モルガンと行く冬木聖杯戦争   作:座右の銘は天衣無縫

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8話

 

僅かに痛む頭を押さえながら男はベッドから起き上がる。

周りには昨日飲んでいた酒瓶やビール缶が散乱している。

男の隣には割と際どい服のモルガンが寝ていた。

 

それを見た男は念の為の確認として昨日の事を思い出す。

あのモルガンの告白とも取れるセリフの後、そういう事をしようと誘ってくるモルガンを人間も動物も1番無防備になるのはヤってる時だからダメだとド正論で抑え付け、取り敢えず一緒に寝るという事で妥協させた。

 

つまりヤってない。

セーフである。

そうして、まだ起きないモルガンを横目に今後について考える。

 

昨日はいきなり過ぎて断ったが、自分だって男である。

モルガンの様な美人に好意を向けられて悪い気はしない。

モルガンが受肉しても元サーヴァントである事を時計塔に知られなければ何の問題もない。

 

そうなると必然的に傭兵稼業からは足を洗う必要が出てくるが、半ば無意識にストイックな生活を送ってたお陰で、後の一生2人で遊んで暮らせる程度の金は貯めてある。

 

聖杯戦争に勝ちさえすれば何の問題も無い。

要はやるべき事は変わらないのだ。

後は酔いが覚めたモルガンの反応が少し怖いのと面白そうなのがあるが、それはキャスターが起きた時のお楽しみだ。

 

取り敢えず水を飲みながら、寝ている間に何か無かったか確認しておく。

結界には全て異常無し。

使い魔も全て無事でエルメロイは脅しておいたのが役に立ったのか特に何もする事なく去って行った様だった。

 

取り敢えずモルガンが起きたらエルメロイから奪った令呪についてセイバー陣営と話をしにアインツベルン城に行く事に決めた。

戦利品の分配で隠し事をしてバレたら後々面倒になるのは経験済みであった。

 

ふと、ベッドの方を見てみる。

もぬけの殻だった。

あの女王様、霊体化して逃げやがった。

恐らくは起きて正気になった状態で昨日の事を思い出して悶えてるのだろう。

 

「キャスター、昨日奪った令呪と今後について話し合う為にアインツベルン城に行く。

霊体化してても良いが、キチンとついてきてくれよ。」

 

『………………了解しました。

もう少ししたら切り替えられるので。』

 

少し返答に時間は掛かったが、念話から感じる限りでは平常心は取り戻しかけている様だ。

取り敢えず問題は無いと判断してアインツベルン城に転移した。

 

転移した先から、昨日一度案内された記憶を頼りに城を歩いていく。

道中見かけたホムンクルスに切嗣に用がある、と言って探しに行ってもらう。

その間に会議室に移動してそこで待つ。

 

暫く待っていると切嗣が入ってきた。

 

「昨日の報告だ。

エルメロイ陣営は生きてたからランサーを仕留めてエルメロイにはご退場頂いた。

もう冬木にはいないし、他の陣営と接触もしていない。

令呪を2画奪ったが、1画いるか?」

 

「貰えるなら貰っておこう。」

 

1画が切嗣の手の甲に刻まれてこれで4画ずつ持つ事になった。

 

「で、次はどうする?」

 

「ナパームを積んだタンクローリーを隣街に用意してある。

だが、それを誰に使うかが問題だ。」

 

「遠坂、間桐はこっちで調べた限り、聖杯戦争が始まってから家に動きは無い。

籠ってるのか、家はブラフなのか、家の地下に隠し通路でもあるのかも全く不明だ。

 

ライダー陣営はそこらの民間人の家にいるが、常にライダーとマスターが一緒にいる。

狙うのは難しいだろうな。」

 

「……やはり動きが出る、もしくは情報が集まるまでは暫く正攻法で様子見するしか無いか。」

 

現在、手元にある情報だけでは結論が出ない事が分かった2人は取り敢えず様子見という結論に至った。

 

「せめて狙撃可能な場所に出てきてくれればなぁ。」

 

「たら、ればの話をしても無駄なだけだ。

動きがあるまでは静観するしか無い。」

 

「そりゃそうだけどな。

取り敢えず情報交換でもしておこう。

こっちが集めた情報だ。」

 

男はそう言うとクリップで纏められた紙を切嗣に手渡した。

この街で使い魔を使って得た情報である。

 

「……各拠点についての情報の精度はキャスターがいる分、そっちの方が上か。」

 

「ああ、だがマスター個人に対する情報はずっと前から準備してたそっちの方が上だろ?

