モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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5話

 

港での戦闘があった後。

冬木市郊外、アインツベルン城。

 

「セイバー、あのキャスターは本当に?」

 

「はい、我が姉、妖姫モルガン・ル・フェイ。

間違いようがありません。」

 

キャスターが撤退した後、ランサーとバーサーカーを同時に相手取る事になったが、途中でライダーが乱入してくれたお陰で何とか大きな傷を受ける事も無く戦闘を終えられたセイバー。

アイリスフィールの荒い運転に少し戸惑いつつもこの聖杯戦争時における拠点であるアインツベルンの所有する城へと帰還した。

 

「妖姫モルガン。

円卓を間接的に瓦解させた人物。

つまりはセイバーの天敵、か。

問題はキャスターの工房がどこにあるかだ。

 

冬木に流れる霊脈の中心となるのは2箇所。

遠坂邸と円蔵山。

その他、霊脈が地上付近を走っているポイントは幾つかあるが、そのどれもがこの地に住む遠坂と間桐におさえられているが、サーヴァントなら掠め取る事も容易いだろう。」

 

冬木市の地図を広げて、霊脈の通る場所を全て書き出していく。

 

「それにキャスターのマスターも不明だ。

それに比べて此方は僕がマスターだという事を知られた。

情報のアドバンテージの差が大きすぎる。

その他の収穫が無かったわけではないが……今回の戦闘はキャスター陣営の一人勝ちだ。」

 

苦々しげにそう言う切嗣に周りの空気も重くなる。

その空気を破る様に城にカラスの鳴き声が響き渡った。

今使っている部屋は仮にサーヴァントが攻め入って来たとしてもある程度時間が稼げる様に、城の奥にある。

更には今はまだ深夜だ、カラスが活動する様な時間ではない。

 

それに気付いた彼らは一気に警戒を強める。

 

「アイリ、遠見の水晶玉を! それと結界に反応は?」

 

「無いわ!」

 

すぐに遠見の水晶玉を用意したアイリスフィールが答える。

アインツベルン城は厳重な警備が施されていて使い魔程度では突破は不可能だ。

 

なのにも関わらず、一切気付かれることもなくこうして魔術を使って増幅させているとしか思えない鳴き声を響かせている。

 

「場所は……見つけた!

中庭よ!

何か持っているわ。

これは…………手紙……?」

 

「手紙だと……?

舞弥。」

 

切嗣が名前だけ呼べば、舞弥は1つ頷くと部屋を出て行った。

舞弥が部屋から出て行くと同時にカラスの鳴き声が止んだ。

暗に、僕達の事を監視していると伝えて来た。

この下手人は随分と良い性格をしているらしい、と考える。

 

暫くして、舞弥が戻って来る。

手には既に封の切られた手紙があった。

 

「念のため、部屋の外で手紙を開けましたが、仕掛けどころか魔力自体も感じられません。」

 

「誰からだ?」

 

「キャスター陣営です。」

 

舞弥の言葉に1番動揺を示したのはセイバーだ。

即座に切嗣に警告を放った。

 

「切嗣、いけません。

あの妖姫の甘言に惑わされた騎士が一体何人いた事か。

最善の策は今この場でそれを見ずに破り散らす事です。」

 

「内容は?」

 

「切嗣!」

 

それでもなお、無視を続ける切嗣に苛立った様に怒鳴るセイバー。

その様子を見てアイリスフィールがセイバーに賛同する。

 

「切嗣、私もセイバーに賛成よ。

キャスターの恐ろしさを身をもって知ってるのが彼女なんだから耳を貸しても良いんじゃ無いの?」

 

「アイリ、これは無視するとかしないとかそういう問題じゃ無いんだ。

僕達は事実上、キャスター陣営に無視するには大きすぎる情報を握られている。

更にはこの場所すら見られている可能性がある。

 

今このタイミングで向こうから接触をはかってきた、という事は向こうから僕達に対して提案があると断言できる。

それも僕がマスターである事実とセイバーの真名、その2つの情報と釣り合いが取れる提案だろうね。

 

それを破り散らしたら、その行動こそが答えだ。

そうしたら僕達は何も得る事なく、自陣の情報を他の陣営に丸裸にされるだろう。

それすらも分からないサーヴァントの意見に耳を貸す理由なんて無いな。」

 

「バカにしないで頂きたい。

分かった上での進言です。

例えそれで情報をバラされ、不利になったとしても私は必ずや勝利してみせましょう。

 

妖姫の甘言はそれ自体が猛毒です。

見るだけ、聞くだけで疑念を引き起こし、容易く人の心を意のままに操る。

お世辞にも我々は1つの共通の目的に共に邁進しているとは言い難い。

だからこそ、アレの言葉にだけは耳を貸してはなりません。

さもなくば致命的な亀裂となりかねないのです。」

 

