この瞬間に俺は魔術師としての階段を今更ながら駆け上がった

この成長は……やはりこの切嗣の起源礼装から作製したナイフがなくてはならなかった

男同士で気持ち悪いから認めたくはないが、奴こそが俺に必要なピースだった

この戦いが終わったのなら『繋ぐ』方の概念礼装も作成するか

切断の概念礼装はあるのだから比較的簡単に作れるだろう

 

「行け!」

 

糸を通して指示を出す

僅かなタイムラグと強張った様な動きはあるが、しっかりと指示通りに龍は言峰へと向かっていく

その手には……黒鍵

そうだ、この即席礼装は糸を切れば即座に無効化できるし、相当上手く動かさなければ黒鍵の破壊も出来ない

だが、そんな物は切られた側から繋ぎ直せば良い!

 

龍の腕を落とされる

体を回転させて尻尾で攻撃、それを受け止めて尻尾を切り落としている間に腕を繋ぎ直す!

魔力を巡らせろ!

サーヴァントという魔力喰らいがおらず、モルガンの魔力炉一基のバックアップを受けているアドバンテージを活かせ!

龍を動かしながら、その体を駆け上がる

 

右腕で押し潰そうとすれば、対応は受け止めて反撃か避けて反撃か、避けた場合は反撃するのは右腕かそれ以外か

動きの起こりを見逃すな、目線を探れ

行動は……回避!

そして目線は……俺か!

 

右腕を駆け上がってくる言峰に龍の口を……いや、ラグのせいで間に合わん!

なら右腕をバラけさせる!

突然、足元が無くなれば一瞬だが確実に隙が出来る!

そうして宙に浮いたところに飛び掛かり、ナイフを突き立てる

 

「ぬうっ!」

 

「……っ!」

 

止められた

白刃取り、そして地面に着地

恐らくは反撃、蹴りが来る!

回避は……間に合わないか、だったら反撃するまで!

 

腹部を蹴られ、体が浮き上がる

なんて威力してやがる、上着が無くなっても服の全てに防御術式が付与してあるってのに、アバラが軽く4本は持ってかれた

内臓のどこかでも傷ついたから血が喉の奥から迫り上がってくる

その痛みに耐えつつ、龍を操作

復元した右腕で薙ぎ払い、建物の残骸へと吹き飛ばす

 

そして着地

その衝撃で折れた骨が痛み、蹲ってしまうが、頭と左腕は動く

なら、龍を突撃させる位は出来る!

痛みに顔を顰めつつも言峰が突っ込んだ残骸に龍を走らせる

重量のある物質が石を割り、地に足跡をつけながら音を立てて突っ込んでいく

 

ズン、という鈍い音と共に石の龍の全身にヒビが入り、砕かれる

そして糸では繋ぎ止めれない程の小さな粒、砂利へと変わり、完全に無力化された

 

「ははっ、流石に全部が全部そう上手くはいかないか。

だが効果はあるな?」

 

もう一度地面にナイフを走らせようとした所で言峰が残骸の中から飛び出してくる

狙っているのは、ナイフを持った右腕か

冷静かつ的確、しかしそこには焦りがある

物量で押される事が厄介かつそのまま押し切られる可能性が僅かではあるが確実にある事に気が付いたな?

 

良いぞ、上手く行っている

慢心、早計、そして焦り

判断を間違える理由が揃ってきている

ならばこのまま押し切る……様に誤解させる

攻撃を避け、距離を取り、走りながらナイフを走らせる

 

「そうら、もう一度だ!」

 

糸で組み上げ、作り上げるのは同じく龍

しかし、サイズを小さくして2体に増やす

恐らく現時点で即時の操作が可能なのは2体が限界だろう

これなら双方をカバーし合う事でそう簡単に破壊する難易度は跳ね上がるはずだ

 

擬似的な3対1

数的有利が取れたが、内2体は質量による攻撃しかできない

押せ押せを演じてはいるが、実の所、アドバンテージはそう大きくない

 

「……なるほど、少し侮っていた様だ。

実戦に勝る経験はなし、それなりの下地があればその努力は鉄火場の最中で花開くこともある。

久しく忘れていた。」

 

急加速

2体の龍を無視して俺自身へと飛び込んでくる言峰を糸で止めようと張り巡らせる

しかし、その糸は軽く切り裂かれ、しかしその一手で2体の龍が背後の左右から強襲

俺自身はスライディングし、龍は2体とも単純な体当たり

しかしそれでバランスを崩し、スライディングと共に足を払えば簡単に転ぶ

 

そこをナイフで攻撃しようとするが、簡単に転がって避けられる

互いに立ち上がって向かい合い、動きを止める

僅かな対峙

同時に駆け出す

突き出された拳を避け、脇に挟み、関節を極めようとするが力尽くで振り払われる

反撃が来る前に龍2体をけしかけるが、インパクトと同時に体を固めて簡単に防御される

 

そして地面を踏み付け、衝撃が襲ってきて僅かにタタラを踏む

その間に接近、鉄山靠

後ろの地面に糸を通して強引に体を引く

なんとか回避、距離を取りつつ龍2体で攻撃

 

だが龍の対処に慣れてきたのか軽くあしらわれ、2体共に半壊

即座に残った2体を纏めて1体に

ついでに形も西洋風の翼龍から東洋風の蛇龍へ変更

攻撃よりも拘束、防御、足止めに重点を置く

 

