今回は遂にきてしまった、戦闘回です。戦闘と言っても模擬戦ですが。戦闘描写って、別作品の2話しか書いたた事ないんですよね。投稿話数を別作品も足すと全部で60話にもなろうというのに、未だに。この作品はある程度は戦闘描写が多くなるというのに、困ったものです。
ただっ広い鴉さんの屋敷。その敷地内にある、麻帆良の体育館程の広さはあるでしょう庭園。何故か私は、修行中にしか縁の無いこの場所に立たされています。
「二人とも。準備は良いかー?」
「ええ。私の方はいつでも」
「…………」
前を見ると、既に臨戦態勢に入ったトーニャさんの姿が。な、何故このような事になってしまったのでしょうか……!
「チビ人間ー! トーニャなんかに負けたら、承知しないんだからねーっ!」
「ほっほっほ。すず様、トーニャさんは中々の実力者故に、今の夕映様では勝利するのは些か難しいかと……」
「はっ! 何ゆーとんねん鴉のおっちゃん。あないぎょうさんハンデ貰うとんのに、夕映ねーちゃんが負けるわけないやん!」
……ええ、原因は分かってるです。あそこで人の気も知らずに発破をかけやがっている、狐娘さんと鴉天狗と狼小僧のせいですとも!
トーニャさんとすずさんの喧嘩が一向に収まらず、いよいよ雰囲気が怪しくなるかという絶妙なタイミングで小太郎さんが口出ししてしまいまして。そんなアホみたいに口喧嘩などしないで、模擬戦でもして決着を付ければ良いと。そこからはまぁ、とんとん拍子に話が進んでしまい……簡単に言えば、こういう流れです。
「模擬戦で決めればええやん」
↓
「私は直接戦うタイプじゃないから無理。能力を遣ったら、私の圧勝だし」
↓
「やったら、代役でも立てたらええんちゃうか?」
↓
「そんなのいないじゃない。鴉や虎太郎だと強すぎるし、アンタは狗族みたいだけど、まだガキだし」
↓
「んなっ……! ま、まぁええわ。女と殴り合うのは趣味ちゃうし。せやったら夕映ねーちゃんでええんちゃうか? 鴉のおっちゃん達に鍛えられとんやったら、結構やるんやろ?」
↓
「ふむ。夕映さんにもそろそろ模擬戦くらいは経験して頂きたいと考えていましたので、宜しいかと。ある程度トーニャさんにハンデを付けて貰えれば、良い戦いになるかと思いますが」
↓
「そうなの? じゃあお願いね! ……負けたらちょこ~っと痛い目に遭うかもしれないから、頑張りなさい?」
…………という感じです。当事者の私とトーニャさんを置き去りに、あっという間に決められてしまいました。まぁ、鴉さんにこれも修行だと言われては私に拒否権など有る筈も無いですが……取り敢えず、小太郎さんは後で覚えておくがいいです。
頼みの綱のトーニャさんも、すずさんに煽られてあっさりと承諾してしまいましたし。面倒そうな顔をしていますが、あのタイプはやるからには本気で来るタイプだと思うです……手を抜いたりしたら、鴉さんや虎太郎さんになんと言われるか分かりませんしね。私とトーニャさん共に。はぁ……。
「それじゃ、試合のルールを確認するからなー。まず、範囲はこの庭園だけな。屋敷の中は勿論だが、山の方も立入禁止だ。山だとトーニャに有利すぎるからな。それと、気、魔法に関わらず、
とと。もう始めるのですか。こうなったら、腹を決めるしかないですね……。
大丈夫。私もこの1ヶ月、鴉さんと虎太郎さんからみっちり体術を叩き込まれたのですから、巧くやれば互角以上に戦える……筈です!