本気でそう語るセイバーだが、切嗣はそれを聞き入れない。

なるほど、確かに殆どのサーヴァントが相手でも1対1なら勝ち目はあるだろう。

あの正体不明の黄金のアーチャー以外には。

恐らくあのアーチャーにはまだ隠している奥の手があるはずだ。

こちらにも宝具があるとは言えど、あの武器の降り注ぐ中で放つ事が出来ると思う程楽観的では無い。

 

「舞弥、読み上げてくれ。」

 

「っ……!!」

 

「はい。

『突然の手紙、失礼仕る。

今頃はセイバーから我が真名などの情報を受け取った頃であろう。

この手紙は貴殿らセイバー陣営と、残り我等2陣営になるまでの不戦条約あるいは共闘関係を築きたいと考えて送らせて頂いた。

 

具体的には自己強制証明(セルフギアススクロール)を用いての魔術的束縛による契約を使用したく思う。

現時点で此方の考えた契約内容は以下の通りである。

 

1つ セイバー陣営とキャスター陣営は聖杯戦争において、残る陣営がこの2つになるまで不戦、もしくは共闘する

1つ 期間内は互いに間接的直接的問わずに相手を害する行為は一切禁止する

 

ここでいうセイバー陣営とは衛宮切嗣、久宇舞弥、セイバー、アイリスフィール・フォン・アインツベルン、そしてアインツベルンの所有するホムンクルス全てを指すものである。

 

1つ キャスター陣営はこの魔術束縛を解除しようとする事を禁ずる

 

なお、この契約が成立された暁には、貴殿らに我がマスターの正体と工房の位置、ランサーの真名を明かす事を我が真名の下に誓おう。

また、理解されているとは思うが断った時には貴殿らの様々な情報を手土産に他の陣営と組む事になるであろう事を理解されたい。

 

返事は手紙を運んできたカラスに渡されたし。

賢い選択を期待する。

 

キャスターより。』

以上です。」

 

「切嗣、今からでも遅くありません、提案など無視するべきです。

あれと手を組むなどすれば待っているのは破滅だけだ。」

 

「……アイリ、セイバーに聞いてくれるか?

そこに自身の私情がどれだけ含まれているのか、と。

サーヴァントの生前の因縁などに付き合ってられる程お人好しではない、とね。」

 

「その言葉こそが奴の思う壺なのだとなぜ分からないのですか!?」

 

切嗣のあくまでも自身の意見を聞こうともしない強情さにセイバーは声を荒げる。

 

「僕としては共闘を受けても良いと思う。

理由は4つある。

1つは思ってたよりも対価が大きいから。

2つ目はこの聖杯戦争、予想よりも強大なサーヴァントが集まっている。

そんな中、セイバーの天敵たるキャスターに常に狙われる心配をしなくて良いから。

3つ目は共闘すれば拠点の守りをさらに固める事が可能であるから。

4つ目はあのアーチャー。

セイバー単体では突破できるイメージが湧かないが、さっきの戦闘から判断するにキャスターは空間系の魔術を攻撃に転用していた。

アーチャーの利点である距離の開きを潰すにはもってこいだ。

 

何か意見はあるかい?」

 

それすらも無視して話を進める切嗣にセイバーは苛立ちを積もらせていくが、それすらもキャスターの罠であると判断して半ば無理矢理にも気分を落ち着かせるべく部屋を後にしようとする。

 

「アイリスフィール、少し熱くなり過ぎたので外で頭を冷やして来ます。」

 

それだけ言うとセイバーは部屋を後にした。

 

「切嗣!

いくら何でも言い過ぎよ!

確かに貴方の言い分も分かるけど、セイバーの言う事だって正しいわ!

本当に最善の策を取りたいなら一方的に決めるのでは無く、話し合うべきじゃ無いの!?」

 

「……確かにそれはそうかもしれないね。

けどセイバーは物事の駆け引きというものが分かっていない。

相手の持ち出した提案を一方的に拒否すれば待っているのは攻撃だ。

アレの生きていた時代はその攻撃を自身の力で打ち払えばそれで済んでいたんだろうが、正しい方法はそんな力任せのやり方では決して無い。

相手を利用しながら相手の情報を汲み取り、最短で最低限の被害で終わらせるのが正しい方法というものなんだよ。

それすら分からないサーヴァントの言葉なんて聞きいれる価値も無いのさ。」

 

「ならそれをセイバーに話すべきじゃ無いの!?