俺は生憎と巻き込まれた身でね、そっち方面の情報が無いわけではないけど欲しい。」

 

「その為のコレか。

分かった、すぐに持って来る。」

 

「いや、夜までで良い。

最近は組み始めたばかりとは言え、ここに居すぎた。

大した意味も無いだろうが、昼間は街を散策しておく。」

 

「分かった。」

 

切嗣が返事をした事を確認してから男は部屋を出る。

暫く歩いたところで漸くモルガンが実体化した。

何も言わずに男の横に並んで歩いている。

 

「いや、なんか言えよ。」

 

「……昨日は迷惑をおかけしました。

とは言え本心ですのでそこはお忘れなきよう。」

 

すまし顔でそういうモルガンに若干呆れる男。

だが、心内では既に決心はついている。

 

「……なら、何としてでも勝たなきゃな。」

 

「!

ええ、必ずや。」

 

男がそう言えばモルガンも薄く笑ってそれを肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一旦拠点に戻ってから街へ繰り出した2人。

昨日のビル爆破によって普段よりも騒がしいが、死傷者が居なかった為か既に夜間の剣呑な雰囲気とは裏腹な平穏を取り戻している。

 

そんな中、2人が入ったのは書店だ。

モルガンが気になった本を片端から買い物かごに入れていく。

学術本、歴史本、ついでに料理本。

3桁にまで届きそうなその本を纏めて買い、男がそれを持って適当な喫茶店に入った。

 

窓際のテーブル席に座って軽食と飲み物を注文する。

早速買ったばかりの本を読み始めたモルガンと喫茶店に置いてある新聞を広げる男。

 

聖杯戦争中とは思えないゆったりとした空気の中、時折話しながら小一時間程その喫茶店で過ごした。

 

だが、その束の間の休息に邪魔が入る。

コンコン、と窓ガラスを叩かれ、そちらを見てみれば赤髪の偉丈夫、征服王イスカンダルが外にいた。

2人と視線が合ったのを確認していい笑顔のままジェスチャーで外に出てくる様に伝えてくる。

 

無視した方が面倒だと判断して店内の視線を集めながら会計をして外に出る。

 

「奇遇であるな、キャスター、そして初日には姿を現さんかったキャスターのマスターよ。」

 

「卑怯云々は聞かないぞ、征服王。

で、何の用だ?」

 

「うむ。

この英傑の集う聖杯戦争において、ただ貴様らと剣を交えるだけでは勿体ないと思わんか?

故に、余は言葉を交えるのもまた一興だと考えたのよ。

その誘いだ。

 

つい先ほど、金ぴかと会って奴も誘っておいた。

セイバーの奴も誘うつもりよ。

どうだ、参加せんか?」

 

それを聞いた2人は一瞬顔を見合わせる。

 

「どうする?」

 

「……夜会に誘われて断るのも無粋でしょう。

 

良いだろう、征服王。

その招待に応じよう。」

 

話はすぐに纏まった。

その旨をイスカンダルに伝えれば、更に笑顔を深くする。

 

「そうかそうか!

よし、では場所はそれらしい場所がセイバーの拠点にしか無さそうだからセイバーの拠点で行う。

時間は今夜0時丁度!