「ここからが重要だが、師匠が言った通り、トーニャにはハンデをつけてもらう。今はまだ、夕映との実力差が開きすぎてるからな。
まず一つ。半妖としての能力使用は1度だけ。
二つ。自分から攻撃するな。要するに、受けに回れって事だ。
三つ。気絶させるのはアウトだ。この模擬戦は、夕映の修行も兼ねてるからな。
四つ。これは夕映の勝利条件だが、トーニャに一撃、有効打を入れれば勝ちだ。
で、最後に五つ目。トーニャの勝利条件は“夕映を行動不能にさせる事”だ。お前さんなら、どういう意味か分かるだろ?」
「ええ。大丈夫です」
付けて貰えたハンデ数を考えると、やはりトーニャさんは相当な実力者のようです。しかし、私を行動不能にさせる事が勝利条件というのが気になるです。気絶は不可となると、四肢を折るといった気絶しかねない事はしないでしょうし……合気道や柔術のような技で、組み伏せるとかでしょうか? 虎太郎さんの意味ありげな言葉が気になりますが、今は考えても仕方ないです。
それともう一つ気になるのは、トーニャさんの半妖能力です。態々1度だけ使用可というのが、どうにも気になるです。素直に考えればその1度で戦況を変えれるような、協力な能力なのでしょうが……そもそも、トーニャさんは何の妖怪の半妖なのでしょう? それが分かれば、妖怪によっては能力の予想も出来そうですが。
「夕映からは何か質問は無いか? 質問によっては答えるぞ」
「質問ですか?」
「ああ。時間も無いから、聞くなら1つだけな」
この図ったかのようなタイミングでの質問許可ですか……もしかするとですが、私の状況判断能力も試しているのでしょうか? ……教えてくれるとは思えませんが、聞くだけ聞いてみましょうか。
「トーニャさんの半妖能力の詳細を教えてもらう事は出来ますか? それが無理なら、せめてトーニャさんが何の妖怪の半妖かを教えて頂けると有難いです」
「おー……これはまた、えらく直球で聞いてきたな。まぁ、対戦相手の切り札が気になるのは当たり前か。1回だけ使えるなんて言われたら猶更だな」
「はいです。それで、教えてもらえますか?」
そう聞くと、虎太郎さんはトーニャさんをチラリと横目で見てから、軽く頷きました。
「流石に能力の詳細は駄目だが、種族名くらいは良いだろ。トーニャは人間と【キキーモラ】の半妖だ」
「……キキーモラですか?」
「ああ。と、どんな妖怪かなんて聞くなよ? 質問は1個だけだって言ったからな」
「むぅ」
流石にそこまでは譲歩してくれませんね。それにしても、キキーモラですか……。前世でやったらしいパズルゲームに、同名のキャラがいましたが。あのゲームに出てくる他のキャラはちゃんとそれに因んだ外見や能力でしたし、キキーモラも例外では無いと思うです。
そのゲームではキキーモラは掃除が大好きな妖精……妖精でしたっけ? まぁ、掃除好きというのは変わらないです。恐らく、知らないうちに物の修繕をしてくれるブラウニーという妖精と似たような種族だと思うのですが……掃除に因んだ能力? 愛衣さんのアーティファクトのように、武装解除のような能力でしょうか? うーん、情報が足りませんね。戦闘向きの能力では無いと判断するのは早計だと思うのですが。
「……もう良いですか? さっさと終わらせたいので」
「うっ……」
待ちくたびれたのか、トーニャさんが声を掛けてきました。な、何か凄い冷ややかな視線を感じるのは気のせいでしょうか?
「ああ、スマンなトーニャ。悪いが、相手をしてやってくれ」
「いえ。その子もすずさんに巻き込まれただけなので、気にしなくていいです」
「その子って、如月と言いお前等――――ああ、そういや名前を教えてなかったな。こいつは師匠の知り合いの弟子で、長期休みの間だけ修行に来る事になっている綾瀬 夕映だ。時間があれば、面倒をみてやってくれ」
「分かりました。前向きに検討してみます」
「……絶対やる気無いだろうお前」
「失礼な。虎太郎先生と違って、私は約束は破りませんから」
「で、検討したけど止めとくってベタなオチだろ?」
「……まっさかー」
……さっきの視線には驚きましたけど、トーニャさんは中々に愉快な方みたいです。
「分かりやすいなオイ。まぁ良い。戦えば興味が沸くかもしれんし、さっさと始めるか。夕映の方も準備は良いかー?」
「……ええ。いつでも良いです」
「よっし。それじゃあ――――――――始めッ!!」
開始の合図と同時に、一瞬で鴉さん達のところへ移動する虎太郎さん。残像しか見えませんでしたが、今の動きが見えない内はフェイトさんの相手なんかは夢物語なんでしょうか。
――――さて、と。
幸い、トーニャさんからは攻撃してこないというハンデがありますが。下手な攻撃をすれば一発で組み伏せられてしまうでしょう。
となると、選べる手段はかなり限られますが……私が取るべき選択肢は、撹乱しながらの死角からの攻撃!
「……トーニャさん」
「何ですか? 夕映さん」
「――――――行くです!」
「――――――ええ。いつでもどうぞ」
そう言うと、見惚れるような微笑を浮かべるトーニャさん。
相手は遙か格上の相手。易々と負ける気はありませんが、胸を借りるつもりで思いっきりやるです!
フォンッ!
(――――っ! 良し!)
右足に魔力を込めての瞬動で、一気にトーニャさんの背後へと回り込む!
この1ヶ月の修行で、瞬動は完璧とまでは言いませんが、失敗する事は無くなりました。ネギ先生の真似事ですが、相手の不意をつくには最善の一手の筈!
「……年齢の割には良い動きですね」
「……くっ!」
……回り込んだ筈が、回り込んだ時には既に正面に対峙されていました。完全には不意を取れないとは予想してましたが、まさかここまであっさり動きを見切られるなんて!
「すぐに攻撃してこないのは良い判断です」
「まだですっ!」
驚いている場合じゃない!
一度でダメなら、二度でも三度でも――――っ!