最初の一歩すら踏み出さないのなら決して理解し合うなんて出来ないわ!」

 

「それで構わない。

結局のところ、僕達とセイバーは所詮聖杯戦争限定での共闘関係、期間の長さが僅かに違うだけでこれからキャスター陣営としようとしていることと同じだ。

 

なら相互理解なんて必要ない。

ただそれぞれの目的のために利用し合うだけだよ。

この話はこれで終わりだ、良いね?」

 

アイリスフィールは彼女にとって余りに悲しい、けれど確かに正しいその答えに理解してしまう。

納得はできないけれど、言っていることは正しいのだ。

半ば諦める様に愛する夫の問いに頷いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、想定以上に険悪な仲らしい。

これは腕の見せようがあるというものだ。」

 

その様子を使い魔を通して発動させた魔術で聞いていたモルガンは妖しく嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、切嗣は己の判断を貫き、キャスター陣営に返答を返す。

『そちらの提示した内容で構わない。

共闘関係を所望する。』と。

 

それに対してキャスターは更に返答を重ねた。

『では翌日の深夜0時に貴殿らの城へと我がマスターと共にお邪魔する。

必要な道具は此方で用意するので、貴殿らは城の周りの罠の一時解除、もしくは森を抜ける為の案内人を用意されたし。』

 

 

 

 

それから十数時間後

アインツベルンの城の前にある森にキャスターと男が現れた。

森の前には1体のホムンクルスが待っていた。

 

「お待ちしておりました。

城へとご案内致します。」

 

「よろしく頼むぞ。」

 

キャスターが返事を返したのを確認した後、ホムンクルスは森の中へと入って行く。

それについて行くこと数分、森を抜けて城へと到着した。

 

城の中へ入り、貴賓室の前へと案内された。

 

「どうぞ、こちらになります。」

 

ホムンクルスが部屋の扉を開けて中へと誘う。

その部屋の中には既にセイバー陣営の全員が集まっていた。

切嗣とアイリスフィールがソファに座り、舞弥とセイバーがその後ろに控えている。

 

「今回の提案を受けてくれた事を感謝します。

こちらが私のマスターです。」

 

「久しぶりだな、魔術師殺し。

数年前の戦場で一時的に手を組んだ以来か?」

 

「……アンタだったのか。」

 

漸く正体のわかったキャスターのマスターである男に切嗣は驚きと納得を混ぜ合わせたような表情をする。

 

「切嗣、知り合い?」

 

「ああ、今そいつが言った通りだ。

手を組んだ時があっただけの他人さ。」

 

「戦友くらいは言ってくれても良いんだがな。

まあ、本題に移ろう。

これが自己強制証明(セルフギアススクロール)だ、内容を確認して異議がなければ承諾してくれ。

工房の位置とランサーの真名はその後だ。」

 

男とキャスターは用意されたソファに座り、紙を取り出して切嗣に手渡す。

セイバーはキャスターを睨み付けているが、キャスターはその視線を涼しげに受け流している。

 

話が拗れかねないので、その場にいる全員がその様子を無視しているが。

 

切嗣が確認した内容は手紙のそれと一切変わっていない。

一瞬、アイリスフィールと目を合わせて確認してから自己強制証明をテーブルの上に置いた。

 

「確認した。

この内容で構わない。」

 

切嗣の承諾をもって契約がなされた。

 

「では私の魔術工房の位置をお教えしよう。

この街の下水道だ。」

 

「巫山戯るなキャスター!

この街がどれだけ広いと思っている!?」

 

その誤魔化しの様に聞こえる言葉にセイバーが噛み付いた。

 

「誤魔化しでも何でもないぞセイバー。

文字通りだとも。

より正確に言うならば下水道全てを我が魔術工房にしたのだ。」

 

「そんな大規模な魔術工房を作ったのなら街中にだって魔力が漏れ出すはずよ!?」

 

「私を誰だと思っているのですか貴婦人。

魔力の隠蔽など容易い事だ。

疑うのなら一度我が工房を訪れてみるといい。

歓迎しよう。」

 

あまりに堂々と言うその様子に切嗣は嘘はついていないと判断した。

 

「……いや、構わない。

それでランサーの真名は?」

 

「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナだ。」

 

切嗣の問いに男が答え、その答えに納得しながらも念の為に理由を聞いた。

 

「根拠は?」

 

「まず、エルメロイが用意した触媒。

情報隠蔽が杜撰でケルト縁の物だと分かった。

後は現場でキャスターが感じた妖精の気配と弱い魅了の呪い。

これで十分か?」

 

こちらの知っている内容と矛盾はしていない。

そこからこれも嘘をついていないと判断した。

 

「成る程。

辻褄は合っているな。」

 

「話は終えたか?

なら共闘関係を組んだ相手として最初の仕事をしましょうか。

この城に鏡、それも全身を写せる大きさの姿見はありますか?」

 

 

 

 

 

案内されたのは大量の衣服がラックに掛けられている部屋だった。

それも全て女性もの。

つまるところ、アイリスフィールの衣装部屋だ。

 

「これか。」

 

そこに置いてある姿見にキャスターは手を近づけるとポウ、とキャスターと鏡が光を放ち、暫くして消えた。

 

「私の工房と繋げました。

今後はこれを使ってこの城に来ます。

貴殿らも緊急時にはこれを使ってこちらに避難すると良い。

鏡越しに会話も可能です。

そちらは情報の精査や各々の考えの共有に時間が欲しいでしょうし今宵はこれで失礼します。」

 

そう言うとモルガンは鏡を通って去って行き、男もそれに続いて去って行った。




感想でガチャ当たってる人がいるとbad付きまくってて草生える

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