遅れるでないぞ。」

 

それだけ伝えるとイスカンダルは上機嫌に去って行った。

男は完全に事後承諾になるであろうセイバーに対して同情した。

これは本格的に差し入れ考えた方が良いかもなとも考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、アインツベルンの結界に反応が出る。

森に仕掛けたトラップを一切合切無視して城へと近づいて来ている。

 

それに慌てたアイリスフィールとセイバーが急いで城の正門に向かえば、その正門を破壊してライダーのチャリオットが城の中へと突っ込んできた。

 

あからさまな破壊行為。

敵襲であると判断したセイバーがその剣を構える。

 

「おうセイバー、出迎えご苦労!

いやはや何ともけったいな場所に城を建てたもんよな。

迷いそうだったんで、ここに来るついでに木を薙ぎ倒してやっていたら、つい勢い余って門まで壊してしまったが、まあ許せ!

 

うん?

何だ今日は余の様に当世風のファッションをしておらんのか。」

 

その何とも言えない言葉に一瞬で勢いを削がれた。

戦意はない様だが余りにも人騒がせな征服王に苛立ちつつ問いかける。

 

「それで征服王。

貴様何しに来た。」

 

「うむ、説明してやっても良いが、ちと場所を変えんか。

この城のどこぞに宴に誂え向きな庭園でも無いか?

余のせいとは言えここは埃っぽくて敵わん。」

 

チャリオットに乗せた樽を持ち上げながらそんな事を言う余りにも傍若無人な態度に、一瞬本気で叩き出そうかと考えたセイバーだったが、ハァと1つ大きく息を吐くと中庭へと案内する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「これは柄杓と言ってだな、いささか珍妙な形ではあるが、これがこの国の由緒正しい酒器だそうだ。」

 

中庭に通されたイスカンダルはそう言って竹製の柄杓を取り出す。

この場に生粋の日本人が居れば間違っては居ないが特段合ってる訳でもないと思うところだが、ここに居るのはサーヴァント含めて全員が外国人で日本文化に精通しているわけでも無い。

 

樽の蓋を割り、柄杓で掬った酒を1杯飲んでいるイスカンダルにセイバーはもう一度問いを投げる。

 

「それで、結局何の用だ?」

 

「うむ、我らは今聖杯を求めて争っている訳だが、聖杯は相応しき者の手に渡る定めにあるという。

それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというが……なにも見極めをつけるだけならば血を流すには及ぶまい。

英霊同士、お互いの『格』に納得がいったなら、それで自ずと答えは出る。」

 

樽の中の酒を柄杓で掬い、セイバーに手渡す。

受け取ったセイバーはイスカンダルの答えに納得を示した。

渡された酒を飲んでから、話す。

 

「それで、まずは私と格を競おう、という訳か、ライダー。」

 

「如何にも。

どちらも王を名乗るのであれば捨て置けまい?

言わばこれは聖杯戦争ならぬ聖杯問答。

とは言え2人だけでは盛り上がりに欠けるであろうから更に2人ほどに声を掛けてある。

 

そら、我らの他にも王を名乗るのが1人、そして王族に連なるのがまた1人おったであろう?」

 

ニヤリと笑ってそう言うイスカンダルの言う2人に察しのついたセイバーは内心顔を顰める。

 

「……少し遅れたか?」

 

そしてその場にイスカンダルの誘った2人、その1人目であるキャスター、モルガンとそのマスターである男が現れた。

セイバーには目もくれずに歩いてくる。

 

「ほんのちょびぃっと、な。

まあ構わん構わん、ほれ駆けつけ1杯。」

 

手渡された柄杓を受け取ったモルガンはその場に座ると酒を飲んでいく。

飲み終えた事を確認したライダーは返された柄杓を受け取った。

 

「これで3人だが、まさかあの様に偉ぶってた奴が最後とはなぁ。」

 

「戯れはそこまでにしておけ、雑種。」

 

イスカンダルが最後の1人に言及すれば、その最後、黄金のアーチャーが現れた。

これで聖杯問答における役者4人が出揃った。




モルガン様にヒロインムーブして貰ったら一気に高評価増えてて嬉しい

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