「――――失敗した手に固執するのは、悪手ですよ」
ガッ
「ひゃあ!?」
足を払われた!? まだ足に魔力を込めただけなのに、何をするか見切られたのですか!?
「目を見れば、何をするかくらい分かります。特に夕映さんみたいな、単純そうな人は」
「むぐっ……!」
予測された事に驚き、トーニャさんを見ると、ニヤリという擬音が似合いそうな笑みを浮かべて馬鹿にされました……! これは挑発ですか? 挑発ですね?
良いでしょう。見え見えの挑発ですが、相手の予想以上の攻撃をすれば良いだけの話です!
瞬動で今度は後ろに下がる私を、怪訝そうに眺めるトーニャさん。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ! 水の精霊13柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手! 連弾・13矢――――」
「魔法の射手? 範囲魔法は禁止されて――――」
呆れたような声で言われましたが、それくらいは把握しています!
「収束ッ!!」
「な!?」
魔法の射手を収束し、身体全体に纏った事に、驚きの声をあげる。
ネギ先生のように無詠唱での収束はまだ出来ませんが、模擬戦ではこれで充分! 水の属性なら、身体への負担も殆どありません!
この状態なら、迂闊に素手で触れる事も出来ない筈。気を纏われたら話は別ですが、驚きで動きが止まっている今ならっ!
「瞬動ッ!!」
「くっ……」
トーニャさんの一瞬の隙を突いての突撃!
些か恰好は悪いですが、これを受け止める事は出来ません! 左右に逃げるなら、瞬動で後を追うだけ。これで決まり――――。
「――――なんちゃって」
「――――へ?」
焦ったような表情から一転、悪巧みが成功したかのような表情に。
ひょっとして、私は何か見落として……。
ぐんっ!
「ひゃぁぁぁあっ!?」
「――――フィッシュ」
な、なななんですか!? 急に何かに右足を引っ張られて……あぁぁぁぁぁぁ!!
何をされたのかも分からないうちに宙へと逆さに釣り上げられた私の元へ、澄まし顔で近づいてくるトーニャさん。
「敢闘賞、くらいね」
「い、一体何が……」
「私の半妖能力よ。ほら」
そう言って後ろを振り向くと、捲れ上がった制服の隙間から見えるのは、長く伸びる直径1cm程度の丈夫そうな1本の紐――――紐?
「え……その紐がキキーモラの能力……なんですか?」
「ええ。夕映さんが何を想像してたのかは知らないけど、これが私の能力」
「そんなぁ……」
まさか、お掃除妖精の能力が紐だなんて誰が予想できるんですか!
「さて、取り敢えず」
「え、ちょ、ちょっと何を」
私の額に手を当てると、徐に中指を引っ張り……これってまさか。
「ストップ! ストップですー! 私を動けなくしたらトーニャさんの勝ちなんですから、トドメを刺す必要は無い筈です!」
「夕映はすずさんの代理でしょう? だったら、私の怒りもすずさんの代わりに受けないと」
「理不尽ですーっ! というか、さっきから口調が変わってないですか!?」
「私、年下と親友と家族には敬語を使わないの」
「あ、そうなんですか……って、そう! 年下! 子供ですよ私! 子供には優しくすべきだと進言するです!」
「戦いの場に立つ以上、年齢は関係ないわ」
「さっき年下には敬語を使わないって言いいました!」
「それはそれ。これはこれ。日本語って素敵よね?」
「使い時を激しく間違ってます!」
「まぁ、本音を言うとその広い額に心を奪われただけなのだけれど」
「ぶっちゃけられたですっ!?」
ドS! 薄々思っていましたが、この人生粋のドSです!
「し、審判! 審判はどこですか! もう決着は着いた筈です! 早急にトーニャさんを止めて、私を下して下さい!」
「あー……無理だ。諦めろ」
「即行で見捨てられた!?」
「では、審判の許可も得たところでいきますよー。はい、ごーお、よーん、さーん……」
「カウントダウン!? 待って、待ってください! 私達にはまだ歩み寄れる筈で」
「にいいちぜろ。はい、ばーん」
「はや……って、ギャ――――――――ッッ!!」
バッッッチ―――――――ンッッ!!
――――こうして、私の初模擬戦は黒星で終わったです……向こうで笑い転げてる小太郎さんは、絶対に許しません。絶対に!
ちょっとあっさりでしたが、模擬戦な上にトーニャは格上なのでこんな感じに。夕映の始動キーは少し悩みましたが、結局原作通りに。オリジナルにしようかとも思ったけど、厨二チックなのしか思いつかなかったので。
キキーモラの能力説明もしようかと思いましたが、長くなるのでここで切りました。半妖の里編は、次回で終わる予定です。果たして小太郎とトーニャの扱いはどうなるか。
前書きにも書きましたが、活動報告でトーニャの扱いについて再アンケートを取ります。今回は4つ程案を出すので、宜しくお願いします。