飛び込んでこようとする言峰の足に尾を絡ませ、動きを阻害

完全に止める事は出来ずとも出鼻を挫くくらいはできる

こちらに向かって来ながらも体勢を崩した言峰の顔面に膝蹴り

簡単に受け止められるが、隙は出来た

ガラ空きの背に向けてナイフを振り下ろす

心臓は難しいだろうが、肺くらいは狙える

 

それでも体を捩って振り下ろしたナイフは心臓や肺どころか主要な内蔵すら避けて脇腹に浅く刺さる

刃を滑らせながら引き抜き、傷を広げる

だが反撃に拳を喰らう

なんとか腕を挟み込んでガードしながら後ろに下がるが、腕から嫌な音がした

折れてはいないがヒビは入ったな

ついでに折れたアバラにも衝撃が通った

 

相も変わらず重い一撃だ

あんな不安定な体勢からの攻撃でもこれだ

距離を離し、巻き付けた龍の尾で言峰の体をぶん回し、地面に叩きつける

一度、二度

しかし、三度目で尾を破壊され、何事もなかったかの様に立ち上がり、服についた土埃を払う

余裕綽々、或いはそう見せかけているだけか

……残念ながら前者の可能性の方が圧倒的に高いか

 

少し調子に乗りすぎたか、冷静になるだけの時間を与えてしまった

俺の方も頭に上った血が冷めてきた

取り敢えず打てる手が増えたのはありがたい

おかげで組み立てがしやすくなった

そろそろもう少し真面目にやろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄オオォォォォ!!」

 

槍の一振り

たった一振りで戦士の首が3つ刎ねられる

同時に5つの槍がその身体を狙うが、軽く避けられ、槍兵がその上に降り立つ

反応する前に神速の蹴りで吹き飛ばされる

そこに騎兵が突っ込む

短剣の一振りを受け止め、反撃に移る前に黒の戦馬が前脚を振り上げる

 

「っとぉ!

忘れてたぜ、お前さんもサーヴァントだったな。

ウチの二頭程じゃないが、良い面構えしてやがる。」

 

前脚の振り下ろしを避け、駆け寄って来た兵士を殴り飛ばしながら口を開く

 

「そういえばクランの猛犬、貴様も二頭立ての戦車を持っていたな。

此度の聖杯戦争には持ち込んでおらんのか。」

 

「ああ、ライダーなら兎も角ランサーじゃ流石にな。

ライダーのクラスなら槍以外にも鎧、剣、戦車、後は城も持って来れるな。」

 

「ほう!

余よりも多くの宝具を持ち込めるのか。

そりゃあまた残念な話よな、余は恐らくライダークラス以外にはそう適性はあるまい。

同じクラス同士では聖杯戦争では戦えんのがルール。

つまり、尋常の聖杯戦争ではライダーの貴様とライダーの余では争えん。

戦車同士での駆け合いもまた一興、の筈なのだがなぁ……」

 

「同感だが、しょうがねえ話だ。

だけどよ、無い物ねだりほどみっともねぇ真似も無いだろ。

ある物全てをぶつけ、楽しむ。

いつだってそうするしかねぇだろうよ。」

 

「如何にもその通り。

だが、一つだけ楽しめん要素があるのが気に食わん。」

 

「否定はしねぇさ。

運が悪かっただけだ、いつもの事さね。

俺だって英雄としての誇りはあらぁ。

叶うのなら自害してでも言峰を殺していたが……自害もダメなんだろ?

だからこうして付き合ってるんだろうが。」

 

そう、今のこの状況

ランサーが有利ながら、決定打だけは絶対に打たないこの均衡がランサーなりの言峰への反逆だ

ギリギリ令呪の縛りに抵触しない抜け穴を突く

均衡を崩せるのはマスターである言峰が死んだその時

その瞬間から令呪の縛りの劣化は加速する

可能なら新たなマスターと契約し、令呪の一画でも使われれば即座の復帰が可能だろう

 

そして、世界を護った後なら存分に楽しんで戦えるだろう

報酬としてその程度は要求して然るべきだ

それに、言峰よりかはあの魔女の元マスターだという女の方が幾らか信用できる

仕事にケチはつけたくはないが、依頼人兼現マスターにはケチの一つもつけたくなるのだから

元マスターのあの女だったら……と考えるのはこんな状況だからこそだろうか

なら、もう少しやる気を出して手を抜くか




※主人公覚醒
『切って繋ぐ』という起源と『付与』という起源が相性良すぎるんだよなぁ
その場で必要な概念を物質から『切断』して、必要な物に『繋いで』『付与する』
今は『切断』の礼装しかないから半端だけど、『繋ぐ』礼装も出来たら魔術師としての完成度は時計塔でも有数レベルになる
ただし、時計塔では有数レベルなのはあくまで『完成度』なので実力的には中の上で、上の下に入り込めたらラッキー程度でしかない
まあ、上澄みの中の上澄み連中がそれ以下と大差をつけまくった文字通りの化け物連中だから参考にもならんのだけど
土壇場覚醒なのは『切断』ナイフの完成がつい最近だったから

※令呪三画でも抗える
アポクリファでアストルフォが出来てたんだから兄貴にだって出来る出来る
まあ、アストルフォの場合は令呪三画使ってマスター権は無くなってたから強制力はそこまで強くはないと思うけど
言峰の場合、監督役として令呪は大量にあるので三画使ってもマスター権は無くしていないので抜け穴を突く事でしか抗えない程度の強制力がある

以上、第22話でした
それでは感想、評価お待ちしています

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